第四十一 襲撃準備
予想以上に長くなったので分割する事になりました。
本題よりも余談の方が長くなってしまう今日この頃。うまい具合に話を圧縮出来ないものだろうか………。
誤字脱字してたらすいません。
日が落ちて、時刻は夜。宿の部屋の中で、コオリは着替えを行っていた。
コオリが普段着ているのは、みすぼらしい見た目の黒いコートに少しダボっとした布の服だ。しかし、これらの服は見た目とは裏腹に性能は凄まじい。全てが『堕者のダンジョン』にいた魔物の素材を使ったコオリのハンドメイドだからだ。素材の全てが高位の魔物から採れた物であり、それ等を神の域と呼ばれる最高レベルの生産スキルで加工したのだ。これだけで下手な金属鎧よりも上の防御力を誇るが、更にそこに幾つもの魔法を付加している。それにより、斬撃や打撃といった物理的な防御力もさることながら、魔法においても高い抵抗力を備えた装備となっている。コオリの服と同等の効果を持つ装備を揃えようとすれば一等地に豪邸が建つ程だ。
それがコオリの普段着だ。そして、今着替えているのは普段着とは違う、赤黒いレインコートの様な物だった。
「コオリ何してるの………?」
「ん?もしかして起こしちゃったか?」
「うん」
コオリの着替えの音で目が覚めたのか、ライラが目を擦りながら頷いた。
「そっか、悪いな」
「別に良いけど………。何で着替えてるの?」
「ちょっと出てくる。ライラは寝てて良いぞ」
「こんな時間に………?」
ライラはコオリが出かけると聞いて首を傾げる。理由が分からなかったからだ。確かに今の時間帯はそこまで遅い訳では無い。酒場などに行けば多くの人間で賑わっている時間帯である。だが、基本的に二人は日が暮れてやる事が無ければ直ぐに眠りにつく人間なのだ。勿論、食事などに誘われたりした場合はその限りでは無いが、二人はまだこの街に来たばかりで誘われる様な知り合いも少ない。そして、その数少ない知り合いから今日誘われた記憶がライラには無い。よって、ライラはコオリが何処かに出かける理由の見当がつかないでいた。
「何処に行くの?」
「別にわざわざ教える様な場所じゃ無いから気にすんな」
「むう」
コオリのはぐらかす様な返答を聞いて、ライラが不満気に口を尖らせる。コオリの言葉を変な風に受け取ったらしい。
「着替えまでして夜に出かけるなんて………。まさか、いやらしいお店とかじゃないよね?」
「んな訳あるか!」
ジト目で詰め寄ってくるライラにコオリが全力でツッコミを入れる。流石にその誤解はコオリとしても許容出来なかった。
「だってボクに隠れてこそこそ出てこうとしてさ。しかもオシャレして。そういう事しに行こうとしてるんでしょ!」
「だーもう落ち着け!そんなじゃねーよ。出かけるのは別の理由だ別の」
「………本当に?」
「そうだよ」
「ボクがキス以上の事しないから他の人としようって事じゃないの?」
「そこまで溜まってねえから。大体、そんな目的があったらこんな服着ていかねえよ」
不安気に見上げてくるライラにコオリは着替えようとしていたレインコートを渡す。ライラは何故渡されたのか理由が分からなかったが、よく見ろとコオリに目で言われたので手の中のレインコートを眺めてみる。
「え、何なのコレ………?」
「だろ。娼館とか行くんだったらわざわざ着ねえよそんなの」
ライラがレインコートを見て困惑の声を上げる。それもその筈だ。コオリが彼女に渡した物は唯のレインコートでは無い。
隠密行動用装備《揺らぎのレインコート》。これがコオリが着替えようとしていた服であり、盗賊達を襲撃する為の装備であった。
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《揺らぎのレインコート》
皇蝙蝠の皮膜を使って作られたレインコート。認識阻害の効果を持ち、着用者の姿をまともに認識する事が出来なくなる。また、魔力を流せば透明化する事も出来る。
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「何この効果………」
コオリが鑑定した情報をライラに見せると、驚きと呆れが混じった言葉が返ってきた。
「これで分かったと思うが、俺の目的地は娼館じゃない。まともに認識出来なくする装備で娼館なんて行かないだろ?」
「うん、まあ確かに。………でも、だったら何でこんな物騒な服に着替えてるの?コオリは何処に行くつもりなの?」
一応、コオリの言い分には納得したが、だったら何処にという疑問が新たにライラの頭に浮かんできた。
「ああ、今日の依頼で盗賊達がいたんだよ。アジトらしき場所も見つけたから潰しに行くんだ」
「………へ?」
言葉の意味を理解する為に数秒の沈黙、そして間の抜けた声を上げるライラ。幾つもの疑問が更に湧き出てくるが、それを押しのけて先ず確認したい事を口にする。
「本当それ?」
「本当だ。監視してた奴等も始末したしな」
「ボクまったく気が付かなかったんだけど………」
「こればかりはスキルの差だろ」
下手なスキル所持者より優れた索敵能力を持つライラだが、それは超人的な五感の賜物であってスキルでの補正という訳では無い。その為どうしてもムラがあるのだ。索敵というスキルは第六感に働きかける訳では無い。スキル補正によって音や匂い、風の流れや地面の振動を感知出来るように感覚を強化し、それで得た情報を処理する事によって周囲を探査するスキルなのだ。一種のソナーと言えば分かり易いだろうか。
だからこそ、ライラは補正の力の弱い低レベルの索敵スキル持ちよりは優秀だが、一定以上のステータスやスキルレベルを持つ斥候よりは劣るのだ。だがこれは、ライラが索敵スキルを取得すれば低レベルであっても、高レベルの索敵スキル持ちと対等に張り合う事が可能になるという事である。
「索敵スキルかあ………。ボクもダンジョンで色々やったけど全然取得出来ないんだよね」
「んな簡単にスキルなんか取得出来るか」
「………コオリがそれ言うの?」
「俺は例外だ例外」
ライラに半眼で見つめられたがバッサリとコオリは切り捨てる。
実際、コオリの言ってる事は間違って無い。スキルというのはそう簡単に取得出来るモノでは無く、大抵の人間は先天的に持っていたスキル以外は増える事は無い。例外と言えば冒険者など複数の技能を求められる職についている者ぐらいであるが、それでもスキルを増やす事は並大抵の事では無い。大概の冒険者はスキルを六個持っていれば良い方で、ライラも十分多い方に入るのだ。そして、スキルにはレベルが存在する。例えスキルを新たに取得したとしても、実用出来るレベルまでスキルを育てられている人間は極少数である。後天的にスキルを得るというのはそれ程困難な事であり、最高レベルで運用出来るスキルを簡単に取得出来るコオリが異常なのだ。
「ま、それに向こうは隠蔽系のスキルで身を隠してからな。そう落ち込む事じゃ無いだろ」
「そうゆうものかな?」
「そんなもんだろ」
コオリの説明である程度ライラも納得したのみたいなので、そろそろ部屋を出る事にする。
「んじゃ行ってくるわ。ライラは寝とけよ?」
「えー。コオリが居ないと寝れないのに………」
「寝ろ。てか寝れるようになれ。その内別行動する時もあるだろうしな」
「そうなんだけどさ………」
「その代わりに一緒にいる時は隣で寝てやる。だから我慢しろ」
「………はーい」
微妙に頬を染めてライラが返事をしてきたので、コオリはレインコートを着て頭を掻きながら部屋を出て行った。
「………それにしても、コオリが動くなんてちょっと意外かな。知り合い以外の為に積極的に行動するタイプじゃ無いのに」
コオリの出て行ったドアを見ながら、ライラはそんな事を呟いた。ライラの印象では、コオリという人間は知り合いや身内の為なら行動するが、それ以外の赤の他人の為にわざわざ行動する事は無いという感じであったのだ。
「………まあ、冷たいよりは良いのかな?」
とは言え、コオリが自分の印象と違っていてもライラはそこまで気にしないので深く考える事は無く、さっさと眠る努力をする事にしたのだった。
索敵スキルの具体的な説明が出てきましたが、はっきり言って説明になってんのこれ?っていう気分です。
どうでもいいことですが、カイザーバットはフロアマスターの一匹でした。暗闇から気配を全く感じさせず、五感を使って認識する事もままならない面倒なボスだったりします。あまりの面倒さにコオリがキレて、範囲魔法で焼かれた哀れな奴です。




