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キカイな物語  作者: クンスト
1章 月野製作所の救世主
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3-8 市民級

 墨汁色した謎の歩行物体を一番早く発見したのは、トラックの荷台にいる月野だった。運転席の映像をあまり意味もなくPCのディスプレイ上に表示していたようだが、移動している黒い点を不審に思ったのだろう。天気の良い日だった事も幸いした。

 少し遅れて、賢兎の環境センサーが反応して耳を動かす。微弱な歩行音を感知した。

 足音の数は、三つだ。

『何かな。内縁軍の人?』

「武器を使う演習場の敷地内に、事前報告もなしに入りはしないだろう。……月野はトラックの運転席に移動して、直にドームに退避してくれ。ルカはトラックの直援、エージは俺と格闘戦の用意だ」

『妙に慎重しんちょうだな、九郎。アレの正体を知っているのか?』

 俺の迅速な判断に対して、城森英児は不審そうに応答する。

 せまる正体不明の正体を教えてやりたいのは山々だが、俺にも都合という物がある。それに、英児なら大雑把な説明で対処できるだろうから問題ないだろう。


“――憎ィ。全部、失ッタ”


「こういう怨嗟えんさを通信してくる奴がまともな訳ないだろ。急所は人間と同じ位置にある心臓だ。迷わずえぐれ」

『待って、紙屋君! 好戦的過ぎるって』

「停止勧告に応じないなら、敵と判断するしかないだろ」

『心臓ねぇ。生物なのか、アレ?』

『オレは後衛かよっ!』

 何か知っているだろ、と叫ぶ英児を放置して、トラックの前に進み出てボクシングのように腕を構えた。

 俺の行動を見て、疑念はあるものの皆指示通りに動作し始める。

「エージ、攻撃する時は一撃で仕留しとめろ。オレンジ色に光る前に倒さないと面倒だからな」

 月野のトラックに早く退避するよう催促さいそくしながら、英児機と二人で前に出て壁となる。

 疾走を開始した黒い正体不明を迎え撃つため、両手を構える。今回はナイフさえ装備していないので、空手で戦うしかない。

『九郎。せめて、アレの呼称ぐらい教えろよ』

市民シビリアン級だ。ほら、走ってきたぞっ」


==========

“名称:市民シビリアン級?

 出身地:???

 スペック:

 石鎧と同じようにドーム外で活動可能な謎の生命体。本来、この惑星に生物は地球から殖民した人間しか住んでおらず、未知なる存在。

 全身が墨汁色で、顔はのっぺらぼう。

 二足歩行している所が人間に似ている”

==========


『ちょっと、紙屋君に城森君! 外でいきなり実戦なんて無茶だから』

 曲面スクリーンに投影される、両手を左右広げながら突撃してくる市民級に集中していたので、月野の通信は無視した。

 鉤爪の形に指をとがらせて、市民級は石鎧に抱き付いてくる。賢兎の装甲強度なら鯖折さばおりにされる事はないだろうが、卒業試験前の大事な体を傷付けるのは御免ごめんだ。

 掴まれる前に片腕を先に掴み、無理やり地面に引き倒す。

『生物なら前代未聞の大発見だ。本当に殺して良いのか』

「そうしないと俺達が殺される」

『なら、遠慮しねぇぞ!』

 英児機の方は、器用に敵の両腕をすり抜けて背後に回り、市民級を蹴り付けていた。直に立ち上がろうと足掻あがく背中に足を置いて固定し、手刀の形にした五本の指を黒い背面の中央に突き刺す。

『筋肉の張り方が人間と同じかよ。気味の悪い生物だぜ』

「そう言いながら、俺より早く仕留めている辺りがエージだよな……」

 賢兎の左手は先端を鋭くいでいる。近接武装のナイフ代わりになるとは聞いていたが、マニュピレーターは本来繊細な部位なので、突き指しないように気を付ける必要がある。


“――憎ィッ! 憎ラシイ!!”


 同族を早々に討伐されたからだろう。俺が掴んでいた市民級の体にオレンジ色の斑点はんてんが浮かび始める。

「そうは、させるかッ」

 黒い脇腹から束ねた五本指を突き入れて、市民級が激怒する前に心臓を破壊した。指から腕へとしたたる血も、墨汁のように透過性のない黒色。

 魂と心臓が連結しているためか、心臓の壊れた市民級は黒い灰となって形を失い、風に乗って消えていく。

『本当に妙な奴等だ。……九郎。ちなみに、オレンジ色を放っておくとどうなんだ?』

「無駄に硬くなる。エージ、興味があっても試すなよ。今の装備だと苦労する」

 正体不明を二体倒して、残り一体。

 順調に迎撃できているが、最後の正体不明は俺と英児を迂回うかいして月野のトラックを目指していた。

 危機的というには正体不明の移動速度は遅い。俺と英児、どちらでも追い付ける。

 ……だから、トラックの直援についていたルカが突撃していく必要はない。


『オレにも、攻撃させろォ!』


 同じ賢兎を着ていても、俺と英児のRオプション装備と違ってルカの賢兎はDオプションだ。デッドウェイトにしかなっていない弾なし重機関銃を装着したまま走るべきではない。

「ちょっと待ていッ、ルカ!」

『戦場はいつも流動的だ!』

 ルカは腰に二つ付けられたアンカーユニットを起動して、二本のやじり付き鋼鉄ワイヤーを発射する。その内の一本が市民級の腕を貫通してダメージを与えたが、中途半端な攻撃は怒りを買うだけであった。

 黒一色だった市民級の体にオレンジ色の発光箇所が生じる。

 片方のアンカーユニットを巻いて回収し、ルカはもう一度発射する、が、今度は体に突き刺さらずにはじかれてしまった。

 逆に、刺さっている鋼鉄ワイヤーを引っ張られて、ルカの賢兎は引きずられていく。

『こいつ、半端な石鎧よりもパワーがあるぞ』

「怒らせてオレンジ色にするからだ!」

“――憎ィッ! 痛ィッ!!”

『だったら、こうするまでだ!』

 俺と英児が救出に向かおうとしたが、ルカは即断即決で暴挙にでてしまう。

 ルカ機は、Dオプションのみに存在する足底のローラーをフル回転させて、土煙を上げながら市民級に突撃する。

 市民級はオレンジ色に発光して力が強化されているとはいえ、ワイヤーを引いている体勢でワイヤーがゆるめばバランスを容易にくずす。

 転げた市民級の顔を踏みつけると、ローラーの回転数を上げて火花を散らした。

「それぐらいで倒せる相手じゃない。離れろっ、ルカ!」

『紙屋と城森こそ離れろ、爆発させるぞ!』

 腕を背後に伸ばして、ルカは背面ブースターから摘出した固形燃料をうまくキャッチする。

 そして流れ作業で、蝋燭ろうそくのような棒状に形成されている固形燃料を、市民級ののっぺりした顔に突き付ける。その後、またローラーで墨汁色の顔を踏み付けて火花を発生させた。

 固形燃料はグラム単位の燃焼で人間よりも重い石鎧を加速させるだけの爆発力を有している。それだけに扱いには注意が必要で、容器から取り出して摩擦熱や火花などで加熱するなどもってのほかだ。

 手で握れる程の固形燃料が着火すれば、硬い石鎧だってフレームをひしゃげさせて吹き飛ぶ。中の人間だって同様だ。

『アンカー発射ッ!』

 自爆覚悟のルカの無謀により、市民級は固形燃料が密着した状態での爆発に巻き込まれて原型を失った。

 一方で、ちゃっかり再回収していたアンカーを遠くの地面に打ち込んでいたルカ機は、爆発する寸前にワイヤーを巻き上げて逃げおおせていた。

 流石に、市民級を踏んでいた方の右脚は無傷ではないようで、電磁筋肉が弛緩しかんしてしまっている。


『どうだっ! オレが一番強い状態の黒いのを倒したぞ。つまり、オレが一番強い』


 中のルカは無傷なようでなりよりだった。

『聞き捨てならないな。瞬殺した俺が一番だと九郎は思うだろ?』

「正体不明の敵に襲撃された直後で、暢気のんきだよなお前等……」



 耳の形をした環境センサーで、周辺に他の市民級がいない事を確認した。

 だが万が一を考えて、俺達はテストを中断し、即刻演習場からドーム内に退避した。警備担当の内縁軍に、死体の残っていない敵の襲撃をどう通報するべきか大いに頭を悩ませたが。


「……ルカさんのワイズは、全治五日です」


 卒業試験二日目という大事な時期に、片足全損の賢兎を目の前にした月野ほどの苦悩ではなかったが。


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