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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
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4-9 マケシスからの使者

 月野と再会したのは夜になってからであった。二回戦の事情聴取を終えた月野が、夕飯時になってようやく現れてくれたのだ。

「本当に心配したんですよ。もう頭に痛みはないのです?」

瘡蓋かさぶたはあっても、穴は開いていないだろ。明日まで経過を見て大丈夫なら帰って良いと医者は言っている」

 月野のは眼鏡の縁を指で持って固定し、顔を近づけて真剣な瞳で俺のこめかみを見詰めてきた。ベッドの上で上半身を起している俺と、ベッドの傍に立つ月野とでは、月野の方が高い。俺は座高だけの男ではないという証左だ。

 親近感が沸く近距離であるが、石鎧の整備をしている時も、月野はこんな仕草をしていたと思うので勘違いしてはならない。

「それにしても、事情聴取はやけに長かったんだな」

「ワイズについていくつか専門的な事を質問されましたので。それと、事件とは別にAIの審査が少し……」

「戦闘中もAIは完璧に動いてくれていたと思うがな」

「紙屋君の奮戦振りにいちゃもんを付けられてしまいました。撃墜判定が出ないように細工していないか、一通りのチェックをしていたらこんな時間に」

 月野は俺からやや目線を外して話を続ける。

 何を遠慮しているのかと思えば、俺の賢兎ワイズ・ラビットに対して嫌疑をかけられていたのだという。

 話を要約すれば、二回戦の終盤に賢兎は被弾しまくっていたのに撃墜判定がでなかったから卒業試験の運営に不正を疑われた、である。

 撃墜判定を行うのは、演習場に複数設置されたカメラを経由して画像分析するAIと、石鎧自身のAIである。前者は運営が用意するものだが、後者は各石鎧の持ち前の機能を活用している。

 どちらのAIに重き置かれているかは知らないが、運営側のAIも撃墜判定を出していなかった癖に、賢兎のAIを疑うとは腹立たしい。何のためのダブルチェックだというのだ。

 そもそも、俺達は実弾を使用された側の被害者なので、疑われて良い心地はしない。

「AIの潔白は証明できました。紙屋君は何も心配しなくて良いです」

「疑われる程に賢兎が堅牢だって、観客に広められたのなら気分は良いぐらいだ。観客席のざわつきが環境センサーに入ってきていたぐらいだったぞ」

 ……まあ、俺が何のトリックも使っていなかったかと言われれば、嘘となるが。

 とはいえ、俺があの場面で撃墜されていたというIFイフが成り立っても、その直後に隠れていた城森英児がチーム・アベンジャーズを掃討していたはずなので、結果に変わりはない。

「それはそうですが……んん、やっぱり開発者としては原因不明の強度は納得できないですね」

 月野は指先で俺のこめかきの瘡蓋をなぞる。

 いくら突いても穴は発見できないと思う。弾痕のある賢兎を診断した月野が納得できなくても仕方がないと思うが。

 硬いフレームを外し、曲面スクリーンにも穴が開いていた。至近距離から放たれた弾は内壁だけでは衝撃を吸収し切れなかったはずだ。実際、俺のこめかみにぶつかった後、銃弾は角度を変えて進行し、側面の内壁に埋まってようやく停止した。

「俺が石頭なだけだった。こうだとしても、観客が誤解するのを止める気はないな」

「……ぼくは社長として、会社の評判や存続にも責任を持っています。開発者としては石鎧の安全性にも」

 いきなり、月野は俺の頭を優しく抱え込む。頬の感触は、ぎりぎり柔らかい。

「でも、紙屋君の友達としてのぼくは、紙屋君に無茶をいたくない。祖父の代から続く会社は大事だけど、友達の命ほどではないから……あんな無茶な戦い方はしないでください」

 試合を観戦しながら、月野は俺の身を案じていた。

 壊れた石鎧はいくらでも修理できる。だから、斎藤ルカに何度賢兎を壊されてもなげくだけで怒りはしない。

 だが、愚直に単機で敵陣へと突っ込む俺の戦い方だけは、月野に容認できない。

「お願いですから、次からはもっと安全に戦ってださい。紙屋君」

「月野が俺に頼んだ時点で無茶な相談だったと思うが、三回戦は善処する」

 演習では毎回タイムアップまで泥試合を続ける俺にとって、身を切り売りする戦い方は十八番おはこだ。ルカとはまったく違う理由で、俺は頻繁に石鎧を壊す。

 月野の願いはとうといし採択したいが、酷く難しいだろうな。



 見舞いを終えた月野がそろそろ帰ろうとした頃だった。

 面会時間ぎりぎりになって、引き戸をノックする音が響く。

 どうぞ、と入室の許可を出す。入ってきた人物は、俺の知らないスーツ姿の男だ。


「夜分失礼致します。チーム・月野製作所のチームリーダー、紙屋九郎様ですね」


 紺のスーツはシワ一つない。月野も似たような服装だが、にわか営業の彼女と違ってスーツを着こなしており、実に似合っている。

「心よりお見舞い申し上げます。このたびは大事にいたらず、安心しましたがお加減はいかがでしょうか」

「明日には退院できますが――」

「それは安心いたしました」

「――貴方は、どちら様で?」

 スーツの男は腰を低くしながら、俺と月野に対して名刺を差し出す。

「申し遅れました。私はマケシス社の営業部長、東郷とうごうと申します」

 マケシス社と言えば、チーム・アベンジャーズに石鎧を貸し出していたメーカーである。無人機製造ではかなり幅を利かせている企業であるが、石鎧のデザインセンスは正直微妙だった。

 敵、というには、マケシス社はやや立ち位置が微妙な相手である。彼等は愚かな予科生に石鎧をレンタルしていただけだ。実弾入りのハンドガンまで貸し出した訳ではない――実弾は予科生が用意したものであったと既に判明している。

「マケシス社の営業部長が、何の用事ですか」

 俺に代わって月野が東郷の前に立ちふさがる。社長という立場なのは分かるが、華奢きゃしゃな体で俺をかばおうとしなくても良いのに。

「月野製作所の月野様ですね。同じ被害者として、この度の事件は不幸でした」

「不幸? あんな程度の低い予科生に石鎧を貸し出したメーカーが、被害者ぶりますか!」

「営業部長としてはただただ頭を下げるしかありません。見る目がなかった事は訂正しようがありません」

 この部屋にいる人間で最年長だというのに、東郷は低姿勢を崩さない。

 反対に、月野はいつ噛み付いてもおかしくない猛犬のように東郷に突っかかっている。体温上昇で湯気が発生しているのか、眼鏡の透過度が下がっているな。

「御社の成績に関係なく、多くの予科生にSAを貸し出す方針は気高いものですが、もう少し相手を選んではいかがですか。新装備を予科生でテストさせているのと、一部で不評を買っているという自覚はありますか!」

おっしゃられる通りで、反論しようもありません」

「そう思うのであれば、まず紙屋君に謝って――」


「月野、あまり一人でヒートアップするな」


 剣幕で東郷につめよる月野の肩を二度ほど軽く叩いてたしなめる。

 敵にしなくて良い人物を敵にしてしまう必要性はない。反対に、敵にしたくない人物は味方にしておくのが吉である。経験的にそう思う。

「俺は気にしていません。マケシス社に対してわだかまりはありませんよ。同じ被害者ですから」

「そう仰っていただけると助かります」

「それで、見舞いのために来た訳ではありませんよね。恐らく、俺ではなく月野の方に用事があるのだと思いますが」

 東郷は細い目を若干開放し、直に細める。

「月野様にご相談があったのは確かですが……不躾ぶしつけですが、お二人のご関係は? 随分と親しく感じられますが」


「詮索される間柄ではありませんッ」


「……友人です。契約上のパートナーでもありますが、経営についてオブザーバーみたいな事もしています」

 駄目だ。月野は、東郷のジョークみたいなジョブで顔を赤くしてしまっている。

 月野では東郷に太刀打ちできそうにないので、俺が東郷と応対する。

「実は、弊社と契約していたチームすべてが二回戦で敗退してしまいました。更に、この度の事件が決めてとなり、悪評ばかりを得る結果となってしまいまして。そこで、御社とチーム・月野製作所様に挽回ばんかいの機会をいただければと思い参上した次第です」

 癖の強い装備ばかりの石鎧だ。初戦で相手を翻弄ほんろうできても、二度目の勝利は困難だ。

 マケシス社がどこまで本気でトーナメントに力を入れ込んでいたのか、正直な所は疑わしい。

「具体的に、何を望まれているのです?」

「弊社が提案したいのは、トーナメント中の提携です。SAの装備を一式、無償で提供する代わりに、試合で使用していただきたいのです」

「ああ、なるほど」

 チームがすべて敗退してしまったマケシス社としては、何らかの形で卒業試験に関わっていたい。せめて、チーム・アベンジャーズの犯行で企業イメージが低下してしまった分ぐらいは取り戻す必要がある。

 分かり易い動機である。

 ……だが、協力する相手として月野製作所を選ぶ理由が分からない。

「勝っておいて言うのは嫌味にしか聞こえないでしょうが、チーム・月野製作所は決して優勝候補ではありません。それなのに、どうして協力を申し出るのですか」

「ある筋から耳にしたのですが、チーム・月野製作所は真に優勝を目指しているチームだと。機会をいただければ、数撃ちの弊社も見習いたいと思っております」

「優勝したい、と優勝できる、は違いますよ」

「ただ優勝するだけであれば、例えばオリンポス社のチーム・オケアノスに協力を申し出るでしょう。十中八九、ことられるでしょうが」

「つまり、月野製作所しか相手がいないと?」

「状況的にはそうなりますが……仮にオリンポス社と提携できるとしても、弊社の社長はそういった安定していても、利益の薄い道を選びはしません」

 オリンポス社からシェアを奪われている大勢の企業の中に、マケシス社も含まれている。今は石鎧を中心に開発しているが、将来的に無人機製造に乗り出さないとは言い切れない。

 だから、今回の卒業試験でダメージを与えておきたいとマケシス社は考えている。


「要するに、敵の敵は味方という訳です」


 東郷の申し出は理解できた。そんなに悪い話ではないと思うが、月野製作所の経営を決めるのは、傍にいる眼鏡の少女だ。

「どうする、月野?」

「弊社にそのような余裕はありません!」

 月野はマケシス社の申し出を、ばっさりと切り去ろうとしている。まあ、石鎧の修理だけでもギリギリな会社を思えば、拒否も一つの答えだろう。


「――お言葉ですが、御社には協力を断る余裕さえないと存じます」


「それは、どういった意味です?」

 意味深な事を述べた東郷は、持参していたカバンから液晶画面のみのポータブルPCを取り出す。俺達に何かの映像を見せたいらしい。

「二回戦で最も注目された試合は、残念ながらチーム・月野製作所の試合ではありません。一回戦で記録された試合の最短時間が破られた事はご存知です?」

「……病室にまで歓声は聞こえてこないので」

 起動した液晶上で、録画映像が表示される。

 恐ろしい事に、映像は一分しか記録されていない。

「チーム・オリンポスが記録を更新しました。試合時間は、三十八秒です」


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