第三十八 ギルドでの再会
最近、書いたら直ぐに投稿してるので誤字脱字が多いと思いますがご容赦を。
今回も長めです。
「今日は何するかね?」
「うーん、どうしよっか?」
コオリとライラは、ギルドの掲示板の前にいた。
宿屋での一幕の後、朝食を食べてそのままギルドに来たのである。
「やっぱり今日も別れて」
「何言ってるのかな?」
「イエナンデモアリマセン」
昨日と同じ様に二人別々で依頼をしようとコオリは提案しようとするが、ライラにガッシリと頭を掴まれたので直ぐに前言を撤回する。
「もう!昨日の今日で良くそんな提案出来るよね。どうせまた依頼一つでサボるんでしょ!」
「………」
「そこは否定しなさい!!」
無言を貫くコオリにライラは更にツッコミを入れる。
とは言え、流石に昨日の今日でまたサボる程コオリも肝が太くない。簡単な冗談である。
「冗談だよ。ライラは俺がそんな事すると思ってんのか?」
「うん」
「………」
まさかの即答に固まるコオリ。流石にノータイムで返されたのは結構ショックだったのだ。
それを見て、ライラはクスクスと笑いだす。
「ウソウソ。そんな事思って無いって。だからそんな顔しないでねコオリ」
「………やられた……」
ライラの笑いから、自分がからかわれたとコオリは悟る。ダンジョンでは散々コオリにからかわれた事を学習したのだろうが、冗談にほぼノータイムでカウンターを返せる様になったのは無駄な成長と言える。
「おーおー、朝からイチャついてんなー」
「あー、熱い熱い。どうして今日はこんなに熱いのかしらね」
「………」
「………どこから湧いたクルトにメイラ」
二人に後ろから掛けたのはクルトとメイラだった。声を掛けたというよりは野次に近かったが。
「もー、湧いたとか失礼しちゃうわねコオリ君」
「そうだぞー。掲示板の前でイチャつく二人が悪い」
「黙れクルト」
「何で僕だけ!?」
「「クルトだから」」
「メイラまで!?」
取り敢えず、クルトだけは仕返しの意味も込めてからかいながら、コオリはメイラに視線を向ける。
「メイラは依頼?」
「まあね。て言っても、今日はコイツと二人だけど」
「そう言えば他の二人が居ないな」
ドイランとセイムが居ない事をメイラに言われて気付く。
「二人は武器のメンテがあってね。今日は居ないのよ。だから、今日は私とコイツだけ」
他の二人は武器のメンテナンスらしい。荒事専門の冒険者にとって、武器の不調は命に関わる。なので、マメにメンテナンスをしているのだとメイラは言う。クルトとメイラは武器を新調したばかりなので、今回は見送りらしい。
「へー、そうなのか。で、どんな依頼を受けるんだ?」
「そうねえ。二人だと危ない依頼も出来ないし、武器ももう少し慣れておきたいから、やっぱり無難にゴブリン退治かしら?」
ゴブリン。それはファンタジーの代名詞とも言えるモンスターの一体であり、女性の敵とも言えるモンスターだ。奴等は繁殖力が異様に高く、あらゆる異種族との交配が可能であり、村が襲われた際に女性が攫われて苗床になる事案も後を絶たない。なので、冒険者の間では見かけ次第即殲滅が採用されている。
「………大丈夫なのか?メイラって後衛だよな?前衛がクルト一人で」
「ん?へー、心配してくれてるの?」
「そりゃあね。知り合いが苗床とか想像したく無いからな」
「………さらっと嫌な事言わないでくれるかな」
コオリの苗床発言にメイラは軽く引いていた。どうやら想像してしまったらしい。
「コオリ、君はデリカシーって言葉の意味を知ろうか」
ライラがジト目でコオリを睨む。その視線に焦るコオリ。
「冗談だよ冗談!だからそんなジト目で睨むなライラ」
「言って良い冗談と悪い冗談があるんだよ?特に女性には」
「………ああ、そう言われてみれば、ライラ最近太くなったよな」
「そういう事を言うなって言ってるんだよこのバカ!!」
「ぐふっ!?」
コオリの余計な一言に鮮やかな回し蹴りで返答するライラ。それは見事に腹に直撃し、コオリは膝をついた。
「「バカだろお前」」
その一幕を見て、メイラとクルトの言葉がハモる。クルトとコオリの役目が入れ替わったその光景は、中々に新鮮である。
「いや、まだ巫山戯て大丈夫かと………」
「女性にその発言はどんな空気でもアウトだよー」
女性であるメイラにそう言われてはぐうの音も出ず、素直にライラに謝る事に。
「悪かったな。気にしてる事言って」
「………ねえそれ謝ってる?ボクには追い打ち掛けてる風にしか聞こえないんだけど?」
「………」
「コオリチョットコッチコイ」
「嘘ですごめんなさいお詫びに後でアイス作るので許してください」
ライラの口調が片言になった所で、コオリは本気で謝罪する。これ以上はマズイと経験則で知っているのだ。
「………はあ。今の台詞、絶対に忘れないでよ?」
「腕によりをかける事を約束します」
ライラは溜息を尽きながらもコオリの謝罪を受け入れた。お詫びのアイスが効いたのか、ライラは機嫌を戻したみたいである。
ダンジョンでコオリがノリで振舞って以来、アイスはライラの好物となっているのだ。
「………さて、それで話を戻すけど」
「逸らしたのはコオリでしょうに」
「んっん!………で、結局二人で大丈夫なのか?最近は野盗の類も多いみたいだし」
ライラのツッコミはスルーしながら、コオリはメイラとクルトに向き直る。
「あー、そう言えばなんか物騒だってギルドでも話題になってるわね。確か昨日も新人が襲われたんだっけ?」
「ついでに言うと、その新人は多分ライラだ」
「嘘!?ライラちゃん大丈夫だった?」
「はい。この通りピンピンしてますよ」
くるりとその場で回りながらライラは言う。その動きでまったく問題が無い事を確認したのか、二人とも安堵の息をついた。
「そっか。コオリ君が言うにはライラちゃんも強いんだよね。だったら野盗如き問題無いか」
クルトは以前コオリが言っていた事を思い出したらしく、苦笑気味でそんな事を言ってくる。
その横ではメイラが少し押し黙り、ゆっくりと口を開いた。
「………ねえ、だったら私達とパーティ組まない?」
「は?」
「パーティ、ですか?」
その提案はコオリとライラには予想外であり、二人揃って間の抜けた声が出る。
そして、メイラの台詞の意味を咀嚼して、コオリはメイラに聞き返す。
「………烈火の獅子に入らないか、と?」
「流石にそういう意味じゃ無いわよ。そりゃあ、二人が入ってくれるなら大歓迎だけどさ。私が言いたいのは、今回だけ組まないかって事」
あっけらかんと答えるメイラに、コオリは肩の力を抜く。内心、誘われていたらどうやって断るかと、考えを巡らせていたのだ。
「別に私とクルトだけでもゴブリンぐらいだったら問題無いんだけど、野盗とかが相手だったら数によっては厳しいのよ。一応、中堅冒険者って言われてるぐらいだからそれなりには出来るつもりだけど、前衛が一人だけだと囲まれた時に対処が大変だし」
「まあ、そりゃそうだな」
「だから二人を誘ってるの。私かクルトを仮パーティのリーダーにすれば二人も依頼を受けれるしね」
これが普通の新人相手だったら、メイラもこんな提案はしなかっただろう。だか、コオリとライラは普通の範疇に入っていない。既に実力の一片を見てるコオリと、そのコオリが太鼓判を押すライラだ。二人が一緒に依頼を受ければ、ゴブリンどころか野盗でも物の数では無いとメイラは確信していた。
「うーん………そうだな。俺は別にそれで構わないぞ。ライラは?」
「ボクもそれで問題無いよ。特に依頼を何やるか決まってなかったしね」
「本当!そう言ってくれて嬉しいわ。………さて、それじゃあクルト。さっさと依頼受注してきて」
「ええ!?僕がやるのかい?………はい、了解です行ってきます」
メイラの命令と取れるお願いにクルトは難色を最初は示すが、とっとと行けと物語る視線を受けてすごすごと受付にと向かって行った。
「いやー、にしても二人が受けてくれて助かったわ。最近は本当に物騒みたいだし」
「変な連中がいるみたいな噂もあるからな」
ルアンに聞いた噂が何処まで広がっているのかを探る為、メイラにそんな話題を振る。
「ああ、何かスラムに住み着いたみたいな噂の事?どうなんでしょうね。その噂が本当だったら、場合によっては討伐隊も編成されるかもしれないわよ」
「討伐隊?」
メイラがふと零した台詞の中には興味深い単語が混ざっており、コオリは討伐隊の事を詳しく聞いてみた。
「そうよ。流石にここまで騒ぎが大きくなるとギルドも見過ごす事は出来無いからね。街の衛兵と連携しての捕り物劇になると思うわよ?」
「そりゃあ大変そうで」
「………他人事みたいに言うのね」
「だって俺とライラはまだ十級の下位だからな。そういう義務はまだ無いんだよ」
冒険者ギルドでは八級以上の階級から緊急時における参加義務が存在する。なので、もし捕り物劇が起きるとしても、冒険者ギルドの決め事がある以上、二人がどれ程の実力者だとしても参加する事は無いのだ。
とは言え、そんな事をぬけぬけと言い放つコオリには、メイラとライラからのジト目が突き刺さっていたのだが。
「………まあ、今はこの街には二人の上位冒険者がいるし、そこに君達が加わっても過剰戦力かしらね」
「そうそう。………で、上位冒険者ってどんな奴が居るんだ?」
「知らないのに頷くんじゃ無いわよ。………はあ、この街にいるのは【天雷】と【舞姫】よ。少し前には【狂剣】もいたけどね」
コオリにジト目を向けながらも、メイラはしっかりと質問には答えていく。
「【天雷】は雷属性の魔法のスペシャリストで、個人で戦術級を扱える凄腕よ。幾つもの国が彼の事を召し抱えようと狙ってるらしいわ」
「「………」」
メイラの言葉につい沈黙してしまう二人。メイラは唯説明してるだけだろうが、二人からすれば戦術級を使えると露呈するとやってくる厄介事を聞かされている気分である。
「【舞姫】は戦闘での立ち回りの美しさから付けられた二つ名ね。剣の腕もさることながら、その動きは舞の様だとか。そして何より注目されるのが彼女の容姿」
「容姿?」
「そう。正に絶世って言える程に彼女は美しいの。何人もの貴族から妾や求婚の要望が来てるぐらい。………それでどんな容姿かだけど、実際に見た方が早いわね」
「へ?」
「はあ?」
メイラがそう言ってギルドの入り口に指を向け、それに釣られて二人もその方向に顔を向けた。
「「あ」」
そして、二人揃って声を上げた。
二人の視線の先に居たのは、以前に道でぶつかった少女だったのだ。少女もコオリとライラに気付いたのか、ニコリと笑いながらコオリ達の所へと向かってきた。
「こんにちは、何時ぞやのカップルさん。あなた達も冒険者なの?」
「は、はい。この前ギルドに登録した、新人冒険者のライラと言います」
「同じく新人のコオリです」
「そう、私はシェリルよ。よろしくね」
「何よ?二人ともシェリルと知り合いなの?」
シェリルと名乗った少女と二人の反応に、メイラが意外そうに聞いてくる。
「この前、道で彼女とぶつかったんです。まさか覚えてくれていたとは思いませんでしたけど」
「へー。確かに、それだけで良く覚えてたわねシェリル」
「だって、二人とも可愛らしかったから。それで印象に残ってたのよ。同業者だとは思わなかったけどね」
軽く微笑みながらメイラの質問に答えるシェリル。その笑みに、周りに居た冒険者達はつい見惚れてしまっていた。
「………可愛いらしいって言ってるけど、コオリ君はあなたと同い年よ」
「えっ!?」
「やっぱり年下に見られてたのか………」
「あはは………」
メイラの一言に驚きの声を上げるシェリル。それを見て、コオリはガクリと項垂れ、ライラは苦笑いを浮かべていた。
「ご、ごめんなさい!小さかったからつい年下なのかと………」
「シェリル。それトドメを刺してるわよー」
慌てて弁明するシェリルだが、それは全く弁明になっていなかった。それをやれやれと頭を振りながらメイラはツッコミを入れる。
その光景を見て、短い間であったがコオリとライラはシェリルという少女がどんな人間なのかを看破した。
「天然か………」
「やっぱり天然だよねあの人………」
見た目の印象からはかけ離れているが、どうやらシェリルという少女は天然みたいだった。
「て、天然じゃないですよ!………ちょっとドジなだけです」
「それ天然と似た様なものだから」
ボソリと呟いたシェリルにすかさずメイラが指摘する。うっ、と声を詰まらせながら、それでもシェリルは天然じゃないと言い張った。
「どうもこの娘、天然って言われるのが嫌みたいなのよね。まあ、皆その姿が可愛いから天然天然言いまくるんだけど」
「あー、何か分かりますそれ」
「確かに少し癒されるな」
シェリルがわたわたと否定する姿は中々に愛らしい。可憐な見た目とは裏腹に、どうにも小動物を連想してならないのだ。
「うぅ、私が天然かどうかはもう良いです。………それより、メイラはこれから依頼ですか?」
明らかに話題を逸らしたのは見てとれたが、これ以上は話が進まないと思ったのか、メイラはそれに乗っかった。
「そうよ。私とクルトとコオリ君達でゴブリン退治の依頼を受ける所」
「………ゴブリン退治ですか?新人にはいささかキツイと思いますけど」
幾ら中堅冒険者と一緒でも、登録したての新人にやらせる依頼では無いと遠回しに告げるシェリル。しかし、メイラはそれをあっさりと否定した。
「安心しなさいシェリル。この二人は多分、烈火の獅子のメンバーよりは強いから。コオリ君に至っては、上位冒険者と張り合えると思うわ」
「………冗談でしょう?」
目を丸くするシェリルに、尚メイラは続ける。
「本当よ。今回の依頼だって、新人のお守りと言うよりは私の護衛みたいなものだし。ほら、どうも最近物騒じゃない?」
「確かにそうだけど………。失礼を承知で言わせてもらうけど、全くそうは見えないわ」
やはりこの世界ではコオリは幼く見られるのか、シェリルに強そうじゃないとコオリは断言された。ついでに言うと、シェリルからすればライラもそうだ。ライラの見た目と、何より年齢を聞いてない事が重なり、シェリルにはライラも実年齢より幼く見られていた。
「それ、そんな見た目と性格で二級中位のあなたにも言える事だからね」
「うっ………」
だが、そこにメイラから鋭いツッコミが入る。ブーメランなのを自覚しろと言われたシェリルは、小さく言葉を詰まらせるのだった。
という訳で新キャラのシェリルちゃん登場。まあ、少し前にチョイ役で登場してましたが。
どうも女性キャラは可愛い方向に書いてしまう今日このごろ。自分の願望出てんのかな………。




