騙される人形、人形師はだぁれ?
コンコン
「どうぞ」
柔らかな声。澄んでいて、とても綺麗な耳に心地のよい声。
「失礼します」
ガチャリとドアを開け、桃ちゃんと中に入る。
入った所は...本っ当に生徒会室かよここっ!社長室だろ!と、思わずツッコミたくなるような所でした。大きなソファにデスク。奥の方へと通じていそうな扉。
はいです。ここはおかしいのです。なんでただの書類整理役員室がこんな事になってるですか。
私は不思議でたまらない(途中略)。
みんな違ってみんないい...なわけあるかーっ。なのです。どー考えてもおかしいのです。
な・ん・で・す・か、ここはっ。
...あ、次期社長様たちのたくさんおわす学園様の中でも特に高貴な生徒会役員様のお部屋でございましたですね。ボンボンが!
一般人との格差に私は泣きたくなってまいりました。
っとまあ、感想は置いといて。
気のせいです?ビシビシと、殺気に近い程の視線を感じるですけど。...恐いのです。
はいです。やっぱ気のせいです。よし、居ないフリ居ないフリ--。
キョロキョロ。右よーし、左よーし、正面よーし。完璧です。私も入ったと言うのに気付いた様子はないのです。よし。私はくうきー。空気ですー。
生徒会室には既に生徒会役員が揃っていた。
正面にある皮張りのソファーに威厳ある風貌で座る一人。赤城 武津会長、ファン称 赤会長。
その隣にクールな雰囲気をもって凛と立つ人物。藍沢 水樹副会長、ファン称 藍先輩。
壁の方に楽に寄りかかっている気だるげな人。黄々 雷会計、ファン称 黄先輩。
ソファーにちょこんと座ってこちらをじっと見ている人物。銀崎 無垢、ファン称 銀くん。
まるで桃ちゃんを観察するかのように見ている。しかし当の本人は緊張からか周りが見えていないよう。
「く、栗原 桃愛ですっ。生徒会入会の件で返事をしに来ました」
「よく来てくれたな。話しは金戸先生から聞いているか?」
「は、はいっ」
「そう硬くならなくてもいい。それで、返事を伺っても?」
「え、えっと...よろしくお願いします」
「そうか。生徒会はお前の入会を歓迎しよう。俺は会長の赤城 武津だ」
「私は副会長を務めています、藍沢 水樹です。」
「オレは会計やってる黄々 雷だよ。ライって呼んでね、桃愛ちゃん」
「...銀崎...無垢。....副会長」
「あっ」
んにゃ?どーしたですかねぇ。黄先輩が挨拶した途端桃愛ちゃんがびっくりしたように声を上げた気がしたのですよ?
「前のハンカチのひと」
「...知り合い?」
「たまたま会ったんだよねー?オレがハンカチ落としちゃって。それで桃愛ちゃんが拾ってくれたんだよね」
「たまたま、か」
「そ。たまたま、たまたま」
...古いです。いまだにいたのですね。ハンカチナンパ。そしてそれで騙されてる桃ちゃん。その純粋さはある意味すごいのです。
「ところで」
?あれ、なんかこっちを見ているひとがいるような気がするですよ?
「さっきからそっちにいるキミはダレかな?」
ニコッ
ぞわっ
「キミ?一体誰の事を...って、は?」
ヤバいです。気付かれたです。こんなうすい気配感じるなんて相当やり手です。スポーツ万能の肩書きは伊達じゃないですね、黄先輩。
「お前...いつからいたんだ?というよりも。お前は誰だ?」
あ~あ。バぁレちゃった、ですぅ。銀くんまでものすごく驚いた顔をしてるですね。藍先輩はポーカーフェイスで分からんです。はあぁ。こりゃ確かに侮れんです。ふぅ、仕方ないです。こうなったら作戦2に変更です。その名も、とにかく嫌われちまえ!うざっこ大作戦、ですっ。
さあ、行くですよ。せーの、
「キャアアッ。黄々と赤城様にぃ、声をかけて頂けるなんてぇ。こんな嬉しいことはないのですぅ。生徒会の方々がこんなに美形だなんてぇ。お近づきになれて光栄ですぅ!」
ううぅ。トリハダがっ。恥ッ!はーずーかーしーいーですぅ。さくらのボソボソ声をちょい高めた気色悪い声と媚うったしゃべり方がトリハダモノなのですぅ。黒歴史ぃ~っ。
「鋭さを覆い隠す熱のあるルビーの瞳。(武津) クールさと癒しのバランスが絶妙な配分。(水樹)さらさらの髪に甘いマスク。(雷) 可愛らしい顔にミステリアスな雰囲気。(無垢) ...どれをとっても素晴らしいのですぅ。オタクに嬉しいイケメンさんですぅ。ふわあぁ。オタク萌え路線まっしぐらですぅ。格好いいのですぅ。キャアッ。うふ、うふふ...。はっ!イケメンレーダーに反応ありですぅ。北の方向に美形の気配がするでぇす。行かなきゃですっ。ふにゃあぁ。急ぐですよぉー」
バタン
ふぅ。
思わずため息が出てしまう。うーん。我ながら素晴らしい演技力なのですよ。初対面であれは絶対にひくですね。
早口でまくしたて、唖然としているうちにどさくさに紛れて逃げ出しちまえ大作戦。ふふふ。皆様のあの顔。ふふふ。とぉっても楽しいのです。ああ、でも。言えることはただ一つ。
フッ、今の私...イタイですぅ。
★。゜.。゜.
その頃の生徒会にて。
そこには、ただただ驚いたような顔をした人らがいた。
「あの子、桃愛ちゃんのお友だち?」
「は、はい。」
「そっかあ。あー、えっと、と、とっても個性的な子なんだね」
「はいっ。とっても面白い子なんです!」
「そだねー、うん、でも桃愛ちゃん、今日みたいに関係者以外を入れちゃあだめだよ。」
「す、すいませんでした。でもあの、さくらちゃんは...」
「詳しい事はまた後日伝えよう。今日は自己紹介だけだ。月曜日の放課後に生徒会室に来るように」
「はい」
バタン
「あれ...なんだったの?」
「さあね。ただちょっと面倒くさそうなんだよねー」
「...僕、あの影のうすい子...キライ」
「初対面であれはないよねー」
「水樹?そろそろ怒りを表にだすの、やめてもらってもいいか?」
生徒会室では、静かな微笑みにまがまがしい黒いものをのせた人物が笑っていた。
「お前、そんなに嫌いになったのか?」
「どうでしょう。ふふふ。」
一気に押し寄せくる黒い波。
「っく。...お前がそこまで嫌うのも珍しいが...兎に角、気を付けた方がいい。なんらかの行動に出る可能性はある」
こうして。彼女の計画は大成功という形で幕をとじた。騙されている事さえ悟らせずに。
ふふ、ふふふ...
彼らはまだ気付かない。今はただ、舞台上で操られている段階に過ぎない事を。
そしてこれは、たった一人。彼女のための前準備であることを。
★。゜.。゜.
とある一室にて。
グシャリと、手紙を潰す男の姿があった。
「どーゆぅことだ?あいつらはなにしてやがるんだよ、なぁ」
その人物は、チッと舌打ちをした後、電話をかける。
「おい、カズ。サヤもそっちにいるんだろぉが。俺、転校することにしたわ。手続きしとけ。場所は、清蘭学園だ。あ?しらねぇよ。あぁ、だからわりぃって。月曜には行く。用意してろ」
「リクっ、やー、いくらなんでもムリがあるんど。おい、ちょ、リクっ」
ブチッ
「手紙だけじゃ気がすまねぇんだよ。直接、聞きに行かなきゃなぁ。首揃えて待ってろよ」
ゆっくり、ゆっくりと、物語は別の場所にも。
少しずつ少しずつ動きだしてゆく。