第四十九 作戦会議
自分で言うのもアレだけど
『祝!二十万文字突破』……多分。
読者の方々には最大級の感謝を。
誤字脱字の可能性大です。
ルビに関するコメントが多かったので、修正しました
冒険者ギルドの二階、その最奥と言える部屋。それがギルドマスターの執務室だ。
女性職員に案内されたコオリ達は、重々しい装飾のされた扉の前に居た。
「ギルドマスター。冒険者の方々を連れて参りました」
女性職員が扉をノックし、コオリ達の事を伝える。
「入れ」
返ってきたのは短い一言。女性職員はそれに頷き、コオリ達に向き合った。
「皆様、ギルドマスターがお待ちですので、どうぞ中へ」
そう言って、女性職員は脇へと移動した。どうやら扉の中に入るつもりは無いらしい。
先頭に居たシェリルが扉を開け、彼女に続く形でコオリ達は部屋へと入る。
「良く来てくれたな、シェリル、エドムス。この非常時に上位冒険者が二人も居るのは不幸中の幸いだ」
「いえいえ、そんな事無いですよ」
「ギルドマスターからそんな評価を貰えるとは光栄ですね」
ギルドマスターの言葉にシェリルとエドムスは気さくに返す。どうやら知り合いらしい。まあ、彼らは【舞姫】と【天雷】の二つ名を持つ上位冒険者なので、ギルドマスターと面識が有っても不思議では無いが。
二言三言、シェリルやエドムスと言葉を交わした後、ギルドマスターはコオリ達に顔を向ける。
「さて、そこの三人は初対面か。私の名はオルト。冒険者ギルド・テイレン支部のギルドマスターだ」
来客用と思われるソファから立ち上がり、オルトと名乗った男はコオリ達に自己紹介をする。しかし、コオリ達は反応出来無い。男性にしてはやけに高いアルトボイスで行われた自己紹介に、三人揃って唖然としていた。
「子供……?」
つい口からそんな疑問が漏れる。しかし、それもある意味当然だろう。コオリ達の目の前にいるギルドマスターの外見は、子供としか形容出来ない程に幼かったのだから。
年齢は恐らく十一・二歳。背丈もコオリの胸ぐらいで、ギルドマスターを自称する人物はどう見てもそこいらの少年にしか見えなかった。
そんなコオリ達の反応を見て、ギルドマスターの少年、オルトはニヤリと笑みを浮かべる。
「私からすれば君達の方が子供だよ。こう見えて五十代だからね」
「「「ご、五十!?」」」
オルトの衝撃の年齢を聞き、三人は驚愕の声を上げる。その横ではシェリルとエドムスが苦笑していた。
「まったく、人をからかう事が好きなのは相変わらずですね」
「ははは。年寄りの楽しみの一つだ。そう簡単には止められないさ」
「毎回毎回、本当に良い笑顔を浮かべますよねオルトさんって。正しく悪童ですよ」
「年を重ねても、少年の心を忘れたつもりは無いさ」
のらりくらりと上位冒険者の指摘を躱すその姿は、確かに年の功を感じさせる。その面だけを見れば、確かにギルドマスターに相応しいかもしれない。……とは言え、それで納得が出来るかと言われればそうでも無い。コオリが浮かべたギルドマスターの外見を見事斜め上へとぶっちぎっているのだ。簡単に受け止められるかと言われれば否定しか出来ない。
「さて、それじゃあネタばらしをしようか」
一通りコオリ達の反応を楽しんだ後、オルトは自らの事を説明し始めた。
「私はこんな見た目だけど五十代だ。では何故見た目が少年なのかと言うと、私の種族が『小人族』だからさ」
小人族と言うのはこの世界に存在する種族の一つである。小人の名が示す通り、その姿は小柄で幼い。年老いても人間で言う所の十四歳程度までしか外見が成長する事がない程だ。寿命自体は人族と大して変わらないが、その不老とも言える性質によって多くの小人族が奴隷とされていた過去を持つ。能力的には知能と敏捷性が高く、ドワーフ程では無いが手先も器用だ。その反面、力が弱くて余り魔法力に優れない。
オルトは自分がその小人族だと言う。
「さて、これで私の事は納得してくれたかい?」
「はい、そういう事なら」
「……おや、随分と理解が早いね」
コオリの返答の早さに意外そうな声を上げるオルトだったが、コオリは何て事も無いという風に理由を話す。
「だってそう言う種族なんでしょう?だったらそんな物なんだって納得しますよ」
コオリが先程まで納得していなかったのは、予想外の外見だったという事もあるが、それ以上に子供がギルドマスターを務めているという事に違和感を感じていたからである。しかし、それが小人族の種族特性と言える物なら話は別だ。不老に近い性質によって成長していないだけで、オルト自身は歴とした大人だと言うのならば特に違和感は無い。外見が子供なのはそう言う物なのだと割り切るだけだ。
それに、コオリの身近には似た様な人物もいるので、見た目が子供な大人ぐらいで驚く必要も余り無い。
(ライラは数え方によってはあの外見で三千歳オーバーだし。それに比べれば十二歳ぐらいの五十代なんてマシだろう)
「コオリ、君はなーにを考えてんのかなぁ?」
「いや、不老って女性の憧れだよなあ、と」
「……ふうん」
背後から何故か背筋が凍る様なライラの声が聞こえてくるが、コオリは自然体で返答する。背中には冷や汗が滝の様に流れていたが。
そんなコオリの様子に気づいたのかどうかは不明だが、オルトが手を叩いて注目するよう促してきた。
「さて、それでは本題に入ろうか」
この一言によって全員が一瞬で切り替える辺り、流石は世界有数の実力者と言えるだろう。
「もう既に察してるだろうが、君達にはリベオール教団と少数精鋭でやりあって貰う」
話の内容はやはりと言うか、予想通りの物だった。上位冒険者を二人も呼び出しているので当然ではあるのだろうが。しかし、コオリには敢えて聞きたい疑問が有った。
「それは新人冒険者の俺達もですか?」
「そうだ。君達にはエドムスとシェリルの補佐をやって貰う。聞き及ぶ限りの君達の実力ならば戦力としては十分に期待出来るだろう。……それに少し事情があってね」
「事情とは?」
「こう言う仕事は本来だったらベテラン冒険者の仕事なんだが、依頼などで現在この街にはベテラン冒険者が殆どいない。居るのはそこの上位冒険者二人と、烈火の獅子などの中堅冒険者でね。単純に戦力が足りないんだよ」
溜息を吐きながら説明するオルト。その姿からは彼の心労を十分に察する事が出来る。
とは言え、この判断は賢明とは言い難い。
「随分と思い切った事をしますね。実績も無く実力も又聞きの相手を使おうなんて、相当な博打じゃないですか」
何度も言うが、コオリとライラは新人冒険者だ。普通の冒険者の持つ実績や信頼など二人には無い。そんな人間をこの一大事にあてがうなど正気じゃない。
「勿論それも理解しているさ。それでも、今回の事態はこの街の中堅冒険者には荷が重過ぎる。足を引っ張って失敗するリスクと、又聞きでも上位冒険者に匹敵すると言われる君達を採用するリスク天秤に掛けた場合、私は後者の方が可能性は高いと踏んだ」
人間を攫ったという事実がある以上、リベオール教団は何らかの儀式を行う可能性が高い。結果次第では街が文字通りの意味で消滅しかねない状況の中、ハイリスクであっても可能性の高い方向へと進むのは当然だ。
普段と余り変わらない街ではあるが、今にでも壊滅しても可笑しく無い。状況はそれ程までに悪いのだ。
「とは言え、君達が新人冒険者なのは変わらない。緊急依頼を受ける義務が無い以上、断る事も可能ではある」
この台詞にはコオリは眉を寄せた。それでは先程のリスク云々の話はどうなったのか、と。
「それって意味」
「まあ、その場合はこの場で八級下位までランクを引き上げるんだけどね。……あ、依頼に成功した場合は更にランクを引き上げる事も可能だよ」
「……」
やはりと言うか、コオリ達に選択肢は無い様だ。元々断る気は無かったが。
「依頼は受けさせて貰います。けど、ランクの引き上げは勘弁して下さい」
「ほう……それは何故?」
「緊急依頼の義務が面倒なので」
正確に言えば、戦争方面での出兵が面倒なのだが。
「……取り敢えず、報酬やその件については後日話し合うとしようか」
オルトはギルドの制度を面倒の一言で切り捨てられた事に頬をヒクつかせていたが、直ぐにそんな暇は無いと頭を振って話題を変えた。
「君達には二手に分かれて貰う。そしてこれらの場所を襲撃して欲しい」
オルトはこの街の物と思われる地図を広げ、幾つかの印を書き込んでいく。
「どうして此処を?」
「ギルドの密偵が持ち帰った情報を元にした、教団の連中のアジトと目される場所だ」
これにはコオリも目を丸くした。
「早くないですか?」
「最近はスラムが物騒だったからね。その原因と思われてた新参の組織の事を探ってたんだ。
本格的な調査に入る前だったから、その組織がリベオール教団だとは分からなかったけどね」
これをタイミングが良いと判断するか、悪いと判断するかは悩む所だ。
「周辺の調査の方は密偵と下の冒険者達に任せる事にしている。君達は各アジトに突入して教団の人間を倒してくれ。生死は問わない」
「攫われた人達はどうすれば?」
「連絡用の魔道具を渡しておく。安全を確保出来た状況それを使ってくれれば、周辺に居る冒険者を向かわす」
雑事は他の冒険者に任せ、自分達は戦闘に専念しろと言う事か。
「他に質問はあるかい?」
オルトが何か無いかと確認すると、静かに一人が挙手をした。
「手伝う」
そう言ったのは、攫われた孤児のグループの一人である狼人族の少女、ルウだった。
「ルウは狼人族。みんなの匂い、覚えてる。だから、手伝う」
仲間を助けるのに自分も協力する。幼い少女はそう健気に主張した。
しかし、
「残念だが許可出来ない」
オルトはその申し出を否定した。
「何で……!」
「危険だからだ。君の主張が正しいのなら、確かにそれは有用だ。けど、絶対に必要かと言われるとそうでも無いんだ。既にアジトは割れているからね」
被害者達を探す事が出来るというのは確かに有用だろう。しかし、有用であっても必要では無い。ある程度の場所が分かっている以上、しらみつぶしで当たれば時間は掛かるが発見する事は可能なのだ。
「時間短縮は魅力的だ。しかし、足手まといを抱えて失敗するリスクが高まるのなら、時間を掛ける方を選ぶ」
「でも……!」
「それに、君の仲間がいる場所と教団の計画を実行する場所がイコールかは不明だ。救出に向かってる間に、他のアジトで儀式が行われたら本末転倒だ」
そう。ギルドにとっての最優先事項は教団の計画を潰す事なのだ。被害者を救出する事の優先順位は低い。悪く言えば二の次である。
「納得しろとは言わない。だが、大を生かす為に小を捨てる必要があると言う事は理解して欲しい」
「そんな……」
「諦める事は無いさ。直ぐに助けられる可能性もあるんだ」
苦々しい表情を浮かべながらも、オルトは絶望するルウを慰める。彼自身、その言葉は本意では無いのだろう。しかし、ギルドマスターの立場を持つ以上、彼は孤児達の救出を優先するのは許されない。
「……」
俯き黙り込むルウの姿はとても暗いモノがあった。
「コオリ」
ライラはコオリの名を呼んだ。彼女はそれ以上何も言わなかったが、その視線からは『何とかして欲しい』という感情が伝わってくる。
ライラは過去に家族、友人、仕える部下から裏切られている。大切な居場所を失った経験を持つ彼女にとって、今まさに居場所を失おうとしてルウは放って置けないのだろう。
コオリも思うところが有った為に、ライラに向かって笑顔で頷いた。
そんな二人のやり取りには気づかず、オルト達はどんどん話を進めていく。
「今から君達にこの部屋を借す。それでどう行動するかを話し合ってくれ。だが、余り時間は掛けないで欲しい」
そう言ってオルトは部屋を出て行った。作戦から先に口出しする気は無いらしい。
オルトが出て行ったのを見送った後、コオリはルウの頭に手を置いた。
「さて、それじゃあ一緒に行こうか」
「え?」
「仲間、助けたいんでしょ?」
言葉の意味を理解出来ないのか呆然としていたルウだったが、徐々に表情が驚きへと変わっていった。
「良いの……?」
「孤児達を早く助けるならルウの協力は必要だからね。……それに、何もしないで不安とかにただ耐えるだけってツライでしょ?」
耐える事しか出来ないツラさを知るコオリには、目の前に居る少女にそれを味わわせるつもりは無かった。
「でも、ルウは足手まとい。危険だって……」
「大丈夫だよルウちゃん。コオリは凄く強いから、ルウちゃんが一緒に居ても平気だよ。でしょ?」
「まあね。その代わり、守る手間を省きたいからずっと抱えたままになるけど」
それでも大丈夫かとルウに問へば、本人は問題無いとばかりに首を縦に振った。
本人の意志を確認したコオリは、事の成り行きを見守っていた上位冒険者の二人へと向き合った。
「そういう訳なんで、俺はルウと一緒に行動します」
「……一応聞きますけど、正気ですか?」
「逆に聞き返しますけど、何でこの子の仲間を見捨てろと?」
視線を鋭くして聞いてくるエドムスに、コオリはより強い眼光で聞き返す。
「この子の仲間は俺の友達の仲間でもある。全く関わりの無い赤の他人よりも優先するのは当然でしょう?」
「大を生かす為に小を捨てる。これは冒険者をしていればいつか迫られる選択です。その心構えすら出来ていないのですか?」
「生憎な事に登録したばかりの新人なモノで。冒険者の心構えなんて勉強する暇無かったんですよね」
あからさまな侮蔑の言葉には皮肉で返す。
既に常人では震える程の闘気が彼等の居る部屋には満ちていた。
「オルトさんの言葉通り、運が良ければ孤児達は先に見つかるかもしれませんよ?」
「運頼みなんて御免だね。自分で探した方が確実だ」
ピリピリとした空気が張り詰め、コオリとエドムスは無言で睨み合う。
「考えを変える気は無いと?」
「毛頭無い」
最後通告とばかりに発せられた疑問の声に、コオリは一瞬の迷いもなく断言した。
一触即発。そんな言葉が相応しい空気の中、先に折れたのはエドムスだった。
「はぁ、まったく……。まあいいでしょう。覚悟もあるみたいですし、これ以上はとやかく言いません」
予想以上にあっさりと引いたエドムスにコオリが目を丸くするが、当の本人は苦笑を返すだけだった。
「君と張り合っていても時間を消費するだけですからね。だったら妥協した方が建設的でしょう?……それに、私だって本音を言えば、その狼人族の少女の仲間を見捨てる様な事はしたくないんですよ」
瞳の中に浮かぶ優しげな光から見ると、やはり心情的にはエドムスも納得していなかったらしい。彼の場合、上位冒険者としての経験から理性で抑えていただけの様だ。
「本来ならば私も最善を尽くすべきなのですけど、今回の場合は責任が大き過ぎますからね。つい最良の方を選択してしまったんです。だから、心情的には貴方の判断に異論はありません。……シェリルはどうですか?」
「そうですね……。私もやっぱり、助けられるなら助けたいです」
上位冒険者の二人は共に笑顔を浮かべ、コオリがルウを同行させる事を許可を出す。
一つの話が纏まった所で、エドムスが真面目な表情になる。
「それでは作戦を練りましょうか」
誰と誰が組むのか。誰が何処を襲うのか。この緊急依頼を無事に達成する為に、コオリ達は必要な事を話し合う。
そして五分後。
話し合いの結果、組み合わせは以下の通りとなった。
ライラとシェリル。
「ライラちゃん、緊張してない?」
「い、いえ。だ、大丈夫です!」
「あはは……」
ルウとコオリ。
「しっかり掴まってなよ?」
「……」
「無言ですか……」
そしてエドムス。
「一人で大丈夫なんすか?魔法使いって聞いてますけど」
「問題無いですよ。これでも上位冒険者の一人ですから」
各々が意識を研ぎ澄まし、コンディションを整える中
「それでは、依頼を始めましょうか」
戦いが始まった。
敵のアジトが複数あるのはリスクヘッジと捉えてください。
コオリ達がギルマスの言葉をぶっちしてるのも流してくださいね。
修正しました




