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第四十三 攫われた人達

来週から所用で更新が途絶えます。十二月ちょいぐらいでまた更新開始する予定です。




書いて直ぐに投稿したので、誤字脱字の可能性大です。



「………ふう。終わったな」


謎の男達を倒し、盗賊の残党も全滅させ、コオリは一息ついた。内心では、日本にいた頃よりかなり変わってしまった自分に溜息を吐いていた。イジメを受けていた筈の人間が、異世界にきてからは盗賊達を虐殺しているのだ。事実は小説よりも奇なり、とは良く言ったものである。


「あー、流石に暴れ過ぎたか。返り血かなり付いちゃってんな………」


改めてコオリは己の事を見てみるが、その姿はかなり悲惨な事になっていた。乱戦になって気を配るのを止めた為、全身に返り血を浴びていた。元々赤黒い色をしていた《揺らぎのレインコート》も、今では返り血で真っ赤になっている。所々には臓物と思われる物体も付着していた。


「うえ………」


殺人などには慣れたコオリだが、流石にこれは気持ち悪い。全身に鳥肌を立て、急いで身体を綺麗にする為の魔法を使う。

使うのは生活魔法 《クリーン》。汚れなどを落とす魔法だ。これにより、コオリの身体が一瞬だけ緑色の光が包み、光が消えた時には汚れ一つ無い姿に変わっていた。

コオリの使った生活魔法というのは、文字通り生活を便利にする為の魔法である。《クリーン》の他にも、濡れた物を乾かす《ドライ》、明かりを生み出す《ライト》など、便利な魔法が殆どだ。とは言え、こんな便利なスキルも魔法系スキルの括りに入る為、持っている人間はそこまで多くない。ちゃんと実用出来るレベルの生活魔法だと、貴族などに召し抱えられてる場合も少なくなかったりする。


「やっぱ便利だな、生活魔法は」


汚れを落とした事によって、両手に縄が掛かる事確実な姿から、不気味なレインコートを着た男にクラスチェンジしたコオリ。装備の都合上、どっちにしろ怪しいという面では大して変わらないのは仕方のない事だろう。………どちらにせよ、他人から見れば靄を纏った人型なのだが。

兎も角、少なからず不快感は消えたので良しとする。


「………さて、次は救出かな」


ショートソードを鞘に戻し、攫われた人達が閉じ込められていると思われる扉に視線を向ける。居住スペースの奥にあるその扉は、脱走などを警戒しての事か、今までの簡素な作りに比べ、金属で出来たがっしりとした作りになっていた。扉に近づき、奥にいるであろう人物達の気配を探る。流石に、さっきの騒ぎには気付いているらしく、僅かな怯えと緊張が扉越しから伝わってきた。

刺激しない様にドアノブに手を掛けるが、どうやら鍵が掛かっている様で扉は開かない。


「っち、面倒な」


舌打ちを一つしてコオリはぼやく。既に辺りは血の海と化し、乱戦によって物が散乱している状態だ。そんな中で、何処にあるかも分からない鍵を探すなど、面倒としか言いようがない。

ガシガシと頭を掻きながら、どうしたものかと思案するコオリ。暫く考えて出した決断は、余り派手な音を立てない様に扉を破壊する事だった。


「フッ」


ショートソードを再び鞘から出し、短い呼気と共に一閃。扉は金具の部分を切り裂かれ、枠に填っているだけの状態となる。ドアノブを引っ張り、コオリの方に向かって倒れてくる扉を受け止め、音を立てない様に地面に置く。


「え………?」


すると、奥から戸惑った様な声が聞こえてきた。それは扉の予想外な開き方に驚いたのか、それとも認識阻害の掛かったコオリの姿に驚いたのか。

奥にいたのは女性三人と男性一人。冒険者らしき恰好の二十代前半と思われる男女に、薄汚れた恰好の十代前半と思われる少女、イヌ科と思われる耳と尻尾を持った獣人の幼女だった。

四人は盗賊達がわざわざ填めたであろう鉄格子の奥で、鎖に繋がれ身動きが取れない様にされていた。


「あ、あなたは………?」


恐る恐るといった様子で、冒険者風の女性が聞いてくる。身動きが出来無い状態でも警戒の姿勢を取る辺り、やはり戦闘経験者なのだろう。隣を見れば、男性の方も同じ様に警戒していた。もしかしたら、彼等は同じパーティを組んでいたのかもしれない。

そんな事を考えながら、コオリは女性の質問に答える。念の為に、口調を普段のものから堅いものに変えておく。


「一応、攫われた人達を助けにきた者だ。安心してくれ。盗賊団の方は全滅させた」

「嘘、全滅………!?」


女性はコオリの言葉を聞いて驚愕の声を上げた。男性も目を丸くしている事から、言葉に出していないが同様の心境みたいだ。

確かに、さっきの盗賊団の武力は目を見張る物がある。あの男達は言うに及ばず、元中級上位冒険者であった頭目のラッシア、練度は低いが二十人以上の部下達。何人もの実力者と、多少なりとも数の暴力を行える人数を併せ持った盗賊団の武力は、決して甘く見れるものではない。コオリだからこそ容易く全滅出来たが、これが冒険者ギルドの討伐依頼だったら大量の被害者が出ただろう。彼等はそれ程までに危険な盗賊団だったのだ。


「あんた、一体何者なんだ?………もしかして、冒険者ギルドの関係者か?」

「違う。俺があなた達を助けにきたのはギルドの依頼じゃない。偶然この盗賊団の事を知ったから動いただけだ」

「偶然知ったから………?」


コオリの返答に目をパチクリとさせる男性。どうやら予想外だったらしい。


「えっと、つまり偶々?」

「そういう事だ。見捨てるのも寝覚めが悪い、だから助けた」

「運が良かったって事か………」


気が抜けたのか脱力気味で男性が呟いたのを聞きながら、コオリはショートソードを振るって鉄格子をバラバラに切り裂いた。


「そんな変哲も無さそうなショートソードで切るとか………。あんた本当に何者だ?」

「別に何者でも良いだろう?どうせこれ以上会う事も無い」

「いや、そうなんだが………。出来れば名前だけでも教えてくれないか?ギルドに報告とかもしなくちゃならんし」


盗賊団に捕まっていた事をギルドに話せば、必然的にどうやって助かったかも話す事になる。今回の盗賊団の規模を考えると、正体不明の実力者で通すのは流石に難しいと男性は言う。


「………見て分かると思うが、俺は姿を誤魔化してる。余り目立つ様な事はしたくないんだ」

「まあ、そうだろうな」


他人から見れば、コオリの姿は靄が掛かった人型だ。姿を隠している事など一目瞭然だろう。それを分かって尚聞いてくる男性に、少しコオリは考えてから口を開いた。


「………そうだな。だったらこう名乗っておこう。俺は【ハーミット】だ」

「………それ、絶対に偽名だろう………」

「構わないだろう。あなたが必要としてるのは俺が名乗ったって事実なのだから」


詭弁を堂々と言い放ち、男性は呆れながらも頷いた。


「はあ………。まあ、命の恩人の隠し事を聞き出すのも失礼か。分かった、ギルドにはそう言っておく」

「そうしてくれ」


男が納得したのを確認して、コオリは二人の鎖を壊す。


「お、助かった。これでやっと自由だ」

「ありがとうございます。えっと、ハーミットさん」

「ああ。俺は後の二人もやっておくから、二人は盗賊達の指でも取っておいてくれ。報告する時の助けにもなるだろうしな」

「分かった。行こう、マリア」

「そうね、エルク」


二人の男女、マリアとエルクはコオリの言葉に頷いてから、居住スペースに向かっていった。その際、居住スペースの惨状を見て「うお!?」とか「うわあ………」といった声を上げていた。

そんな二人の声を聞き流し、コオリは二人の女の子(片方は幼女)の方に向かう。少女の方はコオリが近づくと僅かに身体をビクつかせ、獣人の幼女は弱々しくも睨みつけてくる。


「大丈夫か?」

「あ、えっと、はい………」

「取り敢えず、鎖を外そうか」


マリアとエルクにしたのと同様に、剣を使って鎖を壊す。すると、獣人の幼女が少女とコオリの間に入りこみ、グルルと喉を鳴らして威嚇してきた。


「シル姉に、変な事したら、許さない………!」

「こ、こらルウ!そんな事言っちゃダメ!」


シル姉と呼ばれた少女は、いきなりそんな事を言い出した幼女、ルウを抱き寄せながら凄い勢いで謝罪してくる。先程までの戦闘音と認識阻害の姿によって、シルはかなり怯えている様だ。機嫌を損ねたら何をされるか分からない、そう考えているのだろう。


「そう怯えるな。別に怒ってなどいないから」

「ほ、本当ですか………?」

「ああ。………ついでに言うと、この姿は素性がバレない様に誤魔化しているだけであって、本来の姿は普通の人間だからな?」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。だから安心してくれ」


怯えるシルに認識阻害の理由を話し、少しでも警戒心を解こうとするコオリ。その目論見は一応は成功した様で、シルはコオリの姿を見てビクつく事は無くなった。


「………だから、君もそう威嚇しないでくれると有難いのだが」

「うるさい。まだ、あなたが変な事を、しないとは限らない」

「………威勢が良いのは結構だが、それだと身体に障るぞ?」


さっきからルウは肩で息をしていた。原因は恐らく衰弱だろう。よく見れば身体がやつれているし、顔色も良くない。攫われてからまともな食料を与えられていない様だ。シルの方も、ルウ程では無いが似た様な感じになっていた。


(こりゃあ、放っとくのはマズイかもな)


盗賊から助けたとしても、このままいけばルウの方は衰弱死してしまう。彼女の出で立ちはかなり貧相だ。汚れている事もそう感じさせる一因となっているが、継ぎ接ぎと穴が大量にあるその服装は、彼女が裕福な家の出では無い事が伺えた。街に戻っても、満足に栄養を取れない事が容易に想像出来る。

折角助けたのにそれだと本末転倒だ。その為、コオリは一度レインコートの中に手を突っ込み、周りにバレない様に《ストレージ》を発動させた。ストレージから取り出したのは水と干し肉だった。本当ならば栄養価の高い物を与えなければならないが、コオリ達がいるのは盗賊団のアジトだ。食事など作れる環境じゃない。


「ほら、これを食べなさい。まともに食べてないみたいだから、本当は軽い物を渡したいのだけど生憎とこんな場所だ。我慢してくれ。犬獣人の君なら大丈夫だと思うが」

「違う。犬じゃない、狼、だ」

「そうか、それは悪かったな。………そっちの君の分もあるから、ほら。食べなさい」

「ふえ!?あ、ありがとうございます」


こっそりとお腹を抑えていたシルに向かって、コオリはルウと同じ物を渡す。見られてるとは思ってなかったみたいで、シルは羞恥で顔を赤くしていた。そして、おずおずと干し肉を口にする。

ルウの方は、渡された干し肉に変な物が入ってないかと警していたが、久しぶりのまともな食料だ。直ぐに堪えきれなくなり、干し肉に噛り付いた。

二人が食べたのは殆ど同時だった。


「「!?!!!?」」


咀嚼した瞬間に二人は驚愕に目を見開き、我慢ならんとばかりにガツガツと食べ始めた。長らく食べてない為に胃が弱っている筈なのに、二人は瞬く間に干し肉を平らげてしまった。ルウに至っては、ボリュームがかなり有った筈なのに、干し肉をもっとくれと視線で訴えてきた。

何故ここまで劇的な反応がするかというと、実はこの干し肉、コオリのお手製なのだ。

ダンジョンを探索していた頃、材料が手に入ったので保存食でも作ってみようと思いたち、出来上がったのがストレージ内の干し肉だ。ストレージ内は時間経過が無いので保存食を作る意味も無いのだが、街などで人と関わる様になった時、保存食を持って無いのは怪しまれると考えたのだ。作ってみたいという願望も多分に含まれていたが。

そして干し肉だが、これは言うなればコオリ自らが加工した料理である。それはつまり、料理スキルの補正を受けるという事であり、コオリの作った干し肉は保存食でありながら、最高級の肉を凌ぐ旨味を秘めているのだ。


「………そんな一気に食べると身体に悪いから、後一つだけだぞ」

「………むう、しょうがない」

「わたしはもうお腹いっぱいです」


ルウの視線に負け、新たにもう一つの干し肉を渡すコオリ。シルの方はちゃんと一つで足りた様だった。


「………人が死体から指を捥いでる間に、何で食事が始まってんだよ」


ルウが二つ目の干し肉を食べ終え様とした所で、エルクとマリアが戻ってきた。


「攫われてまともに食べてなかったみたいだからな。簡単な物を食べさせてた」

「………一応、俺達も攫われてたんだが」

「大人と子供の体力が一緒な訳がないだろう。それに、見た感じだとあなた達の方が後に捕まってたみたいだしな。優先度が違う」

「………何故そんな事が分かるんだ?ハーミット」


コオリの予測を聞いて眉を顰めるエルク。コオリの予測は正しかったが、盗賊の関係者じゃなければ知らない事実だ。そう考え、再びエルクとマリアは警戒体勢をとる。だが、コオリの応えは予想に反して軽い物だった。


「そんなもの、服の汚れ具合とかを見れば分かる」

「………本当か?」

「ああ。それにあなた達はあまり衰弱した様子もないからな、攫われて三日も経ってないんじゃないか?」

「………確かにその通りだが」

「観察眼は大事だぞ。良く磨いておいた方良い」


コオリの言葉に、そんなものかと納得するエルク。その後、話し合いをして盗賊達の指はエルクに預ける事になった。賞金とかはどうするのだと聞かれたが、詰所に行く気がないコオリとしては、指など持ってるだけ邪魔なだけだと断った。


「さて、それじゃあテイレンに向かおう。一応、門の前までは送っていく」

「助かる。はっきり言って、今の俺達に戦える余力は無いからな」

「お願いします。ハーミットさん」


二人の言葉に頷いた後、コオリはルウを抱き上げ肩に担いだ。


「な、何を………!?」

「大人しくしろ。ここからテイレンまでは子供の足だと遠い。衰弱してるなら尚更だ」

「る、ルウは獣人、だから大丈夫。背負うなら、シル姉を、背負え」

「分かってる。あの娘も歩かせる様な事はしない。エルクが背負う」

「俺かよ!?いや、背負うけども。……それより、片手が塞がって大丈夫なのか?」


ルウを担ぐ事によって戦闘力が低下しないのか、エルクはそれが疑問だった。マリアも同じ気持ちらしく、だったら自分が背負いますと申し出てきた。


「問題無い。片手が空いてればこの辺りの魔物なんてどうとでもなる。盗賊に関しても同じだ。まあ、一番大きな盗賊団を全滅させたばっかりだ。襲われる事も無いだろう」

「そ、そうか」


あっさり問題無いと断言するコオリにエルクは驚くが、さっきまでの盗賊達の死体を思い出し、こいつなら大丈夫かと思い直した。


「それより、この格好を、なんとかしろ………!」


すると、肩に担がれているルウが暴れ出した。どうやら体勢が気に入らないらしく、コオリの腕にガブリと噛み付いて意義を唱えだした。


「おわ!?あー、分かったから噛み付くな!今変えてやるから、ほら、首に手を回せ」

「………この格好も、なんかヤダ」

「文句言うな。これ以外だと両手が塞がる」


結局、ルウがコオリの首に手を回してぶら下がった様な状態となり、それをコオリが片手で支える体勢で落ち着いた。


「それじゃあ、戻るぞ」


こうして、盗賊達に攫われていた四人は、コオリによって門の近くまで無事に送られた。

ハーミット、作中でコオリはそう名乗ってますが、最初の段階だとスケープゴートとかアンノウンでした。………どっちにしろ中二っぽいけど。


それにしても、獣人が始めて出てきました。ルウちゃん十才です。


訂正

肩に担がれているエルク→肩に担がれているルウ。


起きたら大量のツッコミが入っててびっくりしました。





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