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閑話 マルト神聖王国では

閑話ですので、三人称です


改稿作業終了後

閑話なのでサクッと終わりました。

内容的には、粗を治しながら、少しだか文章を追加した程度です。

これはコオリがダンジョンに取り残されてから、ほんの僅かしか経過していない時の話である。



第二騎士団壊滅。その凶報は、王城のみならず勇者達にも衝撃を与えた。


「………そうか、楠が………」

「残念だが、どうしようも無かったんだ」


会話をしているのは藤堂裕と田所タクミ。彼等は悲痛な表情をしながら、死んだクラスメイトについて思いを馳せる。


「色々と悪い噂が絶えない奴だったけど、やっぱり知り合いが死ぬのは堪えるな」

「ああ、そうだな。でも、死んでしまったのはしょうがない。今は嘆く事よりも、現状を見つめて前に進むべきだ」

「タクミ………そう、だな。お前の言う通りだ」


コオリが居たら、ぬけぬけと何をほざくかと呆れそうな事を田所が言う。

藤堂は、田所の言葉を聞いて沈んでいた気持ちを切り替えた。


「みんなの様子はどうだ?」

「あの時ダンジョンに潜っていたメンバーは殆どが怯えてる」

「人が目の前で死んだんだ。そうなっても仕方無いさ」

「大丈夫そうなのは、林、佐藤、後藤、大森、東先輩、アキラぐらいだ。後は、島須先生もなんとかって感じだな」


田所が挙げたメンバーは、ダンジョンに潜っていた中でも実力の有る人間だ。


「そっちの方は?」

「みんな動揺していた。これから本当に大丈夫なのかって声も上がってる」

「やっぱり、死人が出たことが理由かな」

「日本よりも危険だって気付いたみたいだからな」


平和な国で暮らしていた彼等には、その辺りの緊張感が欠けていたのだ。


「みんな心配だ。俺もやっぱり様子を見に行った方が」

「落ち着け裕。お前が行ってどうなる問題でも無い。心配なのは分かるが、今は大人しくしてろ」


精神的にダメージの大きな勇者達は、大体が部屋に閉じこもってしまっている。


「少し頭を冷やせ。部屋で寝るとかしとけ」

「………そうだな。少し部屋で休んでくる」

「おう。そうしろ」


田所の忠告を聞き、ゆっくりとドアの方に向う藤堂。その背中からは、皆が心配で堪らないといった雰囲気が溢れ出ていた。

藤堂が田所の部屋を出て行き、バタンと扉が閉まった所で、田所は大きく溜息を吐いた。


「あー、面倒くさ。ダルすぎだろアイツ」


ガシガシと頭を掻きながら、豪快にイスに腰を下ろす。そこには、さっきまでの冷静な雰囲気は感じられない。


「何が『知り合いが死ぬのは堪えるな』だよ。クズの木が死んでどう堪えんだよ」


一人になった途端に、性根の腐った性格を隠す事なく曝け出す。


「ったく、偽善者が。アイツも、クズの木の事を追い詰めてた癖によ。自覚は無かったみたいだがな」


藤堂は、彼が流した根も葉もない噂を信じ込み、コオリの事を糾弾した。自覚が無いとしても、事実上はイジメに加担していた様なものだ。


「まあ、アイツも存外に役に立ったな。俺の身代わりになったんだ。褒めてやっても良いぐらいだ。もう死んでるけど」


くつくつと小さな哄笑を上げながら、メイドにこっそりと持って来させた酒を呷る。


「勇者だか何だか知らないが、利用出来るなら利用させて貰うさ。俺は選ばれた人間だからな」


彼が浮かべた笑みは、傲慢と尊大さに満ちていた。






「………愚かだな」


上に立つ者特有の威厳を纏う白髪の壮年男性は、水晶に映る少年を見て失望と嘲笑の混ざった言葉を零す。

彼はルイオス・エレ・マルト。マルト神聖王国を治める王であった。


「ギリスの報告は真実だったという事ですね」

「そうらしいな」


共に映像を見ていた腹心、マルト神聖王国近衛騎士団団長である、ハルトマンの言葉に頷くルイオス王。

何故、彼等が田所の部屋を覗いているのか。それは、コオリ達に同行してダンジョンに潜った第二騎士団団長、ギリスからの報告によるものだった。

彼は、騎士団壊滅の報告をルイオス王に話した時に、田所タクミの行動も一緒に報告していた。


『勇者タクミは、自分が助かる為にコオリ・クスノキを身代わりにしました。彼には注意した方が宜しいかと』


ギリスの報告を聞き、ルイオス王は田所の部屋に仕掛けを施した。元々、コオリに対する勇者達の仕打ちについての報告は、諜報部から上がってきていた。主犯が田所であるという報告も。本人はバレない様に上手く隠れているつもりだろうが、城に潜ませている者達からの報告でだだ漏れである。


「あんな愚か者が勇者だとは、この世界も駄目かもしれんの」

「むしろ、彼が争いの原因になりそうです」


ルイオス王の嘆きに、ハルトマンが静かに同意する。


「此方が勝手に召喚しておいてアレだが、あの小僧返せないかの?」

「無理でしょう。召喚自体、成功したのが奇跡ですから。流石に不可能かと」

「本当に、あの生臭坊主どもは余計な厄介事を持ってくる」


権力欲に溺れた教会幹部を思い出し、嫌そうに吐き捨てるルイオス王。


「陛下、何処にあの豚共の耳があるか分かりません。不要な発言は御控え下さい」

「………お前も人の事言えんだろうに」


しれっと毒を吐くハルトマンに、呆れながらツッコミを入れるルイオス王。ルイオス王の腹心であり、旧くからの友人であるハルトマンは、慇懃な見た目とは裏腹に黒い所がある。


「大体、幾らあの越権行為の常習犯共でも、流石に王の執務室に間諜を仕掛ける程馬鹿ではないだろう。むしろ、仕掛けてたなら喜んで首を刎ねてくれる」

「そのまま芋ズル式にいけば万々歳といった所でしょうか」

「まあ、不可能だろうがな」


権力欲にまみれた輩という奴は、どういう訳か逃げるのが上手い。

教会幹部達もその例に漏れず、色々と面倒事をやらかしてくれる割りに尻尾を掴ませない。


「殆ど魔界から出てこない悪魔より、半端に頭が回る小物の方がよっぽど面倒だ」

「悪魔から民を守る為のアルトス聖教が、悪魔よりもタチが悪いとは皮肉がきいてます」


アルトス聖教の存在を、真っ向から否定する様な事を、迷う事なく口に出すルイオス王とハルトマン近衛騎士団長。


「大体、魔族など別に害がある訳でも無いのに、何故戦おうなんて言い出すのやら………」

「そんなもの、何時もと同じ教義の拡大解釈によって、自分達の権力を増やそうとしているからに決まってましょう」

「それで戦うのは民なのだぞ。自分達の権威の為に戦争を引き起こそうなど、どれ程までに愚かなのだか」


彼等の言う魔族というのは、日本に出てくる様な悪役では無い。身体能力や魔法適性が高く、繁殖力の低い事と姿形が少々奇特な事を除けば、基本的に普通の人間と大差ない。

魔族は隣接する大陸に住んでいて、そこの資源を欲して友好関係を結びたいという国も少なくない。

だが、教会幹部達は違う。彼等は、魔族を悪魔の手先と宣言し、常に侵略を望んでいる。今回の勇者召喚もその一環だ。

教義云々とは言っているが、教会幹部達の目的は明らかに資源を教会で独占する事と、捕縛した魔族の隷属である。


「まず、勇者達に協力を要請した理由からしておかしいだろう。魔王が現れた、だと?魔族も国を造るんだぞ。魔王がいるのは当たり前だろうに」

「それを信じる勇者達も勇者達ですけどね」

「なんでも向こうの世界では、魔王は絶対悪として伝えられているらしいからな。なんともまあ、教会からすれば都合の良い世界から召喚されたものだ」


勇者すらも作為的に選んだ世界から召喚したと邪推したくなる程だ。それ程までに、今回の召喚は教会に都合が良すぎていた。


「まったく、この国の王でありながら、あの豚共を止められない事が嘆かわしい」


神聖王国と名の付くだけあって、この国にはアルトス聖教の信者が多い。はっきり言って、国王よりも教皇、下手すれば枢機卿の方が影響力が高いかもしれないのだ。


「恨むべきは歴代の王と貴族達でしょう。彼等が教会幹部と癒着した事によって、この国は傀儡かいらいに成り下がってしまったのですから」


そう。ハルトマンの言う通り、マルト神聖王国は建国当初からの宗教国家だった訳では無い。歴代のトップ達が私腹を肥やす為だけに教会に擦り寄り、それを続けた結果が今の傀儡国家である。


「歴代の所為で、予もアルトス聖教の信者という認識だからな。はっきり言って迷惑な事だ」

「教義自体は素晴らしく、敬虔な信者も多いのですけどね」

「うむ。しかし、狂信者達が集まる過激派や、一部の幹部連中が愚かな所為で、権力を持つ信者は奴らと同類と見なされるからのお。お陰で周辺諸国からの認識が痛い」

「同感です」


二人揃って溜息を着いた後、本来の話題を話し合う。


「取り敢えず、勇者タクミの監視は継続しろ。あの小僧は何か下手な事をやらかしそうで怖い」

「まだ色々と幼稚ですが、成長すれば教会の幹部連中と張り合えそうですからね」

「予も同意見だ。必要はらば暗殺も視野に入れておけ」

「………宜しいので?」

「小僧には悪いが、国を傾けかねん相手など百害あって一利無しだ。召喚しておいて勝手だとは思うが、最悪の事態は想定しておいて損は無い」

「畏まりました。諜報部と暗部に手配しておきます」

「後は、『試みのダンジョン』は封鎖しろ。報告を聞いた限りだと彼処あそこは危険過ぎる」

「同感です。デュラハンやリッチの出てくるモンスターハウスなどぞっとしません」


着々と本来の要件を進めていく、ルイオス王とハルトマン。


「勇者達に関しては、戦えそうに無い者達は、ある程度の回復を見込めたら学園都市に入学させろ」

「………構いませんが、何故です?」

「トラウマが残っていても、彼等は異世界人で勇者だ。この世界の住人よりも才能は遥かに高い。諸外国に対する牽制や、良いアピールになる」

「なる程。………それで、本心は?」

「遠回しにだが教会を宣伝した事にして、当分の要求を突っぱねる」

「納得しました。我が王の仰せのままに」


そうしてハルトマンが臣下の礼を取った時、執務室の扉が叩かれた。


「ぬ? こんな時間に何事だ?」

「……陛下、少々お待ちを。誰だ!」


不思議そうにするルイオス王に断りを入れてから、ハルトマンは扉の向こう側に誰何を飛ばす。


「私です。ハルトマン殿」

「む。エウロス殿か。こんな時間に如何なされた?」

「至急、陛下のお耳に入れておきたい報告がありまして」


訪ねてきたのは、ルイオス王の腹心の一人である文官であった。

僅かに身体から力を抜いたハルトマンは、ルイオス王に視線を向ける。


「良い。入れ」


主の許可が降りたので、ハルトマンは執務室の扉を開けた。


「夜分遅くに失礼します! アルトス聖教のアキレウス枢機卿から、神託が降ったので至急話し合いの場を設けたいとのご連絡が」

「……ほう? また神が金を強請ってきたか。偉大な御方の浪費癖には困ったものだな」

「陛下。少々御言葉が過ぎるかと」


話し合いの内容を悟ったルイオス王は、皮肉混じりに鼻を鳴らす。口では諌めているハルトマンも、その表情が全てを物語っていた。

冷静な二人がノータイムでこんな態度を取るくらいには、アルトス聖教が、というより教会幹部達はやらかしているのである。

だが、この二人の態度は続く言葉によって一変する。


「……いえ、それがどうも事実なようで。報せを受けた者曰く、アキレウス枢機卿は大変動揺していたようです。私も諜報部に確認を取ってみたところ、聖堂内部もにわかに騒がしくなっているという報告が来ております」

「何だと?」


本物の神託が降った。それは即ち、最強種たる神が動いた事に他ならない。

事の重要性を即座に把握したルイオス王は、精確な情報を上げる事を最優先にするよう、関係各所に指示を出し始めた。



マルト神聖王国第二十四代国王、ルイオス・エレ・マルト。宗教国家の君主である彼は、宗教家である以前に『王』であり『政治家』であった。

後に彼はこう呼ばれる。マルト神聖王国希代の『王』であり、史上最高の『愚かなる賢王』と。


王様と一部の幹部は、割とまともだったのです。

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