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Love&Peace  作者: 野田乃音
終わりからの始まり
38/45

惨劇

 ――ざくん。


鈍い、とても不快な音が辺りに響く。

同時に、絵麻の腹部を、今までに経験したことのない激痛が襲った。

「!!」

痛いなんて形容詞じゃたとえきれない。

焼いた鉄のかたまりを押しあてられ続けているみたいな。痛みで気が遠くなっていくのに、その痛みが逆に意識を鮮烈に覚醒させる。

「絵麻!」

「あ、ああ……痛ぁっ……!!」

目を開けると、パンドラが残酷に笑っている。

「ハハ、痛い? そうでしょう。こういう処刑があるんですもの!」

パンドラが赤い唇をつりあげて高笑いした。

「絵麻! しっかりして!!」

翔が叫んだ声が聞こえたが、絵麻はもう答えることができなかった。話せない。声を出そうとするたったそれだけで、痛みが激増する。

「心配しなくても大丈夫よ。そうそう楽には死なせないから」

パンドラの冷ややかな声がした、次の瞬間。

「えっ!?」

傷口をえぐるように、『何か』が絵麻の腹部に入ってきた。

刹那、さっきよりもずっとずっとつらい痛みが、絵麻の全身に走る。

「痛っ……痛いよ! 止めてぇ!!」

堪えきれずに絵麻が泣き叫んでも、パンドラは冷酷な微笑を張りつかせたまま、体内を屠り続ける。

「やっぱり、ここにあったのね」

やがて、その手が探していた物に到達する。同時に、パンドラが絵麻の血塊にまみれた手を引き抜いた。

毒々しい朱に染まった指先には、濃緑の石が握られていた。

「アハハ。やっとみつけた。ブラッドストーン!!」

朱に染まった手で、血塊にまみれた石を宝物のように握りしめ、パンドラは恍惚にひたる。

「これで復活に近づく! これで私は世界を滅ぼす!!」

パンドラは立ち上がると、楽しげに、高らかに笑い声をあげた。

絵麻は声も出せずに目の前の無残な光景を見ていたのだが、やがて、かくりと首が下がった。

制服の腹部が、赤くべたべたしたもので染まっている。

(これ……わたしの血?)

認めた途端、意識がぐらりと遠くなった。

(死ぬの……?)

朦朧となりながら、絵麻はポケットに入れたままの手で、祖母の形見の石を握りしめた。

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