親友
穴があったら入りたい、現役高校生の相川さくらです。
生徒会室での顔合わせにて、残念なさくらさんを見事に演じた私は、ただ今恥ずかしすぎて、桃ちゃんに会いづらくなっております。
ドアの前でとおせんぼ。
ううぅ。入りたくないのですぅ。嫌われたですかね。うう"。入りにくいのです。
どーしよーかなぁ。どーしよーかなぁ...ですっ!
はいです。うじうじしてんのは終わりなのです。雑草魂忘れちゃいけねんですよ、さくら!
ウザ子がなんです。イタイ子がなんです。黒歴史がどーだって言うのですか!土・日の間引きこもったです。今更これぐらいでなんだと言うのですか。
これから先もっともっとイタイ子になるかも知れねんですよ。フッ、そうです。今更なのです。やったからにはひきかえせねぇ。やるならば精一杯演じきるっ。これぞ私の女道なのですよ!
すー、はー、吸ってー、吐いてー、はいです。
ガラッ
タンタンタン
トスッ
ふぅ。素晴らしいです。本気で誰も来たことに気付いてないですよ。ふふふ、ふふ、ふ...ぐすっ。ちょっぴりだけ寂しいのです。ぐすん。
「さぁくぅらちゃん」
うにゃ?幻聴です?声が聞こえたような...。
「さくらちゃん、おはよー」
トントンっと軽く肩を叩かれて、振り向いた先には満面の笑みの桃愛ちゃん。
ふぇっ。
あんなドン引き残念っ子を見ていたというのに、それにさえも笑顔を向けてくれる優しさ。こんな人、今まで居なかったのです。ジーンと感動が胸に押し寄せる。
「...おはようございますです、桃愛ちゃん」
「おはよー。金曜日は楽しかったぁ。私ねー、ちょっと緊張してたの。でもね、あんなさくらちゃんみてたらね、なんだか面白くって。くすくす。あんな面白いさくらちゃん知れて良かったぁ。さくらちゃん連れて行って大正解なの。ありがとうね、さくらちゃん」
「......桃愛ちゃん」
結果的には良くはなかったですけど、それでも桃ちゃんはどんな私でも受け入れてくれて、優しく接してくれる。...今の私は私なんかじゃなくて、私は"相川さくら"なんかじゃないですのに...。
「桃愛ちゃん」
「なぁに?」
「桃愛ちゃんはどうして私と仲良くしてくれているのですか?」
「う~んとね、そうだなぁ、最初はね、さくらちゃんの周りの空気がね、澄んでいるみたいでそれでもなんだか暖かくってね、とってもキレイだなぁって思ったの。それでね、話してたらとっても楽しかったの。だから、かなぁ。...私ね、会ってまだほんの少しの間だけどね、さくらちゃんの事を親友だって思ってるんだよ?」
...桃..ちゃんっ。
「私もっ。私も桃愛ちゃんの事を親友だと思ってるです。ありがとうなのです。桃愛ちゃん、大好きです」
「私もさくらちゃんの事大好きだよ。えへへっ、これで私達、両思いだね」
「はいっ。はいです。両思いなのです」
じわりじわり。視界が歪みそうになる。
「桃ちゃん」
「?」
「桃ちゃんって呼んでいいですか?桃愛ちゃんのこと」
「うんっ。もちろん。それじゃあ私はさくらちゃんのことを....決めたっ!さくちゃんって呼ぶねっ。」
「はいです。桃ちゃん?」
「えへへ、さくちゃん?」
親友。初めて出来た親友なのです。
胸がぽかぽか暖かくなっていくのです。
この日、可愛い可愛いヒロインちゃんは、可愛い可愛い私の大切な親友になりました。