1-1 モノローグ
SFものです。
読んで楽しんでいただければ幸いです。
この世界は、貧しい。
かつて、我等のご先祖様達は地球という青い星に住んでいたのだという。生物は自然界で勝手に繁殖し、豊かな自然に感謝しながら暮したのだと。四季の移り変わりを楽しみ、季節ごとの珍味を口にしていたとか。
御伽噺か、神話の時代にしかできなかった贅沢三昧である。
現代で贅沢を再現してみると、次の通りだ。
赤い星の、
微細な生物のみが局所的に生息する地表で、
発生頻度の高い砂嵐に諦観し、
より強い砂嵐の季節の到来を怯えながら、
合成食の人工的な味さえ美味いと感じる。
酷い時代のように感じられるが、生きている本人達はストイックな世界に慣れてしまっているため悲観はしていない。駄々を捏ねても腹を満たせるだけの物資がないので、逞しく生きていくしかないのだ。
それに、貧しい世界であっても腹を満たす方法は存在する。
一つ目は、第一次産業に従事し、新鮮なクロレアや菌類をくすね……採取する方法だ。
農業従事者は配給順序の優先度が高く、何より、二等市民でも自然の素材を味わえる唯一の職業なので、誰もが憧れて、夢破れる。
第一次産業の労働拘束時間の長さは、あまりデメリットではない。他の業種も似たようなものなので、食事が安定している分、農業やっている方が恵まれている。
二つ目は、軍人になる方法だ。
物資がない世界であっても、国家間の戦争は時々発生する。特別、五年前に発生した大戦では惑星全体が戦火に巻き込まれる悲惨なものだった。
多くの資源、多くの人材を失ったが、何より酷かったのは、安住のドームをいくつも失った事である。人の命は尊いが、そもそも、気候の影響を受けずに生活できるドームが存在しなければ人類は存続できない。
失った歩兵戦力の補充と、残ったドームの防衛力増強のため、我が国では富国強兵が続けられている。
食事だけは必ず用意してくれる職業なので、食うだけが目的なら農業よりもお勧めできる。
戦争で人員不足に陥っている近頃は、来る者を拒まない体制が続いていた。希望すれば誰でも軍学校に入学できる点も評価に値する。
技能を持たない二等市民である俺が選んだのは、二つ目の方法だった。
戦争で親兄弟、親戚含めて、ドームごと死滅してしまった俺にはコネが存在しない。農業をやりたかったが、三年も昔に諦めた。
『――警告、敵性接近。回避推奨――』
「いや、右足の調子が悪くて無理だから」
無機質なAIの警告に相槌を打っている間に、敵の接近を許してしまう。
鉄の豪腕が曲面スクリーン全体に投影された後、装甲を伝わる衝撃でスクリーンにノイズが入りまくる。両腕で防いだのに、ギチギチとフレームが曲がっていく擬音が密閉空間で木霊し続ける。
『――警告、両腕関節部、負荷限界。回避推奨――』
「たった一回、回し蹴りを受け止めただけでこれか。整備不良というより、部品交換をケチったな! この学校はいつもそうだ!」
サバイバル訓練時を除き、毎日食事を出してくれる軍学校。
だからという訳ではないだろうが、常に予算が不足しているこの学校では、使用期限が切れてしまっている部品であっても大事に使いまわす悪癖がある。
「電圧割り増し……って、おい、電磁筋肉動いてないぞ!」
『――警告、上腕の電磁筋肉の使用期限が切れています。メーカーに問い合わせて交換してください――』
「戦闘中にできるか、ボロットッ!」
文句を言って、昼飯の回数を減らされては悲惨なので、不満はAIにしかブツけない。
装甲とフレーム、それと体を固定する硬い緩衝材越しに、俺は敵の実力を肌で感じる。
ノイズの治まった曲面スクリーンに映るのは、メタリックな色合いの二足歩行するマシーン。全長は、人間を内部に納めて少し余るニ・五メートル。
敵が装備し、俺も着ている軍用強化外骨格を、俺達は石鎧と呼んでいた。