第三十七 宿屋の出来事
今回の話は二人のバカップルぶりが書かれています。特に後半。イラっとするかもしれなませんが悪しからず。
誤字と、最後のセリフを修正しました。
最近、前に投稿していた作品をまた投稿しだしました。
良ければそちらも読んで下さい。
「主人公体質ってぶっちゃけただの呪いだと思う」という題名です。
「へー、そんな事になったんだ」
ライラの説教(拷問)を終えた後、依頼の報告をして宿屋に戻り、コオリはルアンとの約束の事をライラに話していた。
「まあ、別に問題無いと思うよ?ボクもスラム云々は気にしないし」
「だろうな。ライラって何かさっぱりしてるし」
「それ程でも無いけどね」
コオリの評価にライラは苦笑で返すが、それでもこの世界の住人にしてはさっぱりしている方だとコオリは思っている。一緒に行動していた所為かは不明だが、考え方が割りとコオリに似ているのだ。恐らく、相手がまともであれば、取り敢えずは接してみようといった考えをライラは持っている。
「まあ、基本的にスラムに住んでる子供って親に問題があるからね。衛生面とかそう言う面では少し思う所が無い訳じゃ無いけど、スラムに住んでるからって白い目で見る事なんてそうそう無いよ」
「やっぱさっぱりしてるよライラは」
地域ごとに価値観が違うのと同じで、魔物やら何やら存在するこの世界では地球とは価値観が違う。それなのに、地球出身のコオリと似た考えを持っているライラは、やはりさっぱりしていると言えるだろう。
「そんで、そっちは何か収穫あったか?」
「いや、大して。強いて言うなら、採取の途中で人攫いみたいなのに襲われた事かな?」
「………それ中々に大事だと思うんだけど」
普通の感性を持ってる人間なら、人攫いに襲われておきながら特に大した事なんて無かったとは言わない。
「いやー、別に大した事無かったし。問題無く倒せたから」
「………殺したのか?」
「まあね。一応言っとくけど、ボクは大丈夫だよ?最初はちょっとキツかったけど、そう言うものだって割り切ったから」
殺人のショックは無いのかと心配したコオリだったが、既にライラは乗り切ってる様だった。だったらそれを蒸し返すのも違うと思い、コオリは話を続ける事にした。
「けど、どうして人攫いなんか。ライラ、お前何処で採取してたんだ?」
「それが街から大して離れてない森なんだ。それも浅い場所だったし。どうも最近、この近辺でそういうのが多いみたい」
「ふうむ………」
ライラの言葉はルアンとの会話をコオリに思い起こさせた。
(変な連中ね………。さて、どうしたもんか)
関わる予定など無いが、どうも相手は精力的に活動しているみたいだった。これだと、また何処かで関わる可能性が高いと、コオリはそう予測する。相手が人攫いを主な活動としているなら、ライラに手を出してくる可能性が高いからだ。
そう考えたコオリは、ライラにルアンとの会話の詳細を教えた。
「………と言う訳なんだ。だからライラも気をつけろよ?」
「んー、了解。まあ、あの程度だったら不意打ち喰らっても対処出来ると思うけどね」
「だろうな。でも、今度から襲われたら一人か二人は逃がしとけよ」
「え、何で?」
「その場で全滅してたらライラの情報が向こうに伝わらない。そのままだと、外に出る度に襲われるかもしれん」
相手方もある程度は情報収集しているとは思っているが、そう言うのは直接体験した奴の話の方が信憑性が高い。なので、コオリはあえてライラの情報を相手に渡せば、襲撃の頻度が減ると考えたのだ。
「成る程ね。確かに依頼の度に襲われるのは厄介かなー。分かった、コオリの言う通りにするよ」
ライラからの承諾を得られたので、二人はもう寝る事にした。既に夜も遅いだろう。コオリの場合、日本で暮らしていたので起きようと思えば起きていられるが、徹夜する理由も無いので大人しくベッドに入る。
「またか………」
隣では既にライラのスースーと寝息が聞こえてきていた。ライラは異様に寝付きが良いのだ。そして毎回コオリの方を向いて寝る。コオリとしては居心地が悪いのでやめて欲しいのだが、ライラ曰く、コオリの方向くと落ち着くらしい。それを聞いて軽く悶えそうになったのはコオリだけの秘密だ。
「………なんか気付いるみたいだったけどな」
その時にしていたライラの含み笑いを思い出し、頭を振って別の事を考える。考えだしたら羞恥心が凄い事になりそうだったのだ。
考えるのは、この街で活動中だと言う組織の事。目的、規模、後ろ盾などを、今ある情報とそっち方面の知識を使って考察する。
(普通に考えれば違法奴隷とかか?でも、だったら何でこんな街で?テイレンはそこそこの規模がある。だから売るのは問題無いだろうが、何で人攫いをこの街で行うんだ?街から離れた村とかの方がやり易い筈だ。ルアンとライラの話から、スラムの住人や新人冒険者を狙ってるのか?でも……だろう?…………だから…………)
頭の中で幾つもの仮定の可能性が浮かび上がるが、それは結局纏める事が出来なかった。コオリもライラ程では無いが寝付きは良いのだ。コオリが意識を手放すのに、そう時間は掛からなかった。
「………ふぁう……うし」
小さな欠伸を一つして、コオリはベッドから身体を上げた。今日はコオリにしては珍しく目覚めが良い日であった。何時もならまともに動き出すのに三十分ぐらい掛かるのが、一分程で覚醒したのがその証拠だ。
「まさかこんなに目覚めが良いなんて、天変地異の前触れだろうか………」
コオリ本人も今日の目覚めの良さに驚愕していたが、それ以上に驚愕した人物がいた。
「うわっ!?コオリもう起きたの!?」
「へ?」
そんなライラの声が響く。更に、良く聞くとガサガサと衣擦れの音がする。
「わわわ!?こっち見ないでよ!?今ボク着替えてるから!」
「はあ!?」
予想だにしていなかった発言についライラの方を向いてしまうコオリ。
そして目にしたのは
「………ライラ、それは流石にどうかと思う………」
真っ黒な球体だった。
「だ、だって!もし見られたら恥ずかしいじゃん!」
「………だからってその使い方は無いだろう」
球体の中からライラの声が響く。
一見謎の黒い球体だが、何と無くコオリには予想が付いていた。
「お前、黒翼をブラインド代わりって………。本物の堕天使が見たらど突かれるぞ」
「いや、そうなんだけど………」
そう。黒い球体の正体はライラの【堕天使の六黒翼】だったのだ。黒翼は変幻自在に形を変える事が出来るので、ライラはそれ特性を使って着替え部屋を作っていたのだ。
「一応聞くが、それって毎朝やってたのか?」
「うん。ほら、今日みたいにコオリが目を覚ましても大丈夫な様に………」
少し口ごもりながらも、ライラはコオリの質問に是と答える。
その返答には呆れるコオリ。
「お前、スキルの無駄使いって自覚あるか?」
「………あります」
ライラの黒翼は基本的に戦闘スキルである。それもかなり強力であり、油断していればコオリですら怪我をするかもしれないのだ。これはつまり、黒翼を使えば下手な軍隊よりも強力という事である。
そんなスキルを着替えのブラインドなどに使うなど、世の戦闘職の人間が知れば激怒するであろう事は想像に難くない。
「うー、でもしょうがないじゃん!まだコオリに見られるのは恥ずかしいんだもん!」
「まだってお前な………」
ライラの台詞にコオリは頭を抱えながらツッコミを入れる。
「!?いや、そのそういう意味じゃ、いや勿論そのうち見せるだろうけどまだ覚悟が出来て無いっていうかその」
「………お前墓穴掘ってんぞ………」
「っ〜!!!」
コオリのツッコミに慌てた所為か余計な事を口走るライラに、コオリは更に頭を抱える。
普通だったらライラの台詞にコオリも顔を赤くする所だろうが、こうも間抜けだと羞恥心よりも心配事の方がコオリは先だってしまっていた。こうも単純でこの先ライラは大丈夫なのだろうかという心配である。
「つーか、そんな心配してんなら部屋分けた方が良いだろうに。もう手持ちは結構あるし、二部屋とっても問題無いぞ?」
「それはイヤ」
ラッキースケベの様な心配事の種など少ない方が良いと思っているコオリは、部屋の追加を提案したが即答でライラに却下された。
「何でだよ?」
「う、それはその………」
コオリが理由を尋ねると、言いにくそうにしながらライラが球体から出てきた。どうやら着替えは終わったらしい。
「実はね………」
「実は?」
さっきまでの羞恥の所為か未だに顔が赤いライラは、意を決した様に理由を述べた。
「ボク、一人じゃ眠れないんだ………!」
「………子供かお前は」
予想外の告白についガクリときてしまったコオリ。そんなコオリを見て、ライラは慌てて付け加える。
「いや、一人じゃ眠れないって訳じゃ無いんだよ?前だって一人で眠ってたし………」
「だったら何で寝れねえんだよ………」
「うー、その、ね?」
ライラは言い淀んだ後、さっきよりも顔を赤くしながら小さな声で答えた。
「………コオリが居ないと寝れないんだ………」
「………」
さっきとは違う意味で予想外の言葉にコオリはフリーズしてしまう。そんなコオリに、ライラは寝れない理由を説明する。
「目が覚めたらコオリが居なくなってるかもしれないって考えちゃって、不安で寝れないんだよ」
「………」
ダンジョンの時よりは治っているが、ライラは未だにコオリに依存しているらしい。どうやらそれが原因で、コオリと別の部屋に泊まるのに抵抗がある様だ。
この問題は改善しないと今後の旅に影響が出る。早急に解決する必要がある事をコオリは頭に記録した。
「ねえ?コオリは不便かもしれないけど、一緒の部屋じゃダメかな?」
………とは言えである。かつて彼女居ない歴=年齢であった男子高校生が、飛び切り美少女な彼女に不安気な上目遣いでお願いされて断れるだろうか?
答えは否だ。
「………はあ、好きにしてくれ」
「うん!ありがと、コオリ!」
嬉しさのあまり抱きついてくるライラを尻目に、朝からどっと疲れたコオリであった。
自分で書いといてアレだけど、リア充爆発すればいいのに………
後、意外と応用性が高かった黒翼でした。




