第二十三 旅の目的決定
コメントで、『ありふれた職業で世界最強』と展開が似ているという評価が多数ありました。
この件、自分でも書いてる内に『あれ、似てね?』とは思ったのですが、この事に気づいた時には既に相当量を書いてしまっていて、下手に弄ると今後の展開に影響が出てくる可能性が高い為に、大幅な修正が困難でした。
読書の皆様、及び『ありふれた職業で世界最強』の作者である厨二好き様には、不快な思いをさせてしまい大変申し訳無く思っております。
追伸
似ているのはダンジョン編までです。
十月30
色々と修正しました。
改稿作業終了。
「えーと、状況を整理させてね?」
「どうぞ」
パニックの治まったライラが、コホンと咳払いをしながら、確認を取ってくる。
「まず、コオリは元の姿に戻る為の方法を探していた」
「そうだな」
「それで、何とか試行錯誤の末に、元の姿に戻る事になった」
「頑張ったぞ」
「でも、獣の姿のコオリも依然として存在しているよね?」
「だな」
「つまりコオリが増えたって事……?」
「一応そうなる」
俺が肯定すると、ライラは理解が出来ないと言いたげに頭を抱えた。
「何がどうしてそうなったのさ!?」
「いや、ちゃんと理由はあるんだぞ」
「理由も無しに増えたら流石に怖いよ! コオリはスライムか何かなの!?」
「あんな粘菌やプラナリア的な増え方をした訳じゃないんだが……」
この世界のスライムは、戦い方をミスると分裂して増えるという性質がある。
だからと言って、俺が増えた方法と一緒にしないで欲しい。あっちは生物としての生態で、俺がやったのはもっと凄い方法だ。
「人間形態の俺は、簡単に言うと分体なんだよ」
「分体?」
「そ。俺が人間の姿に戻れないのは、存在の総量が多すぎるのが原因みたいだからな。だから、人間の姿になれるレベルまで切り分けてたんだ」
今までの俺の状況を説明するなら、存在を水に置き換えれば分かりやすいだろうか。
獣形態の俺が保持する水量は小さな湖に匹敵する。だが、人間の保有出来る水量はせいぜいがコップ一杯程度。なのでどうやっても、水を全て注ぐ事は出来ない。その為に苦肉の策として、コップ一杯分の水を注いで人間形態を造ったのである。
尚、存在を切り分けるのは、原初の獣の能力を応用した。元々、進化によっては己の存在にすら手を加える事が出来る能力だ。一部を切り分けて分体とするぐらい、訳はなかった。
「……つまり、これはコオリの化身って事?」
「化身?」
俺の増えた説明を聞いたライラが、難しい顔で聞き慣れない単語を出してくる。
化身って言うと、分体とかと似たような意味合いじゃなかったか?
「よく分からんが、分体と何か違うのか?」
「んー、ボクもバルザックから聞いただけだから詳しくは無いんだけど……。意味的にはそんなに違いは無いと思う。化身って言うのは、世界から弾かれてる最強種が、こっちの世界に干渉する為に、自分の力を割いて生み出す端末みたいなものって言ってた」
「なるほどねぇ」
ライラの説明の通りなら、自分の力を割いているというのなら、確かに俺の分体は化身と言えるのかもしれないな。
それにしても、また出てきたなバルザック某。ここまで来ると、未来ロボット並の便利ワードになってきてる気がするぞ。
「因みに、確認されてる最強種の現界記録の殆どは、この化身の事なんじゃないかって言ってた」
「ほへー。そうなのか」
「うん。最強種、特に龍種は現界の記録が多く残ってるらしいんだけど、本体の方でそんな頻繁に現界してたら、世界の守護者である精霊との大決戦が勃発してる筈だって言ってた。あと、現界したのが化身の類なら、竜みたいな眷属との隔絶した力の差にも説明が付くんだって」
「んーと、龍の眷属が竜、神の眷属が使徒、精霊の眷属が妖精だっけ?」
確かそんな事を本で読んだ気がする。ただ、精霊と妖精は他の二種と違って、微妙にややこしい関係だった筈。というか、精霊は世界側の存在だから、他の最強種とは毛色が違うって書いてあった。
「そうそう。で、その眷属と最強種とは天と地ぐらいの力の差があるの。龍と竜の差って言えば、コオリも分かるでしょ?」
「ああ。それも本で読んだな」
「その差には化身が関係してるんじゃないかって、バルザックは睨んでたの。眷属の元になったのは、最強種の本体じゃなくて、世界が許容出来るレベルに調整された化身だったんじゃないかって。だから、最強種の系譜でも世界から弾かれないし、力も最強種には遠く及ばない」
「なるほどねぇ」
その説が正解かどうかは兎も角として、確かに筋は通ってる。
実際、俺の分体、いや化身か? 化身と本体では、力の差がとんでも無い事になっているしな。その化身をベースにして、力を分け与えたと考えれば、最強種と眷属ぐらいの力量差になるとは思う。
「……ん?」
バルザック某とやらの説に関心していると、ふと気付いた事が。
「……なあライラ」
「どしたの?」
「話の流れ的にさ、俺、本体だと世界から弾かれるんじゃね?」
「……あ」
ライラもその可能性に気付いたようで、暫く考え込む。
「……参考までに訊くけど、人型のコオリはどれぐらい強いの?」
「そうさなぁ……んー、機械龍と互角ぐらいじゃないか?」
「…………また判断に悩むなぁ」
もっと圧倒的なら確実だったのにと、ライラは小さく呟く。
しかし、口では悩ましげに言いながらも、ライラは静かに思考を巡らせていく。そして、俺の化身の強さを基に、自らの意見を纏めてみせた。
「先に言っておくけど、これはバルザックから聞きかじった知識を基にしてるから、あくまで推論だよ?」
「それでも構わん。今俺がアテに出来るのは、ライラの知識だけだ」
「分かった。多分だけど、弾かれると思う。ボクも実物は見た事無いけど、機械龍って他の最強種の化身ぐらいの力はあると思うんだよね。素体は多分化身の方だろうけど成龍の亡骸だし、そこにダンジョンボスとしての強化が入れば、元が人造でもそれぐらいいくと思うんだ」
「まあ、確かに」
ダンジョンの力の総量を考えれば、ライラの推測は間違っていないと思う。
「だから、あの機械龍を一蹴してみせたコオリは、最強種とほぼ同等の力を持ってると思うんだ」
……そうなると。
「やっぱり、本体だとアウトか?」
「うん。ここがダンジョンっていうある種の異界じゃなきゃ、直ぐにでもコオリは世界の外側に弾かれてると思う」
「まじかぁ……」
ライラの結論に、がっくりと肩を落とす。
いやまあ、そんな気はしてたよ。なんたって、あんな出鱈目に強かった機械龍が雑魚に成り下がったんだ。出鱈目を超えるトンデモな力で、何かするだけで世界の法則が乱れるのが、今の俺だ。何の縛りも無しに、世界に居て良いような存在じゃない。
だから、この理屈は納得出来る。というか、本体の方は人間社会じゃ持て余すだろうし、化身で行動するのに否は無い。
ただ、そうなるとまた切実な問題が出てくるのだ。
「世界の創り方なんて知らねえぞ俺……」
俺が最強種と同等の存在である以上、俺の居場所はこの世界には無い。世界の外側に、自らで居場所となる小さな世界を創らなければならないのだ。【反逆】で世界に踏みとどまる事も出来そうだが、碌な事にならない予感がビンビンするしなぁ。
……とはいえ、そんな創造神じみた所業、仮にもごく一般的な高校生に出来る訳が無い訳で。というか、出来て堪るか。
「……どうしたもんかぁ……」
「そんなに悩む事かな?」
俺が頭を抱えていると、ライラが不思議そうな顔をする。
「……何か変な事で悩んでるか俺?」
「いやだって、今の所は、このダンジョンにいれば問題無いじゃん」
「……まぁ、そうなんだが……」
確かに、ライラの言う事は尤もである。理由は知らないが、このダンジョンでは本体が現界出来ており、世界に弾かれる様子も無い。
ただ、それが永続なのか、それとも一時的なのかの判断がつかないのだ。
「今は大丈夫だとしても、いきなり世界から弾き出されるかもしれないだろ」
気付いたら世界の外側でした、とかなったら流石に笑えないぞ。イメージとしてはいきなり宇宙空間に放り出されるようなもんだろ。……そう考えると意外と大丈夫な気がしてきたな。ヤバい感覚がズレてきた。
「んー、大丈夫だと思うよ? この世界の中にあるとはいえ、ダンジョンもまた異世界みたいなものだし」
「……そんなもんか?」
「そうじゃないと、階層違いで環境が変化する訳無いじゃん」
……それは確かに。如何にダンジョンが異空間と言えど、それでもこの世界の法則から外れ過ぎている。異世界と言われたら納得するしかないか。
「流石にずっとは居れないだろうけど、そこまで逼迫した問題でも無いと思うな、ボクは」
旅をしながら、最強種でも探して尋ねれば良いとライラは言う。
「……最強種って物騒だな。戦闘とかにならないか?」
「ならないように気を付けてね? 下手しなくても大陸滅亡案件だから」
「俺だって遠慮してぇわ」
強敵との戦闘は、当分いらねえよ。機械龍で食傷気味だっての。
というか、そんな軽く提案する事じゃねえだろコレ。
「あはは。大丈夫だって。龍や神は兎も角、精霊ならそんな事にはならないから」
「精霊? 何でだ?」
「精霊は意志を持つ世界の欠片で、この世界の秩序を守ってるの。余計な事をしない限り、世界にダメージを与えるような事は絶対にしないと言われてる。むしろ、凄く真剣に相談に乗ってくれると思うよ? 最強種の現界問題とか、普通に世界の危機に直結するし」
「なるほどねぇ」
つまり、精霊を探せば俺の問題はなんとかなる可能性が高いのか。それも安全に。
うん。これは旅の目的は決まったな。
「良し分かった。取り敢えず、当分の目的は精霊探しだな」
「うん。目的無しにぶらつくのも良いけど、やっぱり指標ぐらいは欲しいし、丁度良いと思うよ。あ、一応訊くけど、化身の方は本体から離れても大丈夫? 問題は無いと思うけどさ」
「多分、大丈夫だな。繋がりみたいなのがあるんだよ。どんなに離れてても、問題無く動かせると思う」
「まあ、最強種も世界の壁を跨いで使ってるだろうし、それはそうだよね」
「というか、もっと色々出来そうだぞ。力の移動とか、片方を基点に現界とか」
「……前は兎も角、後ろのはやっちゃ駄目だからね?」
「分かってるって」
化身を基点に本体を現界させたら、その時点で世界から弾き出されたジ・エンドだしな。
そんな事を考えていると、ふと気付く。
「……あ。そうなると、このダンジョンは攻略されたら不味いな。ダンジョンが消滅したら、似たような結果になる」
まあ、このダンジョンの難易度的に、流石に最下層まで来る事は無いだろうけど。
……いやでも、少し不安だな。ついさっき、ダンジョンの力を大幅に削っちまった訳だし、防衛能力みたいなのがダウンしてるかも。通常の魔物は大丈夫だろうが、ボスやトラップの類は弱体化してる可能性がある。他にも環境の変化や、フロアの縮小、下手したら階層が幾つか消滅なんて事も……。
「うん。念の為、本体の方でボスの代わりをしておくか」
「……本来の最強種と同等のボスって、笑えないって所の話じゃないよ……?」
俺が結論を出すと、ライラが思い切り頬を引き攣らせた。俺としては、万が一の保険ぐらいの感覚だったのだが、この世界の住人であるライラにとっては違ったらしい。
最強種という存在は、それ程までに畏れられているのだろう。
「いやまあ、必要性は分かるけどね。……あ、でも、もし誰か来たとして、化身を出した状態で戦えるの? それとも、一旦化身の方を止める感じ?」
「いや、両方同時に動かせる。化身つっても、力の極々一部だし。動かすのに、そこまで苦労は無い。上手く説明出来んが」
強いて言うなら、音楽を聴きながら作業をする感じか? ……んー、微妙に違う感じもするが、兎に角出来て当たり前の事とだけ説明しておこう。
「そっか。それなら大丈夫だと思うよ。うん、良いと思う」
俺の説明に納得したライラは、なら問題無いと頷いた。
さて。それじゃあ色々と話に一段落着いたし、そろそろダンジョンから脱出するか!
すみませんでした。
指摘がありました。
『確実に』が『各自に』となってました。
改稿作業終了後
取り敢えず、次でダンジョン編は終了です。いやー、本当に長かった。
さて、旅の目的その1がこの話で決まった訳ですが、これだけじゃありません。次のお話で、更に目的が追加される予定です。
そして地味なネタバレ。バルザック某は、この物語では結構なキーパーソンです。既に便利な設定裏付けキャラになっている気もしますが……。




