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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
30/106

4-10 強豪二チーム

「昼一に行われたチーム・オリンポスの試合時間は、わずか三十八秒。これは大会記録です」

 東郷に口で説明されなくても、記録映像を見れば一目瞭然ひともくりょうぜんだ。映像の下にある白と赤のバーに表記されている総記録時間も、四分以内に収まっている。

 チーム・オリンポスの白い石鎧は一列に並んでの礼の後、フィールドを一歩も移動せず、静かに相手チームをにらみ続けていた。これを挑発と捕らえた相手チームも試合前の三分の移動時間をまったく活用せずに、フィールド中央にとどまった。

「一回戦でチーム・月野製作所が勝利した時は、一度距離を取っています。そのため、単純比較はできませんが……オリンポス製のSA、アキレウスの格闘機動は見事でした」




『――彼を撃った虫けらは許されない。早く追いかけないと』

『曽我さん。何か言ったかい? 現大会記録の最短記録である五十六秒を超えて、誰が真に優秀なのか教えてやろう』

『……試合を早く終わらせて虫けらを追撃する。五十六秒も掛けられない』


==========

“石鎧名称:アキレウス

 製造元:オリンポス

 スペック:

 身長二・三メートル。最新鋭の軽量型石鎧。

 オリンポスの傑作機であるパトロクロスの発展型にあたる。

 装甲を限界まで削っているが、凹凸に特殊加工する事で強度を確保している。胴体と頭部が流線型に見えるのはそのため。身長や素体時の重量はパトロクロスよりも小さくなっている。

 一対のカメラレンズは、鋭角が極まっていていかつい。

 全身各部にスラスターを装備しており、運動性能は既存の石鎧から隔絶している。その代わり、固形燃料を多用するらしく、腰に二本のペイロードが追加されている。

 塗装が白いのは開発中の機体だからだと思われるが、戦闘でも白い装甲が一切傷付かない事で話題と成りつつある。

==========


 三機の白い石鎧、アキレウスという名の石鎧は、試合開始直後から固形燃料を使用して一気に敵へと近づく。しかし、相手チームもオリンポス製の石鎧の俊敏さを理解しているので、さして驚いた様子を見せていない。

 だというのに、中央を一足早く進むアキレウスは相手の思考を上回った。

 突き出された槍のような長物を簡単に見切る。そして、避けながらもひじに隠してあるカッター部位で、槍の柄を輪切りにしてしまう。

『……五秒経過』

 無名の石鎧は、慌てて両肩に装着してある近接防御火器を稼働させたが、照準を付けた時にはアキレウスはブースターを吹かして上空に跳んでいた。装着者の目には、一瞬でアキレウスの姿が消えたように見えただろう。

 アキレウスは空中で回転する。体の上下を完全に入れ替えており、敵の頭上を越える時には頭部が真下になっていた。

 そういった逆転体勢で両腕を伸ばせば、アキレウスの手は敵の肩に届く。当然のように両手には短剣が握り締められており、近接防御火器を縦に両断して破壊してしまう。

『……十秒経過』

 アキレウスは、敵の背後に無事着地する。上下だけでなく左右にも体をひねっていたので、地上に戻った時、アキレウスの真正面には敵の背部が見えていた。

 二刀流の短剣で、無防備な背中を次々と突き刺して、一機撃破。

『……十五秒。まだ遅い』

 試合開始から僅か十五秒の出来事だ。

 後ニ回早業が続き、試合はあっと言う間に終わってしまった。




「いつもながら、えのある戦い方をする」

「中央のアキレウスの装着者、同じ予科生ならばご存知ですね」

「ああ、曽我瑞穂そがみずほの機動だ。彼女を倒さないとならないなんて、ゾッとしない」

「最短記録の樹立に最も貢献した事で、曽我予科生は話題を得ました。試合後の記者インタビューに現れず、SAを着たままどこかに消えてしまった事でも話題を――」

 チーム・月野製作所の試合時間を意識した曽我瑞穂が、最短時間を更新しようと躍起になった。こんな妄想は有り得ないだろう。瑞穂は誰かを意識しなくても優秀な成績を叩き出せる。

 そもそもあの女は、隣の家に住んでいた頃から俺を下にしか見た事がない。傍にいて当たり前な家来として、俺を無意識に扱っていた。

「失礼ながら御社の新型、賢兎ワイズ・ラビットは武装面で貧弱です。ただのハンドガンとナイフで、曽我瑞穂が駆るアキレウスに挑めますか?」

 先んじて黄色い髪を逆立たせる月野の眼鏡を押さえ付けつつ、東郷の挑発的な細目に返事をする。

「二回戦までの賢兎が、性能のすべてではありませんよ」

「ごもっともですが――」

「そうです。ぼくのワイズは完璧ですし、紙屋君だってがんばってくれています!」

 我が子のような石鎧を貧弱と疑われて、黙っていられないのは分かる。が、月野はもう少し駆け引きを覚えて欲しい。マケシスから協力を得られるにしても、足元を見られたくはない。

「今日の戦いで紙屋君はどれだけ被弾しても立ち続け、勝利しました。チーム・オケアノスだろうと負けはしませんっ!」

「――強敵は、オリンポス社のチーム・オケアノスだけではありませんよ、月野様。紙屋様と同程度、いえ、それ以上に被弾していながら無傷で勝利したチームが存在します」

 ベッドで寝ている間に、俺はいくつも見所のある試合を見逃してしまっていたらしい。

「無敵の装甲を持つのは、チーム・スターズ。アメリアからの招待チームです」




==========

“石鎧名称:テスタメント

 製造元:B&W

 スペック:

 身長二・七メートル。防御力重視の石鎧。

 左半身を完全に覆おおい隠す巨大なタワーシールドを標準装備している石鎧。

 奈国東方の隣国、アメリアの軍隊が正式採用している石鎧で、運動性が重視されつつある奈国とは別系統の発達を続けている。

 特殊な装甲を採用しており、並大抵の武器では歯が立たない”

==========


 アメリアの正式採用石鎧、テスタメントは見た目通りの重量級だ。

 アメリアはテスタメントを代表とする装甲部隊に大盾を持たせて並べ、歩く壁とする戦術を好んでいる。前衛部隊が敵軍を押し留めている間に、後方からの火力支援によって撃滅するのがセオリーだ。

 石鎧を壁にするといっても、装着者の命をないがしろにしている訳ではない。アメリアという国は、むしろ奈国よりもよほど個を大事に扱っている。特別、家族単位の繋がりが深い。

 石鎧を防壁として使用できるのは、それだけ装甲の分厚さに自信があるからだ。


『敵は固いが、奈国のSAに比べてはるかににぶい。一定の距離を保ったまま銃弾を浴びせ続けろ!』


 テスタメントと相対したチーム・ノーヴェンバーに所属する石鎧三機の戦い方は正しかった。相手の攻撃が届かない距離から、飛び道具を撃ち続ける。ただそれだけであるが、単純で分かり易い作戦だ。

 壁となって前進してくる重量級石鎧群は恐ろしい。が、たった三機だけでは壁に成りえない。

 事前に対戦相手がチーム・スターズであると知っていたチーム・ノーヴェンバーは、両手に機関銃を構えて射撃を続ける。この試合のために火力を増強して、重装甲に挑んだのだ。


『うてぇーッ、撃ち続けろッ』


 手持ちの弾をすべて消費し尽くしても構わないと、チーム・ノーヴェンバーは引き金を引き続けた。

 大きな体の半分も隠せるタワーシールドをテスタメントは構えているが、体の残り半分は外にはみ出てしまっている。丸みを帯びた肩や胴体へと、銃弾は吸い込まれていく。

 接敵してから絶え間なく射撃音が響く。

 数分間も銃撃は継続されたが、銃身の異常加熱や単純な弾切れで、ようやくけたたましい音が止む。

 着弾が重なって生じた爆煙の向こう側では、未だに撃墜判定が出ていないテスタメントがまだ三機――。


『煙が晴れたッ、今だ! グレネードッ!!』


 銃を撃てなくなったのならグレネードを撃ち込めば良い。銃身の下に追加されていた短発式のグレネードランチャーが火を噴き、テスタメントに全弾命中した。

 所詮はただの地上兵器でしかない石鎧だ。どれだけ鉄板を分厚くしても、防げるダメージ量には限界がある。鉄鋼弾判定のある演習弾と、形成炸薬判定のあるグレネードを浴びてしまっては、撃墜されないはずがない。

 テスタメントの装甲が、厚みのみで銃弾や弾頭を防ぐものであれば……であったが。


『クロエお嬢様。そろそろ動きますか』

『――ええ、行きましょうかっ!』


 チーム・ノーヴェンバーは、テスタメントがただの地上兵器であるかどうかを、銃弾を撃ち尽くす前にもっと詳しく把握しておくべきだったのだ。運動性能の欠片もない石鎧を見下す前に、異常な防御性能を見せる装甲板の機能を確認しておくべきだったのだ。

 演習爆煙の内部から、重い駆動音を響かせて無傷なテスタメントが三機、突進を開始する。爆発的な速度ではないが、重量に反して直進能力は低くはない。

 両手で握り締めているのは、テスタメントの全長と同じ、二・七メートルの巨大なハルバートだ。

『奈国のSAは速いなぁー。だ・け・どっ!』

 大きく振られたハルバートを、慌てずに奈国予科生は一歩引いて避ける。

 しかし、間合いを完全に見切っての回避だったためか、ハルバートの刃が一回り大きくなるように展開した事で脇に届いてしまった。

 幸いにも胴体を真っ二つにされる事はなかったが、それはテスタメントの装着者、金髪女のクロエ・エミールが手加減したからに過ぎない。倒れた先で撃墜判定を下され、完全停止してしまう。

 一段大きくなったハルバートは、全長三・五メートルにもおよぶ巨大武装となっていた。刃の部分だけで一メートル強もあるため、頭頂部のピックがなければ大鎌と誤認してしまいそうだ。

 展開前の形状でさえ二・七メートルと大きかったが、それでも持ち運びを考えて身を縮めていたという事なのだろう。

『流石はお嬢様です』

『ケビンは左から、ユーリは右から。手堅く一機ずつ仕留めましょう』

 テスタメント三機は協力して敵の一機を囲い込む。運動性能で劣るとはいえ、チーム・スターズの連携には隙がない。そう時間は掛からず、三方向からハルバートのピックを向けてチーム・ノーヴェンバーの石鎧を追い込んだ。

 仲間を助けようと、チーム・ノーヴェンバー最後の一機が、クロエのテスタメントを背後から斬り付ける。対石鎧の硬質短刀を、腰関節へと突き入れたのだ。

 ただし、想像以上に刃が深く刺さった事に驚き、直に腕を引いてしまう。

 テスタメントは腰が弱点だった……はずがない。短刀は柄の部分だけを残して、刃のほとんどを消失してしまっていた。そのため、深く刺さったと勘違いしてしまっただけである。

 短刀の刃がどこに消えたのかというと、テスタメントに触れた途端に蒸発してしまったのでこの世に存在しない。

『私の電磁装甲に触れると、危ないよ?』

 テスタメントの重厚な頭部の内側、斜めのスリット越しにカメラが青く発光する。

 結局、チーム・ノーヴェンバーはテスタメントに有効な攻撃を一切与えられないまま敗退した。


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