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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
23/106

4-3 幼馴染は呪いの言葉を唱えた。九郎は呪われた!

 他チームの一回戦を観客席で眺めて敵情視察を行ってみたが、強豪と呼べるチームはいないように思えた。

 上位チームはシード権を得ているため、一回戦には出場していない。その所為か、石鎧の性能だけで相手を圧倒したり、逆に石鎧の性能を活かせず旧型の演習機に敗退したり、と視聴する分にはお遊戯のようで面白い試合しか行われなかったのである。

 足を運んだ甲斐かいが無かった訳ではない。チーム・月野製作所に勝てない相手がいないのであれば僥倖ぎょうこうだろう。


 赤い太陽が観客席を照らす時刻になって、一回戦の全試合は終了した。五百を超える観客達は、仮設された長椅子から一斉に立ち上がる。

 帰宅を開始した予科生やメーカー、軍人らしき人間達の波にまれたくはなかったので、俺は座ったままドームの内壁で沈む太陽を見続ける事に決める。隣席にいたはずの城森英児しろもりえいじ何処いずこかに消え去っていたので、俺は気ままに一人で座り続ける。

 のんびりとした時間が過ぎていく。

 演習場の茶色い大地と電源の落とされた巨大スクリーンを眺め続けて、時間を忘れている間に人影が消え去っていた。時間の流れが素早い。一回戦の試合もそうだが、最近は色々と忙しくてウトウトしてしまったのだろうか。

 もう誰も残っていないのであれば座り続ける意味はない。観客席から去り始める。段々になっている長椅子の間を通り抜け、階段を下りて出口に向かう。

 そうして、仮設的な骨組みが見える観客席の裏手に回った時だった。

 ふと、視界に何者かが入り込んでいたため、片足で踏ん張り、慌てて仰け反る。


「おおっ、悪い」

「…………っ」


 無人であるはずの場所で、しかも夕日の当たらない影の領域に人が隠れているとは思っていなかった。接触は避けられたが、そこそこの近距離でその人物と俺は向かい合う。

 見た事のある顔だった。

 正確には、昔は頻繁に見ていたはずなのに最近は疎遠そえんとなった顔。つやのある黒髪を紫のひもで束ねた少女だ。


曽我そが瑞穂みずほ……か」

「ッ、貴方、調子に乗ってないかしら?」


 大和撫子みたいな顔した女に、いきなり因縁を付けられるのだから、この惑星は終わっている。

 俺から瑞穂に話し掛けたのは十年ぶりぐらいだ。こんな衝突しかけた瞬間でなければ、他人になってしまった幼馴染に声を掛ける事はなかっただろう。

 瑞穂を避けていた理由は、三割ぐらいの気恥ずかしいさと、七割の恐怖心。それなりに仲が良かった友達から冷たい態度を取られるのが恐ろしくて、これまで接触を自重していた。

 だというのに、どうしてこの女は俺を恐怖させるのだ。

「貴方の一回戦の試合を見たわ」

「それは、どうも」

「シードでなければ、私がもっと短い時間を叩き出していた。たかだか二ニ一位が、浮かれていない?」

 どうも、近い位置からにらんでいる瑞穂は、文句を言いたくて俺を待っていたようだった。成績上位が成績下位に喰らい付いている光景が見っともないから、こんな人気のない場所を選んだのだろう。

「浮かれているつもりは、ないが」

「私が潰してやりたいところだけど、グループ的に無理がある。だから、見苦しいから早く負けなさい」

「浮かれてはいないが、優勝はするつもりだ。月野と約束したか――」

 約束の“や”を発音したあたりで、瑞穂は胸倉を掴んで反っていた俺の体を牽引けんいんしてきた。

 額に血管を浮き出せそうな顔をしながら、瑞穂は俺を両目で凝視する。


「約束が、何? お前ごときが優勝?」


 瑞穂は息切れしそうな程に語尾を強める。

 それにしても、どうして瑞穂が俺を敵視してくるのか分からない。

 一回戦で少し目立っただけの俺を探し出し、肩をプルプル震わせる程の動機が思い付かない。トーナメントの対戦表的には当面敵にはならないだろうし、演習のたびに引き分けていたのを不満に思っていたのなら今更だ。

 心を通わせなくなった幼馴染は異星人と同じぐらいに判然としないので、俺は事実のみを抑揚なく語るだけである。

「俺の専属契約メーカー。経営難で潰れそうなのは知っているか? そこの社長に優勝して会社を救ってくれと頼まれた」

「あんな欠陥機のメーカー、この世から無くなれば良いッ」

「駄目だ。俺が救うと決めたからには、救う」

「お前は知っているのか! あの耳付きSAの所為で、私の父は死んだのだぞ」

「……外縁軍がそう言っている事は知っている」

「ならッ、今すぐに専属契約を破棄して、試合を辞退しろ。あのSAの所為でまた死人が出る前に! 私の言葉に逆らうな!」

 瑞穂の詰め寄りに対する俺の答えは、ノーである。

 真実を隠す者としては、月野製作所に対する補填ほてんを最大限行うべきなのだ。

「俺は優勝すると約束した。約束は果たすべきだ」

 瑞穂は、ショックを受けた表情でニ、三歩後退していく。俺が赤の他人のような瑞穂の言葉に従うと、心のどこかで確信していたのに裏切られた、そんな青い表情だ。

 まるで病人のような顔だったのが心配で手を伸ばすが、強くはたかれて拒絶されてしまった。


「あんなSA、壊れてしまえば良いんだッ。お前もッ、一緒に壊れてしまえッ」


 瑞穂は前髪で顔を隠しながら、呪いの言葉を残して走り去ってしまう。

 酷く嫌われたものである。何が悪かったのか反省する材料さえ判別できない。

「貴方の次はお前か。遠ざかっているような、最初の最初に戻っているような……ないか。怒った時の口調は変わらないのに、当て付けだとすれば効果覿面こうかてきめんつらいな」

 人気がなくなるまで残るべきではなかったと、俺は心底後悔しながら観客席から離れていった。


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