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短編集  作者: ペタ
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見習い魔法使いチエの挑戦

以前、ちょっとの間、載せていたのをまたアップします。

なんか同じような発想のが受賞しているな。

 サラリーマンやOLが歩くオフィス街。そこに不釣り合いな少女がいた。灰色のローブ、とんがり帽子、そして杖。道行く人々は、少女が見習い魔法使いだと知っていて、微笑ましい表情を浮かべた。魔法使いのローブは白か黒と決まっている。灰色なのはまだどちらにも属さない見習いであるからだ。

 少女の名はチエ。12歳。チエは人々の視線を感じながら心の中で思った。いずれ正式に黒魔法使いになれば彼らの視線は一変するだろう、と。

やがてチエが探していた標的が見つかった。人のよさそうな中年の男。だが、その顔には緊張が顕わである。チエは男が大きな取引に向かっていることを知っていた。チエは男に向かって小さく魔法を唱えた。

「メロンパンマロンパンフワフワフワリ~。不幸にな~れ」

 すると男の顔が急に青くなった。やがて立つこともできないほど腹が痛くなるだろう。これで彼の取引は失敗だ。

チエの目的は彼を不幸にすることだった。


 魔法使いには白魔法使いと黒魔法使いがいる。白魔法使いは人を幸せにするために魔法を使い、黒魔法使いは人を不幸にするために魔法を使う。魔法の世界のルールで、10の幸せの魔法を使うためには、1の不幸な魔法を使わないといけない。そして不幸な魔法を受け持つのが黒魔法使いであった。当然、黒魔法使いは人々に嫌われる。だから、黒魔法使いになりたいという者は少なかった。


 それからチエは、低いビルが並ぶ一帯に来た。次に目指す標的もすぐに見つかった。やせた若い男が背中を丸めて歩いていた。二浪中の受験生だ。受験日は明日。男はそのために必死に勉強してきた。

 チエは男に向かって呪文を唱えた。だが、男には変化がない。それでもチエは満足げな表情だった。それは男が家に帰り眠りにつくと、24時間は目覚めない深い眠りの魔法だった。これで男は明日の受験を寝過ごすだろう。


 チエは孤児で、身寄りのないチエを引き取ったのが、魔法養育院だった。そこで幼い頃から魔法使いになるように育てられた。家族との温もりも友達との触れ合いもない日々だった。厳しい生活の中でチエは自分が不幸だと思い、他人の幸福が妬ましかった。だからチエは人々を不幸にする黒魔法使いになりたかった。

 見習い魔法使いが正式の黒魔法使いになるためには試験に通らなければならない。その最終試験が魔法によって3人を不幸にするという実技試験だった。

(あと1人。まだ期日までには余裕がある。あと一人はじっくりと探そう)

チエは近くの公園のベンチに座っていた。周りでは小さい子供たちが、友達と遊んでいたり、お母さんと一緒だったりしていた。

「明日の運動会。お弁当いっぱい作ってね」

 チエの目の前を親子連れが通った。小学生低学年くらいの男の子と母親。男の子の表情はとても楽しげだった。母親も優しく笑いかける。チエはその光景が許せなかった。

「メロンパンマロンパンフワフワフワリ~。不幸にな~れ」

 チエは小さく唱えた。それは明日雨になるという魔法だった。楽しみなんて消えてしまえばいい。そう思った。


 やがて、試験結果の発表日がきた。結果は試験官から言い渡される。チエは緊張しながらも会場に行った。記述試験も実技試験もちゃんとできた。間違いなく黒魔法使いになれるはずだった。

「チエさん。あなたは不合格です」

 試験官から伝えられた言葉にチエは自分の耳を疑った。

「なぜですか。記述試験も実技試験もできたはずです」

「確かにあなたの記述試験はよかった。ですが実技試験は0点です」

「どうして。ちゃんと3人の人を不幸にしたのに」

 試験官はふっと息を吐いてから口を開いた。

「あなたは3人に魔法をかけた。だが、彼らは不幸にはならなかった。まず、最初の男。彼は取引に行けなかった。そのことは大問題になったが、数日後、その取引相手は倒産した。取引をしていたら大変なことになっていたので、彼の評価は逆に上がりました。次の浪人生は受験に失敗しました。ですが、彼は受験を諦め夢見ていた作家を志し、書いた小説が賞を取り、彼は小説家になりました。最後の小学生ですが、彼はあなたの魔法には関係なく、その日の夜、風邪を引きました。運動会は雨で延期になったので、治った後に開催された運動会に無事参加できました」

 最後に試験官から冷たい宣告がされた。

「あなたには黒魔法使いとしての資質はないようです。白魔法使いになることをお勧めします」

 こうして試験は終わった。


 公園のベンチに座りぼーっとしていたチエの前をいつかの母子が通り過ぎた。

「明日の遠足。この前の運動会と同じくらいおいしいお弁当作ってね」

 男の子は笑い、それを見ている母親も幸せそうだった。二人の様子があまりにまぶし過ぎて、チエの目には涙が溢れてきた。



 その数か月後。町には小さな幸せが生まれていた。そしてそこには、少ししかめっ面で、「不幸にな~れ」と唱えながら、人々を幸せにしている小さな白い魔法使いの姿があった。


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