惨劇
――ざくん。
鈍い、とても不快な音が辺りに響く。
同時に、絵麻の腹部を、今までに経験したことのない激痛が襲った。
「!!」
痛いなんて形容詞じゃたとえきれない。
焼いた鉄のかたまりを押しあてられ続けているみたいな。痛みで気が遠くなっていくのに、その痛みが逆に意識を鮮烈に覚醒させる。
「絵麻!」
「あ、ああ……痛ぁっ……!!」
目を開けると、パンドラが残酷に笑っている。
「ハハ、痛い? そうでしょう。こういう処刑があるんですもの!」
パンドラが赤い唇をつりあげて高笑いした。
「絵麻! しっかりして!!」
翔が叫んだ声が聞こえたが、絵麻はもう答えることができなかった。話せない。声を出そうとするたったそれだけで、痛みが激増する。
「心配しなくても大丈夫よ。そうそう楽には死なせないから」
パンドラの冷ややかな声がした、次の瞬間。
「えっ!?」
傷口をえぐるように、『何か』が絵麻の腹部に入ってきた。
刹那、さっきよりもずっとずっとつらい痛みが、絵麻の全身に走る。
「痛っ……痛いよ! 止めてぇ!!」
堪えきれずに絵麻が泣き叫んでも、パンドラは冷酷な微笑を張りつかせたまま、体内を屠り続ける。
「やっぱり、ここにあったのね」
やがて、その手が探していた物に到達する。同時に、パンドラが絵麻の血塊にまみれた手を引き抜いた。
毒々しい朱に染まった指先には、濃緑の石が握られていた。
「アハハ。やっとみつけた。ブラッドストーン!!」
朱に染まった手で、血塊にまみれた石を宝物のように握りしめ、パンドラは恍惚にひたる。
「これで復活に近づく! これで私は世界を滅ぼす!!」
パンドラは立ち上がると、楽しげに、高らかに笑い声をあげた。
絵麻は声も出せずに目の前の無残な光景を見ていたのだが、やがて、かくりと首が下がった。
制服の腹部が、赤くべたべたしたもので染まっている。
(これ……わたしの血?)
認めた途端、意識がぐらりと遠くなった。
(死ぬの……?)
朦朧となりながら、絵麻はポケットに入れたままの手で、祖母の形見の石を握りしめた。




