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短編集  作者: ペタ
3/4

本日の議題:現代法体系における「復讐」の位置付けについて

またまたテーマ復讐者です。

「もともと日本の文化として仇討とかあったじゃないですか。いまだに忠臣蔵とか根強い人気を誇っているし。やっぱり復讐という制度を認めるべきだと、私は思います」

 女はそういうと俺の反応を待った。その目には強い光が宿っており、強気に俺を見ている。たぶん、何の根拠もなく自分の主張に自信を持てる、そういうタイプの女だ。かなりの美人でもあり、子供のころから周囲にちやほやされて育ってきたのだろう。

「あなたはそう言うが、現代法において自力救済は禁止されている。それは英米法、大陸法ともに共通した流れであって…」

「難しいこと言われてもわかりません」

 ちっ。こちらの土俵に引きずり込んで一気に決着をつけようとしたが、そうはいかなかったか。

「そうだね。分かりやすく言えば、自力救済、つまり、物を取られたりしても自分でそれを力づくで取り返すというのは、法治国家ではタブーになっているんだ。力が強い人ほど得をする仕組みになりかねないし、警察や裁判所といった法秩序を維持する組織が機能している以上、そちらに任せる方が合理的なんだよ」

 ちなみに俺は弁護士である。少し法律をかじっただけの素人に法律の議論で負けるはずがない。

「でも、ハムラビ法典でも言っているじゃないですか。目には目を。歯には歯をって。復讐っていうのは古今東西の人類のDNAにあるんじゃないですか」

 ハムラビ法典。俺はその言葉に吹き出しそうになったが、相手は冗談を言っているようでもないので、ぐっと笑いをこらえた。

「ハムラビ法典って、またすごい例えを持ってきたね。いいかい。現在の法体系というのは人権という概念を基に組み立てられているんだ。人権という概念のない時代の考えを持ってこられても、現在社会において復讐を正当化する根拠にはなりえないよ。それにハムラビ法典ってよく誤解されるんだけど、あれはあくまで受けた被害と同じ程度の制裁を科し、行き過ぎた制裁を抑止しようという考え方なんだ。別に復讐を正当化しているわけじゃないし、その考え方はおかしいと思う」

 その言葉を聞いた女は、俺を睨み付けるように見た。

 しまった。つい仕事上の癖で徹底的に相手をやり込める言い方をしてしまった。法廷ではそれでいいかもしれないが、日常生活、特に女相手にこれをやると大抵ろくなことにならない。

「分かりました。私の方が勉強不足だったと思います」

 意外なことに女はすぐに引き下がった。もう少し何か言ってくるかと思っていたが。だが、それならそれで俺の方も好都合だった。

「そうか。分かってくれたか。私もうれしいよ」

 俺はできる限りの笑顔を浮かべた。そして続けて言った。

「それじゃあ、その物騒な物をしまってくれないか」

 先ほどから、目の前の女は俺に銃を向けていた。

「いやです」

「でも今、分かったって言ったじゃないか」

「言いましたが、別に復讐をあきらめたわけではありません」

 ちなみに出会った当初から女は俺に銃を突きつけていた。先月ある男が借金を苦に自殺した。その責任が俺にあるということで、その男の恋人であった女が復讐者と化し、今、こういう状態になっている。

「だから復讐というのは認められるわけもなく…」

「認められようが認められまいが関係ありません。あなたは彼の仇です。だから殺します」

 まったく議論の通じない人ほど手に負えない者はない。

「確かに、彼が自殺したきっかけが私に全くないとは言わない。だが、事業を始めることはリスクがあり、私は法律上の観点からできる限りのアドバイスはした。結果として失敗し借金を背負ったのかもしれないが、その責任を私に押し付けられても、それは筋違いだ」

ちなみに俺はあの男を説得し、傾きかけた事業を続けるように扇動し借金を膨らませさせ、いささか評判の悪い金融業者を紹介した。だが、それは俺の仕事であり、それに従ったのはあくまであの男の意思である。自己責任を持つ大人としては、人のせいにすべきではないだろう。

 だが、目の前の女は冷ややかな笑みを浮かべている。美人のこういう表情は嫌いではない。いや、むしろ好きであるが、この状況では喜んでもいられない。

「あなたの言いたいことはよくわかったわ。さすが悪徳弁護士。口が回るわね。彼が騙されたのもわかるわ。でも、あなたはここで死ぬの。さよなら」

「いや、まだ、話は終わって…」

 俺が最後まで話す前に、銃声が鳴り響いた。あたりが静かな分その音は響く。俺は自分の腹に、異物が飛び込んできたのを感じた。右の腹部から血がスーツにまで湧き出ている。このスーツ高かったのに…。

 さらにもう一発。今度は左の腹部。痛みのあまりその場に倒れこむ。

 俺の全身が流れ出る自分の血で汚れていく。こんなに体に血が流れていたのかと改めて気が付かされる。女は俺が死んでいくのを黙って見下ろしている。遠のいていく意識の中で、最後に俺は思った。


「復讐。ダメ。ゼッタイ。」





う~ん。オチが今一つだな

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