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Love&Peace  作者: 野田乃音
終わりからの始まり
34/45

作戦発動

「待てって!! そっちは危ないんだ! 狼がうようよいるんだぞ?!」

シエルが叫んだのだが、絵麻は振り向きもせずに駆けていってしまった。

「行っちゃった」

「いいの?! あの子弱そうだったけど」

「でも、あの翔をダウンさせる人間タイプの亜生命体だろ? 大丈夫なんじゃ」

「そっか」

勝手に結論づけた三人を見て、リリィはもどかしそうに口を開閉させる。

あの子は、そんなものじゃない。そう言いたいのに、声が出てくれない。

いつも通訳してくれるリョウは翔にかかりきりになっているし、翔はぐったりとしたままだ。リリィはもどかしく自分の喉を押さえた。

「翔、しっかりして! 翔!!」

「う……」

頬を叩かれ、翔がゆっくりと目を開ける。

「あれ、僕……気を失って?」

「しっかりしてよ。防いだからよかったけど、あんな波動に取り付かれたら翔が廃人になってるわよ」

「波動……」

翔はまだぼんやりとしていたようだが、その言葉にはっと上半身を起こした。

「そうだ、絵麻。絵麻は?」

「走っていっちゃったよ。何を考えたのか」

「それ、まずいよ!」

「? 何で?」

「あの狼は絵麻を……血星石を狙ってる!!」

「え?!」

「さっき襲ってきた奴は、いちばん側にいたリリィじゃなくて、一直線に絵麻を狙った。それでわかったんだ。『血星石を手に入れるために放たれた獣』だって」

「それじゃ」

「唯美たちを狙い出したのは、血星石がみつからなかったはらいせなんじゃないかな。このまま行くと町が危ないし、絵麻も危ない。あんな力を解放したんじゃ、絵麻の身体だってもたないよ」

「それよりどうするの? 町も狙うって」

その言葉に呼応するように、周囲の暗闇から獲物をねめつける無数の咆哮が発せられる。

信也が緊張させていた肩を、諦めたように落とした。

「囲まれたか」

「どうする?」

「ンなことのーてんきに言ってんじゃねーよ。突破するに決まってんだろ」

シエルが左手を手刀のように構える。

「シエル。どのくらいまでならいける?」

「五回ってとこだ。疲れてるからな」

「唯美、哉人。お前らは?」

 信也が淡々と戦力を確認していく。

「アタシもそんなとこ」

「ぼくも万全ってわけじゃない」

「じゃ、俺がまずこの周りを殺るから、リョウと哉人、それから翔は町の方を頼む。

 リリィと、それから唯美とシエルは俺と一緒だ。お前らなら五発だけでもかなりの数を叩けるだろう」

信也は手にしていた長剣を、静かに鞘から抜き取る。

「待って」

剣に炎を集中しはじめた信也を、リリィと翔が止める。

「? 何かあるのか?」

 信也が自分の方を見てくれた。一緒にリョウも自分に向き直ってくれた。

 リリィは、一生懸命に伝えようとした。

「え?」

「絵麻のこと迎えに行くって言ってるけど」

リリィの無音の言葉を、リョウが通訳してくれた。リョウはリリィと目が合うと、安心させるように表情を緩めてくれた。

「怖がってるから、助けないとって」

「けどなあ」

「それに」

信也はおそらく否定的な意見を言おうとしたのだろうが、それより先に翔が口をはさんだ。

「信也じゃ森ごと丸焼きになっちゃうよ。僕がやる」

「って、大丈夫なの?」

「大丈夫。ね、リリィ?」

翔が手近な木の幹に手をついてゆっくりと立ち上がると、リリィに笑いかけた。

「僕が周りの狼を一掃する。リリィは先に行ってくれるかな? そうしたら、僕は絵麻とリリィの二人分の波動で追いかけられる」

翔はポケットから出した振り子を、リリィに投げた。

リリィの手の中に、軽い音をたてて緑と紫からなる結晶の振り子がおさまる。

「町の方は悪いけど、リョウと哉人だけで処理してくれないかな?」

「え?」

「それじゃ、お前は」

「町の方は大丈夫。狼がいちばんに狙うのは血星石の波動……絵麻だから」

 翔は緩く首を振った。

「ほとんどの狼は絵麻か、力包石の波動を発する僕たちに寄ってくるはずだよ。だから、町の方は僕がいないほうがいいくらい」

「わかったわ」

リョウが手首のブレスレットを外しながら言った。

「ケガしないで帰ってきてよ」

「うん」

「合図は?」

「三つ数えたらやる。いくよ」

翔が手にしていたシャーレを頭上に掲げ、目を閉じて意識を集中させる。

「三……二……一……」

青い波動が、掲げた手の先へと集まっていくのがわかる。

猛雷撃(バスターライトニング)!!」

次の瞬間、激しい雷鳴が空を引き裂く。

轟音が狼たちの断末魔をかき消し――同時に、リリィは飛び出した。

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