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キカイな物語  作者: クンスト
1章 月野製作所の救世主
19/106

3-9 総合評価実習

『予科生、紙屋九郎かみやくろう。狙撃評価、Bマイナー』

 

 硝煙の向こう側にかすむ、穴の開いた小さなまと

 仰向けに近い射撃姿勢から、賢兎ワイズ・ラビットを立ち上がらせる。その間に、遠くに見える巨大スクリーンにデカデカと、俺の凡庸ぼんような成績が表示された。直に消えていったが。

 巨大スクリーンに残り続けているのは成績十位以上の予科生のみである。当然のように曽我瑞穂そがみずほの名前がっている。

「どうにも銃全般は苦手だな」

 ドーム内の天気は快晴。演習場は絶好の演習日和だ。

 そう。本日はついに来てしまった卒業試験の序章、総合評価実習の第一日目である。

 全二五四人の予科生達が、各々選び出した石鎧を装着して、各地にあるチェックポイントを転々としながら、ありきたりな評価試験をこなしている。

 俺が今終えたのは、スナイパーライフルで五百メートル先にある標的を撃つ評価試験だ。命中精度が求められる試験だったが、成績は平凡《B》未満に終わる。飛び道具はどうにも苦手だった。

 巡回しているところが身体測定に似ていなくもないが、石鎧という身体の性能チェックなのだから酷似していて当然とも言えるだろう。


『予科生、斎藤ルカ。狙撃評価、Bプラス』


 巨大スクリーンに、俺の次に狙撃銃を構えていたルカの結果が表示された。

「ルカも一発ずつ発射する武器は苦手か」

『調整が悪いんだ。本当ならAを出せた』

「賢兎を壊したルカが一番悪いけどな」

 二日前の市民シビリアン級との戦闘で、ルカはDオプションの賢兎の片足を駄目にしていた。現在、月野製作所で片足の交換作業が行われているが、まだ三日は必要だというのが月野の診断だ。

 そのため、ルカが代わりに着ているのは、予備パーツを組み合わせた急造品だった。

 今朝出来上がったばかりで、基礎的な調整さえ不十分。錆びたロボットのようなぎこちない動作で狙撃姿勢から立ち上がろうとして、失敗して倒れるぐらいには未調整だ。

 俺が片腕を貸して、ルカはどうにか演習場を巡回できている状態である。

「ここに来るはずだった月野に、帰ったらもう一度謝っておけよ。開発中断して、ルカの賢兎を必死に直しているんだからな」

『分かっているから言うなっ。今回はオレもへこんでいるんだ。これ終ったら、高価な菓子持っていくよ』

 いつも何かを壊しているルカも、本番直前の愛機の破損は精神的にこたえたらしい。

「トーナメントの一回戦も未調整のSAで出場だな。対策を考えないと」

 今日から明日にかけて行われる総合評価演習の結果に、意味はあまりない。

 成績上位者が所属しているチームに対してはシード権が与えられるが、その他に特典は一切存在しない。

 総合評価実習後に行われるトーナメントこそが最重要だ。

 優勝して月野製作所に希望を与えるためには、負けは一度も認められない。トーナメントにおける敗者は死亡判定であり、敗者復活はもうけられていなかった。


『予科生、城森英児しろもりえいじ。狙撃評価、B』


 月野製作所のチームメンバーは一緒に実習を行っている。

 チーム・月野製作所の三本目の矢たる英児の狙撃評価が完了し、何事もなく評価Bで終わる。

『まあ、こんなものだろ』

「エージもきっちり普通《B》か」

『お前は中の下だろうが、九郎。だいたい、AI射撃を使えば、もう少し良い成績を出せたはずだ。どうして使わなかった? 月野製作所的には、シード権を取って試合回数を減らした方が助かるはずだろ』

「総合評価実習は短い時間で、画一的にしか石鎧を評価できない。賢兎は堅実な所が良いSAだが、他社の最新鋭機にすべてで勝るのは難しい。なら、こちらの戦力を過小評価させておく方が正しいだろう」

 シード権を得る事よりも、凡庸ぼんような成績で目立たないまま二戦、欲を言えば三戦目までを戦いたい。

 くじ運が良かっただとあなどられたまま前半を抜け、相手に対策を立てられるのはトーナメントの後半からでありたい。

 出ない杭は打たれない作戦をただいま展開中である。

「それにな、俺の技量で上位の奴等に勝てると思うか?」

『矛盾した事言うなよ。トーナメントで優勝するつもりなんだろ』

 英児機は射撃姿勢のまま、頭だけ動かして俺を見る。嘘を糾弾きゅうだんするようなレンズ付きだ。

「月野ためなら仕方がないだろ」

『女のために、女と戦って勝つつもりか。また矛盾しているじゃねえかよ』


『予科生、曽我瑞穂そがみずほ。悪路走行評価。Aプラス』


 遠くから歓声が聞こえて、賢兎の耳型環境センサーがキャッチした。

 だから、曽我瑞穂について何か特別な感情を抱いている、と俺は一言も言っていないし。




 二日間あった総合評価実習はあっと言う間に過ぎていった。

 現在は、二日目の夜である。特別語るような出来事は起こらずに、スケジュールは順調に消化されていく。

 石鎧の操縦で疲れた体をいたわる暇なく、予科生全員が多目的ホールに集合していた。目的は、明日から開始されるトーナメントの抽選会だ。

 抽選はなかなかアナログにも、番号の入った玉を箱から取り出す方式である。安いソフトウェアを使うよりも、こういったレトロな方式の方が不正を防ぎ易いという事なのだろう。


『総合評価実習、最優秀成績チームは……オリンポス社専属、チーム・オケアノス』

 

 八十以上存在するチームの内で、最も平凡な成績を叩き出した俺達には、やっぱりシード権は授与されなかった。

 シード権を得たのは上位九チーム。

 当然のように勝率一位の女、曽我瑞穂がメンバーのチーム・オリンポス――本当のチーム名称はオケアノス。今一番注目されている企業、オリンポスの新型石鎧を装着しているため、多くの予科生がオリンポスと言っている――はシード権を得ていたが、そこに疑問はない。

 ただ……、シードが九チームなんていう中途半端な数字である事に首を少しかしげるが。十位が可哀想だ。

 次々と九チーム二十七人がホール前方の壇上に呼ばれて、整列し終える。

 この後は上位チームから順に、流れ作業的に箱から玉を取り出していくだけかと思われた。が、ふと、照明が落とされていく。

 完全な暗闇が訪れた時、ホールの前方にある投影スクリーンに“外国枠紹介”という文字が映し出された。

 アナウンスによれば、友好国との交流のために、外国の予科生が卒業試験に参戦するとの事であった。文化的な違いで、向こうの国の卒業シーズンは三月ではなく九月だったため、実現できたのだろう。

 友好国の正体が、スクリーン上に映る国旗から判明する。

 青い下地に白い星。アメリアの国旗で間違いない。


『友好国、アメリア代表。チーム・スターズ』


 予科生達が仲良く並んだ後方、ホールの入口がスポットライトで照らされる。

 そこに立っていたのは、アメリアの正規軍が採用している重石鎧、テスタメントだった。

 三機に入口を占領されてしまい、生身の予科生達の背中がビクリと震える。


==========

“石鎧名称:テスタメント

 製造元:B&W

 スペック:

 身長二・七メートル。防御力重視の石鎧。

 左半身を完全におおい隠す巨大なタワーシールドを標準装備している石鎧。

 奈国東方の隣国、アメリアの軍隊が正式採用している石鎧で、運動性が重視されつつある奈国とは別系統の発達を続けている”

==========


 だが、臆病な心理的重圧に震えている暇はない。テスタメントの一機から聞こえる声が、更にホール内を動揺させてしまう。


『――はぁーいーっ! ハローっ! 奈国の皆さん! このたびはお招きいただき、ありがとうございます!』


 流暢な奈国の言葉……ではないが、奈国でも第二母国語として採用している地球語なので皆聞き取れている。だから、重厚なテスタメントらしからぬ高域の女の声が妙にテンション高く聞こえるのは、間違いではないだろう。

 声を発したテスタメントが片膝を立てて座り、装甲版を展開していく。装着者が石鎧の中から出ようとしているようだ。

『クロエはとっても、感激してまーすっ!』

 何枚も厳重に装着者を守っていた装甲が完全に開かれた。

 内部から現れた黄金色の髪の女は、少々ショッキングな格好をしていた。声から想像する奇抜さの斜め上をいっていため、多くの予科生が度肝を抜かれる。

 ……特別、男子が。


「はぁーいっ! 私がクロエ・エミールだよー!」


 奈国の女性では真似できない、トランジスタな体形を浮き出させた黒い水着のような衣装が刺激的だ。

 背中は燕尾の赤いコートで隠しているが、鎖骨の下辺りが豊満で感動的だ。

 脚部の露出は一切ないが、編み込み模様が蠱惑こわく的だ。

 ショートな金髪を揺らすと、同時に揺れるカチューシャから生えた長耳が……どこか既視感を覚える的な――。

「今、クロエ的に一番ホットな衣装を選んでみましたーっ!」

 ともかく、クロエなる異邦人が着ているのはバニー衣装で相違ないだろう。


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