表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キカイな物語  作者: クンスト
外伝
106/106

男達の晩餐

日刊で一位になっていた記念に書きました。

 ――裏切り者、死すべし。

 知性に優れ、太陽系を治めるべき高貴な種族の末席にありながら、地方惑星の原生生物とちぎった異端を排除するべし。

 表面上交わされた条約により大戦力を投入できぬとはいえど、異端をほふるのに全力を投じる必要なし。静かに、迅速に、原生生物のみならず地球の魔族共に気取られる前に処理を済ませるべし。

 我等が星、月より到着したステルス加工されたポットには、任務遂行のために用意された特殊作戦用SAが三機搭載されていた。重力下での隠密作戦に特化した新規製造品である。異端を殺すためだけに用いるとは贅沢ぜいたくが過ぎるというもの。

 正式にはまだ決まっていないが、ベルジアンヘアという名で呼ばれている。


==========

“石鎧名称:ベルジアンヘア

 製造元:月の種族、月面第八研究室

 スペック:

 身長二・五メートル。月の種族の特殊作戦機。

 惑星上での作戦を考慮し、地面と同じ茶色に塗装された機体。赤いバイザーの所為で月の種族の石鎧である事を隠せていない。

 発展型の環境センサーは長く、大気圏内でも高精度で情報を収集可能となっている。

 装着者が入り込む円柱ユニットと逆関節の下半身。

 アンテロープ型には片肩部一門しかなかったレーザー砲が両肩二門に増設されている。更に、手の平にも砲が二門備わっており火力は高い。燃費は悪い。

==========


 本特殊作戦に賛同した装着者は全員、旧火星派遣艦隊に所属していた。ターゲットの顔を知っているので作戦遂行者としても適任だったのである。

 ターゲットたる異端は、装着者達の元上司であり、派遣艦隊の序列一位、ネネイレだ。

 火星の原生生物との間に子を成したネネイレは、月の種族から魔族以上の悪と認定されてしまっている。月本国では物議がかもしており、火星への第二次派兵といった過激な意見も多い。特殊作戦、暗殺を立案したのは月の中では理性的な者達だった。

 そして、暗殺部隊の三機は作戦を開始する。

 ネネイレが奈国首都の菌類農園の中で暮しているという情報に間違いはなかった。民家の中から人の熱源を検出したため、日暮れ直後に動き始める。

 三機のベルジアンヘアは二機と一機に別れて、それぞれ農園を目指す。二方向から迫ったのは作戦成功率を高めるためである。一機のみでも生身の人間を潰すのは造作もないが、だからこそ失敗は許されなかった。

 なお、暗殺作戦の対象はネネイレ一人ではない。

 ネネイレが背中におんぶしている、生後九ヶ月の赤子も対象だ。耳もまだシワシワで伸びきっていない年齢であるが、自然出産された赤子など憎悪の対象でしかなかった。

 両肩のレーザー砲門のチャージを開始する。


『――アルファ。目標を射程距離におさめた』

『――ベータ。こちらは三十秒遅れて到着するが、待つ必要はない。異端を混血の子供ごと浄化せよ』

『アルファ、了解。これより作戦を遂行す――ぐがぁっ』


 突如、ベルジアンヘア一機からの通信が途絶えた。

 二機行動していたアルファ分隊の一機の胴体が、何の前触れもなく斜めにスライドしていったのである。当然、胴体内部にいる装着者の体も同じ状態になっているだろうが、機体が爆散したため死体処理の必要はない。

『敵襲だとッ!?』

 僚機の爆散と引き換えに、残った一機の耳型環境センサーが敵襲を検知する。

 あまりにも速く動く敵が駆け抜けながらの一刀で僚機を仕留めて、今は旋回中だった。凶器たる対石鎧用長刀を地面に突き刺して旋回速度を高めている。敵装着者の技量はかなり高い。

『火星生物のおもちゃごときがァっ』

 ベルジアンヘアは二つの手の平を広げて、手の中央にある穴で照準する。

 この手の砲は、火星での任務のために追加された射出装置である。硬度の高いタングステン合金スパイクを高速で撃ち出す。実体兵器を前時代的と見下している月の種族にとっては屈辱的な追加武装であったが、火星の石鎧に対してレーザー兵器の効果が低過ぎたために苦渋を飲んでトリガーを引いた。

 急造兵器であるため弾数制限が厳しかったものの、石鎧の装甲を貫通できるだけの威力を有していたのだ。

 ……だから、敵機が軽く上半身を反らし、二本のスパイクを避けただけで窮地に陥る。

『馬鹿な、新武装だったのだぞ! 何故見切れるッ?!』

 手の角度から射線を見切るなど、AI補助があっても実戦の緊張の中では成功させにくいものである。事実、長刀を投げ付けられたベルジアンヘアは、避けはしたもののバランスを大きく崩してしまっている。

 俊足の敵機がせまり、短剣で両腕両脚を分断された。


「――はぁぁ。まったく、アイツを出迎えるために待っていたのに邪魔するなっての」


 ベルジアンヘアにとっての敵機、刀を暗示させる流線型の頭部を持つ石鎧の嘆息が通信された。戦闘の間に暗号通信の解析に成功したのだろう。

 カメラレンズの発光を加減したアキレウスは、まるで目を細めたように見えた。

「そもそも、よそ様の敷地内に入ってくるなよ。不法侵入してきたからつい撃墜してしまっただろ」

『火星の化物め! ……はは、だが我等の目的は達成される。化物がここにいるという事は、ベータが作戦を遂行できるという訳だ』

 暗殺部隊を二手に別れていたのは正解だった。最後に勝つのは慎重な者なのである。

 ベルジアンヘアの装着者は最低限の任務を達成できたと満足する。余韻よいんひたりながら、証拠を残さないために自爆スイッチを押す。


「ベータ? 別働隊がいたのかよ。アイツも災難だな」


 自爆スイッチを押す前に胴体がくの字に歪む威力で蹴り飛ばされたため、農園の外に転がってしまったが。

 ベルジアンヘアは破損しながらも原型をとどめた。装着者は内臓を破裂させて不運にも生き残った。





「あの馬鹿を誘うから、保険で石鎧着てくればッ! 本当に襲われるなんて少ししか思っていなかったぞ!」

『こちらベータ! アルファ。応答せよ! 敵だ!』

「アルヴ製の新型か? クソ! さすがに実弾は用意していない。『ソリテスのわら』発動!」

『応答せよ! 応答せよッ!』





 世界は今、食料に満ち溢れている。

 かつて母星に存在して滅びたものの中から美味なるものが厳選され、アーカイブされていた野菜や畜産物の遺伝子データが次々と解凍、復元されている。一日一皿とは言わないが、一ヶ月で一皿、ご家庭の食事が増えているという。

 顕著なのは農業であり、農場の数は十倍以上に膨らんだ。

 鶏は増産中であり、牛の復活に近頃成功したとニュースで報じられた。

 魚は難儀しているようであるが、どこかの国がウナギの養殖に成功したという。空を見上げる斬新なパイと共に報じられたらしいが、ウナギの調理法を完全に間違っている。ウナギとはぶつ切りにしてゼラチンを固め、ゼリーにして食べるもののはずだった。

 土地は余り余っているので今後も食料増産は続くだろう。

 また、食料供給が増えた事により街に料理屋が増えた。居酒屋なる酒と料理を一緒に楽しめる店が奈国の中ではブームとなっている。


「――うむ、二人とも到着したか」


 奈国の首都にある大通り。

 そこから一区画ほど歩いたニ等地に、最近開店したばかりの居酒屋“母星に乾杯”は建っている。母星料理を再現している料理が特色であり、夜になれば席はすべて埋まってしまう。やや汗臭い二人組を待っていたサングラスの男のように事前の予約が必須である。

「とりあえず、生で良いな。二人とも」

 三人は丸い机で見合って座る。店員が生ビールとお通しの漬物を運んできた。

「誘われておいて今更ですが……。こんな庶民店にいて良いのですか、鷹や――」

「ごほん。余はカリスマ性溢れる奈国の美形王族などではないぞ。この通り、庶民だ」

「さいですか、タカさん。ゴチになります」

「おい、エージ!」

 三人は身分を超えて時々こうして顔を見合わせている。


「おお、おごろうぞ! 家内は素晴らしいが、黒く変色した料理ばかりでは寿命が縮むからな!」

「そうだ! そうだ! 暗殺チームを退治した俺をねぎらわず、子供が爆発に驚いて泣き出したと文句言ってくる女の怒りは飲んで忘れるぞ!」

「……その暗殺チームの迎撃のみならず、既婚者のグチにも付き合わされるのか、俺」


 ……主催者はいつも、サングラスのカリスマ性溢れる伊達男だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
キカイな物語、素晴らしい物語でした。 パラドックスや世界観、そういった物の影響で完全に話を理解するために二度の読破を必要としましたが、素晴らしい物語である為に二度読んでも最初と同じだけの満足感がありま…
[一言] 読了。楽しく読ませていただきました。 これで残る未読は次代女王のみとなりました。 嬉しいのやら悲しいのやら。 黄昏も並行して楽しませていただきます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ