追いかけっこ
じわり
桃ちゃん親友になったその時。私は少々困っておりました。
というのも。涙のせいで不眠な隅メイクが崩れてきそうなのです。ヤバいです。髪で見えない顔から、青黒いモノが流れ滴り落ちる...なんて、ホラー!
化粧室!化粧室!超特急ですっ!
「桃ちゃんっ!急用を思い出したです。すぐに戻るです。それでは、さらばっ」
「え?あれ?え?さくらちゃん?...足速いんだね ぇ」
後ろから聞こえる能天気な声に、思わず笑ってしまいそう。だめだめ。今はそんな場合じゃないないっ。あっ!
どんっ
「いったぁ」
急ぎすぎて角のところで人とぶつかっちゃったみたいなのです。
「大丈夫?」
「すいません。痛くはなかったです...はっ!」
目の前にいるのは、黄色い髪をした、黄先輩でした。
「キミは...」
私を見て固まった黄先輩。?何か顔にでも...ってはっ!衝撃でか眼鏡は落ち、割れているよう。顔にまとわりついていた髪は、とれてそうでギリギリとれていないヴィッグのお陰で顔が見える程度に流されている。
ヤバいのですっ!
ダッシュで眼鏡を拾い、全力疾走する。
「待って、待ってってば!ねぇ、キミっ!」
暫くしたところで、小さな声が聞こえた。
ハァ、ハァ
しつこいのですっ。
待てって言われて待つなら、警察官に苦労はないのですっ。
ずうっと走り回っていて、段々疲れてくる。恐怖からの汗と涙で、崩れたメイクと顔中にべっとり張り付いた髪がうっとおしい。
「始業の鐘も、はあっ。とっくのっ、むかしにっ、なりおわってるですのっにっ、はぁ、しつこいの、ですっ」
それでも段々と声は小さくなってゆく。今だけはだだっ広いだけの校舎が妙にありがたい。
たったったったっ...
どんっ
また、なのですかぁ。今度は一体だれ...へ?
可愛らしい顔立ちに、いつもは眠たそうな目を精一杯に開いた子...銀くん。
銀くんは、少しの間そう固まっていたかとおもうと...
「お化...け」
と言い、卒倒してしまった。
「ええっと...」
「どこにいったの?ちょっと待って!話がしたいだけだからっ」
「ひえっ」
黄先輩...いえ、いたいけな少女を追いかけまわすチャラ黄先輩が近づいて来るもようです。
「銀くん、ごめんなさいですっ」
たったと駆け出す、私。
はぁ、はぁ、はあーっ。
女子の化粧室に逃げ込む。
もう、足音もなにもしない。良かったですぅ。撒けたようなのです。
...お化け?
銀くんの言ったことが気になって、そうっと鏡を覗くと...
「きゃあっ」
顔中に髪を張り付け、ぽたりぽたりと青黒く筋つくる液体を流す不気味な女。...これは、確かに怖いのです。ポケットからコンパクトなメイク落としをとりだし、顔を洗う。そしてその後もう一度隅をかき、思いっきり髪で隠す。
「ふぅ、おちついたのです」
キーンコーンカーンコーン
...丁度授業は終わったようで、外に誰かがいる気配もない。ほっとため息をついて、教室に戻る。
それにしても。どうして授業にも関わらず二人もほっつき歩いてたのですかね?まぁいいです。どうせ生徒会関連でしょう。
ふぅ、今日は最悪なのです。
こうして、教室に戻った彼女は、桃ちゃんの隣に座った、爽やか系イケメンの転校生とその周りを取り巻く大勢の人々と歓声を見て、暫しの間固まり、嘆いたそうな。
入学から二週間たっての転校ってアリかよ、ですっ!
彼女の周りは、こうして今日も騒がしい。
★。゜.。゜.
「大じょーぶ?無垢」
廊下にある2つの影。
「...大丈夫」
「そっか。...ところで、ものっすごい美人の女の子がここら辺を通らなかった?」
ふるりふるり
影のひとつは首を震わす。
「...お化けなら...通った」
「お化け?大じょーぶ。そんなのいないよ」
「いた。怖いお化けが、いた」
「?、そう」
「鐘...なった」
「そうだね。もう戻ろっかな」
黄々は、軽く苦笑する。 そうして。
あの子は誰なんだろう。初めて見たな。あんまり顔はみえなかったけど、少しのパーツだけでも整ってるのが分かるほどだったな。
いつの間にか、彼女のことを考えていた。
鼓動がたかまる。
...彼女は一体誰?
彼は知らない。己が少し前に近寄らないと決めた人物が、その、少女であることを。