第二話 ダンジョン探索
2話、開校済み
ダンジョン。それはゲームでお馴染みの魔物が大量に発生したり、罠があったり、財宝が眠っていたりする。形は洞窟の様な物や迷宮、塔といった様々な形がある。
何故ダンジョンが出来て、どんな原理なのかは未だ解明されていない。
強力な魔物を封印してあるだとか、神が与える試練だとか、唯の現象だとか、色々な説がある。
まあ、そんな事はどうでもいい。此処で大事なのは、ダンジョンが危険な場所であるという事だ。一応、ダンジョン事に危険度に違いがあるらしく、俺達がいるダンジョンは、その中でも特に危険が少ないらしい。
それでも、三歳児程度のステータスしかない俺には戦場と変わらないが。
「ハァッ!!」
田所の剣がブラットバットという魔物を捉えた。
ブラットバットは簡単に言う70センチ程の大きさの血吸い蝙蝠で、俺達が今居るダンジョン『試みの迷宮』に生息している雑魚モンスターだ。
名前の通り、このダンジョンは初心者ダンジョンと呼ばれる程に難易度が低い。俺達、いや、俺以外のレベル上げにはもってこいって事だ。
「流石タクミだな」
「先輩すごいです」
「タクミ君、かっこいいねぇ」
「そんなに褒めんなよ」
「この階層でも十分通用するみたいだな。よし、そろそろ次の階層に進むぞ」
皆が田所を褒める中、騎士団長であるバッカスさんが次の階層に向かう事を決めたようだ。
この『試みの迷宮』は、現在70階層までマッピングされている。70階層以降のマッピングは全くされていないらしく、おそらく100階層まであると予測されているが、実際は何階層まであるのかは分かっていないらしい。
どう考えても初心者ダンジョンと呼べる代物ではないのだが、それでもここは初心者用とされている。
その理由は、このダンジョンで出ててくる魔物や罠が、一定以上の階層に行かなければ全く厄介ではないからだ。また、この迷宮はかなり安定しており、内部構造の変化や罠、魔物の更新が殆ど起きない。
その為、魔物の強さが段違いになる50階層より下にいかなければ、かなり安全に鍛える事が出来るという事で、このダンジョンは初心者用とされているのだ。……因みに、節目となる50階層以降も、財宝が渋いのは変わらないようで、実力者からは不人気ダンジョンとしても扱われている。70階層まで地図があるのは、変人で有名なとある冒険者の趣味の結果らしい。完璧な余談である。
そんな訳で現在、レベル上げを行う事になった俺達は25階層にいる。もともと人数が数十人と多く、騎士団長を含む騎士団のベテランが何人か付いている為、割とサクサク進んでいる。
「おーい。もうすぐ罠とかも出てくるから注意しろよ」
「あのー、ちょっといいですか?」
「何だ?」
勇者の一人が団長に質問をした。
「他のダンジョンにした方が効率良い気がするんですが。このダンジョンに出てくる魔物って殆ど一撃で倒せるし、レベルもあんまり上がりませんし」
この意見には、声には出さないが多くの勇者が同意していた。
実際、殆どの勇者もレベルも上がり、騎士団や宮廷魔術師に匹敵するステータスを持っているようだ。その所為か物足りない顔をしている奴もいる。
「あのなぁ……。このダンジョンに潜っている理由は、お前達に実戦経験とダンジョンでのノウハウを教える為だ」
「実戦経験って、まともに戦えて無いのってあいつだけですよ?」
そう言って、俺を指差しながら野次を飛ばす男子生徒。
「アホか。んな事言ってられんの今の内だぞ。今は安全なルートを進んでいるが、ダンジョン探索ってのは本来とんでもなく気を使う。これからは罠も出てくるんだ。幾ら魔物が弱いからって油断するな」
「うっ、はい」
団長の注意を受けて、男子生徒は引き下がる。
「いいか。こここらは下手に動き回るなよ。後、俺達が動くなと言ったら絶対に動くな」
「「「はい!」」」
全員が返事をした後、再び騎士を先頭に進みだした。
「はぁ、まったく。お前も大変だな」
「慣れてますから」
歩いていると、殿を務める騎士団の一人が話し掛けてくる。
俺のいる位置はほぼ殿だ。前にいると邪魔だからだそうだ。その為、殿の騎士達と良く話すようになっていた。
「お、ブラットバットが来るぞ。一匹だ。やるか?」
「はい」
後方から飛んできた蝙蝠を見て、騎士が俺に聞いてきた。その質問に了承で返し、腰のメイスを抜く。
飛んでくる蝙蝠。中々に速い。他の奴らからすればそこまで速くないのだろうが、俺からすれば結構なスピードだ。蝙蝠の体当たりに、カウンターでメイスを振るう。
全身のバネを使った一撃は、なんとか巨大蝙蝠を打ち返す事に成功する。地球の高校生の身体能力等大した事は無いが、それでも金属製の鈍器のお陰でそこそこの威力となる。
弾き返えされた蝙蝠は、多少もがきながらも飛んで距離を取ろうするが、そうはさせじと距離を詰め、低い位置を飛んでいる蝙蝠を地面に叩き落とす。そのまま飛べないように羽を踏み付け、動けなくなったところを何度もメイスで殴り付ける。
3回程殴ったところで、蝙蝠は動かなくなった。
「ふぅ」
「はー、相変わらず上手いもんだな」
蝙蝠を倒した所で、団長が話し掛けてきた。どうやら先頭を他の騎士に任せて、後ろに下がってきたみたいだ。
「そんな事ないですよ。ステータスが死んでますし」
ステータスの意味がないため、こんな蝙蝠に苦戦しているのだ。そうでなければ、もう少し簡単に倒せる。まったく、勇者補正は何処いったんだか。
「いやいや。ステータスが意味をなしてないのに、ブラッドバットを倒せるなら大したもんだぞ? ……ステータスが反映されれば、他の勇者並に化けるだろうになぁ」
「たらればの話しなんてしてもしょうがないでしょう」
「冷めてるな。いや、諦めが良いのか?」
「諦めが良くなきゃやってられないですよ」
「………ああ。あれが無ければ良い奴らなんだが」
団長は一応、俺が受けている事を知っている。最初の方は止めてくれていたのだが、どうにも上から圧力がかかったようだ。勇者達の機嫌を損ねるの不味いと言う事と、役立たずなのだから、勇者達のストレス発散ぐらいには役に立てと言う事らしい。
全く……。屑は何処にでもいるよな。勝手に呼び出しておいてその対応はどうなんだ本当に。せめてもう少しマトモな扱いしろよな。今はまだ他の奴らも浮かれてるから気付いてないが、時間が立てば何人かは絶対気付くぞ。役に立たなけば自分達は守って貰えないって。
そっから関係崩壊まった無しだ。いや、個人的にはそうなって欲しいけど。
内心で黒い考えに身を任せていると、団長にポンと肩を叩かれた。何だと思って見てみると、団長が凄い済まなさそうな顔をしていた。
「止めてやれなくて悪いな」
「……ああ、しょうがないですよ。団長にもしがらみとかあるでしょうし」
「俺を含めた騎士団の何人かは、お前の事を買ってんだ。なのに助けられないなんて、歯がゆいったらありゃしねえ」
「その気持ちだけで十分ですよ」
騎士団の人達は結構良い人達だ。国を守らんとする志しを持っているだけあり、半分以上が善人で構成されている。
なので俺がリンチされていると、痛ましそうな顔をしてくれるのだ。巻き込まれたくないから傍観する奴等と違い、命令が無ければ直ぐにでも助けてくれるだろう。その事だけでも、俺は十分に感謝している。この理不尽な王城での生活で、唯一の良い事だ。
「すっげえ!オイ、これ見ろよ!!」
「ん?」
前方の方から、何やら興奮した声が聞こえてきた。
何事かと見て見ると、先頭集団が広間で騒いでいるようだ。その広間の中央には台座があり、大量の宝石が置いてあった。
その光景を見た勇者達は興奮しているが、俺は違和感を感じていた。このダンジョンではランクの高い財宝は出てこないという話しだ。マッピングがされていない70階層以降なら兎も角、俺達が居るのは26階層。なのに、目の前には人が一生遊んで暮らせる程の宝石がある。明らかに変だ。
だが騎士団の人達は普通だった。何故だ。
「……あの、あれって……」
「ああ。見ての通りトラップだな」
あ、やっぱり。
「……大丈夫なんです?」
「ダンジョンに潜る奴で、あんな見え見えの罠に引っかかる奴はいない」
「あー……」
団長の言葉に納得するしかなかった。
素人の俺でも絶対罠だと断言出来るのだ。ダンジョンに潜っている一種のプロフェッショナルたちが、あれに手を出す訳がない。
尚、罠を解除して宝石を取るというのは無理らしい。どうもあの罠は、滅茶苦茶分かりやすい代わりに、解除が不可能なレベルの罠が仕掛けられているらしい。解析すら満足に出来ないらしく、魔法の罠だという事しか分かっていないそうだ。
そんな訳で、発動さしたら絶対に碌な事にならないので、スルーするのがここの攻略法になっているとか。
「という訳だ。お前たち、絶対に触るなよ」
団長が俺にした説明とほぼ同じ内容を、先頭にいた騎士が行っていた。
罠があると言われ、多くの奴らがおっかなびっくり台座から離れて広間を横断する。
……が、屑と同じく馬鹿も何処にでもいるらしい。
「ちょっとぐらい大丈夫なんじゃね?」
「だよな? 勇者の俺たちならいけんだろ」
異世界に召喚された選ばれし勇者。そんな事実に調子に乗った幾人かが台座に近く。
「っ!? 止まれ馬鹿野郎!」
後ろにいた俺はその愚行に真っ先に気付き、慌てて止めようとするが。
「うっしゲット!」
馬鹿は人の静止を無視して宝石を手に取ってしまった。
その瞬間、地面に巨大な魔法陣が出現し、俺達は光に飲み込まれた。
マジで死ねよ………。
なんだかんだで割と戦える主人公でした