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第四十七 事件発生

投稿が少し遅れてしまいましたかね。三人称が苦手なせいか、どうもこの作品は時間が掛かってしまいます。

そしてやっと佳境へと突入した。長かった。

誤字脱字の可能性ありです。

スラム街の一角。そこをコオリとルアンの二人は歩く。目的地はルアン達の隠れ家だ。


「前はそうそう教えられないって言ってなかったか?」

「いや、普通はそうなんだけどな。けど、アンタ相手に隠し事とか無理そうだし」

「お前は俺を何だと思ってんだ……」


内心では、読心術ぐらいなら出来そうだと思っていたが。

そんな風にコオリが考えているとは知らず、ルアンは話を続けていた。


「アンタが自分で言ったんだろ?俺が何処に居ようと探し出せるって。実際に俺の事を見つけたし。そんな相手に隠れ家の場所なんて隠してても無駄だろ」

「だろうな」


特定の個人の居場所を探知出来るという事は、必然的にその人間の行動範囲や拠点も探知する事が出来る。コオリがその気になれば、孤児達の隠れ家など簡単に分かるのだ。なので、ルアンの隠しても無駄という判断は間違っていないだろう。


「そう言えば、何でルアンは追われてたんだ」


ふとそんな疑問が頭をよぎる。先程の男達は確実にルアンを狙っていた。彼等に狙われる様な事を慎重そうなルアンがやるとは、コオリにはとても思えなかった。


「俺にも分からん。あいつら、俺を見た瞬間に囲んできやがった。不意を突いて逃げ出したけど、目的は見当がつかない」


返ってきた答えにコオリは眉を顰める。ルアン本人が追われる様な憶えが無い。それなのに出会い頭で囲みに掛かるなど普通じゃない。


「おいおい、スラムにしても物騒じゃないか?」

「ああ。確かに人攫い自体はスラムじゃ良くあるけど、あんな無差別っぽい感じじゃない。する方だって利益は多い方が良いんだ。普通攫う相手はえり好みする。出会い頭に手を出すなんて普通じゃない」


ルアン曰く、人攫いという人種が男を狙う事など殆ど無いという。理由は単純で、女性の方が需要があるからだ。攫われた人間の未来はほぼ確実に奴隷である。勿論、人攫いによって奴隷に堕とすのは違法だ。しかし、それでも違法奴隷を手に入れようとする者は後を絶たない。そして、そういう輩は往往にしてクズであり、そんな奴が所望する奴隷など決まりきっている。故に人攫いは女性の方を多く狙うと言う。


「例外は無いのか?」

「そりゃあ、個人によって趣味嗜好は様々だ。顧客が女の可能性もあるしな。けどな、それでも確実に需要があるのは女だ。わざわざ男を狙う意味なんて無い」

「そうか?使用人とか、用心棒とか需要もあるだろ?」

「小間使いが欲しい場合だったら正規店の方に行く。スラムにいる奴にそんなの期待する馬鹿はいない。用心棒だってそうだよ。スラムにいるのは冒険者になる度胸が無いゴロツキだ。戦力なんかになるもんかよ」

「成る程な」

「それにな、顧客の希望に沿うようにするなら絶対に事前準備はする。さっきみたいに発見して即動くなんて変なんだよ」


ルアンの言う事は間違っていない。女性と違い、男、特にスラムに住む様な奴の需要など、主な顧客である富裕層からすれば皆無に等しい。容姿が突出して良かったり、腕っ節が強いなどの要素が有ったりすれば話は別だ。しかし、ルアンにそれ等の理由は当てはまらない。確かにルアンの容姿は良いし、孤児のグループを纏めるリーダーの様な立場に居る。だが、それだけだ。人攫いがわざわざ狙う理由にしては弱い。

それなのに襲われた。それも計画的という訳でもなく、恐らく突発的に。


「何故だ……?」

「何か言ったか?」


コオリの呟きにルアンが反応するが、それは彼の耳には届かない。これはコオリの悪い癖だ。普段あまり考える事はないが、一度考え出すとコオリは周りが見えなくなる。

そして既に、コオリは思考の海へと意識を沈めていた。


(何でいきなり動いた?唯の考え無しの馬鹿共だったのか?)


「なあ、さっきの奴等って人攫いは素人だと思うか?」


最も楽観的な仮説を潰すべく、コオリはルアンにさっきの奴等について尋ねる。


「は?……いや、それは無いだろ。俺を囲んだ時の手際は良かったし、多分そっちの筋の人間だ。アンタは瞬殺してたけど、そこそこに腕も立ったと思うし。……それがどうした?」

「いや、何でも無い」


急に話を振られて間抜けな声を出すルアンだが、それでも直ぐにコオリの疑問に答えてくれた。


(その道のプロなら何でルアンを狙った?ルアンが標的だった?……いや、本人には全く憶えが無いみたいだし、違法奴隷を買う様な奴等がルアンを狙う意味が無いか。何より出会い頭に襲ってきたんだよな)


先程までの会話を思い出し、違和感の元を探っていく。それ等はやがてパズルのピースの如合わさって、徐々に一つの仮説が浮かび上がってきた。


(出会い頭……つまり突発的な誘拐。そして襲われたのはルアン、男だ。男の需要は少ないのに、何故攫おうとした?ニーズが有った?……いや、なら顧客の意向に沿った奴を探すのが普通なんだよな。それじゃあ突然襲われた理由が分からない。………いやまて。もしかして、理由が無いのか?)


「無差別って事か……?」

「おーい、聞いてるかー?」


(無差別。つまり偶々ルアンだった。偶然に男達が獲物を探していた所に出くわした。もしそうだと仮定して、ならば何故だ?何故に攫おうとした?……いや違う。何で攫うんだ?)


その手の人間が人を攫うのは需要があるからだ。しかし、需要が無い者を攫う理由は無い。奴隷はタダじゃ無い。これは買う方もそうだが売る方にも当てはまる。奴隷は人間だ。そして人間は生きるだけで金が掛かる。死体を売る訳にはいかないのだから当然だ。奴隷は高額な商品だが、それは売れたらの話なのだ。売れなければ穀潰し以外の何者でも無い。だからこそ、人攫いは需要の多い女性を攫う。確実に売って利益を得る為に。

なのに、さっきの奴等は男を狙った。売れるかどうかも分からないのに、わざわざ追い掛けてまでルアンを捕らえようとした。それはつまり、


(売る為に攫おうとした訳じゃない……?……もしそうだとして、他に人を攫う理由は?それも無差別、男だろうが関係無く攫う理由なんて………そうかっ!!)


閃いた。情報が少な過ぎる為に仮定の域を出る事は無いが、それでも信憑性は高そうな仮説が。


「人数集め」

「おお?いきなり顔上げてどした?」

「いや、もしかしたら分かったかもしれない」


不思議そうな視線を向けてくるルアンに、コオリは仮説が出来た事を告げる。その事に一瞬だけ驚愕するルアンだが、直ぐに表情を厳しくして食いついてきた。


「出来れば詳しく話してくれ。スラムで生活する身として、異常は見過ごす訳にはいかない。俺には仲間もいるし、情報は多い方が良い。例え間違っていたとしても、警戒するに越したことは無い」

「分かった。それでも仮説だって事は忘れるなよ?警戒し過ぎて視野が狭まったら意味が無い」

「分かってる」


あくまで仮説だという事を念押しし、コオリは言葉を続けた。


「俺が思うに、さっきの奴等は奴隷とかが目的でルアンを襲ってきた訳じゃないと思う」

「奴隷が目的じゃない?」

「そうだ。恐らくルアンが襲われたのは偶然。さっきの奴等からすれば、攫う人間なんて誰でも良かったんだと思う。偶々ルアンが一人でいて、攫い易い子供だったから襲われたんだ」

「……つまり、無差別って事か?けど、奴隷以外に人を攫う理由なんてあるのか?」

「目的は情報が少ないから分からん。けど、何故攫うのかは予測出来る。考えてもみろ。売る気も無いのに無差別で人を攫おうとするんだぞ?」

「……っあ!さっき言ってた人数集めか!!」


ルアンはしばらく黙考した後、分かった様に声を上げた。どうやら気付いたらしい。


「そういう事だ。多分、あの男達には何か目的が有って、それには多くの人間が必要なのかもしれない。あくまで仮説だがな」


仮説の話だとと念押しするコオリだが、その声は冷たい。もしこの仮説が正解だった場合、碌な事にならない可能性が高いと判断したからだ。何らかの薬の実験か、それとも儀式などの生贄か。ファンタジー系の創造物が溢る日本で育ったコオリには、多くの人を必要とする悪事が幾つも思い当たる。

ルアンはルアンで、仮説が正しかった時を想像して険しい顔をしていた。


「おいおい……。くそっ、もしそうだったとしたらマズイぞ。人数が必要なら、俺の仲間が狙われる可能性も有るって事じゃねーか」

「かもしれないな。ルアンを狙ってきたって事は、子供だろうが大人だろうが関係無いのかもしれない。むしろ、子供の方が必要なのかもしれない」


例え子供だけを狙っている訳じゃないとしても、大人と子供なら子供の方が遥かに攫い易い。孤児達が襲われる可能性は高いだろう。

ルアンもその考えに思い当たった様で、ガシガシと頭を掻いてコオリの方に向く。


「悪い。やっぱり隠れ家には案内出来ない。今から稼ぎに出た奴等に警戒する様言っておかないと」

「別に謝んないで良いさ。例え仮説が違っていても、物騒な事には変わりないんだ。警戒を促しておくのは悪い事じゃない。それより、助けはいるか?」

「……いや、大丈夫だ。出来ればあまり借りは作りたくない。アンタを信用してない訳じゃないが、スラムで借りを「ルアン兄っ!!」…ルウ?」


コオリの申し出を断ろうとしたルアンだったが、その台詞は幼い少女の叫びによって遮られた。

二人が声がした方向に顔を向けると、犬耳と尻尾を生やした少女が息を切らせて走ってきていた。

見覚えのある少女の姿にコオリは内心で頭を抱えるが、そんなコオリの様子にルアンは気付く事なく少女、ルウの元へと駆け寄った。


「ルウ、どうした?そんなに慌てて。何かあったのか?」


少し顔を合わせた程度にしかルウの事を知らないコオリだが、彼女の様子が尋常で無い事は見て取れた。

そしてルウの事を良く知るルアンは、彼女がここまで慌てる程の何かが起きた事を理解した。


「落ち着けルウ。そして何があったのかを正確に話すんだ」


ルアンの言葉には、子供とは思えぬ程の重さがあった。そこにあるのは一つのコミュニティを支える長の顔。その雰囲気に当てられてか、ルウも冷静さを取り戻す。


「隠れ家が、襲われた」

「なんだって!?」


小さな口から発せられた驚愕の事実に、二人は目を見開いた。


「あいつらはっ、皆は無事なのか!?」

「分からない。でも、襲われた時、誰も殺されてなかった。皆、捕まって連れ去られた」


殺された奴はいないと聞き、ホッとルアンは胸を撫で下ろした。

しかし、状況は悪い。隠れ家を襲撃したのはルアンを襲った奴等の仲間だろう。仮説は徐々に真実味を帯びてきた。


「なあ君、ルウちゃんだっけ?襲ってきたのはどんな奴等だった?」

「お前、誰だ?何でルアン兄と一緒にいる?」

「安心しろルウ。こいつは俺のダチだ」


コオリを見て警戒を露わにするルウだったが、ルアンの言葉を聞いて大人しくなる。

警戒が解けた所で、コオリは簡単な自己紹介をすふ。


「俺はコオリ。ルアンの友人で冒険者をしている。今回は偶々居合わせた。……それでルウちゃん。もう一度聞くけど、襲ってきたのはどんな奴等だった?」

「分からない。顔は隠してた。けど、黒の炎と鎖の印、それが肩に付いてた」


黒炎と鎖のマーク。手がかりになりそうなのはどうやらそれだけらしい。

何かの組織の旗印の様だが、異世界人のコオリには心当たりは無い。孤児であるルウも同じく、詳しい事は分からないそうだ。

しかし、ルアンだけは別だった。シンボルの話を聞いた途端、彼の顔色は青くなった。


「『リベオール教団』」

「何だって?」

「『鎖を焼き切る黒い炎』だ。ルウの言ってる印は、リベオール教団の旗印だ!!」


コオリは取り乱すルアンに詰め寄り、詳しい説明を求める。


「おいルアン!何をそんなに慌ててんだ。そのリベオール教団ってのは何なんだ?」

「……悪魔を信奉するイカれた狂信者の集団だ。くそっ、何でよりにもよって!」

「おいおい……マジかよ。ったく、何で嫌な想像程当たるんだ……」


ルアンの説明に、コオリは頭を抱えたくなった。狂信者、そして殺されずに攫われた子供達。どう考えても碌な事では無いだろう。

何より、こうもトラブルが舞い込んでくる事が嫌になる。ただでさえ異世界召喚やら何やらを経験し、少し前には龍モドキとの激闘を繰り広げているのだ。それなのに新たに舞い込んでくる厄介事。これはもう呪いと言っても差し支えないのでなかろうか。取り敢えず、この世界と地球の神をぶん殴ろうと心に決めた。

そんな風にコオリが新たに決意を固めていると、ルアンが頭を下げてきた。


「すまんが助けてくれ!さっきとは状況が変わった。もう俺みたいな孤児じゃ対処は出来ない。お願いだ、仲間を助けてくれ、コオリ!」

「ルウからも、お願いします……!」


真剣に頭を下げてくる二人を見て、コオリは静かにため息をつく。何気に初めて名前を呼ばれた気がするが、今はどうでも良いかと切り捨てた。


「ったく、厄介な事を頼みやがって」

「……っ!」


コオリの呟きにビクりと二人は肩を跳ねさせる。断られるとでも思ったのか、二人からは悲痛な雰囲気が伝わってきた。


「安心してくれ。断るつもりなんてないから」

「本当かっ!?」

「本当だよ。元々乗りかかった船だ。途中で降りる気は無いさ。………とは言え、俺もこういう状況は初めてでな。何すれば良いかなんて見当もつかないんだが」


殆どの事はこなせるであろうコオリだが、経験不足は否めない。今回の様な特殊な状況の場合、何を最初にするべきかすら分からないのだ。


「コオリはルウを連れてギルドに報告してくれ。現場に居合わせたルウの情報は多分必要だ」

「そりゃ構わないけど、ギルドは動くのか?言っちゃ悪いが、スラムの為に腰を上げるとは思えないんだけど」

「大丈夫だ。ギルドは絶対に動く。元々リベオール教団は特殊指名手配されてんだ。それに今回は完全にやらかした後だ。下手に放っておいて悪魔やら魔獣やらを召喚されてみろ。この街なんて一瞬で滅びるぞ」


魔獣というのは魔界に住む獣の事であり、魔界の住人である悪魔とはまた違った怪物だ。強靭な生命力と力を持ち、弱い個体でも天災級の魔物と同レベルの力を持つ。分かり易く言うと、一体一体が『堕者のダンジョン』のフロアマスターレベルという事だ。それに加え、数は少ないが悪魔と同格の力を持つ個体も存在するという。

そんな化け物が召喚された場合、テイレンどころか周辺の国々までが滅亡する。コオリの様な一部の例外を除き、魔獣や悪魔に対抗できる人間など皆無なのだから。


「……あれ?何気に大事じゃねコレ?」

「何気じゃなくて正真正銘の大事だ!」


今更ながら、自分がとんでもない事に巻き込まれている事に気付いたコオリ。そんなコオリにツッコミを入れながらも、ルアンはルウへと視線を合わせる。


「ルウ。お前は今からコオリと一緒にギルドに行ってくれ。そこで隠れ家で起きた事を詳しく話すんだ」

「……分かった。ルアン兄は、どうするの?」

「俺は稼ぎに出てる奴等を探す。その後はあいつらと情報収集をするつもりだ」

「……気をつけて」

「分かってる」


最後にルウの頭を撫でたルアンは、コオリに向き直ってもう一度頭を下げた。


「ルウを頼む。追手がいるかもしれないけど、どうか守ってやってくれ」

「安心しろ。危険な目に遭わせる事は絶対にしない。ルウちゃんは絶対に守るさ」


そう言って、ルアンと同じ様にコオリも彼女の頭を撫でる。すると、


「撫でる、な。後、ちゃん付けヤメろ」

「痛ってえ!?」


カブリと撫でてた手を齧られた。その様子にルアンは苦笑してルウの事を小突く。


「こら、ルウ。人の手は噛むな」

「………」

「……ルウ?」

「何でもない。……ゴメンなさい。でも、ちゃんは付けるな。ルウで良い」

「了解。(二度目だな噛まれたの)」

「何か言った?」

「いや、何でもない」


少しばかり緩い空気が流れたが、直ぐに全員が切り替える。


「さて、良い感じに緊張感も緩んだし。早速行動するぞ」

「ああ。気をつけろよルアン。お前まで捕まるなんてヘマするなよ」

「そりゃお互いにだろ。……じゃあ、行ってくる」


そう言って、ルアンは一人で駆け出した。彼の後ろ姿が見えなくなって、コオリ達も動きだす。


「行くぞ。ルウ」

「ん。護衛、よろしく」

「了解」


そして、事態は動き出す。

やっと動いた物語。話の展開に違和感を感じてもツッコミはいれないで。

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