第四十六 会いたい理由
三人称が難しく感じる今日この頃。
後、現在の作者は、異形達を育てて捕まえるゲーム(青)の魔力に捕らわれています。
誤字脱字の可能性大です。
編集完了!!
暗い、それが多くの人々の感想だ。淀んだ空気が充満するこの地域は、街の住人達は疎か、冒険者ですら避けて通る程だ。それ故にマトモな人間はこの地域に寄り付かず、後ろ暗い者達の巣窟となっていた。そんな人間達が集まれば、必然的に犯罪が増える。人攫い、強姦、殺人など、大小様々な犯罪が蔓延るこの地域を、人々はスラム街と呼んだ。
「にしても、治安悪過ぎだろここ……」
スラムにある建物の一つ。その屋根の上に立つ少年は、眼下の路地を眺めながらそう呟いた。少年の名はコオリ。異世界から召喚された異世界人であり、既に死亡したとされる勇者の一人である。
そんなある意味後ろ暗い過去を持つコオリだが、スラムに居るのはちゃんと理由がある。孤児の知り合いである少年、ルアンに会いに来たのだ。
「ルアンは………向こうか。さて、ちょっと目立つけど、このまま移動するか」
探知系の魔法を使ってルアンの位置を把握したコオリは、建物の屋根を伝って移動を開始した。
移動の際、地面に降りる事はしない。何故なら、コオリが居るのはスラムだからだ。さっきも説明したが、スラムは治安が悪い。そんな場所を、この世界では小柄とされる身長しかない人間が一人で歩けばどうなるだろう。
答えは勿論、絡まれる。
それもそうだろう。最強種に近しい力を持つコオリでも、外見上は完全に唯の子供である。持っている武器もショートソードの一本だけ。何も知らないならず者から見れば、はっきり言ってカモ以外の何者でもない。
その事実を証明するかの様に、コオリは既に
数回、人数にして十人以上の人間に絡まれている。それもスラムに入って十分もしない内にだ。
絡んできた人間は漏れなく叩きのめしたが、これではルアンに会う所では無い。ゴロツキ程度なら何人居ても一瞬で沈める事が出来るが、それでも何回も絡まれれば時間が掛かるし、何より手間だ。面倒な事を嫌うコオリとしては、何度も絡まれるのは遠慮したかった。
そうして思いついたのが、屋根の上を移動する事だったのだ。
「流石にコレなら絡まれんだろ」
如何にゴロツキと言えど、屋根の上を歩いてる相手にわざわざ絡む事は無い。仮に絡んでくる馬鹿が居たとしても、登ってくる頃には遠くの建物の屋根の上。逃げる事も容易い。直線距離で移動出来る事も利点だろう。欠点は目立つ事だが、そこは流石のファンタジー。地球と違いこの世界、特にスラムの様な地域では、人間が屋根伝いに移動する事は頻繁にでは無いが起こりうる。そしてそういう時は、スラムの住人達の殆どが見て見ぬ振りをする。暗殺、逃亡、戦闘など、特殊な移動方をする者達は必ずと言って良い程に何かをやっているからだ。危険に敏感なスラムの住人達は、そんな事には近づかない。触らぬ神に祟りなし、これがスラムの住人達の暗黙の了解である。
これ等の事を考えれば、コオリの取った手段は最善手と言って良いかもしれない。
「……この辺りに居る筈だが……」
少し時間が経つと、コオリはルアンが居るであろう場所の近くまで来ていた。屋根の上から辺りを見下ろし、ルアンの姿を探す。
暫く視線を彷徨わせていると、お目当ての人物を発見する。
物陰に隠れる様に立っているルアンを見て、ニヤリと笑みを浮かべるコオリ。
「せー、のっ!」
掛け声と共に屋根を踏み締め、跳躍。ルアンの死角となる位置の真上まで跳び、そのまま落下する。
「見ぃつけた〜」
「うわぁぁぁっ?!?!」
いきなり死角から声を掛けられ跳び上がるルアン。驚きから転がる様に距離を取ろうとするが、声を掛けてきた人物の姿を見るなり
「……へ?」
間抜けな声を上げた。
「くっくっく。声を掛けるなり悲鳴を上げるとは、随分とご挨拶じゃないかルアン」
「……んだよ。アンタかよ……」
悪戯を成功させた悪童の様な顔で笑うコオリを見て、ルアンはヘナヘナ座り込んだ。
「ん?どした、腰でも抜けたか?」
「んな訳ねーだろ!安心して力が抜けただけだ!大体、驚かした張本人が何をいけしゃあしゃあと」
『オイ、こっちだ!あのガキの声がしたぞ!』
コオリに文句を言おうと詰め寄ったルアンだが、何処からか聞こえてきた男達の声によって遮られた。
「ッチ!見つかったか!?」
「……何だ、追われてるのか?」
「そうだよ!折角撒けてたのにどうしてくれんだ!?くそったれ!」
どうやらルアンは『物陰に隠れる様に』ではなく、実際に隠れていたらしい。そんな状況でコオリはルアンを驚かした様で、非難の言葉を浴びせられた。
これにはコオリも頭を掻くしかない。全面的に彼に非が有るのだから。
「あー、悪い。タイミング悪かったか」
「悪いじゃねえよ!くそっ、コッチだ。早く逃げるぞ!」
そう言って、コオリの手を引いて逃げ様とするルアン。非難をしていてもコオリの事を見捨て様としない辺り、彼が根は優しい人間だと伺わせた。
そんな真っ直ぐな姿を見せられては、そう思ったコオリは、ルアンの手を振り払う。
「なっ!?オイ、何してんだ!早くこい!」
「いや、いいさ。悪いの俺だし。だから」
「見つけたぞガキ!!」
何する気だと、そうルアンが叫ぶよりも早く。現れた六人の男達の懐へと、コオリは沈み込む様に身を低くして移動して、一番近くに居た男の顎をアッパーカットでカチ上げた。そのままコオリは止まる事無く、カチ上げられて宙に浮いた男を掴んで未だに反応すら出来ていない男二人へとぶん投げる。標的となった男達は、投げられた男を受け止める事が出来ずに壁へと激突した。これで三人が沈む。残り三人。
「な、何だてめ」
やっと攻撃されている事が理解出来たらしく、残った男達はコオリに向かって罵声を浴びせようとする。
しかし、既にそこにはコオリは居ない。
男達が声を張り上げようとしていた時には、コオリは男二人の間をすり抜けていた。そして、自分から最も遠い位置に居た男へ肉薄し、無防備な土手っ腹に拳を叩き込む。ドスン、と重い音が男を貫き、白目を剥いて倒れ込む。コオリはその光景には目もくれずに身体を回転。後ろに居る男の首に裏拳を喰らわせ、更にその反動を利用して回し蹴りを放ち、残った最後の男を吹き飛ばした。
「悪いね。別にアンタ達には恨みは無いけど、取り敢えず眠っといてくれ」
六人の男を瞬く間に沈めたコオリは、そう呟いてルアンの方へと視線を向けた。
「まあこんな感じで、さっきの完全に俺のミスだし、自分で尻拭いさせて貰ったぞ」
当のルアンは、目の前で起きた光景が信じられずあんぐりと口を開けていた。
「……あ、アンタ、こんなに強かったのか?」
「まあ、あの程度のゴロツキなら軽く一蹴出来るぐらいには強いぞ」
言外に、あの程度の事は大した事では無いと言い切るコオリ。
そんな彼の態度を見て、ルアンの背中を冷たい汗が伝う。さっきの戦闘とも呼べない光景を見た事により、自分が相当の実力者相手に盗みを働いた事を思い知ったからだ。スリの対象がコオリだったから良かったものの、そうじゃなかった場合を考えると悪寒が走る。もし、彼と同レベルの相手に盗みを働いた場合、ルアンには成功のイメージが一切湧かない。湧くのは失敗と負傷、そして死だ。良くてボロボロ、悪くて死亡。最悪の場合は奴隷に堕とされ生き地獄。過去の自分がどれ程危ない橋を渡っていたのか、ルアンは己の迂闊さを呪いたくなった。
「初めて、アンタがアンタで良かったと思ったよ」
「何だそりゃ」
訳が分からないという顔をするコオリ。それに苦笑しながら、ルアンは気持ちを切り替える。
「それで、俺に何の用だ?わざわざスラムまで来て」
「ん?前に言っただろ。予定決まったら教えに行くって」
「……それだけか?」
「それ以外に何がある?」
当然といった態度のコオリに、ルアンは呆れてしまう。
「アンタ馬鹿だろ?」
「おい、何故いきなり馬鹿呼ばわりされなにゃならんのだ」
「いやいやいや、俺みたいなの相手に約束守ってる時点で馬鹿だよ!俺はスラムだぞ?」
「それがどうした?約束は約束だろうが」
「それが馬鹿だって言ってんだ」
スラムの住人相手に約束を守る者などいない。これがルアンの中での常識だ。街の住人達はスラムの人間を煙たがる物だ。中には良心的な人間も居るには居るが、それは極小数である。スラムの住人なんて論外だ。その日暮らしの彼等の場合、約束を守るよりも騙してを利用した方が利益になる。相手を余程信頼しているか、孤児達の様に必要に迫られたり、敵対しては不味い相手では無い限り、スラムの住人達は約束や協力などは行わない。
実際、ルアンもコオリの言葉など信じてなかった。食べ物を提供するなど、リップサービス程度にしか思ってなかった。
「はっきり言って、アンタは変だ。俺みたいな奴を煙たがらない人間なら居るけど、アンタみたいに世話を焼いてくる奴なんていない。馬鹿みたいなお人好しって訳でもなさそうだし、一体何が目的だ?」
自分の感じた疑問を、ルアンは取り繕う事無くコオリにぶつける。しかし、そのキツイ物言いに反して警戒する雰囲気は無い。
本来、スラムで何か行動を起こしている相手に目的を聞くなど、警戒して然るべき場面だ。相手が何か後ろ暗い事をしてた場合、口封じとして始末される可能性が高いからだ。しかし、ルアンはコオリに警戒心は抱いてなかった。既に彼は、コオリの事をある程度なら信頼出来ると判断していたからである。
育ってきた環境故か、ルアンは人を見る目には自信が有った。そんな彼から見て、目の前に居る少年は何かを企む様な人間には見えない。むしろ、企み事など面倒だと感じそうに見えた。
そして、だからこそ気になった。何か企む事もせず、お人好しという訳でも無い人間が、何故自分に世話を焼くのかという事が。
そんなルアンの内心には気づかないで、コオリは何の気も無しに呟いた。
「目的……ねえ。……うん、特に無いな」
「は?」
「目的なんて無いって言ったんだ。ただ単に、ルアンとその仲間達に興味が湧いた。それだけだ。強いて言うなら、お前の仲間に会うのが目的……かな?」
「……んだよそりゃ……」
呆れ過ぎて言葉が出ない。ルアンの心境を言葉にするならこれだ。
「アンタ馬鹿だろ!そんな事の為だけに世話焼いてんのか!?」
「ああ。けど、しょうがないだろ?気になったんだから」
「アホか……。アンタ、馬鹿とか自由過ぎるとか言われた事あるか?」
「良く言われるな。自覚も有る」
「断言する事じゃねえよ……」
頭を抱えるルアンを見て、コオリはつい苦笑する。頭の中では、ルアンの反応が正しいのだろうと思っていた。
この世界の住人の場合、スラムの住人は好ましく無い存在だ。犯罪を犯し、何かとトラブルを起こす人間など厄介者以外の何者でも無い。一般区画までやってきて盗みを働く孤児だと、住人の反応は更に顕著だ。石を投げられ、住人達から袋叩きにされ、最悪の場合は殺される。力の弱い孤児達は、満足に抵抗する事も出来ない場合が多い。スラムの孤児達はこの世界のカーストの最底辺の一歩手前、奴隷よりはマシ程度というのが、住人達の認識であった。
しかし、コオリの認識は違った。異世界から召喚された彼にとって、自らも弱者でありながら、より幼い子供を養うルアンとその仲間達はとても美しく見えた。どんな事をしても生き延びようとするその気概が、力を持たない身で運命に抗おうとするその覚悟が、とても尊い物に思えたのだ。
「俺は気になるんだよ。お前みたいな歳の子に、何がそこまでさせるのか。お前みたいな男が、自らの身を削ってまで守ろうとする子供達が。お前とお前の仲間達は、何で繋がっているのかが」
コオリはこの世界に召喚されて、力と愛する人を得た。今までの人生は一変し、自らの意思で切り開く事が可能になった。しかし、それ故に戸惑った。人を殺し、魔物を殺し、紛い物とは言え龍すらも屠ったコオリだが、彼はまだ子供だ。彼に宿った力は、一人の少年が背負うにはあまりに分不相応だ。
「俺は温室育ちだから、どうも臆病でな。だからさ、ルアンみたいな奴を見ておきたいんだよ」
コオリには覚悟がある。自分とライラを守る為なら、敵対者には情けを掛けずに殺戮する覚悟があった。そしてそれとは逆に、自分の強大な力の所為で、仲の良い人々の人生が狂うかもしれない事を恐れていた。
だからこそ学びたいのだ。ルアンと彼の仲間に会う事によって、彼等の覚悟をその目で確かめたかった。彼等の様に、自らの中に確固たる覚悟を作りたかったのだ。
「……やっぱり、アンタは馬鹿だよ。俺達みたいなのを見たって、学ぶ事なんて無いのに」
「別に良いさ。何を学ぶかは自分で見つける」
「アレだな。馬鹿は馬鹿でも、アンタは考え無しの馬鹿だ」
「どういう意味だこの野郎」
笑顔で罵倒をしてくるルアンに、コオリはジト目で彼を睨む。しかし、睨まれた本人はどこ吹く風だ。
「けどまあ、嫌いじゃねーよ。アンタみたいな人間は」
「………そりゃあどうも」
今までの雰囲気とは打って変わり、ルアンは子供の様に無邪気に笑う。
コオリはその姿に面食らうが、肩を竦めて苦笑したのだった。
小説を書いてる時に自分が凄い中二病を患ってる気がする。
そして、話が中々進まない。後半に差し掛かってる筈なのに、どうしても回り道……。
ごめんなさい。




