表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Love&Peace  作者: 野田乃音
終わりからの始まり
13/45

彼らは癒す者なのか

「泣きながら寝ちゃったって?」

 リリィの声なき声に集中していたリョウは、それを残り二人にわかるように声に出した。

 リリィは静かに頷く。

 部屋の前で様子をうかがっていたのはリリィだった。心配になった彼女は、制止されるより早く絵麻を追いかけてリビングを出ると、そのまま、絵麻が寝入るまで廊下で様子をみていたのである。

 翔も追いかけようとしたのだが、信也に止められてやめた。絵麻は明らかに翔に脅えていたから。

「一体どうしたんだ? お前、何かした?」

「してないよ。本当にどうしたんだろう」

「解剖の話で、怖がらせちゃったかな」

 リョウのその言葉に、リリィは首を振った。

「何?『怖がるようになったのは翔の話が出てから』って? そういえば」

「どうしてそれがダメなんだよ? 別にけなした訳でもないのに」

「そうよね」

 リョウはしばらく思案していたのだが、ふっと顔をあげた。

「ねえ、翔」

「何?」

「気がついてた? あの子……絵麻の首回りにあったアザ」

 彼女の言いたいことを察し、翔は僅かに頷いた。

「わかってた。けど、黙ってた」

「どこからどうみても、首を絞められた跡だもんね」

 錯乱状態の人間に「どうして首を絞められたんですか?」と聞く人はいないだろう。

 翔はそれで聞かなかったわけだが、リリィがそれに気づき、リョウが手当しようとしたことで、本人に見えていなかったそれに気付かせてしまった。

「逃げてきたのか? 首を絞めた誰かから」

「それ、きっと彼女のお姉さんだ」

 翔の声がぽつりと、言い切りの形で落ちた。

「何でそんなことがわかるのよ?」

「『わたしを殺さないで、お姉さん』

 これは、絵麻が最初に混乱した時に叫んだ言葉だよ」

「お姉さん?」

「その証拠に、絵麻は最初リョウとリリィに脅えてたでしょ? 絵麻の外見から逆算すると、『お姉さん』の年齢はだいたい僕らと同じくらいだ。脅える原因に十分なり得る」

「で、いちばん警戒してなかったお前に急に脅え出した理由は?」

「何だろう。僕にもそのお姉さんに共通するものがあるってことになるけど」

 翔はさっきから書き込んでいたノートを開いた。

「酸欠で記憶を失くしちゃったのかな? 言ってることが全然的外れ」

「記憶を失うまでの酸素濃度低迷状態に陥ってたら、錯乱なんかしてられないわよ。少なくとも寝たきりね」

「まるっきり別の、他の常識がある世界から来たって考え方も出来るんだけど……」

 ノートの項目をたどっていた手が、ふっと止まる。

 同時に、四人は顔を見合わせた。

「まさかね」

「でも、その可能性が結構高めかもしれない」

 翔はつぶやくように言うと、書き込まれたノートをぱたんと閉じた。

「そんなことって、あるの?」

「こういう能力があるんだから、あるんじゃねえか?」

 信也が指先に炎を生じさせる。

「うーん」

 信也とそんな会話をしていたリョウの袖を、リリィが引っ張った。注意を向けさせて、唇を動かす。

「うん。そうだね。あの子にいちばん優しい考え方をしてあげられたらいいね」

「そうだね」

 翔は何か考えていたようだったが、やがて頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ