第七話 フロアマスター現る
十月三十一
色々と修正しました。
改稿作業終了
行動の隅々から、野蛮さというか脳筋思考が滲み出てるコオリ君
「………」
ダンジョン攻略、2日目の朝。
昨日は色々と悲しい出来事 (囮とか猿肉とか猿肉とか)が多かったが、思いのほか心が晴れやかだ。
初めての野営、それも地面に直寝&見張り無しという難易度ヘルモードだった割に、熟睡する事が出来たお陰だろうか。……いや、見張り無しの野営で熟睡したら駄目か。
「俺こんな図太かったかなぁ……」
自分の性格に首を傾げながら、もそもそと行動を開始する。
直寝で汚れた服と身体を【洗浄】で綺麗にし、川で顔と口を濯ぐ。
意識がシャッキリしてきた所で、昨日の猿肉の残りを確認する。
「あー、やっぱり駄目になってら」
予想通り、猿肉の保存は失敗していた。見た目はほぼ変わっていないが、強化された感覚がアウトだと訴えている。
「大きめの葉に包んだり、工夫したんだけどなぁ」
まあ、味を我慢して昨日食えるだけ食っているので、朝は抜いても大丈夫だろう。昼は木の実の類を探せばいい。肉は懲りた。
「さて、行くか」
一通りの準備を終え、大森林の攻略を開始する。メインは次の階層に進むための階段探し。次に食材、特に保存の効きそうな木の実系を探す事。というか実質食材探しがメインだ。
基本的に、ダンジョンが森林や砂漠、山岳地帯といった通路が無い環境の場合、次の階層に進むのはめちゃくちゃ大変だ。ましてや、それがマッピングもされていない初見のダンジョンだった場合は、かなり長期のダンジョンアタックになる。次の階層に続く階段や魔法陣の場所は不明なので、通路も無い広い空間を闇雲に歩き回るしか無く、かと言ってマッピングを怠れば自分が遭難なんて事になりかねないからだ。
事前情報無しでの環境系フロアの攻略は、プロである冒険者でも敬遠するレベル。
それを素人の俺が行うのだから、かなり長期の攻略になるのは間違いない。生存の要となる食材探しを優先するのは、当然の行動である。
「……なのに、こんなアッサリ見つかるのね……」
長期攻略を念頭に行動していたら、最短と思われる時間で下層に繋がる階段を発見した。
体感時間にして1時間弱。なんとなく気になった方向に進んでいたら、とてもあっさり見つかった模様。
「……まだ食材も見つけてないんだよなぁ」
いやね? 階段探しは最終的には必須だし、見つかって良かったとは思うけどさ。それでもメイン目標を達成してないから、何か釈然としないんだよ。
「んー、どうすっかなー……?」
保存に向いた食材は見つけていないので、次の階層に進んで良いものか悩む。
大森林は食材が豊富にあるであろう環境なので、ここである程度の食材を確保しておくのも手なのだ。
昨日のエンカウント率を考えると、植物性は兎も角、動物性の物は簡単に得られるであろう。
そういう意味では、この大森林は離れ難い。
「だからって、食えるって分かってる猿以外で、積極的に食おうと思える奴もないけどさ」
クソ蛇、デカ鳥、緑狼、後は戦ってないけど熊か。あの辺りを食いたいとは思えない。猿も猿で抵抗あるし。
「あー、やめだやめだ。次の階層を見てから考えれば良いじゃねえか」
別に後戻り出来ない強制スクロールじゃないんだから、見てから決めてしまった方が確実か。
さて。それじゃあ進むか……と言いたい所なんだが。
「そうはイカのなんとやら。何かいるんだよなぁ……」
階段のある一帯に蔓延する、妙な気配。なんというか、背筋にチクチクくる嫌な感じだ。
クソ蛇の時から薄々実感していたが、どうも今の俺はその手の気配に敏感らしい。【原初の獣】なんてユニークスキルがあるし、野生の勘的な超感覚が備わったのだろうか? 順調に野蛮人ルートを進んでいるようで鬱になるが、便利ではあるので良しとしよう。
で、その野生の勘が訴えている訳だ。この場所には何かいると。それも特大のやべぇ奴が。
今思えば、俺がピンポイントでこの場所に来たのは、ここにいる何かの気配を察知していたのかもしれない。いや、十中八九そうだろう。
「ここはダンジョンで、階段前にはやべぇ奴。どう考えてもボス戦だぞこれ」
ダンジョン、特に大型の物になってくると、一定の階層毎に番人的な魔物を置いている事があるらしい。
その番人、フロアマスターと呼ばれる存在は、ダンジョンから直接生み出された忠実な僕であり、 その強さは同階層の魔物とは一線を画す。
次の階層に進もうとするあらゆる存在の前に立ちはだかり、人も魔物も関係無く粉砕するのだとか。
「ったく、どうりで今日は魔物に出会わない訳だよ。つまり、ここら一帯は魔物であっても近づかない、侵入不可領域って事か」
ダンジョン内に生息する魔物であっても、生物である事には違い無い。
下手に近づけば殺されるような危険地帯、わざわざ縄張りにする奴なんていないだろうよ。
「……で、どうしたもんかね?」
敵がフロアマスターの場合、戦闘は確実だがそれは良い。問題は、確実にいる筈なのに姿が見えない事だ。
階段の周囲一帯には、俺の背丈ぐらいの草が疎らに生えているだけで、魔物らしい姿は見えない。
だが気配は感じるので、絶対にこの辺りにいる。姿を隠して隙を伺っているのだろう。
「炙り出すか」
クソ蛇との戦いで、奇襲はガチで厄介だと学んだ。一撃で仕留められるような相手であっても、普通に殺されかけたのだ。フロアマスターなんて明らかにヤバめな奴に、奇襲なんてやられたら堪らない。
なら、全力で相手の奇襲を潰す。
その為に、1度階段から離れる。そして、そこらに生えていた木を無造作に引き抜き。
「どっせいっ!」
全力で階段の方にぶん投げた。
ーードォン!
投げた木は階段近くの地面を砕き、衝撃が一帯に走る。
「もう一丁!」
ーードォン!
今度は近くの木にぶつかり、周辺の木諸共へし折った。
「これなら出てくるだろう、っよ!」
隠れて奇襲するタイミングを伺っているなら、辺り一面更地に変えてしまえばいい。
なんとも乱暴だが、スマートに事を済ませる技術は俺には無い。それでいて、下手に洗練された行動をするより、こちらの方が効果的だ。
「ほら、っ!?」
くる。そう思った時には既に身体が動いていた。
その場から大きく飛び退いた直後、今まで居た地面から槍の様に鋭い草が、俺を貫こうと飛び出してきた。
奇襲が無意味と知って、ついにフロアマスターが姿を現したのだ。
「はっ。なるほどな。ダンジョンが生み出したってのはこういう事か。幾ら異世界でも、こんな意味不明な化物はいねえよなぁ!」
そいつの姿は不気味だった。気色悪い色をした植物の塊で、そこから生える無数の蔦と花が手足のように蠢いていた。
具体的にいうと最後の物語のモル○ル。あれをバカみたいなサイズで実写化したような姿だ。
「仮想名称モル○ル……だと気が抜けるな。化物草でいいか」
酷い既視感のせいで脱力しそうになるが、コイツから感じる威圧感は本物だ。単体での脅威度は他の魔物と比べものにならない。あの殺意が迸るモンスターハウスですら、この化物草の前には霞む。
これがフロアマスター。文字通り、階層の支配者じゃねえか。
「こりゃ、腹を決めた方が良いな」
ユニークスキルが覚醒してから、初めて現れた強敵。単純な戦闘力で、今の俺に匹敵するでろう怪物。
今まではなんだかんだでやり過ぎないよう加減してきたが、コイツには本気を出した方が良い。出さなければヤバい。
幸いな事に、期限は不明だが経験値はストック出来ている。その全てを消費すれば、最低でも逃げる事は出来るだろう。
獲物は無し。攻撃手段は徒手空拳。防御はステータス無視のデバフのみ。それに加えて、敵の詳細は一切不明と来ている。
「ははっ。その癖、戦闘回避は不可能か」
中々にクソだなこの状況。
だが、それでも構わない。何故なら俺は無力じゃない。五体に満ちるこの力が。この身に蓄えた命の煌きが。戦えるという実感をくれる。
ユニークスキルが覚醒していない状況の、絶体絶命なあの時と比べれば!
「行くぞオラァァ!!」
この程度、なんてこたぁ無いんだよ!!!
ボス登場