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イレギュラー 、この世界はゲームですか?


「桃ちゃん、おめでとなのです」

私の声に、桃ちゃんが振り向く。

「ありがとう!すっごく、嬉しい」

はにかみながら微笑む彼女の姿に、称賛の視線が集まる。というのも、無理はないのだろうけれど。なにせ桃ちゃんはそうされるだけのことをしたのだ。それもこの家格・実力共に見られる清蘭で。称賛の視線を送るのも無理はないと、私も思うし。まあ、本人はそれに気付いていないみたいなのだけれど。


桃ちゃんの背にある掲示板には、4位 栗原(くりはら) 桃愛(ももあ)と、書かれてあった。


そこへ。

キャーといういつものBGM と共に近付く集団の気配。やはり、というべきなのか。そこには麗しの美形様達がいらっしゃった。

その光景を見てわぁ、ハーレムなのですぅ。なぁんて私が思ったとしても仕方がないよね?なにせ、ファンどもに引っ付かれたイケメンが歩いているのだから。

っと、いっけないいけない。思わずピクピク動いてしまいそうになった口をきゅっと固くむすぶ。

すると、こちらに気付いたのか、その集団が近付いてくる。誰にって?勿論桃ちゃんにですよ。 新しく一人男子メンバーを加えた集団は前よりも更に見目麗しくパワーアップしている。のだが、微笑をたたえた藍先輩のオーラが段々とまがまがしくなっていくうちに、女達も少しずつ後退しているみたい。生徒会のメンバーまで苦笑...してないやつが一人いた。

「流石はミズ(にぃ)。やっぱり変わってねぇな」

悠々と笑う彼...一ノ瀬に対して、周りからは称賛や感嘆、呆れ、恐怖といった視線が寄せられる。

「貴方は前より図太くなりましたね。まあ、前でも十分な程でしたが」

はぁ、と溜め息をつきそうな声色の藍先輩の声は、からからという笑い声によっておおわれる。

「わーりぃ、わーりぃ。でもさ、なんつーか。やっぱこの状況は笑えるっつーか」

それでも笑い続け、藍先輩と対等に接する彼に驚愕の視線が集まる。と、それを見てまた、からからと笑う。タチ悪いのです...。

実際生徒会の面々も...って、はぁ。

赤会長はくくくと笑ってるし、黄先輩は一応我慢しようとしてるけれどそれでも笑いがおさまらないようで肩を震わせているし、桃ちゃんなんかは、微笑ましいなぁ、って目で見てる。貴女の方がよっぽど微笑ましいです、桃ちゃん。銀くんだけはポカーンとした表情を浮かべている。

はいですね。...ここでまともなのは銀くんしかいないのですか?桃ちゃんは、天然が時々いたいのですよ。可愛らしい銀くん。私の癒し~!

「ミズ!?ミズって言った?あぁ、攻め!あの超絶腹黒の上をいく爽やか転入生!いいっ!...ぐふふっ、ぐふっ。水樹×陸兔。じゅるり。ああ、ネタが!ネタが溢れてく!愛がとまらない~~」

「「「ぶちょおぉ!」」」

「ああ、氷の瞳。ステキ。ゾクゾクするぅ」

「一ノ瀬様ぁ。その笑顔にわたくしは...」

...。知らないです。知らないったら知らないのです。ギャラリーの言葉なんて聞こえなかったです。

見ざる言わざる聞かざる、これ大事なのです。

前世でよく妹から聞いたような言葉とか言葉とか。知らないのですからね!


と、やっている間にも生徒会の面々は近付いてくる。

そろり、そろりと気配を消して少しずつ後退していく私。と思ったら。ガシッといきなり手首を捕まれた。

その捕まれた手から上を辿ればにっこり笑った可愛い桃ちゃん。

はぁ。

逃げるのを諦めた私は、カメレオンよろしく周囲と同化することに専念した。


「桃愛ちゃんどうだった?」

あまぁい笑顔の黄先輩。

「4位でしたぁ」

ぶいっ!とピースポーズを取りながらも、私の腕を離さない。

「おめでとー!すっごいね。頭いいんだね」

「そ、そんなことないですよ。それに、無垢(むく)くんや陸兔(りくと)くんの方が凄いですから!おめでとう!」

桃ちゃんは、にこにこ笑いながら照れたように頬をかく。

「無垢とリクって、何位~?」

「......」

少しだけむっつりとした銀くん。どうしたのですかね?

「無垢?どうかしたのですか?」

と、藍先輩が聞く。

「...べつに」

銀くんが頬を膨らませている。...それでなにもない、は無理があると思うのですけれど。

「落ちたのか?」

と、赤会長が聞くと

「...負けてない」

と少し()ねたように言う。

「じゃあ、どうしたの?」

「...、それは...」

「同点1位なんスよ」

言葉につまる銀くんに被せるようにして発せられた言葉。しん...と、辺りが静まり返る。そこでようやく生徒会役員達は周りからの畏敬の念に気付いたようだ。全員に集められる視線の中でもとくにその意が強い存在。

「そうなんです!二人とも凄いんですよ!同点1位なんです!」

微妙な空気をものともせず、喜ぶ桃ちゃんは、ある意味凄い。

「二人、ってだれ?」

チャラ、と黄先輩のピアスが揺れる。

「無垢くんと陸兔くんです。すっごく高得点なんですよ」

その言葉に思わず息を飲む。

...本当に、そうなのですか?

実は私、桃ちゃん以外は全く見ていなかったのである。でもたしか、前・妹いわく銀くんは...。

「無垢って中学年時代ずっと一位保ってたんじゃなかったっけ?」

...そうです。黄先輩。私の記憶が正しければ、高校でもずっと独走状態だった筈。なにかがやはり違う?この世界はもも☆こい世界じゃないの?


...いいえ。違うですね。多分この世界は、きっと...。


「ほう。成績はいいと聞いてはいたが、ここまでとはな」

「俺、知り合い多いけどその中に、ミズ兄もいるんスよ?ミズ兄と一緒にいちゃあ誰だって多少はこうなるんス」

「そうか。...確かになぜだか否定出来んな」

...妙にそれで納得させてしまうのが、藍先輩なのですよね。

隣できょとん、としていた桃ちゃんだがそれを聞いて疑問を口にする。

「先輩達はどうでしたか?」

「...オレ?3位だよ。いつもと変わらないねー」

「俺は2位だ」

にこにこという黄先輩と少し顔をしかめて悔しそうに言う赤会長。

「藍先輩はどうでしたか?」

...桃ちゃん、桃ちゃん。テストする前から多分生徒会の番長さんは決まっていたと思うのですよ?きっとそう。外部生でさえも結果が出る前から悟ったことだろう。醸し出されるクールさと暖かさのバランスが絶妙である彼、魔王だと。

「こちらもいつもと変わらずでしたね。1位でした」

「わあ!先輩達ってみんな頭がいいんですね!」

すごーい、と。にこにこ笑顔な桃ちゃんを見て皆が和む。


「そういえば、さくちゃんはどうだった?」

「可もなく不可もなくの192位だったです」

と、言うとぶはっ、という盛大な笑い声が聞こえた。

「ちょっと、リク」

「わ、わーりぃ、わりぃっ、こほっこほ、ぷくくっ」

黄先輩が(うと)めても笑いは止まらないようだ。

「リク、失礼ですよ。いくら相手の点がどうであろうが笑ってはいけません」

明らかにこちらに呆れた視線を向けながら言う藍先輩。

「わりっ。ぶふっ、くっ」

「陸兔くんっ。人を笑っちゃダメなんだよ。あと、悪いことしたなら謝らないとダメ」

桃ちゃん、貴女の言うことは合っているとは思うのですが、どこかずれているような気がするのは気のせいなのです?

「そぉだよ、な。わりぃな」

「気にしてないのです」

一ノ瀬君は桃ちゃんの言葉がまたツボに入ったらしく、まだヒックヒックしているようだ。

「そうですね。いくら馬鹿だろうと目の前でそう相手に正直に言うものではないですし。第一言っても意味のないことは言霊の無駄です」

「水樹、辛辣過ぎる。余り棘を出すのはやめろ」

「わかりました」


「わりぃな。お詫びに勉強でも教えてやろぉか?」

苦笑しながら言う一ノ瀬君。

はい、です?今この人が何を言ったのか。私の(とぼ)しい頭では理解出来ませんでした。

「いや、教えようかとおもったんだけどなぁ」

「結構です。ありがたく断らせていただくです。お心づかいに感謝申し上げます、一ノ瀬様」

きっぱりと、考えるより先に言葉が出た。

「まぁ、ムリならいいんだけどな」

ふぅ。一ノ瀬君が余り攻めるタチじゃなくて助かったですね。

「なんなら、オレらが...」

「らい?」

黄先輩が何かを言い掛けるも、藍先輩のブリザードによりそれさえも消える。


「それよりは、桃愛さんにでも教えましょう。よろしいでしょうか?」

「へ?え、あ、ぜひ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ」

いきなり振られて焦る桃ちゃん。しかしやはり教えてもらえるのは有り難いのだろう。すぐさまぺこりと頭を下げる。

ちらり、と外野に視線を移せば"桃愛"呼びに目をギラつかせる数人の人々、方針状態の人々。きょろりと見回すと怪しげな光を宿す少人数。つう、とその内の一人の唇から血が一筋流れた。


狂喜の宿られたその瞳に彼女はやはり悲しいとしか感じられなかった。


「それで?俺らを出し抜くだけの頭脳はあると言うのに成績はおおよそ平均程度なのか?」

...はぁ。鋭すぎるのですよ、本当に。

ねぇ、あまり人を疑うのも良くないのですよ?化かしあいも探りあいも嫌いではないのだけれど。心のなかでこっそり呟く。

「勉強は出来るのに知らないのですか?いえ、だからこそ理解できないのですか?記憶能力とずる賢さは違うのですよ。それぐらい常識です。第一、契約違反は困ります」

いつもの通りのぼそぼそ声で。一息でそう言い切ると、今度はあちらがはぁっ、と溜め息をつく。

段々と気が緩んだようで。隙が出来はじめる。

そろり、そろりと。桃ちゃんの力がやっと弱まってきたのを感じて抜け出す。


気づかれないうちにそっとそこから去って。

長い廊下で立ち止まる。

スキップもなにもなく普通に続く日常。

妹の話と異なる小さな違和感。

ハリボテのようにガワだけ作られたゲームの部分だけでない。一人一人当たり前に存在し暮らす世界。


あぁ...多分なのだけれど。憶測で言うならばきっと、この世界は...そう。

ゲームであってゲームでない世界なのだろう。


...この世界は、生きているのですね。


私は初めてこの世界で私という不確かな存在を。イレギュラーを。はっきりと感じた。

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