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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
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4-11 こうしてルカ機はカスタムされていく

 二本の動画を見終えて、未来への不安を駆り立てられた、その分だけ、月野はマケシス社との協力に前向きになったようだ。

 賢兎ワイズ・ラビットは平均値で多くの石鎧を上回るが、他を圧倒する特殊性はない。他を圧倒する瞬発力も、何物も通さない無敵の装甲も持っていないのだ。

 オリンポスのアキレウス、

 アメリアのテスタメント。

 二種類の高性能石鎧と運悪く対戦した際、今の賢兎に勝てる要素は存在しない。

「具体的には、どのような協力をしていただけるのですか」

 月野製作所独力でトーナメントを制したかったのだろうが、月野はプライドを捨て、苦渋に満ちた顔でマケシス社の営業部長にたずねる。

「弊社で試作している石鎧専用装備を即日提供できます」

「あのイロモノですか……」

「趣味的である事は認めますが、実用的な装備もご用意できますよ」

 東郷から手渡された分厚いカタログは後で拝見するとして、問題は他社製品との互換についてだ。

 月野は賢兎の修理、整備、オプション開発で手が回らない。加えて更に、見た事のない武装との連動をテストしている暇はない。これ以上は疲労で倒れてしまう。

「では、弊社から技術スタッフを出向させましょう。連動に関しては全面的に任せていただいて構いません」

 東郷は少しも悩まず、明日の朝にでも技術者を連れて工場を訪れると約束した。中小企業の実情を理解してくれているのだろう。

 そろそろ面会時間が過ぎる。今夜は口約束に留め、明日やって来る技術者達との技術的な話し合いを終えてから本契約を結ぶ事になった。


 営業マン的な笑顔を絶やさなかった東郷が、病室から去っていく。

「転んでも倒れない、バイタリティある会社ですね。マケシス社って」

「……妙だな」

「紙屋君は何か気になりますか?」

「マケシス社は月野製作所と違って、トーナメント優勝に何かを賭けている訳ではない。本気で優勝したいのなら、最初から自社のSAに力を入れるべきだった」

 東郷に何らかの悪意を感じた訳ではないし、チーム・月野製作所を罠にめるつもりにしては回りくどい。

「どうしてこんなに好条件で俺達に協力してくれるのか、謎だ」

 少しに落ちないが、協力者が現れた事には素直に喜んでおこう。




 翌日の検査で頭のCTスキャンを取り、医者からお墨付きもらって無事退院できた。不足していた睡眠時間を補充できたので、ここ一ヶ月で一番調子が良い。

 午前中にマケシス社が工場にやってくる。

 時間的に余裕はないので、少し早足で軍学校から外に出て、月野製作所があるドームまでバスで移動する。

 住んでいるレベルになりつつある工場に帰って来た時、既にマケシス社の社員達が到着していた。

 その一人は、昨日現れた営業部長、細目の東郷だ。

「やあ、紙屋君。退院おめでとうございます」

「おはようございます、東郷さん。約束通り来ていただけたようで」

 工場内部にはトラック二台分の石鎧装備が運び込まれていた。側面が開放されており、三段もある棚に様々な装備が陳列されている。

 どうもマケシス社は石鎧本体よりも装備品に関して開発力をそそいでいるらしい。名の知れたメーカーでさえ多角経営に乗り出さないとならないなんて、ドームの経済は寒い。

 もらったカタログには目を通していたが、実物を直に試着できるのは装着者としては嬉しい。

「……とはいえ、大剣にクナイにハリセンまで。迷走していますね」

「弊社は無人機製造で技術はつちっていても、人が動かすSAのノウハウは未熟ですから。とりあえず作ってみてから後悔しようという方針で、社員全員からアイディアをつのっているのです」

 新規開発可能な体力を持っているメーカーだからこその発想だ。月野製作所のような崖っぷち企業には真似できない。


 東郷と別れた後、月野の眼鏡を工場内で発見した。あいさつしながら手を振ると、可愛らしい仕草で月野も手を振ってくれた。

 水銀灯の灯りで黄色い髪がキラキラ光っている。

「月野。どんな感じだ」

「紙屋君のワイズは撃たれた頭部と、殴られて凹んでいた外装の交換中です。調整込みでも今日一杯で終わるので、明日の第三試合には間に合います」

 二回戦前に壊されていた部位もあるので、一日ぐらい掛かっても仕方がないか。

 マケシス社の装備品は予備機を使って確かめれば良い。

「城森君のワイズはもう調整が済んでいます」

「エージだけは試合で無傷だったからな」

「ルカさんのワイズは……着せ替え人形にされています」

 ルカ機は、本体は無事だがオプション装備の交換が必要だったはずだ。Destroy《破壊》装備はまだ予備があるので、そんなに深刻に考えてはいなかったのだが……月野は溜息を付いている。

 眼鏡のレンズ越しの視線を探ってみると……向こう側にオプションをぎ取った素体の賢兎ワイズ・ラビットが立っている。中身入りなようで、マケシス社のトラックから装備を取り出しては装着し、取り出しては装着しを繰り返していた。


『月野―っ! Dオプションって前々から貧弱だと思っていたんだー。分隊支援火器を積んだぐらいでD《破壊》って言い過ぎだろー。弾少ないしー』


「普通、機関銃でも歩兵相手にはオーバーキルなのですが」

『ワイズの丈夫さを活かせるような、少し乱暴に動けるオプションを付けてみようぜ』

「もう付けているじゃないですか……他社の」

 素体賢兎の周囲にはマケシスの技術者が集まって、斎藤ルカの指示に従ってあれやこれやと忙しそうだ。

 月野の頬が膨れてしまっている。承諾を出したとはいえ己の玩具で遊ばれているのが気に入らないからだろう。

『お、このカニ腕良いなっ! え、カニじゃなくてサソリのハサミ??』

「言っておきますけど、マケシス社の装備との連動をたった一日で済ますのは反対です。試合中に停止しても知りませんよ!」

『心配し過ぎだな、月野。子供は親が思っている以上に頑丈らしいぞ』

「作成者が認識していない性能を石鎧が発揮したら、ただ疑わしいだけです」

 銃やナイフを追加するだけなら、月野も文句はなかっただろう。

 だが、ルカ機は腕を四本に増やそうとしていた。下手すると脚部も増設されてしまいそうな勢いだ。まあ、第三試合は複数チームによるサバイバル戦となるので、ルカには火力を増してライバルを破壊して回ってもらいたい。

「月野。せっかくだし俺もワイズの武装を強化したい」

「紙屋君までっ!」

「強化といっても外付けの武装を増やすだけだ。俺は不器用だから、ルカみたいな奇抜な物は選ばない」

「信じていますけど……くやしいです」

「なら、月野も一緒に選んでくれ。月野の選美眼は信じられるし、友達と物を選ぶのは純粋に楽しいだろう」

 俺が頼むと、月野はやや機嫌を直して後ろを付いてきてくれた。


 その後は予備の賢兎を装着して数時間は二人での作業を楽しんだ。男女で出掛けて服選びをする娯楽とはこのようなものだろうか。

「膝に固定するスパイク。ニーキックと同時に突き刺し可能か」

『石鎧の格闘戦で、ニーキックする状況が発生します?』

 全然違うか。




「三回戦の試合内容が公表されたぞ! 俺達はAブロックに割り当てられた」

 電子ペーパーを片手にソファーでくつろいでいた城森英児が、最新情報を教えてくれる。

 Aブロックには十二チームが出場しているが、その中に優勝候補たるオリンポス社のチーム・オケアノスは含まれていない。

「最愛の瑞穂みずほ嬢と戦わずに済んだからって、安心するなよ。九郎」

「やかましい」

「……紙屋君? 最愛??」

 英児の周囲にチーム・月野製作所のメインスタッフが集合する。ルカはごてごてした賢兎を脱げば良いのに。

「Aブロックはドーム外で、夜戦によるサバイバル戦。二チームが残るまでの時間無制限で行われる」

『野外ならオレの新ワイズで暴れられるぜ。チーム・オケアノス以外に強敵はいるのか?』

「優勝候補のチーム・スターズもAブロック出場だ。あの重装甲をどう調理する。九郎?」

 悪いな、英児。三回戦は二位でも通過できるはずだろ。


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