第二十四 ダンジョン最奥部
ダンジョン編終了です
改稿作業済み
また長くなりました。
取り敢えず、これで一応はダンジョン編は終わりになります。
「……やっと見つけた……!」
「長かったね……!」
ポッカリと空いた階段の入口を前にして、俺とライラは揃って遠くを見つめていた。
ダンジョンでの苦労した日々を思い返している……訳では無い。いや、ある意味では間違っていないのだが、思い返しているのは、ほんの先程までの苦労である。
さて脱出しようと動き出してから、体感で約3時間。俺達は、出口となる階段を見つけるのに、ひたすら手間取っていたのである。
「まさか出口が床の下にあるとは……」
「何でボス部屋の出口が隠されてるんだよ……!!」
あまりにも予想外な状況に、ライラは頬をひくつかせ、俺は虚空に向かって吠えた。
さてダンジョンから脱出しようと動き出したが、何故か出口らしきものは見当たらず。本体まで使ってこの広い部屋を探し回るも、転移の魔法陣や階段、扉等の出口に類する物は存在しない事が判明した。
あの時の絶望は、正直言葉に出来ない。ライラがダンジョンの構造上、出口に類するものは絶対に存在すると断言してくれなければ、心が折れていたかもしれない程だ。
「……本当、ライラが物知りで良かった。ありがとうな」
「いやいやいや! 出口を見つけたのはコオリでしょ? ボクは何もしてないよ!?」
俺が頭を下げると、ライラが慌てて否定してきた。
確かに、出口を見つけたのは俺だ。マトモな方法では見つかりそうになかったので、ダンジョンを喰らった時の要領で、ダンジョン内に満ちる力を探知し、この部屋に繋がる流れのようなものを辿るという方法を取った。
結果として、悪戦苦闘しながらも、何とか出口らしきものがある場所を特定。色々と足掻きまくった末に、偶然床の一部が破損した事で、転移の魔法陣を発見する事が出来た。
「マッピングを全否定するようなトンデモ行為をしたコオリの方が、ボクより全然凄いって!」
「それは褒めてんのか……?」
すっごい引っかかる言い方なんだが。……まあ、いいや。
「俺が言ってんのは、そういう手段的な話じゃないんだよ。ライラのダンジョンの知識が無ければ、出口を探そうなんて思わなかったんだからな。ついでに言うと、アレは裏技みたいなもんだから、他のダンジョンじゃ多分無理だ。知識の方が何倍もすげえよ」
ダンジョンの力そのものを探知するには、長い間ダンジョンの内部で暮らし、更に強力なフロアボスの力を大量に取り込まないといけないからな。同様の事を他のダンジョンで行うのは、不可能とは言わないが難しい。
このダンジョン限定の裏技よりも、専門的な知識の方が遥かに上なのは明らかだろう。
「でも、ボクの知識は、殆どバルザックの受け売りだし……。ダンジョンの出口が、侵入者を吐き出す為の一種の排泄機構だって突き止めたのも、ボクじゃなくてバルザックだし」
「いや、受け売りでも、ちゃんと記憶してるならライラの知識だろ。十分すげぇよ」
「……そ、そうかな? ……えへへ。バルザックの研究室に入り浸ってて良かった。単に扱いがマシだったから逃げ込んでただけなのに、何が良い方に転ぶか分からないもんだねぇ」
ライラは嬉しそうに笑いながら、しみじみとそう呟いた。
微妙にツッコミ難いコメントがあったが、取り敢えずは良しとする。かつての宿敵だった機械龍を倒したお陰か、殆ど問題無いレベルで吹っ切れたようだ。
うん。前向きになるのは良い事だ。
「……何か、生暖かい目で見られてる気がする」
「そりゃ、ちょっと礼をいっただけでそんなにニヤケられたらなぁ?」
「うぇ!? そんなに顔弛んでた!?」
「してたしてた」
「ぁぅぅ……恥ずかしい」
んー……わざわざ言う事でも無いと思って誤魔化したが、予想外にダメージを喰らってるな。
真っ赤になって顔を隠すライラを見ていると、かなり申し訳なくなってくる。
これは早々に話題を切り上げるべきか。
「ま、特に不都合がある訳でも無えんだから、こういう礼はさっさと受け取っとくこった。無駄にごねると、今みたいに変な方向に進んで、訳分かんない所で自爆するぞ?」
「うぅー……そうする……」
「うし。なら切り替えろ。ほれ行くぞ」
凹むライラの背中を叩き、転移の魔法陣へと誘導する。
凹ました元凶の台詞では無いのは重々承知だ。
「この先が出口なんだろ?」
「うん。後は、ダンジョンコアもこの先にある筈」
「……それって取っても大丈夫な奴か?」
コアを取ってダンジョンが消滅しましたとか、俺的にはシャレにならんのだが……。
「大丈夫だよ。ダンジョンで取れる財宝の類は、大抵は人類をおびき寄せる為の餌兼トカゲの尻尾だから。ダンジョンコアもそう。凄く価値のある宝玉だけど、取ったところでダンジョンがどうこうなる事は無いよ」
「なら大丈夫か」
ダンジョンコアは出来れば確保したかったので、ライラの言葉は朗報だった。
今までは、例え価値のあるものであっても、持ち運びの問題からガンスルーしてきたが、今後はそうもいかないからな。外に出る以上、先立つものは必要になってくる。特に俺達は現状無一文なので、手っ取り早く纏まった金が欲しいのだ。
生活の事を考えなければならないのは少々面倒だが、同時に文明社会が直ぐそこまで迫って来ている事を実感する。
実に感慨深い。
「良し。じゃあ行くぞ」
「うん」
逸る気持ちを抑えながら、俺はライラと共に転移の魔法陣へと飛び込んだ。
一瞬視界が暗転し、浮遊感が全身を包み混む。だが、次の瞬間には、視界が切り替わった。
「……ここが…………ん?」
目の前に広がるのは、とても巨大なダンジョンコア
「んんん?」
…………では無く、やけに乱雑とした広めな部屋であった。
床一面に散らばっている、書き損じと思われる大量の紙類。
壁一面には大量の本棚が置かれ、所々虫食いでありながらもぎっしりと詰まった書籍の数々。
本棚の近くには、立派な机が鎮座し、その上には紙や本、羽根ペンやインク、あとは大きめなカバンや正体不明な機材が散乱している。
そして部屋の片隅には、人一人分の大きさの、転移系と思われる魔法陣がポツンと存在していた。
……何だこの部屋。
「……えっと、研究室……?」
「あ、それだ」
何か見た事あるなと思ってたけど、ライラの呟きでピンと来たわ。この部屋、漫画とかにある典型的な研究室にそっくりなんだ。アレだよ。マッドサイエンティストとか、駄目なタイプの研究者がいる系の奴。
「……何か、妙な既視感が……」
ライラも思っ似たようなイメージを浮かべたのか、眉を寄せて考え込んでいた。
そして、おもむろに一歩踏み出し、散乱する紙の中の1枚を拾い上げる。
「……っ、やっぱり……」
ギリッと、妙な音が響く。
それが歯軋りの音だと気付いた俺は、恐る恐るライラへと声を掛けた。
「えっと、ライラさん? 急にどうしたの?」
「……いや、この紙に書かれた文字、ちょっと見覚えがあってね。……これ、バルザックの文字なんだ」
「……は?」
「ボクも驚いたけど、ここは多分、バルザックの研究室だ」
何か、クソ予想外な単語が飛び出してきたんだが……。
え、ぽいなとは思ってたけど、これマジモンの研究室なの?
「……いやいやいや! ここダンジョンだぞ!? 何でバルザック某の研究室があるんだよ!?」
「……何でと言われてもねぇ。バルザックならやりかねないからとしか……。というか、実際に似たような事やったし」
「そう言えばんな事言ってたな!?」
研究施設を増やす為に、人為的にダンジョンを作ったんだっけ? 発覚して大騒ぎになったってのは聞いたけど……。
「え、マジなの? マジでそれを実現させたの?」
「……多分。最初に作ったダンジョンは、速攻で破壊されてたから、ボクが封印された後に作ったんだと思う。封印される前にこっそり作ってた可能性もあるけど……」
「うわぁ……」
ドン引きだわ。ダンジョンって、この世界では一種の災害だろ? それを自分の為だけに発生させるとか……。下手したら大惨事だぞ。
「今思えば、このダンジョンの違和感とかも納得だよ。やけに渋い宝箱とか、床に埋まってた転移陣とか。妙に人為的というか、明らかに先に進むのを妨害してるもん」
「全部、この場所に来させない為の仕掛けって訳か……」
確かに、思い当たる節がある。やけに偏ったモンスターの分布、明らかに労力と結果の見合っていない宝箱、性格の悪さが滲み出ている罠等、侵入者の心をすり減らすような仕掛けが幾つもあった。
ダンジョンは人間をおびき寄せる。ライラの語るダンジョンの生態とは、真反対のダンジョンであったが、本当に侵入者を拒んでいたのなら納得だ。
「……って、ちょっと待て。つーことは、俺はずっと前から、バルザック某から被害を受けていたって事か?」
「うーん……。一応、ダンジョンの規模的には、相当長い年月が経ってる筈だし、バルザックの手を離れている可能性は高いかなぁ……」
「ほーん。なるほどねぇ? そうかそうか」
ライラの消極的な説明に、俺はふむふむと頷いた。
確かに、ダンジョンは時間経過で成長するらしいし、それを踏まえて考えれば、バルザック某が既に死んでる可能性は高い。そういう意味では、俺がバルザック某から被害を受けたという事になならない。そもそも、俺が此処にいるのは勇者達のせいだしな。
だが、そもそもバルザック某が、ダンジョンなんか作らなければと感じてしまうのは、悪い事だろうか? たられば等に意味が無いのは重々承知だが、理由が凄まじく私的な事を思うと、どうしても心がざわめくのだ。
「……コオリの感じてるモヤモヤは理解出来るよ。ただ、もうこれはしょうがないって割り切って。バルザックのやることは、大体予想がつかないから。雨に振られたと思って諦めるしかないよ。多分、本人死んでるし」
「死んで尚人を振り回すとか、それもう天性のもんだろう……」
何で見ず知らずの過去の人間に、こうまで振り回されなきゃいかんのか……。俺の人生不運過ぎねえ?
「というか、よくライラはそんな奴と一緒にいたな。俺なら直ぐに逃げるぞ」
ライラの境遇は理解しているが、それでもお近づきになりたい人種じゃないだろうに。
「いや、あの、その言い方は誤解が生まれるからやめて? ボクがバルザックの所に入り浸ってたのは、アイツだけがボクに悪感情を向けてこなくて、尚且つアイツの所に人が全く来なかったからだからね? 他に選択肢があれば、絶対そっち言ってるから」
決して居心地が良い訳では無かったが、それでも他よりは遥かにマシだったからそこに居たのだと、ライラは語る。
四方八方から悪感情を向けられ続けるよりは、トラブルメーカーであっても無関心な人間の傍の方が落ち着いたのだろう。
「確かに王城とかは人が多いからな。人気が少なくて、それでいてライラに対して無関心な奴がいたら、そこに居着くか」
「今思えば、どっちもどっちだった気もするけどね。バルザックの所は、物理的な命の危険に晒される事もあったし。日常的に針のむしろに晒されるか、時たま命の危機が訪れるのかの違いかな」
「精神的か物理的な違いではあるな」
どっちにしろ苦行だが。
「ま、それはもう過ぎた話だよ。このダンジョンがバルザック作って事で確信したけど、ボクが封印されてから相当な年月が経ってるみたい。この部屋を見ると、実感しづらいけどね」
ライラ曰く、この部屋がマトモな様相なのは、部屋全体に強力な状態保存の魔法が掛かっているか、ダンジョンの一部扱いで劣化していないかのどちらかだと言う。
「じゃあ、実際はどれぐらい経ってると思うんだ?」
「うーん。機械龍や、コオリがこれまで戦ってきたフロアボス達の強さを踏まえると、ボクが封印されてから千年は経ってるんじゃないかな? もしかしたら、五千年を超えてるかもね」
「え、そんなに?」
「うん。ボクの時代にあったダンジョンじゃ、此処のフロアボス並の敵でも殆ど出てこないレベルだよ。ダンジョンが最強種並のボスを出すようになるには、途方も無い時間が経ってる筈」
まあ推測だけどね、と続けるライラであったが、その表情は推測が事実であると確信しているようだった。この世界における最強種は、それだけ絶対的な基準なのだろう。
地球に当てはめれば、何千年という年月は、神話の時代から現代にまで辿り着きかねない程の時間だ。
エルフを筆頭とした長命種が存在する世界であるが、もしかしたらライラも、この世界でも神話の時代の住人であるのかもしれない。
「数千年か……。じゃあ、ライラが生きてた頃の奴らは」
「全員、死んでるだろうね。天使族の寿命は長くても四百年だし。幾らエルフと並ぶ長命種と言っても、流石にそこまで長生きじゃないよ。国すら残ってないかもね」
とてもあっさりと、ライラは関係者全員の生死を断言してみせた。
その表情は至って平然としており、かつての関係者に対して、特別な感情を一切感じていない事が見て取れる。
さっきから吹っ切れた様子を見せていたが、ここまでとは。
「随分軽いんだな」
「いやだって、推測とは言え数千年だよ? 皆死んでるだろうし、どうしようも無いじゃん。恨みつらみが無いとは言わないけど、相手がいないんじゃ虚しいだけだよ」
「……そうか」
「そうかって、キミねぇ……。ボクに過去に囚われるなって言ったのは、コオリでしょ? ボクはキミがいるから、綺麗に割り切れるようになったんだよ? キミ無しじゃもう生きていけない身体になってるんだ。そこんとこ分かってる?」
「お、おう……」
ライラにジト目を向けられ、思わずたじろいでしまった。……何だ、このジト目。今までより迫力があるぞ。問い詰める雰囲気の中に、ドロッとしたナニカが混ざってるというか。逆らえない寒々しさを感じる。
というか、ライラの様子を心配してたのに、何で修羅場みたいな雰囲気になってるんだ!?
「はぁ……。ここは一生幸せにしてみせる! ぐらい言って欲しかったなぁ。この朴念仁」
「うっ……」
「まあ、薄々勘づいてたけどね。キミ、長いダンジョン生活のせいで、人間的な感性が一部退化してるでしょ? かなり露骨にアピールしてるのに、一向に手を出してこないしさ」
「いや、その……」
「脈無しならそれも分かるけど、そうじゃ無いのは一目瞭然なんだからね? そういう対象として見てるのは丸わかりなんだから、変に紳士ぶらなくて良いの。そんな事で幻滅したりしないし、むしろ願ったり叶ったりなんだから」
「ちょっ……」
「ボクだって女の子なんだ。求めるより求められたいと思うのは当然でしょ? それがロマンチックならなお嬉しいし。……ま、今のコオリに求めるのは酷だろうけど」
「んぐっ……」
「出来れば、外でその辺りの感性をちゃんと戻して欲しいなぁ。待つのは構わないけど、あんまり長いのは嫌だからね?」
「……はい……」
ならよろしいと、ライラは笑顔を浮かべる。
とても可憐な表情なのだが、さっきまでの滅多打ちを思うと、素直に受け止められない。
いやだってよう、確かにライラは大切な仲間だけど、まだ時間的にはそんなに経ってないんだよ。それなのに手を出せって、年齢=彼女いない歴の非モテ男子にはハードルが高いというか。後、なまじライラの容姿が整ってるのがまた問題なんだ。綺麗過ぎて気後れするってのもあるけど、それ以上に恋愛感情よりも性欲が先に来てる気がして申し訳無いというか。それでも良い、むしろドンと来いってお墨付きは今貰った訳だが、大切な仲間だからこそそういうのは良心が咎めるし……。
ヘタレと呼びたくば呼べ。非モテでそこまで恋愛にガッツいていない思春期男子などそんなもんだ。……というか、単にライラが逞し過ぎるんだよなぁ。
「……ボクの事を真剣に考えてくれるのは嬉しいし、大切に思ってくれてるのも伝わってくるけど、ちょっとドツボに嵌ってない?」
一人で悶々としていると、ライラが呆れた顔で俺を見ていた。
「さっきも言ったけど、別に今すぐ結論を出せって言ってるんじゃないの。取り敢えず、感性を人並みに戻してって言ってるの。なんなら、街に出た時娼館とかに行ってきたら? そうすれば、多少は回復するんじゃない?」
「ぶっ!? おまっ、いきなり何言ってんだ!?」
「そんなに変な事言った? 男の人ってそういうもんでしょ?」
「いやまあ、世間一般的な男の印象としては、あながち間違って無いが……」
お前がそれを言うのはどうなんだよ……。まだ恋人って訳では無いが、殆ど似たようなもんだろうに。いや、例えそういう関係じゃなくても、仲間の女子にその手の話を仄めかされるのはキツいわ。
「普通、そういうのは嫌がるんじゃねぇの? 女の人って」
「あのねぇ……。ボク、一応は王族だったんだよ? 権力者の夫を持つなら、夫人が複数いるのは当たり前って育てられてきたの。だから、コオリがハーレムを作ろうが、娼婦を買おうが気にしないよ」
「いや、俺は別に権力者じゃないんだが……」
「強いっていうのも、一つの立派な権力さ。今の時代は兎も角、少なくともボクの時代ではね。まあ、コオリの話を聞く限り、今も昔も考え方は変わってなさそうだけど」
「まあ、な……」
ライラの推測を、俺は逡巡しながらも肯定した。
実を言うと、この世界では一夫多妻が認められている。人命がかなり軽い為、産めよ増やせよ的な考え方が一般的なのだ。勿論、家族全員を養うだけの収入がある事が絶対条件だが。
因みに、何で俺がそれを知っているかと言うと、一般教養を学ぶ時に、ハーレムに憧れた馬鹿の一人が意気揚々と質問していたからである。地球側の女性陣の冷たい視線を堂々と受け止めていたアイツは、違う意味で勇者であった。
まあ兎も角。条件的に言えば、俺がハーレムを作る事は恐らく可能だ。複数の伴侶を養えるぐらいの収入を得る事は、多分難しく無いだろうし。
「でもなぁ。出来るのとやるのとでは別問題だろうよ。娼館だって行く気無ぇし……」
「そう? コオリって欲無いんだね」
意外そうなライラを見ていると、俺がどう思われてるのか若干問い詰めたくなってくる。
「ま、女性関係で何かしたくなったら、ちゃんと言ってね? 隠された方が困るから」
「何でそんな明け透けというか、おおらかなのお前……」
こう、女性特有のドロッとした嫉妬心とか無い訳?
「え、コオリって嫉妬とかして欲しいの?」
「……過度な奴は困るが、だからと言って全く妬かれないと不安になってはくる」
「あははっ。コオリ、結構可愛いとこあるね!」
「うっせ」
女々しいとは俺も思うが、これが本音なんだよ。何かこう、やる事なす事全肯定されると気持ち悪いの一緒だよ! 一周まわって、コイツ俺の事どうでも良いんじゃねえかって疑わしくなるんだよ!
「あー、くっそっ。顔が熱い」
「ふふっ。なるほどねぇ。コオリはそういう娘が好みなのね」
「うっさい。というか単純に可愛いだろ、女の子が独占欲見せるところとか」
そういうキャラがヒロインだった漫画とか大好きだったし、そういうシーンの一枚絵とか頻繁に見てたんだよ。ぶっちゃけ性癖だよ。
「んー、それを女のボクに言われても困るんだけど。まあ、分からなくはないかなぁ」
苦笑しながらも、ライラは同意の姿勢を見せてきた。
「じゃあ、ちょっとだけぶっちゃけるけど……」
そう言って、ライラは俺の襟首をぐいっと引っ張り、
「確かにボクは、キミがハーレムを作ろうが、他所の女と浮気しようが気にしないよ? ……でも、一番はボクだ。それは絶対に譲らないし、忘れて他の女に夢中になるようなら承知しない。ボク、心は広い方だけど、独占欲が無い訳じゃないんだよ?」
その言葉に、ドキリと心臓が跳ねた。
「じゃあ、ボクはちょっとこの研究室を調べてくるね。バルザックの性格上、貴重な物もそこら辺にほっぽてるだろうし、回収出来る物は回収しちゃいたいんだ。あと、論文や資料も見ときたいかな。かなり色んな方面に手を出してるから、タメになるものも多い筈。かなり時間が掛かるかもだけど、良い?」
「あ、ああ……」
「ありがと。じゃあ、それが終わったら此処を出ようね」
そう言って駆け出すライラの背中を、俺は呆然と見送った。
「……マジかぁ……」
今のはライラの本音なのか、それとも俺の性癖を知った上でのサービスなのかは不明だ。
だがそれでも、心臓はうるさいぐらいに音を立てていた。先程の台詞も、表情も、頭の中にこびりついて離れ無い。
「……これは勝てそうにないな……」
楽しそうに研究室を漁り回るライラを見ながら、俺は小さく呟いた。
心臓の鼓動は、ライラの調べ物が終わるまで鎮まる事はなかった。
問題無いというコメントが大量に。かなりくるモノがありました。
これからも頑張っていきます。
改稿作業終了後
コオリ君はヘタレ。でも最後はときめく。
因みにこの二人、一応まだ恋人ではありません。理由はコオリ君が述べてます。ただまあ、ライラは殆ど告白っぽい事してるし、コオリ君もほぼ受け入れてるので、実質恋人。あと1歩が踏み出せないだけ(主にコオリ君が)。アレです。ろくでなしな二人組の距離感をイメージしてくれると。
あと、ライラのキャラが結構変化しました。天真爛漫なアホの娘から、天真爛漫でアホっぽいけど、本質的には優秀で冷静、でも恋愛方面じゃ中々に情熱的なキャラに。なんだこの複雑なキャラは……。
まあ、結構嫌いじゃないので良しとします。
これで次辺りから、ダンジョンの外に出ます。やっと出れます。




