第十九 決戦、紛い物の機械龍
ダンジョン編のラスボスです
十月30
色々と修正しました。
修正箇所が多い話は、まとめて編集する予定なので、今回と前回の話の中でズレている箇所が幾つかありますが、それは気にしないで下さい。
改稿作業終了後
鬼の園も閉園したので、改稿作業再開です。
……いやまあ、実際はイベント周回してた訳じゃなくて、単純に超超超難産だっただけなんですが。前半2000文字ぐらいが全然書けなかった。というより、書いては没を連発してました。
次からは戦闘シーンメインなので、苦戦はしないはずです。
ダンジョンに置き去りにされてから、一体何ヶ月経ったのだろうか。
強敵と戦い、何度も階層を彷徨い、飢餓を恐れた日々。
それがもう直ぐ終わる。そう考えると、身体の奥から力が沸き上がってきた。
口は湖月に歪み、闘志の奔流が周囲満ちるプレッシャーを塗りつぶす。
「やっとだ……。やっとここまで来た……!!」
闘争心が言葉となって溢れ、獣の本性が剥き出しとなる。
「こ、コオリ……?」
異変を感じたライラが、俺の方を見ながら戸惑いの声を上げた。
そういえば、ライラの前で本気になった事は無かったっけ。
獣性を見せる事に恥ずかしさを覚えなくもないが、直ぐに些細な事だと考え直す。どうせ何時かは見せるのだから、遅いか早いかの違いだ。
幸いな事に、ライラは俺の変化に戸惑ってこそいるが、怯えた様子は無い。周囲のプレッシャーを塗りつぶした事で持ち直したようだし、全体的に見ればプラスと言える。
ならば優先すべきは、この先にいるダンジョンボスだ。
「ライラはここで待ってろ。んで、俺が危ないと言ったら直ぐに階段を上がれ。避難は自分で判断してもいいから、とにかく安全第一で行動しろ」
「んなっ!?」
まず、何かあったら直ぐに逃げるよう、ライラに指示を出す。
事実上の戦力外通告なので、当然の如くライラは声を上げようとするが。
「先に言っておくが、反論は受け付けないぞ。キツイ言葉になるが、近くにいるだけで足でまといだ。この先の戦闘じゃ、お前の事を気にかける余裕は無い。だから下がっててくれ」
「……っ、!!!」
俺はライラが何か言う前に、彼女の存在を邪魔だと切り捨てた。
これにはライラも言葉を詰まらせる。
「ライラが近くにいれば、それだけで勝率も生存率も大きく下がるんだ。生死に直結する以上、この先に来させる訳にはいかない」
非情ではあるが、これは俺達の命に関わる問題だ。戦いに巻き込まれればライラは当然死ぬし、俺も戦闘に集中出来なければ敗北する可能性が高い。
ちゃんと2人でこのダンジョンから脱出する為には、ここで反論させる訳にはいかない。
「……酷い言い方して悪いな。でも、お互いが生き残る為なんだ。終わった後に文句は幾らでも聞く。だから、今は我慢してくれ」
「〜〜っ!! ……ズルいよコオリ! そんな申し訳なさそうに謝られたら、何も言えないじゃないか!」
筋の通った理由と、感情面からの説得には、流石のライラも言い返す事は出来なかった。
悲しそうな、悔しそうな顔をしながらも、ライラはゆっくりと一歩下がる。
色々と不満はあるようだが、それでも一応納得してくれたらしい。
「……ありがとな」
「……ううん。一緒に戦えないのは悔しいし、あの言い方には思うところはあるけど、実際に戦うのはコオリだから。我儘言える立場じゃないよ」
幾らかの苦味を感じさせる笑顔を浮かべるライラを見て、余計に申し訳ない気持ちになった。
複雑な感情を抱きながらも、理性的な判断が出来るあたり、やはり本質的なところでライラは聡明だ。
この聡明さに頼りきりにならないようにと決意しながら、この後の埋め合わせについて考える。……サラッと思うところはあるって言ってるあたり、何かしないと根に持たれそうなんだよなぁ。
「んー……」
「何悩んでるの?」
「いや、キツイ言い方したし、後で詫びをしようかなと……」
「あはは。……お詫びなんて良いから、無事でいてね? ボクはキミが生きているなら、それだけで満足だから」
そう言って、ライラは柔らかく微笑み。
ーーちゅ。
俺の頬にキスをした。
……。
…………。
………………いやちょっと待て。
「え? ん、あれ? えっと、あの、ラ、イラさん? あなた何してやがるんです?」
「ふふ。コオリ、動揺し過ぎだよ」
「いや動揺するわ!」
年齢=彼女いない人種なんて事してくれてんだこのボクっ娘!? ただでさえ、最近は対人スキルが低下してんだぞ! ライラみたいな超絶美少女のキスとか、脳がスパークするには十分過ぎるからな!? ヤバいぐらい刺激が有りすぎるから!!
「お前、本当に何してんの!?」
「安全のおまじない、かや」
「おまじないってお前……」
キスの理由が予想外過ぎてちょっと冷静になった。呆れたともいう。
いや、嬉しいよ? すっごい嬉しいんだけど、こう物語でよくあるシチュエーションなだけに、実際にやられると戸惑うというか。
あと、ライラさん反応が凄い普通なんだよ。キスした後に頬を染めるでもなく、何故か凄い優しい笑顔を浮かべてるんだぞ。反応に困るわ。
「んー、コオリの思ってるものとはちょっと違うかな? 別に魔法や祝福的な効果は無いし。ただ、こうすれば戦闘中でも忘れないでしょう? ……コオリ、生き残る事を第一に考えて。無理に勝たなくたって良いから。その時は上を目指そうよ。どんなに時間が掛かっても、辛くてもボクは構わない。それ以上に、ボクはキミに死なないで欲しい。大怪我だってして欲しくない。だからどうか、無理をしないで」
「ライラ……」
さっきのキスは、純粋な願掛けというよりも、俺の脳裏に制止の言葉を焼き付ける為のトリガーであったらしい。
随分と現実的なおまじないだなと呆れると同時に、その効果の高さも内心で実感していた。
……いや、頭から離れないんですよ。さっきの頬の感触とか、その後のライラの表情や言葉が。
「……お前、本当にもう……。こういうの勘弁しろよなぁ……」
「でも効果的でしょ?」
「抜群だよこの野郎!」
「因みに、キス自体が初めてだから。ボクがここまでしたんだから、絶対に無事でいてね?」
「ちょっと身を切り過ぎじゃないですかねぇ!?」
余計なカミングアウトのせいで、一層さっきの感触が脳裏に刷り込まれてしまった。本当にやめれ。
「だぁぁ! もう分かったよ! 危ないと思ったら俺も直ぐに引く! 出来るだけ怪我しないように頑張る! これで満足か!?」
「うん。そうしてね」
「くそぅ……。何か色々と吹っ飛んだぞ……」
盛大に釘を刺されたせいで、さっきまでの闘争心とかが何処かに行ってしまった。
「……まあ良いか」
冷静になったと考えれば、これはこれで悪くないだろう。以前のように1人なら兎も角、今はライラがいるのだ。ライラの命も背負ってるのだから、自爆特攻じみた戦い方は、今後は控えるべきだ。
……何故かライラが、俺の方を見て満足気に頷いてるが、それは気にしないでおく。何か行動をコントロールされてる気がしなくもないが、俺はそんな事気付いていない。
微妙な可能性には目を瞑り、気分を一新する。
「ふぅー……。んし。じゃあ、開けるぞ?」
「……うん」
ライラに確認を取り、OKが出たので扉に手を掛ける。
そして、扉は開かれた。
「広いな……」
「そうだね……」
扉の先は果てのない広間だった。都市1つ入っても尚余るぐらい、広大な空間が広がっている。恐らくだが、ワンフロア丸々1つ分がこの場所に使われているのだろう。
だが幸いな事に、視界に不備は無い。どんな原理か知らないが、光源も無いのに広間は明るく、電灯の点いた屋内ぐらいの明るさとなっている。
故に、ソレは容易く発見する事が出来た。いや、別に明るさ等なくても、ソレは簡単に見つかっただろう。
「おいおい……」
そこにあったのは、呆れるぐらいの大きさを持ったナニカだ。単純な体高だけで、五百メートルは越すかもしれない。
そんな、とてもとても強大で、それでいて生命力を感じさせない、無機質なナニカが居た。
「……ゴーレムの類かね?」
無機質の魔物。その括りで俺が真っ先に思い浮かべたのは、ファンタジー作品でも有名なゴーレム。
だが、それにしては雰囲気が違う。ゴーレムというには、あのナニカはあまりにもメカメカし過ぎる。
どちらかというと、絡繰りと言った方が正しいのかもしれない。
「gurururu」
大扉を開けた俺達を認識したのか、絡繰りのような魔物が唸り声を上げ、ゆっくりと動き出す。
ただそれだけで、俺の中の警戒度が一気に跳ね上がった。
「おいおい、マジか……!?」
緩慢な動きの癖に、全身が総毛立つ。身体を広げているだけなのに、奴から発せられる存在感がどんどん上昇していく。
そして身体を広げきったその瞬間、圧倒的なまでのプレッシャーがフロア一帯を駆け抜けた。
「……なるほどねぇ。この迫力も、お前なら納得だよ。むしろ当然だわなぁ……!!」
身体を広げきった事で、俺はナニカの正体に見当がつく。
巨大な黄金の瞳。仄かに紅く輝く金属の鎌首。複数の何かの皮を飛膜として作られた巨大な翼。キュルキュルと回転する歯車が見える強靭な四肢。
細部こそ色々と異なっているが、そのシルエットは、異世界人である俺ですら良く知っているものだった。
「ある意味でお約束だよなぁ! ラスボスがドラゴンってのはよぉ!!」
待ち受けていたダンジョンボスは、機械仕掛けのドラゴン。
ファンタジー世界における、最強の代名詞だった。
「GYAaaaaaaaaaaaa!!!!!」
「っ!?」
機械の竜が咆哮する。
それだけで大気に衝撃波が走り、地面が放射状に罅が入る。
たった1度の咆哮で、これ程の破壊を齎すのか……!
「っ、こりゃ不味いな……」
今の咆哮で、大まかにだが機械竜の実力を把握出来た。
結論から言えば、圧倒的な格上だ。ヤバいなんてもんじゃない。コイツの前では、今まで戦ったフロアマスター達ですら赤子レベル。
まともに戦ってもまず勝てない。実力差という意味合いでもそうだが、この機械竜は俺の天敵な気配がする。
となると、
「ライラ。これ撤退。一旦引くぞ」
ここで取るべき選択肢は、逃げる一択。ライラの命も背負っている状況で、この機械竜と戦う事は出来ない。何より、先程約束したのだ。無茶な戦いはしないって。
そんな訳で撤退の指示を出したのだが、ライラの様子がおかしい。
「う、嘘………。な、なんで……なんで…アイツがい、いるの?」
「ライラ……?」
何故かライラは、恐怖に染まった顔で立ち尽くしていたのだ。
肌から血の気が失せ、掠れた声で何事かを呟いている。
明らかに尋常な様子ではない。
(さっきの咆哮で心が折れたか!? いやでも、それとはまた毛色が違う感じだぞっ。アイツって言ってたし……ライラはあの機械竜を知っている?)
色々な疑問が頭を過ぎるが、直ぐにそれどころではなくなった。
背筋が凍る感覚が身体に走る。これは死の気配だ。
咄嗟に機械竜の方に視線を向けると、奴の口から火の粉が溢れていた。
それだけで察してしまった。今奴が行おうとしているのは、ドラゴンの代名詞とも言える攻撃。
「GRUAAAA!!!」
ドラゴンブレスが放たれた。
「クソっ!!」
迫り来る紅蓮の光線に、思わず悪態をつく。
これは駄目だ。俺達がいるのはこのフロアの入口。つまりブレスの軌道的に、大扉とその先の階段をぶち抜く事になる。
これでは階段を使って逃げる事は出来ない。悪手であっても、ライラを抱えて前方に跳ぶしかなかった。
「ライラァ! 羽出せェ!!」
襲いくるであろう衝撃に備え、ライラに防御の指示を出す。
予想されるブレスの威力では、余波であってもライラが耐えられるとは思えないからだ。
それはライラも本能的に感じ取ったのか、黒翼を全身に巻き付け全力防御の体勢となる。喪心状態であっても的確な対応を取った事を考えると、黒翼の自動防御機能が働いたのだろう。
それでも多少心許ないが、俺が間に入って盾となればなんとか守りきれる!
体勢を整えたその瞬間、ブレスが着弾した。
「っ、ギッ!!」
全身に凄まじい衝撃と熱が走った。
身体のあちこちの骨が軋み、皮膚や筋肉が焼け爛れていくのが感じられる。また、轟音で感覚器官もやられてしまった。
(くっ、余波だけでこれか……!!)
予想以上の威力に、思わず歯噛みする。
経験値によって物質的に強化された肉体が、余波だけでズタボロになったのだ。それだけで、このブレスの威力が推し量れる。
これ程の威力をライラに通してなるものかと、全身を襲う激痛に歯を食いしばって耐える。
今までだって、死ぬ程の激痛を耐えてきた。今回だって耐えられるに決まっている。ましてや、この腕の中にはライラがいるのだ。守るべき相手がいる状況で、耐えられない訳がない!
「っ、らァァァ!!」
身体を襲う衝撃も、熱も、気合いでもって吹き飛ばす。
そして余波によって浮いた身体を立て直し、なんとか無事に着地。
それでもかなりの勢いが出ていたようで、50メートル程地面を滑ったところで漸く止まる事が出来た。
そして入口付近に視線を向ける。
「……っ、くそ。見事に消し飛んでら」
案の定というか、着弾地点となった入口付近は完全に消滅していた。
入口にあった大扉も、その先の階段も、跡形も無くなっている。あるのは直径何百メートルクラスの、所々が融解している巨大なクレーターのみ。
これはもう、退路は絶たれたと考えるべきだろう。
「……こりゃ不味いぞ……」
敵は圧倒的な格上。手の中には正気を失っているライラ。退路は無し。
ダンジョンボスとの決戦は、絶体絶命の状況からスタートする事になった。
なんか空中戦になりました。
最強種ってのが出てきましたけど、それと渡り合ってる時点でどっちも怪物ですよね
改稿作業後
次から本格的に戦います。