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戦闘


「やめて。ヤメテヤメテヤメテヤメテ」

叫ぶ飯島先輩。

でも私はそれを無視する。

「...これが、飯島真理恵さんが貴方に近付き、貴殿方を引き裂いた理由です、近藤泰賀さん」

「やめてよ。もう、ヤメテ...。悪いのはアタシ。姉様まで...タイガまで関わらせないで...」

ポタリポタリと涙を流しながら、自分を追い込んでいく飯島先輩。

健気で一途で。そして少し姉御肌。だから彼女はここまで自分を追い詰めた。本当は、きっと、一番こうなることを望んでいなかったのは、飯島先輩自身じゃないだろうか。


「...トラ」

黙っている彼に声を掛ける。

「デス様...」

しかし、彼から返事は返ってこず。じっと黙って突っ立っているだけ。代わりにジュンが気遣って声をかけてくる。

「情けないのです」

そう言えば、トラが顔を上げる。

「なにを...」

「情けないと言っているのです。なに突っ立ってるんですか、貴方は。それでも千酷のヘッドなのですか、情けない。とっとと動きやがれです!ぼんくら遊び男ですか、貴方は!」

トラが唇を噛み締めた。

「...こいつは、美海を傷つけたやつで...」

「呆れたのです。まだ責任逃れする気です?そんなことなら始めからそちらの事なんか切り捨てておけば良かったです。貴方なんかに美海さんは任せられない!」

その言葉にカッとなったのか。拳を振り上げてくるトラ。

「やめてよ!」

飯島先輩が飛び込んで来ようとする。

「ジュン」

と言えば、ハッとしたように彼は意図を呑んで飯島先輩の手首をとる。

「放して!悪いのはアタシ!放してよ!」

トラの拳が迫ろうとして来た。

私は、長いスカートに手を差し込む。

ピシッ

迫ってきたトラの拳をかわし、スカートのアイテム保管庫から取り出したムチを首筋に打つ。

ピシッピシッ

腕、脚、腹...色々な所にムチを打っていき、間をとる。

「...華の悪友(とも)として、支配下である千酷の頭をこのままで置くのは許せないです。...一度、"冰"としてしめるですかね」

そう言うと彼は、此方を睨み付けたまま動きを止める。

「いいなぁ、たのしそー」

わんこの騒ぐ声が聴こえる。

制服...邪魔。髪...邪魔。

私はさっと制服を脱いだ。

芝生なのを良いことに靴も放り投げる。

制服の下には、過保護な幼馴染みのくれた上下の分かれたぴったり体のラインにそった黒いスーツのようなもの。短いパンツからは、ガーターベルトがしっかりと靴下を固定している。足にはポーチがいくつかつけられ、スタンガンの柄や、ムチの固定をする所が見える。

ひっ、と。後ろの飯島先輩が怯えたようにひるんだのが分かる。


「邪魔くさいですねぇ」

私はポーチに取り付けてあったゴムとピンを手に取り、髪を一本に縛った。ピンは前髪に差し込み、視界が開けるようにする。

最後にポーチから薄手の黒パーカーを取りだし、うつ向いて見せないようにしていた顔を隠す。


死神姫(デス)...!」

わんこの声が聞こえる。

容量オーバーしたのか。短気なトラは既に冷静さを欠いていた。トラは懐からスタンガンを取り出す。でも、ここではムチの方が有利。スタンガンや麻酔針は、眠ってしまうので使えない。しかし、トラも一応刃物を取り出さないだけ分別はあるらしい。

「ここを血で汚したくはないのです。...とっとと終わらせるですね」


戦闘が始まった。


ぬるい、おそい、ゆるい。

...彼の速さは、こんなものじゃなかった。彼の拳はこんなにブレていなかった。


トラが近付こうとするたびに、ムチで威嚇する。


ピシッピシッ


既に何分か時間は過ぎていた。

体力をそがれ肩で息をするトラ。

よくよく見れば目には理性が戻りつつあった。

「確かに飯島さんが美海さんに行ったのは貴方にとってゆるせないことだと思うです。...けれど、今のトラはただ自分が全ての現況だということがやるせなくてそれを飯島さんにぶつけようとしてるだけです。元は貴方の女遊びのせいです!貴方が純情な飯島さんのお姉様に生半可に手を出さなければ飯島さんはこんなことせずにすんだのです!私のやっていることは自己満足に過ぎないです。余計な事かもしれないです。ですが貴方が飯島さんをいたぶることは許せないです。...トラ」

「...はい」

「貴方に飯島先輩の事は任せたのです。だから私は口を挟まないです。ですが、しっかりと考えるのです。一番非道な行いをしたのは誰なのか。いいも悪いも自分に帰ってくるのです」

「はい」

もう、大丈夫だろう。トラは理性を取り戻したように見える。

「かっけぇー!」

わんこが飛び掛かろうとするのをすり抜け、飯島先輩のところへいく。


「ひ、..っく...」

声を漏らさないよう唇を噛み締めて、静かに泣く飯島先輩。きゅっと体を包み込む。

「男を選ぶセンスが悪いのです。...トラなんかに飯島先輩は勿体無い」

「あ、あたしはあなたをいじめて...」

「いじめは楽しいぐらいで辛くなかったです。でも...」

耳元で囁かれた言葉に、飯島は堪えきれず涙を流す。

「ううっ、う、う、うっあぁー!あぁあー」

髪を撫でて、さくらは微笑む。

飯島は、その腕の中に温かな心地よさを感じた。飯島にとってはもう、さくらは怖くなんてなかった。

「...連れていって」

しばらくたって。飯島はポツリと呟いた。

彼女は少しふらつきながらも立ち上がり、トラの前にいく。


「タイガ...いえ、泰賀。ごめんなさい。あたしのしたことは許されることじゃないわ。...償えるとはおもわない。でも...姉様には手を出さないで。あたしが一人でしたことよ」

真っ直ぐに、真っ赤になった目を向けてくる飯島に、泰賀は目を見開いた。

「すまなかった」

「へ?」

「すまなかった。謝るのはオレの方だよ。美海に会うまで俺の態度は見られたもんじゃなかった。...すまない」

頭を下げるトラに、飯島先輩はあたふたと慌てる。

「ちょ、ちょっとなによコレ!どうにかしなさいよ相川さくら!」

「ふふふ、ふふ...」

「なに笑ってんのよ」

拗ねたように言う飯島先輩に、笑いが込み上げる。

「だって...ふふ」

「あはは、確かに。はは...」

ジュンも笑っている。

むくれた飯島先輩も、いつしか笑いだしていた。


「相川さくら」

「なんです?」

飯島先輩が声をかけてくる。

「有り難う。あなたのお蔭で救われたわ。...今まで本当にごめんなさい。かっこ良かったわよ」

「貴女も間違ったところへ進んでしまっただけで、格好いいですよ」

「...そう。貴女の本性が見れて良かったわ」

「私も貴女の本性を見ることができて良かったです」

「貴女、あきれるほどお人好しね」

そう言う彼女に微かに首を横にふる。

「私はさっきもいった通り自己満足です。...お人好しは、飯島先輩ですよ」

「そう」

その場には、穏やかな雰囲気が流れていた。が、しかし。


突然体がぎゅと抱き締められるのを私は感じた。

「...なぁにしてるんだ、ア?」

「げっ!」

怖い怖い怖い。後ろから殺気に近い怒りオーラが発せられている。ヤバイ、食われる。

助けてと3人に目で訴えるが、無情にも。私の後ろの男を看て、そ知らぬふりして後ろに後退していく。

ひどい!

「リク...?」

わっ!生徒会の奴等までっ!て、私こんな格好!相川さくらモードじゃない!おまけ言うなら最近忙しくて隈メイクしてない!

どうしよう。間近で顔見られたらヤバイ!


「おい、カズ。そいつ持っとけ」

「りょーかい」

って、カズまでいるのですか!?

リクの指した方向にいる気絶した東堂小百合を肩に担ぐカズ。...東堂先輩、忘れてた。

「カズ!なんでここにっ。って、ぷふっ!」

「お、ちょ、デス!なにちゃっかり笑ってるば。ひどいやー」

「だって...ふふふ..似合わないです。なんでカズが風紀委員の紋章つけてるですか。一番のミスマッチです。それにちゃっかりデスって言うなです」

「だってよー、なぁんて呼べばいいか分からんかったばーよな」

しれっと言う男に、呆れた視線を向ける。

「わざとらしいです。さくらでいいです。あいかわらずですね、琉華(りゅうか)


目の前にいる男、剛力 和弥(ごうりきかずや)。ゲームでは隠しキャラであり、方言キャラ。焼けた肌にとちらかといえば彫りが深めの顔立ち。キッと引き締まった印象の目。だが中身はどちらかと言えばわんこ。腕にある獅子とハイビスカスのタトゥーから、ハイビスカスをとり、付いたあだ名が琉華。黒いかみには緑のメッシュ。ヤクザ一家の次男。...のくせして、今なぜか眼鏡つけて腕には風紀の紋章。...ヤクザが風紀?


「そんなにさぁ、余裕もってていいのかなァ」

ひんやりとした声が囁くようにして耳に届く。

「な、なんのことです?一ノ瀬様」

吃驚したようにそう聞けば、ますます腕の拘束が強まる。

「さぁくぅらぁ?」

つーんと顔をそらせば、はぁっとため息をつき頭を撫でられる。

「...おいよぉ、そっちのやつ。闇に生きるんならオレのカオぐれぇ見たことあんだよなぁ?」

一ノ瀬君の言葉に、びくりとトラとジュンが震える。

「「はい!」」

「ならな、後はどうにかしろ。こいつの行動、ムダにすんじゃねェぞ」

「「はい!」」

脅すなっつの。


周りを見渡せば。

飯島先輩やいつのまにやら全員揃った生徒会の驚いたカオ(ポーカーフェイス1名抜き)。

生徒会の私を見る目がおかしい。


「...リク、まさかどこかで書類整理役員どもも巻き込んでねぇですよね?」

いやぁな予感がして。ぎゅっと抱き締め続ける彼に聞くと、

「そうだぜ?」

と返ってくる。

「なんでです?」

自分の声が冷えるのが分かる。

「なんで?そんなの決まってるじゃねぇか!もォお前みてらんねぇよ!もォ、一人で堪えんなよなァ!」

彼の姿に、胸が締め付けられる。どうせもう、リクとのことはバレちゃうんだ。なら...。

「...リク」

「心配した」

「はいです、リク」

「心配したぜ、ホントに」

「ごめんなさいです」

リクの手をはらって、リクに向き直り、今度はリクにぎゅっと抱き付いた。

「リク...」


知る者を除いて。その場には混乱した様子の人々が、2人の空間から取り残されていた。




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