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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
34/106

4-14 三回戦 -異常事態に行動す-

 第三試合が開始されてからまだ二時間も過ぎていない頃だった。

 まだまだこれからという真夜中に、卒業試験トーナメントの運営から緊急回線を通じて警報が届けられた。


『――緊急警報。緊急警報。これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない』


 確かな発音で滑舌は悪くなかったが、慌しく警報は告げられる。運営が試合を止める程の何かが発生したらしい。

『所属不明機が演習場内に侵入した。予科生は試合を中断し、指定ルートより退避せよ。緊急警報。緊急警報。これは演習ではない。繰り返す――』

 曲面スクリーン上に地図がポップアップし、赤い線で退避経路が表示された。

 チーム・月野製作所は敵チームを求めてドームからかなり離れていた位置にまで進出していたため、演習場を横断しなければドームに帰還できない。演習場中央の平野部を直進できればそう遠くない道のりだが、退避経路は中央を避けるように引かれている。

「中央で何か起きたのか。……所属不明機、ね」

『まったく。調子良くチームを潰していたと思えば、これか。努力はむくわれないものだが……いや、このまま演習を続けているよりも面白い事態かもな』

『弾ッ! オレまだ弾撃ってないぞ!?』

 軍学校の存在するドームは奈国の中央付近に存在する。そんな内陸に、所属不明機はそうそう現れない。かなり緊急度の高い事件が現在進行形で発生している事になるだろう。

 ただ、俺達にとって所属不明機との遭遇は既視感のある出来事なので、試合中に発せられた警報に対してあまり動じていない。

 むしろ、敵を知っている分、内縁軍よりも迅速に行動できるかもしれない。

『九郎、ちょっと中央に行ってみないか?』

『オレの敵はどこだッ!』

 予科生であれば退避経路に従って逃げるべきなのだが……、賢明ではないチームメイトを持つとリーダーは苦労するな。

「直接向かうのは無しだぞ。ルートよりも少し内側を通って、山に登って観測してからだ」

 仮に、二度もあの墨汁色をした正体不明が現れたとなれば、軍学校のドームが標的にされていると考えるべきなのだろうか。

 ただ、奇妙ではある。前回出遭った市民シビリアン級は基本的に頭が悪いので、集団を作らずにドーム外の荒野を彷徨さまよう事しかしない。目に付いた動体を追いかけたりするぐらいであり、下手な無人機よりも思考は単純だ。

 そんな市民級が、同じドームを何度も襲うとは思えない。そもそも、絶対数が少ないはずなので、人間の生存圏まで寄って来る事自体が稀である。

 ……であれば、市民級以外の魔族が現れたか。

『所属不明機について、九郎は思い当たる節があったよな。あの黒い人形ひとがたが現れたのか?』

「単純に、敵国の侵入部隊の可能性が高いだろ。エージはそんなウキウキするな」

 魔族は上位であればあるほど知性が高まる。市民級を率いて人類に戦いを挑んでくる事もありえるだろう。魔族が人類を襲ってくる理由は知らないが。

ビースト級。いやいや、それでも騎兵キャヴァリィ級が関の山だろ」

『なるほど、種類がいるのか』

「いてたまるか。あんな化物共」

 おうおうにして、魔族は知性に比例して脅威度も高まる。

 実弾を装備していない現状では市民級とだって戦いたくはないのだが、魔族との戦闘経験のある俺が一目散に逃げる訳にはいかないだろう。

『偵察だけでオレに我慢しろと!? 襲われている予科生がいたらどうする!』

 肌身離さず付けている時計を見てもLEDは点滅していない。誰にとっても、予期していなかった事態が起きているという事だ。

「ええぃっ! ともかく偵察をしてからだ! 危なかったら逃げるぞ。絶対だぞ」



 賢兎ワイズ・ラビッドが他の石鎧よりも優れていると自信を持って言える機能は、索敵能力である。跳躍力も推したいところだが、戦闘ではぴょんぴょん跳ぶ機会が少ないので、重宝される機能を推したい。

 山の頂上にいるので平野部を遠くまで望めるが、夜だけあって肉眼では何も見えない。

 だから、環境センサーたる二つの耳を高く立てて、数キロ先から伝わる音や光度、温度分布、大気の流れを探る。耳で怪しい場所に当たりを付けると、今度は六つあるカメラレンズを最大望遠で向けてみる。

 得られた映像に対してAIが更にデジタル補正を加え、きめ細かいズーム画像を作成する。

 出来上がった画像には闇夜に隠れる墨汁色の人形ひとがたが複数体写り込んでいた。

 あののっぺらぼうは、市民シビリアン級で間違いない。円形に数十体が散らばっており、中央にいる何かを包囲している様子である。

「やっぱり市民級か。どこかのチームが襲われている」

『数が多いな。九郎は逃げるつもりなのだろ?』

「エージ、分かっている。あおらなくても助けに行く。内縁軍が到着するまで持たないからな」

 市民級は既に怒ってオレンジ色に発光している個体もいた。

 怒り状態の市民級の腕力は石鎧のそれを上回っており、力任せに装甲板をもぎ取る事だって可能だ。飛び道具を持っていないのが唯一の救いだが、それは第三試合に出場していたチームも同じである。未熟な予科生でなくても全滅しかねない。

「エージにルカも、命懸けになるから帰っていいぞ」

『冗談いうな。俺がこんなトラブル放置する訳がねえ』

『お先だッ!』

 多脚なルカ機は返事をしながら先行してしまった。好戦的な奴しかいないと溜息を付いてから、俺もRunner《走行》オプションの機動力を全開にしてダウンヒルを開始する。

「まったく、戦うなら言っておく。市民級は一撃で仕留めろ。慈悲を与えるな。下手にダメージを与えると怒ってオレンジ色になる」

『それは前に聞いたぜ』

「オレンジ色の奴の皮膚は、賢兎の全力キックでギリギリ突破できる。コンクリート壁をぶち抜く感覚で、電磁筋肉のバネを最大限活かした攻撃を心掛けてくれ」

『最初から格闘武器しかねえって』

「それと、たぶん上位級の奴がいるはずだ。そいつには手を出すな!」

 十メートル近くある崖を跳び降りながら、持っている装備を曲面スクリーンに一覧表示する。

 演習弾入りのハンドガンと白墨チョークナイフは市民級相手では使えない。貫手ぬきてが可能な左手と、本来は移動力強化用の足底の鉤爪は使えるが、数回も使えば欠けてしまうだろう。

 となれば、頼りになるのは先日追加したマケシス製の新武装か。

 いきなり頼る事になろうとは思わなかったが、まあ、がんばって使いこなしてみるしかない。


 平野部に突入した俺達の内、先行していたルカ機が市民級の群の端に到達する。

『ルカ機、接敵だ!』

「行け! 市民級の包囲突破、戦場をかき乱せ!」

 地面すれすれを疾走するルカ機は、側面に伸びているクローを斜め上に突き出した。背中を向けていた市民級にサソリの爪が襲い掛かる。まったく加減されずに爪が衝突したので、硬い棒が折れる小気味良い音と共に、市民級の背が曲がってはいけない方向に角度を変えていく。

 ルカは俺の言い付けを忠実に守って手を抜かない。口のように開かれていた爪の油圧を上げていく。

 ほとんど致命傷だった市民級を腰の部分で上下に両断した。

 市民級の分断された屍骸は残らない。灰となって姿形が風化してしまう。


『新手の化物ッ!?』


 通信機越しに他チームの声が届く。市民級の群に襲われているチームの声らしいが、石鎧に見えないルカ機を誤認しての発言だろう。

 俺も一体の市民級を足蹴にしつつ、素性を明かしておく。

「こちらはチーム・月野製作所だ。要救助と思い、駆け付けた。識別信号は発しているから見分けてくれ」

『嘘ッ!? あの可愛いウサギさんはどこに消えたのっ?!』

 ……どこのチームが襲われていたのか、たったこれだけの通信で判明した気がする。


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