第四話 原初の獣の反逆
ステータスが読みづらいかもしれません。
十月三十一
色々と修正しました。
2018年 10月5日
改稿作業終了
その瞬間、何かが変わった気がした。
だが、それは些事だと切り捨てる。今は人生最後の抵抗だ。順当に行けば一瞬で俺の命は終わる。余計な事に思考を割いている暇など無い。
今はただ、己の衝動の赴くままに行動しろ。
「うるぁぁぁぁ!!!」
咆哮とともに、最も近くにいたリッチーをメイスで殴り付ける。
そのリッチーは避ける必要もないとばかりに泰然としていたが、
「ーーー!!?」
メイスが頭蓋を砕いた瞬間、声なき悲鳴を上げて消滅した。
「っ、ん?」
予想外の手応えに、一瞬だけ思考が止まる。
その隙を見逃さず、デュラハンの一体が斬りかかってくる。それに続く形で、他のアンデッド達も動きだす。どうやら一体を葬った事で、警戒度を上げたらしい。
デュラハン達は我先にと殺到し、リッチー達は大魔法の行使を開始した。
これは不味い。何故か俺の攻撃は、ステータスに圧倒的な差がある筈のリッチーに通用するようだが、だからといって油断なく迫るデュラハン達の攻撃を捌くのは不可能だ。
(どうすれば良い!? どうすれば奴らの攻撃をかいくぐって、一体でも多くのリッチーを殺す事が出来る!?)
だが不可能であったとしても、俺の身体は動き続ける。先程誓ったから。魂が砕け散るその時まで、立ちはだかる運命に牙を突き立て続けるのだと。
だからだろう。俺の魂は、運命を噛みちぎり、世界を貪り、己を高める糧とした。
変化は唐突だった。
(ーー何だ?)
何故だか知らないが、世界が遅くなった。
殺到するデュラハンが、迫り来る剣撃が、全てがスローになる。最初に動いたデュラハンの剣が、俺の身体を切り裂かんとしていた。服に刃が食い込む瞬間すら認識出来る。
死ぬ間際に見るという走馬灯の類か? 死ぬ瞬間、なんとか助かろうと、脳が高速回転するというのをどっかで聞いた事がある気がする。
これがそうなのだろうか。取り敢えず、刃が肉に達する前に、後ろに下がって避けようとしてみる。
普通に出来た。
(これは違う)
動ける事で確信した。これは死に際の悪足掻きでは無い。では土壇場で時間操作系のユニークスキルでも目覚めた? それも違う。これはもっと単純な出来事だ。
(何故か知らんが、肉体性能がアップしているんだ)
デュラハンの剣が止まって見えるぐらい動体視力が上がり、速く動けるようになっただけ。
理由は不明だ。土壇場で覚醒したか、どっかの超常存在からチートを与えられたか、それとも命を削ってでの超強化か。
(だが、そんなのはどうでもいいな。取り敢えず、今はコイツらに対抗出来るってだけで十分だ)
強くなった理由は後回し。今はコイツらを殺す事が先決だ。
疑問は全て脇に置き、スローになった世界を等速で動き回る。取り敢えず攻撃を躱せるデュラハンよりも、魔法を使おうとしているリッチーの処理からだ。
デュラハン達の脇をすり抜け、殆ど止まった状態のリッチー達をメイスで殴る。やはり今回も、リッチー達は簡単にメイスで処理出来た。
(さて。これで今出ているリッチーは殲滅出来た。次はデュラハンなんだが……)
骨とローブの極薄装甲のリッチーと違い、動く甲冑であるデュラハンに、このメイスが通じるとは思えない。
阿呆みたいな数のリッチーを砕いてる内に気付いたのだが、手応えが魔物であるリッチーを殴ったというより、ただの骨を砕いているように感じるのだ。
なんというか、ステータスの耐久を無視して、素の耐久性でダメージ判定がなされているような……。
丁度、そんな謎現象を引き起こしそうな原因も思い当たる。【??ぎゃ?】という、覚醒途中のユニークスキルだ。あれは既にステータスが反映されないというクソ能力が発揮されていたが、これもしかして他人にも有効なんじゃねえの?
そうであれば色々と愉快な事になるのだが、詳しい検証は後だ。今はそういうものとして話を進めよう。
ステータスを無視出来るとして、デュラハン相手にメイスが通じるか? ……無理だな。骨なら鉄のメイスで砕くぐらい余裕だが、金属の甲冑相手にそんな事したらメイスの方がイきかねない。
(じゃあ強化された拳で殴るか? ……いや、敏捷性は馬鹿みたいに上がってるみたいだが、力の方は少ししか上がってない気がする)
メイスの持つ、金属特有のズシリとした重みが、単純な筋力はそこまで上昇していないと教えてくれる。
この程度の力で殴っても、ダメージは期待出来ないだろう。
(膠着か?)
速度はこっちの方が圧倒的に上。だがこっちの攻撃力ではデュラハン達の防御力は突破出来ない。状況は膠着したと言える。
(せめてもっと力があれば、奴らを始末出来るのに)
この身に起きた超強化が、腕力方面でも起こってくれれば話が早いのだが。
そう願った瞬間、またもや身体に異変が起きる。
(……メイスの重みが無くなった)
正確には、重さは変わっていない。ただ、持っていても爪楊枝程の負担すら感じなかった。
「……ハハっ、こりゃ良いな!」
くつくつと笑いが漏れる。なんとも都合のいい現象に、笑いが止まらない。
相変わらず強化された理由は不明だが、今回は2回目な分、どういったプロセスで強化されるのかは理解した。
強化された瞬間、身体の中の何かが消費された。最初は魔力かと思ったが、直ぐそれは違うと分かった。
俺も召喚されてから滅茶苦茶努力して、スキルこそ手に入れる事は出来なかったが、飲み水を作る魔法と汚れを落とす魔法をなんとか使えるようになっているのだ。俗に生活魔法と言われる超低級の魔法だが、それでも魔法である以上は魔力を消費する。魔力を使う感覚が分かるのだから、この超強化が魔力によってなされていない事は直ぐに判断出来た。
ではこの超強化に消費する何かは一体? それも直ぐに分かった。消費される何かと同質のエネルギーが、外部から俺へと流れ込んできたからだ。
その発生源は、先程砕いたリッチー達の残骸。奴らを構成していた存在としてのエネルギーが、この超強化の源であると直感的に理解した。
「さて。一体どんなもんか、ねっ!」
強化のプロセスが分かったところで、ものは試しとばかりにデュラハンを殴り飛ばす。
ーーゴガァァン!!!
凄まじい轟音が鳴り響いた。
殴られたデュラハンは、自らの後ろにいた全てを巻き込みながら壁へと激突していた。殴られたデュラハンも、巻き込まれたデュラハン達も、例外無く原型を留めていなかった。
「………は?」
つい、間の抜けた声が出る。あまりにも非現実的な光景に、誓いすら忘れて唖然とする。
デュラハン達が数十から数百mも離れた壁まで吹き飛んでいった光景も。巻き込まれたデュラハンを含め、その全てを一撃で葬り去ったその事実も。
全て、俺自身が成した事なのだ。
(……これは流石に確認した方がいいな)
新たなエネルギーが身体に流れ込むのを感じながら、この力に対する認識を改める。
今までは余裕が無かった為に先送りにしていたが、既にこの場の脅威は存在しなくなった。
未だにアンデッドは湧いてきているが、それすら容易く殲滅出来る。
ならば、生まれた余裕は、この力の為に割くべきだろう。
「取り敢えず、ステータス」
====================
クスのきコオり
称号:[hbnkgg]
種族:人間????
体力-W-W-W
力(゜ω゜)
筋(・☆?!?
耐性:、?!。。?
5カdgn捷:
器用kkkkkkkkkk
スキ?
ユニークスキル
【反逆】 世界の理を跳ね除ける意思の力。抗う心がある限り、如何なる存在であろうと縛り付ける事は出来ない。
【原初の獣】 カミ スラ オソレタ ケモノ ノ タマシイ ゲンショ ノ ケモノ 八 アマタ ノ イノチ ヲ カテ ト スル
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「バグってるじゃねえか!」
いつの間にか、ステータスが逝っていた。いや、確かに元々ステータスは反映されてなかったけども。それでも一応、ステータスの体は成していたんだぞ。それがバグるとか、色々と心配になってくるんだが……。
「……いや、考え直そう。元々当てにしてなかったんだ。表記がバグったところで問題無い。幸い理由も目星はつくし」
ステータスがバグったのは、恐らく【反逆】が原因だろう。世界の理すら跳ね除けるってあるし。ステータスの無視もこの力が働いてたっぽいな。
ユニークスキルの項目だけ無事なのは、俺の不利益になっていないからか? 文面的に考えると、抗おうと思った事限定で跳ね除ける力だと思われる。というかそうじゃないと困るわ。無差別に、例えば物理法則を跳ね除けたら逆にヤバい。
ただ、一部分だけ無効化が出来る程、都合の良い能力とは思えないんだよなぁ。最初から俺のステータスとか無効化されてるし。
「……もしかしたら、ユニークスキルの項目自体、ステータスとはシステムが独立してるのかもしれないな。数値による補正を与えるというより、魂由来の力を文章化させてるだけらしいし」
なんとなくそんな気がする。【反逆】は変な部分で融通が利かなそうだし、元々別物だと考えればしっくりくる。
まあ、目覚めたばかりの能力だ。時間を掛けて検証していけば良いだろう。
というか、検証の余地があるだけマシだ。
「【原初の獣】に関してはマジで解らん……」
なんかもう、コイツだけ毛色が違う気配がビンビンする。説明らしい説明は無えし、そもそも表記からしてカタコトだし。
カテ……糧か? 命を糧とするってあるから、多分これが超強化の原因だと思われる。
何かを倒す事で獲られる正体不明の存在エネルギー(似たようなものだから今後は経験値と呼ぶ)を獲得し、その経験値を消費する事で任意の能力(恐らく素のスペックに関する部分限定)を永続的に強化する。それが【原初の獣】の能力だと思われる。
だがそれ以上が解らん。明らかに他に何かありそうだが、その何かが全く予想がつかないのだ。
「……ただ、絶対に碌でもないよなぁ」
神云々とあるし、その辺りの存在が関わってきそうだ。すげえ怖い。
だからと言って、今の俺に何か出来る訳でもないのだが。
「……取り敢えず、何が来てもどうにかなるぐらい強くなった方がいいな」
それが最低条件だろう。どんな理不尽も、不条理も跳ね除けられるぐらい力をつける。全ては力があってこそ。それがなければ話にならない。
「んじゃ、経験値を貯めるかぁ」
幸いな事に、今いるのはモンスターハウス。一度殲滅して尚、魔法陣からはアンデッド達が降り注いでいる。
経験値を貯める絶好の場所と言えるだろう。
既に立場は逆転している。【原初の獣】と【反逆】によって、侵入者を殺すトラップは、俺の為の狩場と化した。
「いくぞオラァァ!!」
さあ、狩りの時間だ。この俺の糧となれ、アンデッド!