第二十八 街へ
この話から三人称になります
十月三十一
色々と修正しました。
2019 12.27
長らくお待たせしました。少々リアルが立て込んでおりまして。これから徐々に改稿頻度を上げていければと…………(がんばります)。
さて。結論から言えば、俺達はマリマン氏から謝礼でギル金貨と呼ばれる金貨を五枚与えられ、護衛として大銀貨二枚で雇われる事になった。
これが多いのかどうかは、ぶっちゃけ俺にはよく分からない。一応、この世界の通過事情はマルトの王城で習ったのだが、正直うる覚えなのである。
それでも思考を総動員し、何とか貨幣価値を思い出した結果。
謝礼は日本円換算で五十万。ギル金貨1枚の価値が、日本円で約十万といったところだ。因みにその下のギル大銀貨が一万、銀貨が千円、大銅貨が百、銅貨が十。
つまり護衛料は二万ということになるのだが、目的地であるテイレンが既に目の前。長くても徒歩数時間と考えれば、ぼられてるという程ではないだろう。謝礼と合わせれば、当面の資金としては十分じゃないだろうか?
まあ金の話は兎も角として。ダンジョン脱出後では初となる街である。
「……おー」
なんというか、凄い文明の香りがする。街並み自体はヨーロッパの田舎って雰囲気だし、間違っても都会的とは言えないレベルだが……アレだ。一時的とはいえ自然界の住人であった俺からしたら、古くさい街並みだろうと近未来的な印象があるんだよ。言ってて悲しくなったきたがな!
「あれがテイレンねぇ……」
「おう。中々良いところだろ?」
「さあな。街云々には興味もねぇ。美味い飯が食えて、快適に寝れるのならそれで良い」
「荒っぽい傭兵みたいな感想だなオイ……」
ドイランが何やら呆れているが、知ったことかとスルーした。マルト国内に長居する気が無い以上、街の感想などこんなもんだろう。文明の香りがするだけで十分だ。
「ったく。お前本当に無神経だな。もうちっと気を遣わねぇと、人付き合いとかで苦労するぞ?」
「人付き合いなんて煩わしいだけだから問題無い」
「……嬢ちゃんにもその内愛想尽かされるぞ?」
「何言ってるんです? コオリはこれが可愛いんじゃないですか?」
「……ダメだコイツら」
頭を抱えられたがどうでも良いのでスルー。他の生暖かい視線に関しては、鬱陶しいので睨みつけて止めさせた。
……そしたらドイランが溜息を吐きやがった。なんだこの野郎。
「頼むから面倒事だけは起こしてくれるなよ?」
「俺を何だと思ってんだ。何もされなければ何もしねぇよ」
「じゃあ無理だな……」
「おい待て何だその不穏な台詞は」
それだと何かされるの確定してるみたいじゃねーか。
「何? あの街そんな治安悪いのか?」
「そういう訳じゃねぇよ。ただお前ら、この後冒険者登録すんだろ? それだと絡まれる可能性がな……」
「何でだよ」
「まず単純に冒険者は気性が荒い奴が多い。ランクが上の奴らは兎も角、下の奴らの中にはチンピラと変わんねぇ奴もいる」
「ほう」
「で、お前たちはパッと見ただのガキだ。しかも片方はトンデモねぇ美人で、もう片方はクソ生意気。普通にカモだろ」
これで絡まない奴はいないと、ドイランは首を振った。
さりげなくディスられたのは兎も角。内容自体は有り得そうというか、確実に起こりうる未来な気がする。テンプレっちゃあテンプレだし、絡まれること自体は別に良いんだが……。
「流石に殺したらマズいよな?」
「当たり前だ馬鹿! 絡まれただけで殺そうとすんな! そんなことしたら即座に衛兵が飛んでくるぞ!」
「なら手足の一本」
「それ文字通り持ってく奴じゃないよな!? 骨折なら兎も角、四肢をもぐのは駄目だからな!?」
どうやら反撃が許されるのは骨折までらしい。思ってたより不自由だなこの世界。
「絡んできた相手が守られるのか。随分温いな」
「いや、スラムなら兎も角、普通の市街地やギルドでそんな無法が通るかよ……。相手が犯罪者って訳でもねぇんだから」
ドイラン曰く、路地裏やスラムといった、治安の悪い地域では命の類は自己責任。市街地では襲われない限り過剰な反撃はアウトらしい。
「っち。となると手加減しねぇと駄目か。はぁダル……」
何で喧嘩売ってきた相手に気を遣わねぇといけないのかねぇ?
「いやまあ、お前の言ってることも尤もだけどな。流石にギルドの中で暴れるのは止めとけ。そういう時は街の外に誘うんだ。冒険者の間じゃ、いざこざ中に外に誘うのは殺し合いの提案って意味だからな。威勢がいいだけの奴なら引くし、馬鹿なら乗ってくる。それで白黒つけろ」
「何で馬鹿のために移動しなきゃなんねぇんだよ」
「……我儘過ぎんだろお前……」
ドイランが絶句していたが、俺の中では移動の手間>馬鹿の相手が明確化されているのだからしょうがない。
……もういっそのこと、何かあっても開き直って不幸な事故だと主張しようかね?
「あー、コオリ? 多分だけどさ、ちょっと手を出すの我慢すれば、キミが考えてるような状況にはならないと思うよ?」
俺が開き直りという最終手段に出ようとしたのを察したのか、今まで黙っていたライラがそんなことを言ってきた。
だが内容は極めてアレだ。俺の性格を知っているライラらしくない。
「……つまり絡まれても手を出すなと?」
「というより、手を出さなくても片付くと思う」
「ぬ?」
俺が首を傾げると、ライラは顔寄せて小声で理由を告げてきた。
(あのね、普通の人間にとって最強種の気配ってほぼ猛毒だから。今は人間体の化身だからかそういうの感じないけど、流石に敵意を向ければ色々漏れると思うんだよね)
「つまり?」
(コオリが不快に思うだけで、相手は気絶するか心が折れるんじゃないかな……)
敵意の強さによっては死人が出るかもね、と更にライラは付け足した。
……え、マジで?
「……人間脆くない?」
(最強種ってそういうものなの。存在の規模が違い過ぎて、何をしても世界にトンデモない影響が出るの)
「でもあの盗賊とか普通に攻撃してきたぞ?」
(それは単純にキミが作業としか認識してなかっただけでしょ)
「……じゃあもし、今ここで殺気を出してみたらどうなる?」
(一時的だろうけど街が崩壊するかなぁ……)
「そっかぁ……」
久しぶりに人間世界に舞い戻ったら、自分の人外レベルを突きつけられた模様。ここまで来ると生きづれぇよ。なんだ殺気出しただけで街が機能不全になるって。街中で不機嫌になったら色々アウトじゃねーか。
「どっちにしろ面倒くせぇ……」
「まあほら、厄介事にはならないだろうし、それで良しってことにしようよ」
「モノは言いようだなオイ」
それ厄介事にならないんじゃなくて、厄介事に発展する前に叩き潰してるだけだろうに。
……ああでも、初っ端に面倒事の芽を潰すのはアリだな。
「登録の前に威嚇でもぶち込んどけば話が早いか」
「内緒話が終わった途端に物騒だな!」
俺が出した結論に対して、絶対に止めろとドイランは言う。
「どういう会話をしたらそんな結論になるんだ……」
「えーと、コオリの実力を先に示しとけば、絡まれることはないみたいな?」
「……言ってることは間違いじゃねえがなぁ。他にも穏便に済ませる方法があるだろう」
「いや一番手っ取り早いだろ?」
「それはチンピラの思考回路だって言ってんだ! しかも無駄に実力があるだけにタチが悪い!」
チンピラって酷いなオイ。俺そこまでチャチなつもりないんだが……。いやまあ、あの手の人種は確かに強い奴=偉いがまかり通る獣社会で生きてるけどさ。
「不満げな顔すんな。無法者の思考回路してる時点で大差ねえ」
「冒険者も似たようなもんでは?」
「アホか! そりゃそういう評価も受けるが、冒険者ってのは基本的に信用商売だ! 力だけで偉くなれるほど楽な職業じゃねえ!」
「ふーん」
まあ言ってることは分かるがな。馬鹿が生きにくい構造になってるのが世の中ってもんだし。人の世で生きるのならば、大なり小なり信用という名の通貨を積み上げ必要がある訳だ。
「お前らだって冒険者になるんだ。そんな態度だと上にいけねぇぞ」
「宿と飯の金さえ手に入れば良いから問題ない」
「ボクはそこまで心配してませんね。力だって立派な信用ですし、コオリのそれは多少の態度の悪さを補って余りあるものです。重犯罪者にでもならない限り、なんだかんだ重宝されると思ってます」
「取り敢えずお前らに改める気がないのは分かった……」
そう言ってドイランは頭を抱えた。
「……はぁ。クルト、セイム。依頼の後処理は俺たちがやっとくから、この二人が登録するまでついててやってくれ。ついでに色々案内してやれ」
「あいよ」
「まあそうですね」
そして勝手に同行者が増やされた。何でだ。
「案内とか別にいらないんだが?」
「案内という名の監視に決まってんだろ分かれ」
やっぱり監視かい。
「いいか? この街は俺たちの拠点なんだ。絶対に面倒事は起こさせないから覚悟しとけよ」
「別に進んでトラブルを起こそうなんて思ってねぇんだが」
「回避する気が一切無い時点で似たようなもんなんだよ!」
ということで、烈火の獅子から案内役という名の監視が付けられることになった。まあ、いるならいるで便利だから良しとしよう。
「さて。ようやく街だな」
いざ行かん。久々の人界へってな。
コオリ君って異世界だとちっちゃいんです。
みづどり:一応生きてます。




