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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
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4-19 一度ある事は二度ある

『満身創痍な所悪いが、九郎。まだ敵の数は多いぞ』

「群のおさを失ったはずなのに変だな。まさか、まだ他にいるのか??」

 どこかから帰って来た城森英児に見下ろされながら、俺は現状の打開策を思案していた。ちなみに、俺の賢兎は足が溶けていて立てないので、背中から地面に転がっている。

 俺を含む損傷した石鎧を守る円陣は狭くなっており、防御はチーム・スターズの残存二機に任せている。味方に回ると信頼感が強いテスタメントだが、バッテリー残量が心許ないと打ち明けられてゾッとしている最中だ。

 攻撃はほとんどルカ一人頼りにしているが、先程走り抜けていく姿を確認した際には、右のサソリの爪が無くなっていた。戦場を何度も横断する無茶をしているため、ノーダメージではいられなかったのだろう。

 英児機が再合流してくれたのは有り難いが、攻守共に人手が足りない。湧き出てくる市民級に押し潰される直前だ。

 ……そんな手詰まり感が強まった時に、ようやく、援軍が到着する。


 平野の向こう側から爆走してきた車両が、車体を壁にするため予科生達と市民級の群の間に割り込んできた。視界を遮る程に長い車両は石鎧の長距離輸送車であり、停車と共に荷台から降りて来る。

 石鎧の種類は、オリンポス社製のパトロクロスだ。一回戦の相手チームが装着していた石鎧であり、奈国の軍で正式採用されている石鎧でもある。

 軽量石鎧の塗装は赤銅色で統一されている。奇抜な色合いではないが、違和感を覚える。

 ドームの警備をになう内縁軍が好むカラーリングではない。

 ドームの外からやってくる敵軍を迎え撃つ、外縁軍が愛用しているカラーリングだ。

『そもそも、パロトクロスは外縁軍にしか納品されていないからな』

「どうして、外縁軍がこんな場所に??」

 ドームの警備をになっている内縁軍の方が位置的に早く到着するはずだ。

 何よりも、外縁軍がドーム近傍の事件に出動するのは越権行為である。同じ奈国の軍同士とはいえ、内縁軍と外縁軍は予算を巡って対立し合う犬猿の仲である。お互いに監査と評してあらを探す軍隊に、協力という概念は薄い。助けられる側としては、どこの軍でも援軍は助かるのだが。

 アサルトライフルの銃撃により、次々と市民級は掃討されていく。

 激昂状態となったオレンジ色の市民級は掃射に耐えたが、グレネードの一撃で粉砕されていった。オレンジ色の断片が弾けて、地面に転がった後で灰となる。

 火器を用いる石鎧の前では、格闘しか行えない市民級に勝ち目は無い。平地という遮蔽物にとぼしい地形では、射程距離が長い方が勝って当たり前だ。


『――予科生に告ぐ。こちらは奈国外縁軍、西部方面軍所属の第一〇一警備中隊である。所属不明機との戦闘は我等に任せ、その場で静観せよ』


 パトロクロスから通信が入る。現れた援軍はやはり外縁軍に所属しているようだ。

 予科生チームは一箇所に集まり、三機のパトロクロスが護衛の任に付いた。残りのパトロクロスは、既に市民級のむれに対して追撃戦をし掛けている。

「市民級が逃げていく。これで終わりなのか」

 長距離輸送車が更に二台現れて、パトロクロスは総勢三十六機となる。武器でも物量でも勝った外縁軍の勢いに押されて、魔族達は敗走していく。上位魔族がすべて討伐済みである事も、魔族達にとっては決定打であった。

 こうして、第三試合はイレギュラーな事態が続いて幕を閉じる。




 結局、第三試合Aブロックは無効試合となった。国籍不明の未知の敵の襲撃という不運は不可避のものであり、予科生達に落ち度はないからである。

 ただし、再試合は行われない。

 石鎧の損傷を理由に辞退するチームや、戦場の空気にてられて棄権するチームが続出したためだ。予科生に死傷者は出なかったようだが、装着者として再起不能になった者が出た事で、優勝に固執していないチームが脱落していった。

 第四試合への出場を表明したチームはチーム・月野製作所と他一チームのみ。第三試合で予定していた進出チームと同数であるため、再試合の必要性はない。

 ちなみに、アメリアから招待されたチーム・スターズも、進出を辞退している。


「クロエは残念ですが、本国からの命令には従う義務があります」


 市民級との戦いで共闘した縁があるという事で、チーム・スターズのメンバー達が帰国前の挨拶にやってきた。試合の辞退は彼女達の本意ではないようだが、警備に問題のある国にチームを派遣し続ける程に、アメリアは暢気のんきな国ではない。

 整備棟の搬入口で立ち話をいくつか行った後、スターズのリーダー、クロエ・エミールは俺だけを整備棟のすみに誘い出す。

 クロエに洗脳の後遺症は見られない。奇妙な記憶が頭痛となって、顔を歪めてもいない。

「本当に残念です。ウサギさんとは真剣に戦ってみたかった」

「味方としてはとても頼もしかったです。二度と空手で戦いたくありませんが」

 金髪碧眼のクロエは握手を求めてきた。不運な一夜だったが、他国との交流という意義はあったと思う。

 握り合う手と手と、ニコリと笑うクロエ。

 異性の柔らかい指がしっかりとからんで来たので、俺も意識して握力を強める。

「あと、これはクロエからのお礼です」

 クロエの言葉の意味するところは、僧侶プリースト級を撃破して洗脳を解いた事だろう。精神が僧侶級と同期していたクロエは、本人の意思とは関わらず俺と敵対した。

 電磁装甲で俺を溶かし殺していた可能性さえあったので、クロエはその豊満な胸に罪悪感を秘めていたに違いない。

 戦場での事なので、謝罪は不要だ。本人の意思だけではどうにもならない事は多々ある。

 今の俺だって、本人の意識とは関係なく美少女と接吻せっぷんしているし……。

「ウサギさんの優勝を応援しています」

「あ、ありがと……ございまして?」

 短い時間だったが、俺は確かに美少女とキスしたぞ。ほほなんてちゃちな部位ではなく、唇同士でだ。

 軽いステップでクロエは去っていくが、俺は不意討ちから立ち直れていない。

 頭の片隅では、城森英児にできない実績を達成したぞと喜んでもいたのだが、俺は子供のように無邪気に喜ぶべきではなかった。

 国際問題はまったく気にならない。アメリアは奈国よりも親愛の情の示し方が熱烈だという聞いているので、アメリア本国が俺に刺客を放つ事はないだろう。

 問題は……視界の端で響いたダンベルのようなレンチが床に落下した甲高い音と、そのレンチを落とした眼鏡少女なのだが。


「なぁっ……なぁっ……なぁっ!! 紙屋君、何をしましたか!」


 眼鏡レンズの透過率を極限まで低下させて、月野海つきのうみは何故か叫んでいた。チームオーナーとしては、装着者の個人的人間付き合いに対しても口出ししたい事があるのだろう。たぶん。

 ブースト加速したかのような水平移動で月野は俺に迫る。

「所属不明機と戦闘してまで、ぼくを心配させておいて! のほほんと帰ってきた癖に! そんな不意を突くなんて紙屋君は悪魔か何かですかっ!」

「悪魔ときたか」

 微妙に核心的な発言をしてくる月野に、まさか「はい、魔族モドキです」と答える訳にはいかないので、どんどん後退するしかない。

 月野の追及ついきゅうを逃れようとして、壁のない屋外の方角を確認しながら後ろ足で歩いていく。月野の運動神経はモヤシ――ドーム世界では高級野菜――のようなものなので、外に出られたら逃走し、有耶無耶にしてしまうつもりだった。

 だから、搬入口から一歩外に出たはずなのに背中が壁にぶつかって驚いてしまう。

 その壁がマニュピレーターを有しており、俺の腕を掴んで反転させてきた事にも驚いてしまう。

 その壁が白い流線型で、まるで石鎧のような格好をしており、前面装甲を開放して中の装着者が半分外に出ている事にも驚いてしまう。が、これまでの驚愕などすべて前座に過ぎなかったのだろう。


「なっ! んなァッ!! またァ!! 紙屋君の馬鹿ァぁぁッ」


 黒い瞳と視線が重なる。

 鼻先同士は鍔迫つばぜり合いを一度行って、俺の鼻が受け流される。

 入口をふさがれて呼吸が苦しいはずなのに、甘い味に酔わされた。もっと酸欠になってしまいたいと願ってしまう。


「――調子に、乗らないでよ」


 クロエの時の十倍、一分以上経過した後だろうか。前触れもないのに登場してきて唇を奪った女、曽我瑞穂そがみずほが俺を非難してきた。

 もう何が何やらで、素直に喜べない。


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