第十八 ダンジョンに王手を
もうそろそろ区切りです
十月三十一
色々と修正しました
改稿作業終了
んー、本当ならダンジョンボスも登場させたかったんですが、色々と必要になってくる設定を入れてたら、長くなってしまいました。
区切りが悪くなるのと、長くなるという事を踏まえて、ダンジョンボスは次の話から登場という事になります。
レールがどんどん逸れていく……。
あ、誤字脱字報告は大歓迎です。どんどんしてください。それだと作者的に凄く嬉しいです。
……えー、ご報告を。
改稿作業、少々頻度が下がり気味になるかもです。
いや、ちょっとした諸事情というか……。アップルパイを食べながら、銀髪ロリと一緒に鬼の園を駆け回らないといけないので。
投資する前に札1枚で来てくれた、銀髪ロリを蔑ろにする訳にはいかないのです。
水晶の階層から次に進む階段を見つけて、体感で翌日。
未だに俺達は、階段を進んでいた。
「……長くない?」
「そうだな」
既に何度目か分からない疑問を、ライラが零す。
終わりの見えない階段に、ライラは相当ウンザリしているようで、さっきからしきりに口を開いている。
「何度も訊くけどさ、階層移動ってこんなに長いものなの?」
「何度も答えるが、今回が異常なだけだ。次の階層が環境系だったとしても、ここまで階段は長くなかった」
この問答も、既に何度目か分からないぐらい行った。
別に鬱陶しいとは思わない。ライラの疑問は当然だし、階段という閉鎖空間で出来る事等限られている。会話ぐらいしか出来ないのだから、寧ろ話題を振ってくれるだけ有り難い。
「はぁぁ……。何か、思ってたダンジョンと違うなぁ。次の階層に行くのに特別な演出も無いし、階段はよく分からないぐらい長いし」
「あー……」
ライラの愚痴には、俺も苦笑するしかない。
ライラの場合、ダンジョン攻略における唯一の山場がこれだからな。文句を言いたくなる気持ちも分かる。。
ただまあ、こればかりはなぁ……。
「ダンジョンに情緒を求める方が、この場合はあれだからなー。しょうがないと思って諦めるしか無いだろ」
「いやまあ、そうなんだけどさぁ……」
ライラも一応現実は理解しているようで、溜め息を吐くだけで無駄な反論はしてこなかった。
……まあ、ダンジョンに無駄な浪漫を求めている時点で、現実とフィクションが混同気味なのだが。
あー、でも地球じゃ、そんな設定のファンタジー作品は結構あったなぁ。
こっちって、その手の存在っているのか?
「なあライラ」
「んー?」
「俺の世界には、ダンジョンマスターっていう、ダンジョンの管理人みたいな立場の奴を主役にした物語とかあったんだが、この世界にはそんな感じの奴はいるのか?」
「ダンジョンの管理人?」
どうも想像出来ないようで、ライラは難しい表情で首を捻る。
取り敢えず、ライラにダンジョンマスター系の設定を説明してみる。
さて、実際にダンジョンが存在する世界の住人の反応は如何に?
「……何そのトンデモ設定」
「あ、やっぱりトンデモ設定なのか」
まあ、DPなる不思議ポイントで地球の物を買ったり、何処かから魔物を召喚したりしてる時点で、色々とおかしくはあるがな。
いや、ステータスがある世界ってのも大概だが。
「あのねコオリ、そっちの世界の物語は良く知らないけど、この世界のダンジョンは自然災害だからね? 世界に満ちる魔力が何らかの要因で偏った結果起きる、空間の魔物化。それがダンジョンの正体」
今、サラッとトンデモない事言わなかったか?
「え、何? ダンジョンって魔物なの?」
「うん。まあ、魔物って言っても意思の類はほぼないらしいから、どっちかと言うと現象に近いんだけど。防衛本能みたいのはあるみたいだから、魔物扱いされてるの」
「あー、フロアマスターってそういう……」
次の階層に進む為の試練じゃなくて、ダンジョン本体を脅かす相手に対する防衛機構なのね。
あいつら、立場的には人間の免疫細胞みたいな奴なのか。そら強えわ。
「ん? じゃあ宝箱とかは何であるんだ?」
「あれは防衛機構の1つだって言われてる。目先にお宝を出して、最深部に進ませないようにしてるんだって」
「内部にいる魔物達は?」
「空間が魔物化した際に、一緒に巻き込まれたものが変異したんじゃないかって言われてる。それが繁殖したり進化したりして、生態系を築いたとか。ほら、魔物化って高濃度の魔力に侵食された結果起きる現象でしょ? 」
「そういや、確かにそんな事読んだ気がするわ……」
王城にいた時、そもそも魔物って何?って不思議に思って、調べたんだよ。そこで確か見た気がする。
後ついでに、俺達が呼ばれた原因である魔族についても書いてあった。魔族って、簡単に言えば魔物の人間バージョンなんだってよ。姿形が魔力で変異しただけで、知能の類は変わらないらしい。
だから魔物よりも恐ろしい強敵だ〜みたいに書いてあったけど、それって単に人種の違いじゃねえかって呆れたのを憶えてる。
生存競争じゃなくて、宗教戦争の為に呼ばれたと考えると、本当にマルトってクソ。
「……コオリ、どうしたの? 何か難しい顔してるけど」
「いや、ちょっとな。ほら、俺が呼ばれたのって魔王と魔族が原因だから……」
「あー……。確かにねぇ。宗教戦争に異世界の人間を巻き込むなって、ボクも思うよ」
流石は元王女というか、ライラは俺の言いたい事を直ぐに察したらしい。
ちょくちょくポンコツっぽい所があるけど、基本的に優秀なんだよなぁ、ライラって。
「……コオリ、また何か失礼な事を考えてるでしょ?」
「……じゃあ、やっぱりダンジョンマスターに類する存在はいないのか」
「むぅ。誤魔化した」
ジト目を向けてくるライラに、素知らぬ顔で見つめ返す。
暫く見つめ合った後、ライラは溜め息をついて頭を振り、俺の言葉に頷いた。
「はぁ……。そうだよ。少なくともボクは知らない。自分の研究施設を増やす為に、人為的にダンジョンを発生させた大馬鹿者なら知ってるけどね」
やっぱりいないのか。期待してた訳じゃないが、地球の物語の設定を1つ潰されたと考えると、少し悲しいかな?
そしてやべぇ奴いるなこの世界。
「……そんな奴いるのか」
「……うん。ボクの国の筆頭研究者、バルザック・ランカーってのがやらかした。超が付く程に優秀だったけど、それ以上にヤバい奴でね……」
お前の国の国民なのか。というか宮仕えなのか。
「研究以外は興味を持たない、したいと思った事は躊躇なくやる研究バカで、本当にヤバい奴だったなぁ……」
「……ふーん?」
ライラはバルザック某について振り返っているのか、何処か遠くを見つめていた。
その姿を見て、俺は内心で妙な気分になる。いや、そのバルザック某について思う所がある訳でなく。
ただ、ライラの様子が何か変というか……。
(んー、何か変だな? ライラにしては珍しく、忌々しそうな顔してるぞ?)
今までのライラは、過去に関係する話題になった時、一瞬だけ複雑そうな顔をしていた。一応は吹っ切れてはいるが、それでも思う所があるからだろう。
だが、バルザック某について語るライラは、それとは違うタイプの顔をしている。何か、虚無感が滲み出ているというか、凄まじく苦い物を食べたような顔というか……。
「……何かあったのか? そのバルザック某とは」
「あったというか、無かったというか……。いやね? ボクを裏切った連中とは、バルザックは毛色が違かったんだよ。元々興味が無かったらしくて、王女だろうが忌み子だろうが、関係なく普通に無視してた。そういう意味では、ボクが忌み子になっても唯一態度が変わらなかった人物ではある」
「お、おう……」
もう既に、アクの濃い人物の気配がプンプンしてきたぞ。というか、王族を無視するとか宮仕えとして駄目だろ……。
「だから、バルザック本人には何もされてないんだよ。……ただ、バルザックの研究成果には、色々と苦しめられたから……。敵では無いんだけど、潜在的な敵、みたいな?」
「あー……」
なるほどねぇ。ライラが複雑そうな顔になるのも納得だわ。
話を聞く限り、そのバルザック某にとって、彼女はどうでも良い存在なのだろう。ライラもそれが分かっているから、素直に憎いと思えないのだ。
善意でダイナマイトを作ったノーベルと、それを知ってるダイナマイトの被害者の関係と言えば、なんとなく想像がつくかもしれない。
「……いやまあ、優秀ではあったから、当然バルザックの研究に助けられた事もあったんだよ? ただ、それ以上に振り回せれたから。人の育ててる庭に、シレッと毒草混ぜたりとか……。丁度その時、毒殺未遂事件があったから、本気で大変だった……」
あ、ちげえわ。これ単に、無自覚トラブルメーカーとその被害者の関係だ。
そりゃ、潜在的な敵扱いされるわ。
「はぁぁ……。何か、バルザックの事思い出したら、どっと疲れたかも……」
そう呟くライラからは、言葉通りドンヨリとした雰囲気が漂ってきた。
「……ねえ、一気にショートカットしない? ボクなら、コオリを抱えて飛べるよ?」
かつての苦労を思い出したライラが、ついに横着するような事を言い出した。
黒翼を展開し、階段を滑空して降りようと提案したのである。
……おい。人が答える前に脇に手を入れようとするな。
「やめい。ショートカットはしないし、やるとしても駆け下りるからいらんわ」
「えー、やんないのぉ……? もう階段を延々と降りるの飽きたよぅ。嫌な事思い出して、余計に疲れたし……」
まあ、想像するだけで疲れそうな人物なのは分かるけども。
ただ、だからと言ってショートカットを認める訳にはいかない。
抱えられて堪るかという気持ちもあるが、それ以上に現実的な理由で出来ない。
「横着するのは止めた方が良い。ショートカットしたら、多分不味い」
「え、何で?」
「……いやな、降りてるうちに、段々下から嫌な気配がしてきてな……」
実を言うと、ちょっと前から感じてたのだ。
こう、首の裏をチクチクと刺激されてるような、とても不快な感覚を。
俺は今までの経験から、この感覚が働いた時は、大抵ヤバい奴が待ち受けてるという事を知っている。具体的に言うなら、フロアマスターの類。
つまり、この階段の先には、ほぼ確実に常識外れの化物がいるという事だ。
だからショートカットは不味い。下手すれば、無防備な状態でフロアマスターの前に躍り出る事になる。
「そんな訳で、ショートカットはしない。危ないからな」
「んー、嫌な気配ねぇ……? ボクには全然分かんないよ?」
「そりゃな。こういうのは経験が物を言うし」
危機察知能力の類は、潜り抜けた危機の数だけ研ぎ澄まされる。
だから、ライラが分からないのは当然だ。元は高貴な身分なのだから、そんな感覚を持ってる訳が無い。ステータスにも、直感とかのスキルは無かったしな。
……ただまあ、今回に限っては、経験やスキルの有無はあまり関係無いかもしれない。
「多分、もう少ししたら感じる筈だ。今回のはそれぐらい強烈だからな」
階段内での音の反響具合から考えて、先はまだまだ長い。
それなのに、俺の中の危機察知センサーが明確に反応しているのだ。もうそれだけで、この先にいるのが相当ヤバい奴だと確信出来る。
現段階の俺がヤバいと感じているのだから、明らかに尋常な強さでは無いだろう。下手したら、フロアマスター達ですら足元に及ばないかもしれない。
如何にその手の感覚が無いライラでも、そんな化物に近づけば、確実に生存本能が主張を始める。
「取り敢えず、覚悟はしとけ。下手したら心が折れるぞ」
「……んー、良く分かんないけど、分かった」
割と本気で忠告したのだが、ライラの返事は何処か軽めだ。どうも実感が湧いていないらしい。
まあ、フロアマスター級と相対していない彼女には、ヤバい奴と言っても想像しにくいのだろう。
(一応、注意しとくか)
危ういものを感じたので、階段を下りながらもライラに意識を向けておく事にした。
そして、事態は予想した通りのものとなる。
体感で1時間後。落ち着かないのか、しきりに辺りに視線を向け始めた。
体感で2時間後。何かを感じ始めたのか、身体を頻繁に摩っていた。
体感で3時間後。身体が震え始める。
そして体感で3時間半後。
「……こ、コオリ。ぼ、ボク、もう進みたくない……」
遂に耐えられなくなったライラが、その場でへたり込んでしまった。
実力だけなら世界でも上位に入る筈のライラが、恐怖のあまり動く事を拒否しているのだ。
「……でも、これで多分終わりだぞ?」
「……いや。嫌だ……」
まるで駄々っ子のように、その場から動こうとしないライラ。
ただまあ、それもしょうがないとは思う。この場に満ちるプレッシャーは、とてもじゃないが常人に耐えられるものでは無い。
今まで戦ってきたフロアマスターでさえ、心が弱い者なら気絶しそうな程のプレッシャーを放っていたのだ。
ならば、これ程のプレッシャーも納得出来る。全てのフロアマスターよりも、確実に実力が上である存在が発するプレッシャーなのだから。
「……ついに終わりか……」
目の前にあるのは、豪奢な装飾が施された大扉。
そしてその先から感じられる、生きとし生けるもの全てを圧倒する程のプレッシャー。
今まで見た事がないような大扉と、圧倒的なまでのプレッシャー。この2つから考えるに、恐らくこの扉の先こそがダンジョンの最深部であり、最終防衛ライン。
フロアマスター達を遥かに上回る力を持つ、ダンジョン最強の存在が待ち受ける部屋。
「……この先に、ダンジョンボスが……!」
俺はついに、ダンジョン攻略に王手を掛けたのだった。
コオリ君はライラの事になると熱くなったりしますね。
この話しからダンジョン編は佳境です。
強さのインフレが敵に起こっていました。
改稿作業後。
次回からダンジョン編のボス戦です。
ボス戦が終わってから、コオリ君の旅の目的が決定します。一応、のんびりと世界漫遊という訳でなく、ちゃんとした目的がある模様。