第十七 ライラさん特訓中
説明回みたいなものです。
十月30
色々と修正しました。
改稿作業終了
今回はちょっと難産でした。
伏線とか配置しようとしたら、話の構成が歪になったりで。
面倒なので全カットして、シンプルに。
あのステータス事件から体感で3日後。
結局あの後、俺はライラに押し負け、彼女を鍛える事になってしまった。
危なくなったら即座に割って入る等、幾つもの約束をしたとは言え、それでも戦闘は毎回ハラハラしている。
今も、ライラと巨大な蠍が戦っているが、心配で堪らない。
「《アイスランス》!」
ライラが氷の魔法で造った槍を、巨大蠍に向かって解き放った。
しかし、その一撃は硬い甲殻に阻まれ、ダメージを負わせる事は出来なかった。
「っ、だったら《サンダーボルト》!」
物質的な攻撃が駄目ならと、今度は現象系である雷撃の魔法をライラは放った。
だが、雷撃は甲殻に多少の焦げ目を付けるだけで、本体の方には大したダメージを負わせられた様子は無い。
「雷属性でもダメなの!?」
「ライラ、ライラ。いくら攻撃力の高い雷属性でも、馬鹿正直に撃ったら流石に倒せないから! そいつ、強さ的にはライラとどっこいどっこいだからな!?」
「分かってるから、そんな慌てないで! 何で直接戦ってるボクより、コオリの方が余裕無いのさ!?」
俺が心配で声を上げると、ライラから呆れ混じりのツッコミが返ってきた。
だがそれでも、巨大蠍から視線を外す事はしない。余所見したら即座に負ける事が分かっているからだ。
「んーっ、どうしよう!?」
「そこまで悩むなら、ユニークスキルも使ってくれよ……」
ライラの戦う姿があまりに危なっかしくて、俺は頭を抱えてしまう。
ライラは何度か戦闘をした後、ユニークスキルは極力使わないと俺に宣言したのだ。黒翼と光輪の性能が高過ぎて戦闘技術が磨けないし、自動迎撃型の黒翼に頼りっきりだと、立ち回りに不安が残ってしまうからと。
当然の事ながら、俺は猛反対した。安全に戦う事が第一だと。
だが、ライラの意思は予想以上に堅く、結局俺が折れる事になったのである。
お陰で、俺は現在進行形でハラハラする事になってしまった。
「ああ、もう!だったら、〈我が呼び掛けに応え、流れる水よ、集いて力ある渦となれ〉《アクアトルネード》!!」
弱い魔法では埒が明かないと考えたのか、ライラは詠唱を始めた。
ライラが放ったのは、水属性の《アクアトルネード》。確か、水属性の上級魔法だった筈。
見た感じ、巨大な水の竜巻によって相手を呑み込み、ミキサーみたいに掻き回す魔法みたいだ。
「いっけぇぇ!」
ライラの号令と共に動き出した水の竜巻が、巨大蠍を容赦なく呑み込み、さながらミキサーの如くグチャグチャに掻き回した。
「キシャァァ!!?」
防御力が自慢の巨大蠍も、流石にこの魔法は効いたらしい。竜巻の中で巨大蠍の全身が、あらぬ方向にねじ曲がっているのが見える。
水の竜巻が消えた頃には、巨大蠍は蠍の形をしていなかつた。
どうも四方八方から満遍なく圧を加えられたせいで、自慢の攻殻も殆ど意味を成さなかったみたいだ。ガワは無事でも、中身の方が耐えられなかったのだろう。
「やった!コオリ、どうにか倒せたよ!」
ズタボロの巨大蠍の姿を見て、喜びの声を上げるライラ。
その姿を見て、俺は溜め息を吐き、
ーー バシュッ!
ライラ目掛け飛んで来た毒針を叩き落とした。
「ふえ!?」
ライラは全く気付いていなかったようで、俺が叩き落とした毒針を見て目を丸くする。
「油断大敵だ、この馬鹿」
「あうっ!?」
ポカンとしていたライラの額を弾き、再び溜め息を吐く。
「はぁ、全く……。ちゃんと殺ったか確認するまで、気を抜かないでくれ。幾ら黒翼の自動防御があるとはいえ、それでも怪我する時はするんだぞ」
ライラに注意しながら、手についた毒液を《給水》の魔法を使って洗い流す。
ぶっちゃけ、あの程度なら黒翼の自動防御でなんとかなっただろうが、それでも万が一がある。
ちょっと過保護かなと自分でも思うが、そもそも戦わせる事自体が内心では反対だし、ライラの戦い方が危なっかし過ぎて、手助けしない方が怖いのだ。
「心配するなみたいな事言ってたがな、今のライラじゃ心配しない方が無理だぞ」
「だってぇ……。あれは流石に倒したと思ったんだもん……」
そう言って、ライラはズタボロになった巨大蠍に視線を向けた。
「うぅ〜。何であれで倒せてないのさぁ……」
少し赤くなった額を押さえながら、ライラは最後っ屁をかました巨大蠍について文句を言う。
「そいつもう死んでるから、文句言った所で聞こえてねえよ。そもそも言葉は分からんだろうがな」
「なら素直に倒されててよぅ……」
「高位の魔物がしぶとくない訳無いだろうに」
「コオリはあっさり倒してるじゃん……」
「実力差」
ライラの身勝手な文句は、バッサリと切り捨てる。
そもそも俺の場合、【反逆】のステータス無視があるから前提条件からして違うしな。
というかライラだって、堕天使の力を使えばもっと楽に戦えるだろうに。
「これでもう分かったろ。ちゃんと黒翼を使え。そうすればもっと安全に倒せるから」
「でもそれだと、技術面で強くなれないし……」
「自惚れんな。お前はそこまで強くねえよ」
「うぅ、容赦無い……」
俺が割と強めに切り捨てると、ライラはガックリと項垂れる。
落ち込んでしまったようだが、それでも撤回する気は無い。こっちとしても、ライラに怪我して欲しくないのだ。説得出来るチャンスが来たのだから、ここは心を鬼にさせて貰う。
「まずは戦いに慣れる所から始めるんた。安全が確認出来るまで油断しないとか、そういう最低限の事を覚えろ。戦闘で本当に必要なのは、そういう判断力だ。それは数をこなさないと身につかねえ。だから黒翼使って数こなせ」
ライラのポテンシャルは高いが、それ以上に経験が不足してるからな。今は質より量をこなすべきだ。
量をこなせば、自然と判断力が磨かれる。実戦での判断力が無ければ、何をしようとしても上手くいかない。
「……そういうものなの……?」
「そういうもんだよ。少なくとも、俺はそうだった」
ある意味、俺がその究極系だ。技術に背を向け、本能に任せてひたすらに戦い続けた結果、今の俺がある。
戦いで最も必要なのは慣れだ。極論を言えば、技術なんて要らない。戦いの中で普通に行動出来るというのは、それだけで強い。
「ちゃんと戦闘に慣れてれば、あんな不意打ち喰らわねえ。死んでるかどうか確認すれば良いんだからな。ライラだって、日常であんな姿になった巨大蠍がいたら、生きてるかどうか確認するだろ?」
「ま、まあ……」
「つまりそういう事だ。戦闘中でも普通な状態でいられるようになれ。全てはそれからだ」
まずは戦闘に慣れる事。それがライラの現状の課題だろう。
「……分かった。次からは黒翼も光輪も使うよ」
ライラも納得してくれたらしく、ユニークスキルの解禁を約束してくれた。
これで漸く、肩の荷が1つ降りた。
「はぁぁ。分かってくれて良かったぁ……」
「コオリ、ホッとし過ぎじゃない……?」
「お前、俺がどんだけ心配してたと思ってんだよ……。ライラがユニークスキルを封印出来る程、ここのダンジョンの雑魚は弱くないんだぞ? それなのにユニーク封印するなんて言われたら、そりゃ心配するわ馬鹿。幾ら止めても聞かねえし」
「あう……」
一応、ライラも無茶をやってた自覚はあるのか、俺の愚痴に胸を押さえていた。
「それによ、ああいう事はあんまり言いたくないんだよ……。今回はお前の無茶を止める為に乱暴な物言いになったが、ライラにキツイ言葉は使いたくない」
「コオリ……」
俺が正直な気持ちを吐き出すと、ライラは感度したらしく頬を染めていた。
だが、直ぐに首を傾げる。
「……あれ? その割には、普段の言葉遣いとか雑じゃない? ボク、結構辛辣な事言われてる気が……?」
「それは無意識だな。無意識はしゃーない。ただ、意識してキツイ事は言いたくない」
「台無しだよ!」
「さて進むかぁ」
ライラがジト目で睨んで来たので、誤魔化す為にそそくさと歩き出す。
後ろでむくれているライラは、極力触れない方向で。
「せめて弁明してよぉ! 無言で誤魔化そうとすんなー!」
「い、いや、誤魔化してないぞ? ただもう少しで階段がある気がしてな? ほら、この扉の先とかにありそうだろ?」
「そんな都合の良い事あるかー!」
プンスカ怒るライラを宥めながら、近くにあった扉を開ける。
扉の先には階段のある小部屋が。
「……都合の良い事、あったぞ?」
「……うっそだぁ……」
まさか本当に階段があるとは思ってなかったので、俺とライラは呆然としてしまった。
そして次第に、ライラがプルプルと震え出す。
「……普通さ、次の階層に進む階段って、もうちょいちゃんとした場所にあるものじゃないの? 何でこうも何気ない感じであるの!?」
「いや、その疑問はちょっと的外れでねーの?」
物語の読み過ぎじゃね? このダンジョン、大体こんな感じで突然階段あるぞ?
「でもこう、もっとあってもいいじゃん! ボク、このダンジョンで階層移るの初めてなんだよ!?」
「まあ、体感で3日は彷徨ったからな」
そう。実を言うと、俺達は未だに水晶の間の階層を彷徨っていたのである。
いやだって、攻略は相変わらず勘任せだし、その癖ライラの特訓も並行してやってたんだぞ。そりゃ、攻略ペースは落ちるっての。
魔法のお陰で中々に万能性能なライラだけど、流石にダンジョン攻略に関しては素人だったし。普通に苦戦してた。
だからまあ、ライラの言いたい事は分からなくは無い。苦労したのだから、この結果には文句も言いたくなるだろう。
「でもこれが現実。さっさと行くぞー」
文句を言った所で何も変わらないので、バッサリ切り捨てる訳だが。
「〜〜っ! やっぱりコオリ、ボクの扱い雑だよ!」
後ろでライラが何か言ってる。
最初の戦闘シーンでのコオリ君が微妙に鬼畜ですね。ヒロインに刺さった毒針を問答無用で引っこ抜いたりとか。
コオリ君はデリカシーがあるのか不明です。
ライラさんは微妙に解説キャラが入ってます
改稿作業後
コオリ君は過保護