人魔大戦
これもテーマ「復讐者」。2000字以内の小説です。
少し趣味に走ってみました。
「ガイは左に回れ! 敵の前衛を一気にたたくぞ!」
「了解。後衛、援護を頼む」
俺たちは二匹いる敵のうち、左側に狙いを定めた。俺はロングソードを中段に構え、敵に突っ込む。ガイは巨大な斧を振り上げ、同じ目標に向かう。
敵の前衛は左に黒のデーモン、右に白のゴーレム。いずれも中途半端な攻撃ではびくともしない。一気に攻撃を仕掛けつぶすしかない。
俺の剣はデーモンの槍によって防がれる。ガイの攻撃も同様だ。重い斧による攻撃をデーモンは四本の腕に構えた武器で受け流し、さらにこちらに攻撃を仕掛けてくる。
その間、高速の光の矢が何本もゴーレムに向かう。射士のミミがゴーレムに矢を打ちかけている。さらに僧侶のダンが戦いの歌で俺たちの戦意を高めてくれている。ミミがゴーレムをけん制している間にデーモンを倒さなければならない。こんなところで立ち止まってはいられない。本当の敵は、後ろで豪奢な玉座に座って戦いを眺めている魔王なのだから。
俺の剣がデーモンの角を捉えた。剣は角に半分食い込んだ。
「うおおおお!!」
俺はさらに剣に力を込める。デーモンも必死に抵抗を続けているが、ガイの斧がデーモンのわき腹をかすめると、デーモンは俺の剣圧に負け、そのまま上体が前につんのめった。
「今だ!」
俺は角に引っかかった剣を力づくで抜くと、デーモンの背中に向けて剣を突きつけた。ガイもこの機を逃すまいと、斧を大きく振りかぶってその背中にたたきつけた。
「ごおおおお」
うめきとも悲鳴ともつかぬ声を上げ、デーモンは地面に崩れた。そして、その体はばらばらに崩れていった。
あとはゴーレム。こいつを倒せば魔王。ついに復讐を遂げるときだ。
俺たちが子供のころ、人間と魔族の大きな戦いがあった。人間は魔族と戦うため、剣が持てる者を徴兵し、前線に送った。俺の父親は普段は虫も殺さぬ男だったのに、無理矢理引き立てられるように兵士に連れて行かれて、二度と帰ってくることはなかった。別にそのころであれば珍しいことではない。ガイも父と兄が帰らぬ人となったし、後衛にいる魔法使いのランは、目の前で魔族に両親を殺された。
「下がって」
ランがささやくように言った。
「ガイ。下がれ。ランの一撃に巻き込まれるぞ」
ガイはそれを聞くとあわてて下がった。
俺はランの横まで下がった。ランは小柄でかなり整った顔だが、その顔には表情がなく、長く一緒に旅を続けている俺たちですら笑顔を見たことがなかった。ランは両親が殺されたときにその心を失った。それから両親の復讐をするためだけに生きていた。
小さな声が響いた。
「超龍炎射」
ランはまっすぐ前に手を伸ばした。そしてその小さな手から青白い光が放たれた。その光はまたたくまにランの身の丈3倍もの大きさに膨れ上がったかと思うと、竜を形作り、目の前の敵に向かっていた。
炎系の究極魔法である。若いランがこれだけの魔法を習得するのにはどんな過酷な修練があったのか想像もつかない。
竜はゴーレムを前から飲み込んだ。ゴーレムはその身を炎に包まれても立ち上がっていたが、一度通り過ぎた竜が次に上からゴーレムを飲み込むと、ゴーレムの体は崩れていった。そして竜はそのまま奥にいる魔王に向かって行った。魔王は玉座から立ち上がると、その手を竜に向けた。その手から闇の力が放出される。光と闇が激しく交差した。
「やったか?」
一瞬、眩い光が周囲を包み、光が消えると竜はその姿を消し、魔王が立っていた。
「こざかしい」
魔王がつぶやくように言った。
「黙れ魔王。人間を見くびるな」
俺は剣を構えて魔王に突っ込んだ。ガイもそれに続く。さらに後方から炎の矢が魔王に向かって飛んでいく。僧侶の魔法が俺たちの体を緑色の回復の光で包んだ。
戦いは一刻に及んだ。俺たちはほとんど間をおかず、魔王に攻撃をたたきつけるが、魔王も圧倒的な魔力で俺たちの攻撃を防いでいた。
だが、
「絶対零度」
魔力を回復したランによる氷系の究極魔法。無数のつららが魔王の体を貫く。動きが鈍くなった魔王の胸を俺の剣が貫いた。
魔王の背中から黒い煙のようなものが噴出し、それは天井まで届いた。これまで何百何千もの人の魂を食って自分の力としていた魔王だったが、その力が体から流れ出している。魔王の最後だ。
「貴様ら。これで勝ったと思うなよ。我が意思を継ぐ者が必ず貴様らを…」
俺たちの戦いは終わった。俺は脱力のあまりその場で膝をついた。ガイとダンは笑い、ミミは放心していた。そして、ランの頬には大粒の涙が流れていた。
「父様。母様。仇を取りました」
その声は風に消えそうなほど微かであったが、確かに俺の耳に届いた。
第472次人魔大戦はこれで終結した。今のところ238対234で人類がわずかに勝ち越している。いずれ近いうち、魔族が復讐の反撃を始めるであろう。だが、今は勇者たちの勝利を称えようではないか。