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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
32/106

4-12 三回戦 -異質なるMオプション-

 ――第三試合、開始から三十分付近


 夜の戦いは人間の神経を削る。

 陽光がなくなり、気温が下がっただけ。夜の暗さを知らない人間は簡単に言うかもしれない。強風吹き荒れる砂嵐よりはマシだろう、と計器類への影響のみを語る人間もいるかもしれない。

 しかし、夜戦の心理的負担は、他人が考える以上に大きいのだ。母星から移民した人類の末裔とはいえ、ドームの民も昼行性生物の縛りからは逃れられない。

 訓練している石鎧の装着者とて、生物的本能にはあらがえない。

 石鎧の装甲に守れてなお、昼間よりも視界が制限された戦場のどこから敵が現れるか、常に神経を尖らせ続ける。集中力を高めるという事は、エネルギーを多く消費するという事であり、比例して疲労も増大してしまう。

『ッ! おい、北東方向。微弱だが振動音が聞こえないか』

『SAにしては反応が妙だが……近づいている』

 石鎧には、カメラ映像を補正し、昼間のように明るくしてから曲面スクリーンに投影する機能もある。が、これは若干リアルタイム性が失われるため、装着者からは不評を買っている。利用するのは新兵のみだと揶揄やゆされていた。

『敵なのか。どこのチームだ!』

 昼間であれば赤褐色に見える砂丘の向こう側から、急速に近づく振動を感知する。三人の予科生達は慌しく迎撃陣形を組み始めた。

 石鎧の内部で一滴の汗が流れ落ちるよりも早く、敵は丘を越えてくる。

 淡い月光に照らされたのは……多脚の異形だ。


『SAじゃないのか。虫!?』


 複数の脚を細かく稼働させる異形は、想像以上に機動性が高かった。地形にもよるだろうが、無限軌道を備える車両よりも高速に移動できるかもしれない。

 異形は平べったい胴体を持っており、地面から三十センチ付近で揺れている。二メートル強の巨大さでありながら、地面を滑るかのように突き進んでいた。

 母星、地球の生態に詳しい人物がいれば、異形はサソリに酷似していると気付いただろう。

 予科生達は、正体不明の異形に対して銃撃を開始したが、移動速度に対して補正が間に合っていない。運良く命中させても、装甲の曲面にはじかれて有効弾となっていない。

 あっと言う間に接近してきた異形は、胴体の左右に備えている大型クローで同時に二機の石鎧を襲い掛かる。突撃力が上乗せされたクローは、簡単に装甲板を斬り刻む。

 二機は腹をられて戦闘不能におちいったが、残りの一機が復讐してやろうと背後から異形に迫った。

 ……異形の後部に生えている尾がうねり、尾の先のとげで簡単に仕留められてしまい、復讐は頓挫とんざしてしまったが。

『三機のSAが一瞬でッ!? 化物ッ』

 尾の先から毒を流し込まれて、石鎧は活動を停止する。第三試合、最初の脱落チームが生じた瞬間だった。

 異形は己の戦果を誇るかのように尾を天に伸ばした後、次の獲物を求めて疾走を再開した。

 異形なので奇妙な部位が生えているのは当然である。

 だから、異形の口にあたる部分に石鎧の頭部が見え、そこから耳が生えているのもあまり不思議ではない。




 ――第三試合、開始直前


『試合開始まで一分、五十九、五十八――』


 第三試合開始のカウントダウンが始まったのは、ドーム外の時間で夜十時直前だった。

 第一、第二試合の時とは異なり、今回はチーム同士、試合前の礼はない。

 試合開始前に、ドーム外にある十キロ四方の演習区域に各チームは散らばっている。チームの初期位置は知らされていない。これまでの試合以上に実戦的で、予科生達は遭遇戦を強いられる。

 まあ、石鎧はドーム外で歩兵戦力を運用するために作られた兵器だ。ドーム内での格式ばった試合だけで優劣を争う方法が間違っていた、とも言えるが。

「索敵能力は耳があるからワイズに分がある。序盤は可能な限り他チームをやり過ごして電気消費を抑える。……俺とエージだけは」

『オレはっ』

 俺達、チーム・月野製作所の初期配置は、左右を山に囲まれた僻地へきちである。敵を待ち構えるには良い場所だが、逃げ道が少ないので移動するべかもしれない。

 山にはばまれた狭い夜空には、いびつな二つの月が浮かんでいる。

「ルカは単独先行。発見した敵の位置は逐一知らせるから、Interchange《互換》オプションの本領を発揮してやれ。あ、Insect《虫》オプションだっけ」

『Mオプションに改めただろ』

Makexisマケシスオプション?」

『Maneuver《機動》オプションだ!』

 ルカ機だけを先行させる作戦は一見愚かな策だが、一度首をひねって考え直してみれば、やっぱり愚かな策だった。

 いちおう、利点を無理やり考えれば、多くのチームが潜伏して他チームの潰し合いを待つつもりでいるはずだ。だから、第三試合は静かな立ち上がりになる、という予想を立てているだろう。

 そこに、セオリーを無視して突撃してくる石鎧がいれば、混乱は必死。戦場がき乱れたら漁夫の利を狙おうとして動くチームも現れるはずなので、ルカ機を囮にして俺と英児で現れたチームを撃破していく。

 率先して囮になろうという仲間の決意を無碍むげにはできない。

 何より、チームメンバーにルカを選んだ時点で、潜伏作戦は無理だと諦めていた。


『――三、二、一。全チーム、第三試合開始せよ』


『ようやくオレの本領を発揮できる。いくぜぇッ』

 ルカ機の賢兎ワイズ・ラビットはうつ伏せるような格好になる。と、ウネウネと賢兎背後が動き始め、いわゆる変形を開始した。

 地面に平行のままルカ機は移動を開始して、岩陰の向こうに消えていく。

 Mオプションのルカ機の背中には、増設したユニットから節足動物的な脚部が複数本生えている。内臓を守る肋骨がごとく石鎧の体を覆う十二本の脚のお陰で、匍匐ほふくしたのまま高速に移動する事が可能だ。

 気色悪い移動形態であるが、根拠はある。地面すれすれを移動できるので、立って移動するよりもステルス性は高いのだ。多脚を使った移動は、荒地続きのドーム外にも適している。

 二歩歩行を止めてしまっているが、あんな異形でも賢兎である事に間違いはない。

「さて、序盤はルカが暴れるためのサポートだ。俺達も移動しよう、エージ」

『了解だ。たまにはチームの紅一点に華を持たせてやるさ』


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