第八話 決戦、フロアマスター
十月三十一
色々と修正しました。
改稿作業終了。
どんどん脳筋になっていくコオリ君です。
「っだー! 切りが無いわ! 弾幕ゲーかっての!?」
無数の蔓による回避不可能な面攻撃が迫り来る。
それを俺は、大地を駆け抜け、木々を叩きつけ、時には蔓を掴んで引き千切る事で回避する。
四方八方から襲いくる攻撃を、強化された肉体と野生の勘をもって躱していく。
「やってらんねえぞこれ!?」
あまりの面倒臭さに、戦闘中にも関わらず悪態が漏れる。
威勢よく突撃したは良いが、何かもう不毛過ぎてこの戦闘止めたい。
そう思ってしまう程、この戦いは膠着していた。
「っ、ああもうっ!」
足元から振動を感じ、即座に飛び退く。その次の瞬間、地面から蔓が飛び出してくる。
モチベーションは下がっていようが、肉体の方は未だに臨戦態勢。足元からの攻撃は既に何度もされているため、これぐらいなら問題無い。
これぐらいで済まないから嫌気がさしているのだ。
「っ、またかよ!?」
着地狩りをするかの如く、更に飛び出してくる無数の蔓。
縛ろうとする蔓、貫こうとする蔓、切りさこうとする蔓、引き潰そうとする蔓、殴りつけようとする蔓。
様々な役目を持ちながら、その全てに殺意が込められている。
この呆れるぐらいの手数が、本っ当に面倒臭い!
「だらっしゃぁぁぁ!!」
迫り来る蔓の全てに拳を叩き込む。怒りが存分に乗った拳は、全ての蔓を粉砕する。
「これでダメージがいかないのが腹立つんだよ!」
今だけで50ぐらいの蔓を破壊したのに、化物草は全然堪えた様子を見せない。
これこそが膠着の原因。化物草の呆れる程の耐久力。
無数に生える蔓や花を引きちぎっても、本体と思わしき草の塊に直接拳を叩き込んでも、全くダメージを受けていないのだ。
この化物草に痛覚があるのか知らないが、もう少しレスポンスがあっても良いだろうに……。
「流石にこれは滅茶苦茶だろう……。何かタネでもあんのか?」
ありがちな奴で言えば、コアを破壊しない限り再生するタイプ。
ただそうなってくると、ジリ貧からの敗北ルートが確定する。
こんな意味不明な存在、事前情報無しで弱点を見つけられる程、俺は賢くもないし戦い慣れてもいないのだ。
化物草もそれを分かっているのか、逃がさない事を念頭に置いた立ち回りをしてきている。
「不味いな。やっぱり相性が致命的過ぎだ」
この手の再生力の高い敵は、回復力を上回る密度で攻撃するか、高威力の魔法とかで諸共消し飛ばすのがベスト。
が、俺の攻撃手段は徒手空拳。手数も範囲も限度があるし、それ以上にただの打撃だ。どんなに経験値で強化しても、桁違いの植物であるコイツには効果が薄いだろう。
となると、やはりコア的なものか、せめて弱点を見つけるかしなければ。
「植物系のモンスターでありがちな弱点っ。えっと確か、花、蕾、球根、根っこ、種とかだったか!?」
降り注ぐ蔓の弾幕を躱しながら、日本のファンタジー作品の知識を片っ端から頭の中で再生する。
その中でも有り得えそうなものをピックアップしていき。
「後は、っんな!?」
途中で何故か落下した。
いや待てや。俺確か地面に足付けてたぞ!?
では何故、地面の上で落下したのか。その理由は、すり鉢状に陥没した光景が教えてくれた。
「土属性の魔法だと!?」
この化物草、植物の分際で生意気にも土の魔法を使い、数メートル規模の穴を開けたのだ。
しかもそのまま土を操って、生き埋めにしようしてきやがった。
なんとか対処しようとするも、今いるのは足場も無い空中。体勢を整えるのがやっとで、そのまま土に飲み込まれる。
しかも追い討ちとばかりに、魔法でズンッと大地に圧を掛けてきた。
「……っどっせい!!!」
圧殺されかけるも、力技で土を跳ね除けなんとか這い出す事に成功。
「流石に死ぬかと思ったぞ今の!?」
というか、普通なら多分死んでる。
俺が無事だったのは、魔法に対してのステータス無視が発動したからだろう。
それが無ければ、数十秒後には圧死か窒息死であの世行きだ。コイツの強さ的に、魔法が弱いなんて事は無いだろうし。
「にしても、魔法なんて使ってくるのか……」
今まで全く使う気配が無かったから、完全に油断してたぞ。しかも単純に攻撃として使うんじゃなくて、かなり器用で回りくどい使い方してきた。
コイツ、逃がさないような立ち回りといい、さっきの魔法の使い方といい、絶対知能とかあるよな?
「そんな奴が急に魔法を使うねぇ……」
勝負を決めにきた? 違う。そのまま状況が進めば勝てそうなのに、わざわざ隠し札を切る必要が無い。
スタミナが無くなりつつある? 未だに衰えた様子を見せない回復力が違うと物語っている。
俺に備わった、野生の勘が主張している。この化物草の嫌がる事を、さっきまでの俺は行っていたと。
「……ははん? もしかしてお前の弱点、さっき挙げた中にあったな?」
時間が経てばかなりの確率で勝てるのに、それを無視して今勝負を決めにきた。
それはつまり、今決めなければ化物草にとって都合が悪い、下手すれば形勢を覆されない何かを俺が行っていたのだろう。
俺が行おうとしていて、尚且つ形勢逆転の可能性があるもの。そんなの弱点探ししかない。
「ありそうなのは球根や根っこか? 後は塊の中央に種とか……いや。だったら殴った時にレスポンスぐらいあるだろ。ならやっぱり地中か?」
俺が当たりをつけた瞬間、化物草からの攻撃の苛烈さが増大した。
「ハッ! 急に焦り出したじゃねえか!」
やはり、この考えが正解か。
この化物草に、人間の言葉を理解する程の知性は感じられない。だが、少なくとも狩りをする動物レベルの知性は持っている。その本能が、俺の視線の動きや意識の方向で察知したのだ。
このままじゃ不味いと。
「遅せぇ遅せぇ遅せぇっ!」
苛烈さを増した攻撃を、全て殴って迎撃する。蔓は衝撃によって千切れ飛び、土の魔法は粉々となる。
先程までより攻撃の密度は上昇したが、その全てが止まって見えるのだ。
経験値を使用した訳では無い。ただ今まで溜まったフラストレーションによって、肉体性能が飛躍的に上昇しているのだ。
つまり最高にハイ。
「さあ着いたぁ!」
殺意が迸る弾幕を無傷で潜り抜け、ついに塊の部分に到着した。
そのまま塊に向け、腕を突き刺す。今回は拳ではなく貫手。より深く突き刺ささるように鋭く、それでいて力強く。
貫手はズブズブと塊の中を突き進み、やがて俺の肩まで埋没した。
そして、そのまま全力で持ち上げる。
「ふんぬぅぅぅっ!!」
直後、地面のあちこちにひび割れが起こり、震度五弱はあるであろう地震が起きる。
だが、それでも中々塊は持ち上がらない。普通サイズの雑草ですら、人間が引っこ抜くのに苦戦する事もあるのだ。こんな規格外のサイズの、ましてや引き抜かれまいと全ての蔓を地面に突き刺し抵抗している化物草は、俺の強化された肉体を持ってしても引き抜く事は出来なかった。
「ならっ……抜けるようになるまでなんだよォォォ!!!」
八方塞がりだった故に、今まで使って来なかった経験値に手をつける。
この化物草を引っこ抜けるようになるまで、筋力をひたすら強化する。
アンデッド達の残り、猿の群れ、クソ蛇、狼の群れ、デカ鳥から獲た経験値の半分以上を消費した結果、ゆっくりとだが確実に化物草の塊は持ち上がっていった。
「ーーー!!」
それは初めて聞いた、化物草の悲鳴。
何処で発生しているのか、そもそも声なのかすら不明だが、それでも確かに化物草は悲鳴をあげた。
決して引き抜かれてなるものかと、化物草も全力抵抗する。蔓はより深く大地を掴み、更に魔法で俺の足元の地面を操り踏ん張りを効かなくしてきた。
「しゃらくせぇ!!!」
蔓の抵抗は関係ないと無視し、地面は踏みつける事で魔法ごと粉砕する。
そしてついに、化物草が完全に持ち上がった。
「だっしゃらぁぁぁ!!!」
持ち上げた塊を、全力で空にぶん投げる。
塊はぐんぐん空を登っていき、それと同時に大地に張り巡らさせれていた根っこもブチブチと引き抜かれていく。
やがて化物草の塊が100メートル近い高さに達した時、全ての根っこが地上へと晒された。
ーーーズゥゥゥゥンッッッ!!!
塊が地上に落下し、凄まじい衝撃が周囲を揺らす。
10メートル近いサイズの塊が、高層ビルに匹敵する高さから落下したのだ。その破壊力は計り知れず、落下地点を中心に甚大な被害が広がっていた。
塊の方も、完全に沈黙している。
「………自分でやっておいてアレだが、これヤバいな……」
最初の方の戦闘でも周りをかなり破壊していたが、今の力技でとんでもない事になっている。
全長100メートル以上の根っこを無理矢理引っこ抜いた事で、一面の地面が捲り返っている。塊の落下地点も合わせると、半径キロ単位で更地になってんじゃねえか?
「というかコイツもデカ過ぎだろ……」
根っこも合わせると全長300〜400メートルぐらいあるぞ。
通りで滅茶苦茶タフな訳だよ。さっきまで戦ってた塊なんて完全な分体じゃねえか。
「そしてキモイなぁ……」
元からモル○ルを更にグロくしたような見た目だし、普通にキモかったけどさ。その全貌を現した事で、余計に威圧感とキモさが増している。
化物草の塊から伸びる無数の蔓と繋がっていた、腐りかけの内臓みたいな物体。どうも大量の根っこが絡まりあって構成されているみたいで、わさわさと根っこが蠢いているせいか内臓が脈動しているように見える。
「見た感じ、それが弱点か?」
いや、どちらかと言うと本体の方が正しいか?
兎も角、この無駄な存在感と、守るように蠢く蔓と根っこの動きで確信した。
この内蔵擬きこそが、俺の探し求めていたものであると。
「やっとだ。これでやっと、お前を倒せる!」
歓喜でテンションが振り切れる。
既に先程まで感じていた不毛さは無い。疲れも同じく吹き飛んだ。
顔には獰猛な笑みが浮かび、全身から馬鹿みたいな量の闘志と殺意が吹き上がる。
「そうかそうか。そっちも準備万端か」
俺の気配に呼応するように、化物草も姿を変えていった。
蔓には茨の如く棘が生え、その先端からはハエトリグサのような口が形成され。
根からは毒々しい紫の花が咲き誇り、砂糖を煮詰めたような甘い香りと、臓物の腐ったような悍ましい香りが辺りを満たし。
そして、本体である内蔵擬きからは、絡み付く根の隙間から赤黒い光が漏れ出していた。
「さあ行くぞ! 第2ラウンドの始まりだ!」
強化された俺と、本体となった化物草。
戦闘は佳境を迎える。
微妙に中二な氷くんでした