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彼女は黒だ。


ここは...どこ?

暗くてよくわからない。手探りで周りをさわってみたら、丸いものや固いものが手にふれた。

私...なんでこんなところにいるの?

そうだ。たしか校舎を歩いていたとき。いきなり影が後ろから私をおおってきて、そうしてそのまま...。

思い出すと、だんだんこわくなってきた。まっくろなへや。

「だれか、いるの?」

こわくて声を出してみたけれど、なんの返事も返ってこない。

じーっとすわってみたけれど、だんだん寂しく、心細くなってきて。ぽたぽた涙が落ちてくる。


しばらくたって、もう一度周りをさわってみる。

手も足も縛られていなくって、それだけはほっとした。今座っているところはちょっと硬いふとんみたいなところ。鞄は見つからなくって、スマホもない。あるかな、ってちょっとだけ期待していたから、少し落ち込む。じんわり。また、涙がにじんでくる。


「ひくっ、ひっく、だれかぁ!だれかいませんかぁ」

大きな声で叫んでみたけれど、だれかがこっちに来る様子はない。

目的は...身代金?

私のお家がそれなりに大きいことはしっているけれど。でも、もしこれが意図的なものだったら大変なことになる。清蘭は大きな学園だから、ガードはかたいし、部外者には厳しい。ここには大変な事が起こったりしない限り親族も入ることが出来ないし、入る前には許可もいる。

だからたぶん、私が(さら)われたなら生徒が手を貸している可能性が高い。

どうしよう...。

考えれば考えるほどこわくなってくる。


「先輩達は大丈夫かな?」

生徒会の皆それぞれに用があって今日はたまたま誰も迎えには来れなかった。気が付いてからも時間は経ってる...と思うし、あんなにも一生懸命守ろうとしてくれたんだから。今ごろ心配かけちゃっているかも。

帰ったら謝らないとな、と思ったら、帰れるのかな?って疑問がわいてくる。


泣いちゃだめって涙をぬぐっても、それでも後から後から涙は流れてくの。


...さくちゃん。

さくちゃんはどうしているのかな。久しぶりにおしゃべりして、ぎゅってしたいなぁ。


「ひぐひぐ、ズビッ」


泣いて泣いて、涙は収まったけれど、目が重たくて。いつの間にか、意識は沈んでいった。


ガラリと、ドアの開く音がして、光が目の隙間から飛び込んできた。

「うぅ」

いつの間に眠っていたんだろう。パチリと目を開くと、目の前には男の人が立っていた。電気をつけたみたいで眩しい。

ここは体育館の倉庫だったみたい。私がいつの間にか眠ってところは、マットだった。

「もも」

男の人が微笑んでこっちをじっと見てくる。...怖い。

目がギロギロしていた。

「もも...ぼくのもも。いとしいぼくの...」

こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい

「あ、なた...は?」

震える声でそうたずねたけれど、返事はなかった。

「ももはぼくのなのに。それなのにももはあいつらといっしょにいる」

「もも...?」

その呼び方。さくちゃんしか呼ばない呼び方のひと。

「そうだよ?きづいた?ぼくがきみにてがみをおくってたんだ。ほら、かいたでしょう?もうすぐ迎えにいくよって」

こわい。

...頭のなかが恐怖で埋め尽くされていく。

「い...や...」

ようやく声を振り絞ってそう言ったら、目の前の人は顔をくしゃりと歪ませてこわい顔になった。

「どうしてももはぼくをこばむの?あ、そっかぁ。てれてるんだね。かわいいなぁ、ももは。ね、もも。いっしょにいこう?あいつらがこないうちに。ぼくとももをじゃまするあいつはとおざけておいたしね」

目の前の人が、ふれようと手をのばしてくる。いや、こわい...っ。ぎゅって目をつぶると、バンッていうおおきな音がして。

「ももあっ!」

私を呼ぶ声と、ガッという大きな音がした。

ゆっくり目を開いてみると、床に倒れたあの男の人と、陸兔くんがいた。バタバタと大きな音がして。生徒会の皆もこっちに走ってきた。

「大丈夫か?怪我は?」

「ないみたいだねぇ。んで?覚悟してんだよな、あァ?よくもアイツ悲しませたなァ。佐々(ささき) 春人(はると)だったっけ。オレらを敵にまわすなんてなァ。チッ、ミズ」

「ええ。勿論分かっていますよ。容赦なんて生ぬるいこと、不必要ですしね」

びっくりしていたら、雰囲気が怖くなった陸兔くんと水樹先輩がいて、もっとビックリした。

陸兔くんは男の人の胸ぐらを掴んでいた。


「リク、水樹。桃愛ちゃんが怖がってるよー。落ち着こう、ね?」

雷先輩の言葉に、二人が黙る。

「おい、そこの。説明して貰おうか?」

武津先輩の言葉に彼は笑った。

「アハッ、アハハハハッ!アハハハ...」

怖くなって震えると、隣にいた無垢くんが無言で手を握ってくれた。その暖かさが、冷たくなった指先に嬉しかった。

「相川さくら。この名前に聞き覚えは?」

ぴくり、って体が動いた。さくらちゃんになにか?

「アハハハ...しってるよぉ。あのくらぁいこでしょう?しってるもなにもむかんけいじゃないじゃん、あのこも」

「どういうこと?」

みんなの顔が、険しくなる。

「アハッアハハァ。しらないのぉ?かわいそぉだねぇ」

なにを?いったい今さくちゃんはなにをしているの?

「...なんで今、相川さくらがここの近くから出てきた。なんでお前と相川さくらの話す姿が何度も目撃されている。答えろ」

低い猛獣のような声が、男の人に問う。

「アハハ、ハァ。ねぇ、ももとあいつってほんとうにともだちなの?ぼくにはこれみてそれはしんじられないね。アハハハハッ。おっもしろぉい。ねぇ、もも?いまどんなきもち?ねぇ、ね?」

狂ったように笑う彼を前に、私の頭は動かなくなっていた。

「あな...たは...」

「...ねぇ。...もういい...こいつは、もう...だめだよ。...僕らはあの人を...買いかぶり、...すぎた」

「まだ、ハッキリとはしていないよ。断定は出来ない」

みんなは...なにをいっているの?

誰を...疑っているの?

「...でも...」

「...言動が怪しすぎる。限りなく黒に近いグレーというところか?」

...なんの、こと?

「騙されて...たなら...嫌気が、さす」

ねぇ、みんなはどうしたの?ねぇ。


「桃愛」

おもいっきり、肩が震えた。

「暫く...断定出来るようになるまでは、相川さくらに近付くな」

ピシリッ。胸のあたりがいたい。一瞬、息が止まった。

「なにを...言って、」

「こればっかりはどうしようもないね。偶然にしては出来すぎている。彼女が何故ここにいたのか。どうして彼と接触したのか。...彼女に聞いたとしても答えてくれるとは思えないしね」

冷たい言葉たちは、むねにじわりと染み込んでくるようだった。

「いやっ!さくちゃんはこんなことする人じゃないっ!私はさくらちゃんを信じるっ!」

左手の感触を振り払って言う。絶対に信じない。だってさくらちゃんと私は親友だもん!溢れ出る涙でいい加減目がいたい。でも、それでも、私とさくらちゃんは...

「信じてもいいんじゃねぇの?」

「え?」

横から聞こえてきた声におもわず声がもれる。

「なにも信じるなとは誰もいってねぇぜ?裏切られる覚悟があんならなァ、信じたいものぐらい信じていいんじゃねぇの。なァ、ミズ」

「そうですね。私もこのまま悲しまれるのは嫌ですし。ですがまぁ、限度というものもありますが」

陸兔くん...水樹先輩...。

私は...信じても、いいの?

「私は信じてもいいんですか?」

武津先輩に訪ねる。

「ああ」

苦虫を噛み潰したような顔で、それでもうなずく武津先輩。

じんわり胸があつくなる。

「アハハハハッ。ハハ...こんなかんどうげきひろげてるひまなんてあるのかなぁ。ほんとうにかわいそぉ。きみにおちたぼくよりも、もっともっとかわいそぉ」

「なにを...」

「ねぇ、もも?きみらがともだちにもどるひなんてくるのかなぁ。かわいいねぇ。おろかなきみもかわいいよ。すきだよ?もも。もっともっとそのかおをみせて?くるしんで?」

この人は、なに?

「...もういいだろう。とにかく相川さくらは監視対象だ。こいつには罰を。桃愛、彼女には近付かないように」

「...はい」

ねぇ、さくちゃん?

あなたはいったいなにをしているの?

私はさくちゃんを信じたい。なにもいってくれなくちゃ、わからないよ。

そういえば、私さくちゃんのことなんにもしらないんだよね。

ティラミスが好き。理由があって顔を出すことと運動する事が出来ない。

...それ以外は、ほんとになぁんにもしらないんだ。おしゃべりだって。ほとんど私から話しかけているだけ。笑ったところもみたことなんてないの。

ねぇ、さくちゃん。あなたは私の事が嫌いなの?

わかんないよぉ。だまっていたらぁ。


「ひっぐ、ひっぐ」

その日、どうやって帰ったかも分からない。

気がついたら部屋に戻っていて、同室の(つづら)ちゃんが慰めてくれた。

さくちゃん、さくらちゃん。

...貴女はなにを考えているの?会いたいよ。



彼らはそれから相川さくらを見張った。

情報に目を通し直し、不振な点がないか探した。

退学した佐々木春人(ささきはると)に関しては、(ひそ)やかに嘘だと否定できぬ噂がたっていった。

...箝口令(かんこうれい)をしいたというのにも関わらず。


数日後。

相川さくらが噂の発信源、生徒会ファンクラブと接触した事が分かった。

相川さくらとの接触後にその該当者達の不振な動きが始まったという。

未だ桃愛に被害は出ておらず。しかし、彼女の動きは生徒会の疑いを濃くさせるに十分足りた。

桃愛は最後まで否定しようとしていた。少なくとも全員の心にその気は小さくともあったのだろう。

しかし、桃愛は見てしまった。

その日彼女は生徒会の仕事があり朝早くに登校していた。陸兔と連れ立ち、教室に入った彼女は。まだ誰もいないはずの明けたばかりの教室で。見てしまった。


破かれた教科書と、落書きだらけの机の前に立つさくらに。手袋を着けたそこには、キャップとあいたマジック。

トサリと。桃愛は鞄を落とす。

驚愕で言葉を発せない彼女のすぐ横を。とくに弁解することもなく。ただただ平然と彼女は通り過ぎて行った。

「おいっ!」

陸兔は彼女を呼び止めようとした。

だが彼女が止まることはなかった。

時が止まったかのように、桃愛は動かなかった。


その日を境に。彼女達は。もとは親友だったはずの者と顔も合わせる事がなくなった。


静かに席で(たたず)むさくらと、泣きそうな顔でそれを見ては視線を落とす桃愛。


ねぇ、ももとあいつはほんとうにともだちなの?

きみらがともだちにもどるひなんてくるのかなぁ?


春人の言葉が脳裏にひびく。

溢れ出る涙を桃愛は。抑えることが出来ずにいた。

周りはそれを気遣い慰めるも、それさえも今の桃愛にとってはいたかった。


そして。栗原桃愛他生徒会の相川さくらに対する反応は、無意識の内に全校生徒に広まった。

理由もないというのに。今まで平穏に過ごしていた彼女の周囲は。支配者である生徒会の態度により。冷たいものへと変わった。

しかし彼らはそれに気付かない。

1度として。彼女自身に(たず)ねたことがないということにさえも、気付かない。


清蘭(ここ)に、彼女のいる場所はなかった。


彼女は黒だと、誰かが言った。






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