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第十話 水晶の間と少女

ついにヒロインが登場です


十月三十一

色々と修正しました

コツンコツンと音が反響する。俺がダンジョンを攻略し始めてから数十日はたっただろうか。

化物草を倒してから、俺はもう牙を鈍らせまいと決意し、深層へと進んで行った。

数多の強敵と戦い、本能を研ぎ澄ませ、その命を糧としてきた。

そして、俺は強くなった。あの化物草と戦った時よりも遥かに強靭な肉体となり、莫大な魔力を蓄え、驚異的なまでの回復能力を得た。

火山のマグマの中に居た溶岩の大蛇。砂漠の砂に潜んでいた巨大な蜥蜴。大海を泳いでいた大鯨。岩石地帯に居た大岩の甲羅を背負う亀。雪山の主の大猿。

どいつもこいつも呆れる程に強大で、尋常ではない死闘を繰り広げたものだ。毎回毎回やってらんねぇと頭を抱えていたのも、今では良い思い出だ。どうせ似たような状況になったら今でも頭を抱えるのだろうが。

だがそれでも、全ての戦いは楽しかった。己の命と意地を賭けた力の比べ合い。それは血なまぐさくありながらも、それ以上の尊さがあった。

……まあ実際は、戦闘以外が酷すぎたせいで、必然的に戦闘という行為そのもの印象が爆上がりになっているだけなのだが。


「単純な攻略は地獄なんだよなぁ……」


戦闘能力は桁違いに上昇しているが、それでなんとかなる程ダンジョン攻略は甘くなかった。

新たな階層に進む度に彷徨い、次の階層に進む階段を見つけるのに何日も掛かったり。

本能的に有毒の物こそ察知出来たが、肝心の味は勿論、調理方法すら一切不明の動植物を食べ続けたり。

酷い時は、ゴーレム等無機物の魔物しか出ない、迷宮系の階層で体感で4日彷徨った。あの時は流石に封印していた階層抜きを行った。いや、飢えと渇きが酷すぎて、下の階層の情報が無いとか気にする余裕なかったんだよ。


「……まあ、それでもまだマシだった訳だが……」


色々と酷い目にあったダンジョン攻略でも、一際堪えた事。

それは攻略の途中で道具と衣服の類が全て駄目になり、何日間か全裸で過ごした事である。

怪我は良い。遭難も良い。飢えと渇きだって、苦しくはあるが我慢しよう。だが全裸、てめぇは駄目だ。


「あれは尊厳とかがゴリゴリ削られてったからなぁ……」


衣服が傷つき、1枚、また1枚と着れなくなっていく焦燥感。ついに全裸になった時の絶望。全裸で歩き回るという変態的行為に対する恐ろしさ。

獣の本能に身を任せる事もあるが、人間的な感性だって同居しているのだ。見られる心配は無いとしても、全裸で過ごすのは抵抗が大き過ぎた。

如何に道徳や倫理を捨てたと言えど、その手の尊厳までは捨てたつもりは無いのである。端的に言うと俺は変態じゃない。

そういう意味では、このダンジョンの特性に救われた。


「まさか宝箱から日用品が出てくるとはな……」


得られる宝がしょっぱいとは聞いていたが、まさかあそこまでとは思わなかった。

ただでさえ高位の魔物が大量に徘徊しているのに、それに加えて災害レベルの強さを持つフロアマスター達。そんな怪物達を命懸けで打倒した末に手に入るのが、何故だか街で購入出来る日用品の数々。

あれは宝箱というより、新手の憤死系トラップか何かだと今でも思う。

ただ、俺にとっては下手な財宝よりも、日用品の方が価値のあるお宝であった。食えもしない、役にも立たない財宝より、不足しがちな布の服や、粗末な造りでも持ち運ぶ上限を上げられるバックパックの方が、遥かに嬉しかったのだ。

初めて宝箱を見つけた時の感動は、今でも憶えている。丁度、最後のパンツがご臨終し、全裸で過ごしていた期間だったから余計にである。


「ダンジョンで体験する苦労と喜びという意味では、果てしなく間違っているとは思うが……」


とりあえずダンジョン攻略を通して実感したのは、専門技能と事前準備って本当に大事。

専門技能の類を一切習得していない、尚且つ必要な道具を殆ど持っていない状態を経験すれば、全員が嫌でも実感する事になるだろう。

実際、魔物や魚を捌けるようになったり、動植物の毒の有無が判別出来るようになったら、格段に生きるのが楽になったし。


「まあ、そういうのを学ぶ為に、初心者用のダンジョンに潜って訓練するんだろうけど」


その初心者用のダンジョンに、現在進行形で苦しめられている為、とても微妙な気分になる。更に言えば、訓練の結果こうなっているので、そういう意味でも非常にアレだ。

何かこう、初心者系のものは、俺の鬼門なのかもしれない。呪われてでもいるのだろうか?


「世界が俺に、その手の技術を習得させないようにしてたりして……」


もし本当にそうであれば、喜んで【反逆】で跳ね除けるのだが。今までの苦労を考えると、絶対に過去最高の効果を発揮するだろうし。


「……アホか。んな事あって堪るか。馬鹿らしい」


変な思考になっていたので、頭を振って切り替える。

どうも最近、独り言が多くなったり、変な事を考えてしまうのだ。特に今の階層のような迷宮系の場合、通路を警戒していれば敵の察知が容易であるため、余計に思考が逸れる。

多分、ダンジョン攻略のストレスが原因だろう。初期に比べれば改善したとは言え、終わりの見えない探索、大して美味くない食事、時たま襲ってくる飢餓感、話し相手のいない孤独。

……改めて考えると、相当碌でもねぇ環境にいるな俺。普通の神経している奴なら、とっくに狂ってんじゃねえの? 刺激らしい刺激が、フロアマスターを筆頭とした強者達との戦闘ぐらいな気がする辺り、かなり末期的だろこれ。


「……まあ、それももう少しの辛抱だ。また何かあるっぽいし」


迷宮系の階層は平坦な攻略になる事が多く、余計に独り言の類が多くなってしまっていた。

だが、俺の本能に基づいた直感が、この先に何かあると訴えている。

フロアマスターのような強者の気配は感じないが、それでもこの先には何かがある。

平坦だったこの階層の攻略に、何か波が来ようとしている。


「……なる程。扉か」


進む先にあったのは扉。一見して何の変哲もない、迷宮系の階層では良く見かける、部屋に通じる扉であった。

だが、そんな変哲もない扉の先に、何かがあると俺の直感が言っている。


「さて、何がこの先にあるのかね?」


強者の気配は感じない。そうなるとトラップの類か? 次に進む階段って線もあるが。

とりあえず、扉を開く前にバックパックを通路の隅に置いておく。これで待ち受けるのがトラップの類であったとしても、バックパックが被害を受ける可能性は減少した。

このバックパックには、今までの攻略で見つけた数少ない替えの服等の日用品と、長期保存に向いた食料が入っているのだ。ある意味で俺の生命線な為、被害を受けるような事はあってはならない。


「よし。これなら存分に動けるな」


何が来ても良いように、全身に魔力を巡らせてから扉に手をかける。

攻略を進めている内に、魔法 (物理)の使い方もかなり上達している。

そういう面でも成長しているので、大抵の事なら切り抜けられるだろう。


「鬼が出るか蛇が出るか、はたまた他の何かが出るか」


まあ、何が出ても変わらない。害するものなら破壊する。必要なものなら獲得する。いらないものならスルーだ。

何があっても良いよう、意識だけは研ぎ澄ましながら、俺は扉を開けた。


「………は?」


そしたら思考が停止した。

これが敵の前であったら、言外に殺して下さい言える程の失態。それ程までに無防備な姿を晒してしまったが、それが仕方ないと言える程、目の前の存在に驚いて居た。

部屋には二つの物が存在していた。一つは部屋の中央にある、直径20メートル近い超巨大な水晶。

そして、


「………女……の子?」


そこに居たのは少女だ。それも唯の少女では無い。その娘が普通の状態だったら、何故こんな場所にとは思うが此処まで驚かなかっただろう。

水晶に閉じ込められてなければ、こんなに驚いていなかった。


「この娘は一体………?」


あまりにも異常な光景に、只々魅入っていた。

水晶の中で眠る少女。その少女はあまりにも幻想的で、


「綺麗だ………」


あまりにも美しかった。

蒼穹の如き髪の色も、幼さを残す顔立ちも、力を加えれば折れてしまいそうな華奢な身体も、儚い夢の様な雰囲気も、その全てが美しい。

俺は呑まれていた。水晶で眠る少女に。言葉も無くただずっと見つめていた。


「………っは!?うわー、完璧に見惚れてた」


どれ程の時間見惚れていただろうか知らないが、なんとか正気に戻る事が出来た。


「いや、本気で何なのこの娘?死んでる訳じゃなさそうだし、水晶に閉じ込められてるとか結構謎なんだが」


目を凝らすと、水晶から生命特有の命の煌めきが見てとれる。

何でそんなのが見えるのかと言うと、経験値を使用している内に覚えたのだ。この煌めきは経験値の残りカスのようなものらしく、大量の経験値を獲得している内に、生きている奴らからも同質のものを感じ取れるようになったのである。お陰で狩りが格段に楽になった。集中すれば遮蔽物有りで300メートルぐらい先のも察知出来るし。

で、これの扱いとしては、生命力みたいな物でいいと思っている。一応、アンデッド系の魔物からも感じたので、存在力と言った方が正しいのかもしれないが、回りくどい気がするので生命力として認識している。

さて、話がズレたので元に戻そう。

見た感じだと、この娘からはちゃんと生命力が感じられる。弱々しくはあるが、生きている状態ではあると思う。


「じゃあ何でこんな事になってんだって話なんだが……」


水晶に閉じ込められるなんて、このファンタジー世界でも早々起きないような珍現象だろ絶対。

これが死んでたりしたら、ミイラ的な死体保存か何かかなって思うのだが。この娘の美しさなら、死体であっても残して起きたいって思う奴もいるだろうし。


「でも生きてるんだよなぁ。まあ、仮死状態みたいなもんだが……。んー、そうなると何だ? アレか、封印の類か……?」


ファンタジー世界という事を考えると、有り得そうではある。

ただそうであった場合、別の謎が浮上してくる訳で。封印された理由という謎が。


「見た目と違ってすげえ凶暴とか?」


外面の良さと性格の良さが必ずしもイコールでは無いという事を、俺は身をもって知っている。田所とか田所とか田所とか。

そういう意味では、この予想は可能性として有りだ。そうと仮定した場合、討伐ではなく封印となった理由もなんとなく察する事が出来る。

討伐出来ないなら封印する。ファンタジーの定番だ。


「この娘そこそこ強そうだしなぁ」


俺の本能由来の強者センサーに、この娘はギリギリ引っかかっているのだ。

流石に俺の中のザ・災害の代名詞である、フロアマスター程の強さは無いだろう。だがそれでも、このダンジョンを徘徊する高位の魔物達よりかは強いと思われる。

記憶に残るマルトの兵力を基準にすれば、封印という手段を取るのも分からなくは無い。


「そうだった場合、この娘は一体何をやらかしたのやら」


いやまあ、悪い事して封印ってのは、俺の想像なんだけどさ。そもそも、本当に封印かどうかも分からなんし。

ただ、こんなヤバい場所に放り込まれている事を考えると、確実に厄ネタの類の筈だ。少なくとも、善意じゃこんな場所に放り込まんだろ。

まあ、色々な状況から判断するに、スルーするというのが一番の安牌な気がする。


「……でもなぁ。何かスルーする気にならないんだよなぁ」


なんというか、気に食わない。

この娘がこうなった経緯も理由も知らん。だが、こんな誰もこないような場所に、水晶に閉じ込めた上で放置するという所業が気に食わない。

この場所に辿り着くまでの道筋を振り返る。徘徊する雑魚であっても高位の魔物で、フロアマスターに至っては国すら滅ぼしかねないような力の権化。

そんな場所を踏破し、俺以外の人間がこの場所に辿り着く可能性は? 絶対に無いとは言わないが、それでも限りなく0だろうよ。

つまり俺がスルーした場合、この娘は未来永劫この場所に放置されるという事だ。

それはちょっと残酷過ぎやしないか? 意識の有無等関係無いぐらい、永劫の孤独というのは非道な仕打ちではないか。

それ程の事をこの娘がしたのかもしれない。だが、何も知らない俺からすれば、だったら一思いに殺してやれよ思ってしまう。

殺すでもなく、生きるという行為そのものを否定するこのやり方は、虫唾が走って仕方がない。


「やっぱり出すべきだよな」


決めた。俺はこの娘を解放する。

別にこの娘を助けたいという気持ちでは無い。いや、その気持ちが無い訳では無いが、それ以上にこんな胸糞悪い仕打ちを考える奴の鼻を明かしたい。

善人なら地上に一緒に連れ出すし、悪人なら一思いにこの場で殺す。この娘に対するスタンスとしてはこんな感じだ。


「……まあ、一番の理由は、そろそろ誰かと会話したいからなんだが……」


色々と理由を並べてカッコつけたが、ぶっちゃけると寂しいというのが本音だ。

理由がダサいと思うだろう? だがな、このダンジョン攻略に関しては、本当に切実な問題なんだぞ。

基本、俺のダンジョン攻略は苦難の連続。必ず迷子になり、基本的に美味くない食事を食べ、強敵との死闘を演じ、時たま飢えと空腹に襲われる。

これを全て一人で体験しているんだぞ。割と本気で愚痴る相手が欲しいのだ。


「この際、悪人でも良いわ。会話した後ちゃんと殺すけど、それでも一時的には孤独を凌げるし」


いやまあ、同行者は本当に欲しいので、是非善人であって欲しいが。


「ま、何はともあれ、まずはこの娘を出してからだな」


全てはこの娘を水晶から出してからだ。

はてさて。どうやろうか?


「……いやまあ、ぶっ壊すしか出来ないんだけど」


解放するにはどうしたら良いかと考えたところで、即座に思考を放棄。

よく考えれば俺、解放の方法が浮かんでも実行出来る程器用じゃねえや。こういう場面で活躍するのは魔法だろうけど、未だに生活魔法以外は魔法 (物理)しか使えないし。

こういうのはもう、力技で何とかするしかない。


「取り敢えず、どれぐらいで壊せるかどうか確認を」


ある程度本気で殴れば普通に壊せそうな気はするが、それでは中の少女もミンチになりかねない。

壊すにしても、程よい塩梅を見つけなれば。

そんな訳で、まずはコンコンと叩いて硬さを確認してみる。


ーーパキィィィン!!


そしたら水晶が砕け散った。


「ありゃ?」


え、何で?

天使っ娘は結構好きです


改稿作業後。

コオリ君は寂しんぼ。……いや、実際は極普通の感性なんですが。通常の人間にロビンソン・クルーソー的なのは無理ですし。それは野性味の増したコオリ君でも同じ。

コオリ君の性質は、人間の皮を被った獣的な感じです。地球世界の倫理や道徳の類は捨てていますが、人間性までは捨ててないので羞恥心の類は残ってますし、ある程度の人情も持ってます。

ただ、それでも本質は獣に近いので、自分の心に忠実です。やりたい事は大体やるし、やりたくない事は頑としてやりません。

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