第三十二 冒険者達の会話
少し短いです。
十月三十一
色々と修正しました。
ギルドの全員が呆然としている中、コオリはドイラン達の所に歩きだす。
「それじゃあ、俺達は宿に向かいますね」
「お、おう。宿の場所は分かるか?」
「『兎の耳亭』ですよね。さっき説明して貰ったんで、大丈夫ですよ」
「そうか。俺達は依頼以外だったら、大抵ギルドか『ネズミの尻尾亭』に居るから、何かあったら来てくれ」
互いの連絡先を交換した後、コオリとライラは出口に向かう。
「それじゃあまた」
「さようならー」
「おう。じゃあな」
「また会おうねー」
「また明日ギルドで会うと思うけどね。バイバーイ」
「さよならです」
そして、コオリ達が出て行った後、
「「「「「ふぅぅーー………」」」」」
ギルド内の全ての冒険者が息を吐きながら座り込む。
「おいおい何だよあの殺気。ヤバイなんてモンじゃねーだろ」
「おいドイラン。何だよあの新人は!?」
「知らん。俺達も依頼の途中で会っただけだ。親しくはなったが、そこまで詳しい訳じゃない」
冒険者達は、烈火の獅子の面々に詰め寄ってコオリの事を聞き出そうとするが、返ってきたのはそんな反応だった。
「元々、盗賊団に襲われてた所を助けて貰ったから実力があるのは知ってたけど、あんな殺気が出せるなんて僕等も知らなかったからね」
「まあ、会話の所々から漏れてる情報通りだったら、アレぐらいは出来そうだけど」
「どんな情報だ?」
メイラの苦笑しながらのぼやきを、冒険者の一人が詳しく説明しろと言う。
「何よ?やけにあの二人の事を聞くのね?」
「そりゃそうだろ。平然とあんな殺気を出す相手だぞ?付き合い方を考えるならどんな情報でも欲しいさ」
「付き合い方を考えるって、コオリ君もライラちゃんも基本的に無害よ?ユーモアのセンスもあるし、むしろ取っ付き易いと思うけど」
「ええ。クルトとの絡みは、今思い出しても笑いが出ます」
「いや、そりゃ見てたから知ってるが」
何だかんだと言いながらも、あの寸劇を思い出した全員が笑いを堪えていた。殆どの冒険者が震えている事から、割と多くの人間に見られていたらしい。
「俺が知りたいのはあの新人の実力と、怒るポイントだよ」
「怒るポイントねえ………」
「ああ。どんな事をしたら、さっきみたいな状態になるのかを教えてくれ」
「んな事言っても、私達だって知り合って長い訳じゃないし。それに、アンタ等も見てたでしょ?コオリ君が怒るのなんて、ライラちゃん関係の事しか分からないわよ」
とは言ったものの、メイラ自身は単純にライラの事でコオリが怒るとは思っていない。
ライラが青いオーガの連中に絡まれていた時、コオリは直ぐに助けに行かなかった。この事から、コオリがそこまで過保護という訳では無いと思っている。コオリ自身、ライラで十分に対処出来ると言っていたので、ライラが対処出来る範囲なら基本的に放っとく方針なのだろう。
実際、殺気の件に関しても、ライラをそういう事で見た事の不快感も有るには有るが、それ以上の理由として、メイラに言った通り長いからという事が殆どを占めている。これ以上に絡んでくる奴が出てこない様に釘を刺したという面もあるが。
「私から言えるのは、基本的に普通に接しとけば問題無いって事ぐらいよ。青いオーガの連中みたいに絡まなければ、愉快で無害な異常に強い新人よ」
「本当か?」
「本当よ。強さに関しては、十人以上の盗賊相手に大立ち回りしたって事と、クライト森林を抜けてきたって事ぐらいね」
コオリ達との会話や出会った時の状況を、ざっくりと冒険者達に話すメイラ。
「あ、ライラちゃんも一人で牙狼の群れを潰せるらしいわよ?」
「………おいおい、あの娘も相当じゃねーか」
「青いオーガが憐れに思えてきたぞ………」
ある意味で、絡んでは駄目な存在に絡んでしまった青いオーガのメンバーに同情の念を送る冒険者一同。
「だから私から言えるのは、勧誘するにしろ繋がりを持とうとするにしろ、ちゃんと守るべきとこは守りなさいって事ね」
「当たり前だ。そんな奴に舐めた態度なんてとれねえよ。あいつの殺気、前に一緒になった上位冒険者ぐらいあったんだぞ」
「あー、確かにそんぐらいはあったな。だったら完全に俺達とは別物だ。変に敵対しない様にだけ注意しとくさ」
冒険者達が言う上位冒険者というのは、二級以上の冒険者の事である。彼等の世界では、十から八級までを下級冒険者、七から五級までを中級や中堅冒険者、五から三までをベテラン冒険者と言い、それ以上の階級の冒険者は上位冒険者と呼ばれている。
冒険者というのは、二級以上になると一気にその数を減らす。それは、才能がある人間が、努力を怠らずに修行を続けてなる事が出来るのが三級までだからだ。
それより上、二級以上の冒険者というのは、冒険者の中でも完全に別物という認識がされている。冒険者達からすれば、彼等は決して越えられない壁の向こう側の存在である。
彼等は個人がベテラン冒険者を歯牙にも掛けない強さを持っており、その強さは中堅冒険者が束になっても敵わない場合が多い。
それは、上位冒険者の殆どがユニークスキルや特殊な称号を所持しているからだ。
スキルやステータスの存在するこの世界において、それ等は絶対に覆せないファクターである。ライラの持つ【堕天使の六黒翼】など、ライラのレベルが1の状態でもベテラン冒険者を打ち負かす事など容易いのだ。
そう考えれば、それ等の有無が絶対的な差となる事など簡単に想像出来る。
故にそういう人間は、憧憬の眼差しで見られると共に、畏怖の念に絶えず晒される事となる。彼我の戦力差を測る事が命に直結する冒険者など、特にそれが顕著だ。
故に、コオリとライラがそっち側の存在だと認識した冒険者達は、二人とは決して敵対しない事を心に決めた。
「触らぬ神に祟りなし。例えそれが新人だろうと、変なちょっかいは出さない。みんなこれで異論無いな?」
「「「「「おう!」」」」」
この日、テイレン冒険者ギルドに、新たな暗黙の了解が誕生した。
「いやーにしても、王都って訳でも無いのに良く集まるよな」
「あの二人は抜くとして、今この街に居る上位って誰だっけ?」
「【天雷】と【舞姫】だな。【狂剣】は今はどっかの依頼に行ってたな」
「げっ!?そうだよ。ここ【狂剣】がいんだった。【天雷】や【舞姫】は兎も角、あの戦闘狂が帰ってきたら厄介だぞ」
「そん時は逃げるしか無いだろ。後は支部長任せだ」
結局、冒険者達はこれから起こるかもしれない騒ぎを、如何に巻き込まれないで観戦するかを話し合うのだった。
コオリ達がほぼ出てこなかった・・・・・・
指摘があったので訂正
怒りの琴線⇒怒るポイント




