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Love&Peace  作者: 野田乃音
終わりからの始まり
41/45

再び廻る運命

「Mr.?」

「これは……この波動は」

 Mr.PEACEの視線の先を追ったユーリも、思わず息を飲む。

 澄み渡っていたはずの結晶板の一点に、闇がこびりついている。

 それが、青白色の光を飲み込もうとしている。

「闇? まさか、Mr.?!」

 ユーリは弾かれたように顔を上げた。

「この波動……『不和姫』だ。どうして出てきた?!」

「そんな。早く何とかしないと」

「だが、今からどれだけ急いだとしても」

 Mr.PEACEの重いつぶやきが聞こえた、次の瞬間。



結晶板が虹色の輝きを放った。


 淡い光が結晶板から発されている。

 今にも消えてしまいそうに儚いのに、全てを包みこみ、守るかのように優しい。

 世界中の光を集めたような、虹色の輝き。たくさんの色が集まっているのに、決して濁った闇にはならない。

 不思議な暖かさがそこにあった。

「これは?」

 ユーリはMr.PEACEに問いかけたが返答はなかった。

 表情を確かめようとのぞきこむと、そこには今まで見たこともないほど複雑な顔をしたMr.PEACEがいた。

 混乱。安堵。責任。痛みと哀しみ。そして――恨み。

「Mr.? どうかされましたか?!」

 ユーリの不思議そうな問いかけにMr.PEACEが答えることはなかった。

 彼の耳に届いたのは、この一言だけ。

「時が、満ちた……」

 注意していなければ聞き逃すほどに小さく、そして、意味のわからない。

 そんな一言だった。


*****


「ん……」

絵麻はゆっくりと目を開けた。

体が軽い。指先から全身まで、あたたかな力に溢れている。さっきまでの死にそうな痛みが嘘のようだ。

 腕を動かすと、軽く目の高さまで上げられた。

「?」

目の前にかざした手には、祖母の形見のペンダントが握られていた。

そこに、淡い虹色の輝きがある。

どこまでも青い石だったはずのそれは、今は透明に澄みわたり、中に美しい虹色を宿していた。

光はそこから発されていて、たゆたうようにして絵麻の体じゅうを包みこんでいる。

「これは?」

ふっと視線を落とすと、ついさっきまで信じられないほど痛んでいた腹部の傷口が光に包まれていた。みるみるうちにふさがっていく。

(夢を見ているの?)

その時だった。

「その髪、その目、その力!! アンタは!!」

憎悪のかたまりのような声が、絵麻の間近で響いた。弾かれたように絵麻は顔を上げる。

そこに、憎悪を顔中にあふれさせたパンドラがいた。

「なんでアンタが出てくるのよ!! アンタは、百年前に確かに私が!!」

「ひゃく……ねんまえ?」

突然の意味のわからない言葉を、絵麻はオウム返しに聞き返すことしかできなかった。

「まあいいわ。殺してあげる。今すぐ、ここで殺してあげる!!」

パンドラの体から凄まじい量の闇がほとばしり、それら全てが絵麻に向けて放たれる。

絵麻は思わず目を閉じたが、痛みはおろか、何の衝撃も感じなかった。おそるおそる目を開けると、そこには、輝きを強めた虹色の光があった。

闇は光との接点で止まり、それ以上進めないようだった。

「守って……くれてるの?」

絵麻は不思議そうに、手の中の石をみつめた。

応えるように、淡い光が瞬く。

「クッ」

パンドラの顔に苛立ちが広がった。

彼女は何度も何度も闇を絵麻に向けて放ったが、いずれも輝きを増した光によって弾き返された。

「また邪魔をするのね!! その力で、また、私の邪魔をしにやってきたのね!!」

苛立ちと憎悪が頂点に達したように、パンドラが悲鳴のような叫び声をあげる。

「え?」

さっきもそうだったが、絵麻には全くわからない。

「ねえ、何のこと?! わたしはなにも」

「もう誰にも邪魔はさせない!!」

悲鳴のような絶叫で、パンドラがさらに強い闇をぶつけてくる。

「!!」

絵麻は目を閉じたが、光が闇を受け止めて拡散させ、身体に痛みはなかった。

二度、三度とそれが繰り返された後、唐突にパンドラの姿が薄く掠れた。

「え?」

「限界……か」

パンドラが苦々しげに表情を歪め、剥き出しの肩を抱えこんだ。

不気味な赤をたたえていた瞳が、水面のような青になっているのが絵麻の角度からでもわかる。それら全てがぼやけて、彼女の全身がだんだんとおぼろになっていく。

「?」

「……てあげる」

残像に、パンドラの憎悪に満ちた声が響いた。

「殺してあげる!! 私は、必ずアンタを殺す!! 殺す!!」

そこにあるあからさまな殺意に、絵麻はゾッとなった。

結女に殺された時と同じ――『殺したい』という純粋な破壊欲だけがそこにあふれている。

憎しみの視線が、絵麻にからみついて離れない。

絵麻はその視線に氷漬けにされたように、何も言うことができなかった。

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