第二十六 お金を稼ぎたい
人殺しの描写があります。
改稿作業終了後
残酷描写が。多分前より酷いです。主に主人公の行動が。
名も知らぬ街を目指し、二人でてくてくと街道を歩いていく。
「あー。やっと旅してる実感が湧いてきた」
ただ街道の上を歩く。それだけで異世界を満喫している気分になれるのだから、俺は何と安上がりなのだろうか。いや、単に今までの状況が特殊過ぎただけなんだがな。
ただまあ、やっぱり外は違うわ。なんというか、平和。凄い平和。敵らしい敵が出てこないのもそうだが、街道があるのがデカい。沿って歩けば、それだけで目的地の街に着くのだ。ダンジョンみたいに、当てもなく階段を延々と探し続ける必要が無いというのは、本当にデカいと思う。
「ふふっ。楽しそうだね、コオリ」
ウキウキと歩を進める俺を、ライラは微笑ましげに眺めていた。少々こそばゆいが、浮かれている自覚はあるので何も言えない。
「街に着いたら、何かしたい事はあるの?」
「そうだなぁ。……美味い飯が喰いたい」
「うわぁ。何か予想以上に本気の声で返ってきた……」
ついガチトーンで返してしまい、ライラは軽く引いていた。まあ、雑談のつもりで振った話題で、一族数千年の悲願みたいな声音で答えられたら、そういう反応にもなるわな。
しかし、俺にとっては本当に悲願なのだ。なにせ、こちとら飽食の時代に生きていた元日本人。肥に肥えていた味覚は、王城で歓待された際に出された食事なら兎も角、普通に出される食事は微妙に感じてしまう程度には生意気だった。そんな贅沢舌が、未熟な料理人(俺)による素材の味100%、旨味は-100%の料理(笑)に耐えられるとでも? ……いや、最終的には耐えたけど。
ただ、それは色々な要因が合わさった上での、極限状態における適応である。具体的に言うと、味を無視して物を胃に詰め込む事を覚えたからだ。決して味覚が馬鹿になった訳では無いので、美味い物は食いたいのだ。
「……いや、この際美味いかどうかは置いといていい。ただ、ちゃんと調理された飯が食いたいな」
うん。これだ。美味い物は確かに食いたいけど、それ以上に複雑な味を感じたいんだ。今までみたいな、食べ方は焼くか生かの二択、味はまんま素材の味で希に+塩というサバイバル飯じゃ無く、ちゃんとした調味料と調理法の使われた飯が食いたいのだ。
「あとはアレだなぁ。俺以外の誰かが作った飯を食いたいってのがある。技術的な面でも素人だし、自分で飯作るとダンジョンを思い出しそうで嫌だ」
「重症だね……」
まあ、半ばトラウマになるぐらいには、ダンジョンでの飯で苦しんだからな。素材を確保して、食材レベルに加工して、調理して。ここまで面倒な過程を経ても、出来上がるのは基本的に不味い飯っていうのが、本当に心に来るんだぁ……。
「……じゃあ、街についたら沢山ご飯食べなきゃね! 出来るかどうか怪しいけど」
「最後の部分がいらないんだよなぁ……」
実際ライラの言う通りなんだけど……。いやだって、俺達って現状無一文だし。飯食うどころか、街に入れるかすら怪しいし。
「ま、その時は近くで適当に何か狩って、それをお金に替えれば問題無いだろうけど」
「足元見られそうだがな」
「街に入って、冒険者登録が出来ればこっちのものだって」
んー……それもそうか。成り立てじゃあ依頼で稼ぐ事は無理だろうが、狩った獲物自体は換金してくれる筈だし。適当に強い奴を仕留めて丸ごと持ってけば、金にはなるか。
「じゃあ、適当に獲物を探しながら歩くか」
「丁度良いのが見つかると良いね」
「熊や猪みたいな、金になりそうな奴だと助かるな。魔物なら、オークとか…………ん?」
会話の途中、ふと違和感を感じたので一旦立ち止まる。
遠くの方から微かに聞こえてくる、複数の怒声、悲鳴、金属のぶつかり合う音。どうやら、獲物を探す為に研ぎ澄ませていた感覚が、動物ではなく荒事の方を捉えてしまったらしい。
「そうかそうか。ダンジョン生活が長かったせいで忘れてたが、動物や魔物の他にも獲物になるのが居たな」
「何か見つけたの?」
「ああ。どうもこの先で、盗賊がやり合ってるっぽいぞ?」
「あー。盗賊かぁ」
流石は異世界というべきか、盗賊なんて輩が平然と存在しているらしい。人間が存在しないような場所に居たせいで忘れていたが、この世界では人間だって敵に回れば魔物と大差無いのだった。
「そっかぁ。どうするの? 盗賊なら、生け捕りにして然るべき場所に出せばお金になるし、襲われてる人を助けられたら謝礼も貰えると思うけど」
「まあ、金になるなら助けた方が良いんだが……」
「ありゃ。あんまり乗り気でない?」
「いやな。襲われてるのがマルトの貴族なら、助けた場合厄介な事になるよなぁと」
「あー」
普通の商人や冒険者とかなら、嬉々として助けに入って金をせびりたいが、マルトの貴族の場合は関わりたくない。出来る限りこの国からは早く出たいので、善人悪人問わずマルト所属の権力者と関わり合いになりたくないのだ。それに貴族が相手だった場合、俺の顔を知っている可能性もある。一応勇者だった訳だし。
「助けた貴族経由で王城に連絡行ったら、多分連れ戻されるだろうし。そうなったら、最悪俺とマルトで全面戦争だ」
「可能性として無きにしも非ずなのが怖いね……。しかもその場合、滅ぶのはこの国だろうし」
「そういうこった」
得られるリターンと発生するリスクを考えると、どうも突っ込む気になれないんだよなぁ。
「まあ、護衛が優秀で、手出しするまでも無いって可能性もあるし」
「あ、そっか。ボクらが介入する必要が無ければ、ただのお節介で片付けられちゃうもかもしれないのか」
「そ。だから最初は様子見だな」
そんな訳で、盗賊が襲撃していると思われる場所まで早足で進む。
そして発見した。林に隣接した街道で停車する馬車を中心に、上等な装備を身に付けた六人が、大量の汚らしい男達とやり合っていた。上等な装備を付けてるのが護衛で、汚い方が盗賊だろう。
「盗賊はヒーフーミー……隠れてるのも含めると、二十人か。規模としてはデカ目か?」
「大きいと思うよ。盗賊だって仲間を食べさせなきゃいけないんだし、あの人数は中々でしょ」
「何で王都に繋がる街道沿いに、そんなデカい盗賊団が居るんだよ……」
治安的にアウトだろそれ。騎士が巡回とかしねぇのかよ。仮にも宗教国家だろうに、治安最悪じゃねぇか。
「それはボクらの預かり知らぬ事だよ。で、どうするの? 見た感じ、襲われてるのは商人で、介入してもお節介にならない程度には苦戦してるっぽいけど」
「ちと考える」
状況的には、商人側の敗色が濃厚である。人数差はステータスなんてものがある以上、そこまで当てにならないが、少なくともあの中に一騎当千の実力者がいるようには見えない。実力的には護衛の方が上だろうが、人数差ですり潰される程度の実力だな。
更に地形も悪い。襲撃地点は緩やかVの字型になっていて、地味に高所が取られている。更に横は林で、伏兵の可能性もある。というか実際居るし。
「如何にもな地形だから、警戒はしてたっぽいが……」
「ギリギリ持ち堪えてるよね。でも、その内何処かが崩れて、連鎖的に崩壊しそう」
「それは同感だ」
となると、助けた場合は少なくとも謝礼は貰えそうだな。上手く運べば、護衛として雇って貰えるかもしれん。
唯一不安があるとすれば、盗賊団の規模か。強さはゴミだろうが、変な厄介事に派生しそうな感じがある。
「……まあ、リスク的には大した事無いか。何があってもイケるだろ」
「って事は、助けるの?」
「ああ。リターンの方が大きそうだからな。うし。そうと決まれば動くか。護衛の誰かが死んだら拗れるかもしれんしな」
人数が減った方が、護衛の話に上手く繋げられそうだが、バレた時の心象がな。
まあ、この後に交渉が控えている訳だし、下手な事はしない方が良いだろう。
「じゃあライラ。ちょっと空に向かって、派手な魔法を撃ってくれ。全員の注意を引けるような奴」
「それは良いけど……何で?」
「一応、断りぐらいは入れとこうかなと。言質は取っといた方が良いし」
「はいはい。えーと、威力より派手さなら……《ボム》!!」
俺のオーダー通り、ライラは火球を空へと打ち上げ。
ーードォォォン!!!
爆音が辺り一体に響き渡った。
「何が起きたぁ!?」
「っ、状況確認急げ! 新手の可能性もある!」
これには盗賊も護衛も面食らったようで、戦っていた全員が動きを止め、音のした方向、即ち俺達の方を見た。
「ああっ!? ガキと……おいおい! くっそ良い女がいるじゃねえか!」
「旅人かっ? コイツらの仲間では無さそうだが……」
うん。リアクションはそれぞれだが、ちゃんとこっちを認識したな。
なら、
「そこの馬車の護衛! 加勢はいるか!?」
「っ、頼めるか!?」
「あいよ!」
良し。言質は取った。
「ハッ! ガキが増えたところでーー」
盗賊の一人が何か言ってたので、取り敢えずそいつの元に。尚、そいつはもとより、他の盗賊達も、近づいた俺には一切反応出来ていない。
そして腕を振るう。
「何ができゅっ……あえ?」
こうして、威勢の良い事を叫んでいた盗賊Aは、哀れな事に身体が二つに千切れて亡くなってしまいました。
……ふむ。初めて人を殺したが、特に何も感じ無いな。まあ、予想通りか。散々素手で魔物を殺してきた訳だし、そこに人が加わった所で感慨を抱く道理もないか。極論言えば、人間なんて知恵を持った猿の亜種だしな。
あ、ついでに近くにいた四人も殺っとこう。
「よっと」
これで五人。
「……へ?」
目の前で仲間が惨殺されているというのに、盗賊達は間の抜けた顔で固まっている。どうも目の前で起きた光景に、理解が追い付いていないらしい。
あ、固まってんなら丁度良いや。ついでにもう一つ確認しとこ。
「なあなあ、護衛さんよ。コイツら、皆殺しで構わないよな? もしかして、生け捕りとかする?」
「……え、あ、いや。そんな余裕は無いから、殺してくれて構わない。た、ただ、討伐証明用に右手は残してくれると……」
「あいあい」
なら、右手だけ吹っ飛ばさないように注意しとけば良い訳ね。
んじゃ再開。
あ、まだ固まってんの? 余裕だねぇ、はい六。ほらほら、どんどん減ってくぞー、はい七。
「っ、ヒィッ!? オイっ、このガキヤバいぞ!?」
「撤退だぁ! さっさとズラかれぇ!!」
丁度八人目を始末した所で、漸く盗賊達が動き出した。というか、逃げ出した。
「あー、悪いな」
一目散に林の方へと駆け出す盗賊達を、追い越しついでに始末し、俺も同じように林の中へと突撃する。
そこには、顔を真っ青にした五人の伏兵達が。
「ひっ!? なぁっ、何でバレ、ぎゃぶぇ!?」
「皆殺しだから、一人も逃がす気無いんだわ」
うし。これで一番逃げ易い位置の盗賊も仕留めた。
後は、林の手前で腰を抜かしてる七人か。
「た、頼むっ! 降参だっ! 降参するから、命だけは助けてくれぇ!!」
「お願いだ! お願いします!」
「この通りです!!」
どうも心が折れたようで、七人全員が俺に向かって命乞いを始めてしまった。
「俺達盗賊は、生け捕りにすれば犯罪奴隷として金になる! だから、殺すよりも生かした方が得だ!」
「それ使い潰されるだけだから大して変わんなくね?」
「いや! それでも俺達は死なずに済む! アンタは金が手に入る! お互いに損は無いだろう!?」
「ほーん」
個人的にはどっちでも良いので、護衛側の意見を訊いてみる。
「こんな感じで必死に命乞いされてる訳だが、どうすれば良いと思う?」
「……こっちは助けられた側だし、アンタの意見を尊重するさ。……だが、王都にしろテイレンにしろ、街までそいつらを引っ張って行くのは、かなりの手間だろうとは言っておく」
なら殺すか。
「因みに訊くが、命乞いしてる相手を殺すのってどう思う?」
「何言ってんだ? 盗賊は殲滅が基本だろ。下手に生かすと、被害が増えるだけだしな。生け捕りにする気が無いなら、そのまま殺すのが普通だ」
「さいで」
悪い印象を持たれないか心配だったが、どうも杞憂だったみたいだ。流石は異世界。犯罪者に容赦が無い。
「悪いな。街まで連れてくの面倒だから殺すわ」
「ま、待ってくれ! 金なら払う! だ、だから命だけは!」
「くどい」
更に命乞いをしてくる盗賊達を黙らせる為、一番五月蝿かった奴の頭を踏み潰す。
「まあ、アレだ。今回は運が悪かったと諦めろ。いんがおうほういんがおうほう。大人しく来世に期待してくれ」
「こ、この化物が!!」
わお。助かる見込みが無いと分かるや、一斉に襲い掛かってきやがった。
でも悲しいかな。戦闘モードとなった俺には、ただただ止まって見える。
そして軽く腕を振れば、全員揃って風船みたいに上半身が弾けてしまう。
「はぁ……。予想はしてたけど、脆すぎるな。ダンジョンでも普通の魔物は雑魚だったが、人間は輪をかけて酷いじゃねえか。プリンか何かか?」
最低限予想はしていたが、盗賊達がここまで弱いとは流石に思わなかった。どうも俺の想像以上に、地上のレベルは低いらしい。いや、この場合は俺が強過ぎるのか。
こりゃ、実力差から色々と苦労しそうだなぁ。……この後に控える、謝礼の交渉と護衛の売り込みも難航しそうだ。地味に怯えられてるっぽいんだよなぁ。
気配遮断のスキルって、突き抜けるとめちゃくちゃ強いです。
改稿作業終了後
因みに盗賊側からすると、子供が瞬間移動で突然現れて、何かしたと思ったら仲間の身体が破裂しているという、悪夢みたいな現実が目の前で繰り返されていました。南無南無。
にしてもコオリ君、かなり外道っぽい。いや、盗賊相手なんで、世界観的には間違って無いんですが。ただ、惨殺してるんで護衛も商人も引いてます。ライラも引いてます。ただライラの場合、完全にコオリ側かつコオリの実力を知っているので、まあこうなるよねぇ……って感じで仕方なく思ってます。




