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Love&Peace  作者: 野田乃音
終わりからの始まり
43/45

おいしいご飯を食べましょう

光の洪水が収まった時、絵麻はここ四日間で、それなりに見慣れてきた家具のあるリビングに帰ってきていた。

「戻った?」

「あーあ。久しぶりに帰って来た」

「四日ぶりだな」

「そっか。三人とも離れてたんだよね」

思いきりのびをしている哉人たちを見て、リョウが思い出したように呟く。

「そうだよね。お腹すいちゃった」

「え? さっき食わなかった?」

「唯美たちはいなかったじゃない」

「何か食べたの? アタシ達が苦労している間に?!」

「作ろうか?」

険悪になりかけた雰囲気に、絵麻は思わずそう言った。

「?」

唯美の漆黒の視線が、絵麻に向けられる。

「作れるの?」

「うん」

訝しげな、唯美以下のいなかった三人の疑惑を晴らすように翔が続ける。

「絵麻のごはん、美味しいよ。保証する」

「なあ、オレ達がいなかった間に何があったんだ? 話が全然見えてこないんだけど」

「? 信也かリョウに聞いてない?」

向けられた視線に、リョウが首を振る。

「ううん。話すヒマがなかったの。町の被害がゼロだったって言っても、町のPCに報告して市民の誘導とかはしてたからね」

「こっちもそれなりにモンスター退治はしたからな。腹減ったかも」

「信也もお腹すいたの?」

「あ、僕も」

喜々として手をあげるのは翔。

「じゃ、夜食でも作ろうか」

絵麻は台所に足を向けた。

すっかり慣れたその足取りを、いなかった三人が不思議そうにみつめる。

「なじんでる……」

「なあ、あの子何者なんだ? 亜生命体じゃねーの?」

「じゃ、夜食作ってもらう間に説明しようか。台所に行こうよ?」

翔が三人を促す。

結局、七人とも台所に来たので、広かった台所がいささか狭くなったように思えた。

(席が多かったのはこういう理由だったのか)

かぼちゃに似た、ちょっと薄い色の果肉を一センチくらいの厚さに切って耐熱皿に乗せ、レンジで加熱する。その間に肉とたまねぎを薄切りにして、フライパンで炒めはじめた。

「で、結局どういうわけ?」

目の前の四人用の席に、翔と前はいなかった三人のメンバー。その横の四人用の席にリリィ、信也、リョウが座って、話を始めている。

「僕が西部に行ったのは知ってるよね?」

「当然よ。だって、同じ日に出たじゃない」

「で、僕が血星石を探してたところに、落ちてきたのが彼女」

「落ちてきた?」

三人が目を見合わせる。

「……どうやって?」

「唯美の同族だとか?」

「まさか。髪も目の色も違うもん。アタシと同じわけないじゃない」

「んじゃ、どうやって?」

「別の世界からきたみたいなんだ」

「?!」

真顔の翔と、ぎょっとした顔の三人との視線がかちあう。

「翔、それマジで言ってんの?」

「だましてんじゃないだろうな?」

「至って本気なんだけど」

翔が左頬をかく。

「仮にホントだとしてさ、何でその別世界の人物がここで平然とメシ作ってんの?」

シエルの指先が、オーブンの温度を調整していた絵麻に向けられる。

「僕が血星石持たせたら、吸収しちゃって。分離する方法が見つからなくって、しばらくここにいてもらったの」

「そういえば、血星石どうなったの?」

「とりあえず分離はできたみたい」

「?」

「どうやったの?」

「リョウの言った通りの方法で」

「?」

翔以外の全員の表情が、疑問一色に染まる。

「何をやってたんだ?」

信也の問いかけに、翔は、要点だけをかいつまんで説明した。

「実は、パンドラに遭遇したんだ。それで、僕らやられちゃって」

「?!」

「大丈夫だったの?!」

「えっと、僕は木の幹に叩きつけられて、リリィは闇に打ちすえられて、絵麻はお腹のところをばっさり切られて」

「全然大丈夫じゃないじゃないか」

「リリィ、平気? 平気?」

慌ててリョウが、リリィの身体を診る。

 リリィは自分の背中を指して、首を振った。

「ホントだ。全然傷になってない」

「絵麻は?」

「わたしも大丈夫。切られた時は死ぬかと思ったんだけど」

あらためて腹部をみつめるが、傷はおろか血の跡も、服のほつれすら見当たらない。

「ホントの話?」

「うん。その証拠に、もう振り子が反応しなくなってると思うんだけど」

翔に言われて、リリィが、緑と紫の結晶がついた振り子を取り出した。

空中に下げられた振り子は一点でぴたりと止まり、揺れることも動くこともしなかった。

「あ。ホントだ」

(よかった……)

絵麻は心から安堵すると、オーブンから、こんがりと焼けたかぼちゃのチーズがけを取り出した。

パンを切って、適当な皿に盛り付ける。

「はい、できたよ」

「待ってました。じゃ、ここで一旦停止ね」

翔が料理ののった皿に手を伸ばす。

「熱いから、気をつけてね。今コーヒー入れるから」

「ホントに慣れてるな」

フォークを配り、全員にコーヒーを回してから、絵麻は空いていたリリィの前の席に腰をおろした。

「あれ、大丈夫なの?」

リョウが不思議そうな声をあげる。

「うん。もう平気」

絵麻はコーヒーのカップを手に取った。

湯気の向こう側で、リリィが微笑んでいるのがみえる。

リョウは信也と顔を見合わせて、しばらく不思議そうにしていたのだが、信也の一言であっさり決着がついた。

「いいんじゃないか?

険悪なままじゃやばいけど、仲がいいんならそれにこしたことないさ」

「それもそうよね」

リョウは言って、目の前の皿の料理を一口食べた。

「わ、やっぱりおいしいね」

「かぼちゃにチーズかけてあるだけなのにな。何でこんなに美味しくなるんだろ?」

そう言っている翔の皿は、既に半分ほどカラになっている。

「中にお肉とかたまねぎとか入ってるからじゃない?」

「単純なのに侮れないな」

そんな話をしながらも、三人はフォークを動かし続けた。みるみるうちに料理の面積が皿の面積に狭められていく。

(よかった。これだったらもう少し作ってもよかったかも)

絵麻がそんな事を考えた時。台所に、ジリジリという電話の呼び出し音のような音が響いた。

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