王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います!
【電子書籍化記念】王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います~またもや冤罪をかけられました~
短編「王子の婚約者だけど冤罪をかけられました。彼らを嘘つきにしないように冤罪内容を全部ほんとにしてあげようと思います!」の続編になります!
作品URL:https://ncode.syosetu.com/n7992ia/
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「――私は貴女がレイ殿下の婚約者だとは認めない!」
「……はぁ」
学園内の庭園で堂々と宣言された言葉に、なんかすごくデジャヴを感じる。
前にもこんな感じの啖呵を切られたことがあるなぁ。
妙な懐かしさを感じながらも、私は目の前の人物に向き直った。
興奮からか頬を上気させるその人は、シオン・アスター。伯爵家の人間だ。
「ぽややんとしたその態度、あの方にふさわしいとは思えません」
「そう言われましても……」
どうやらシオンは私のぽけっとした態度が気に食わないらしい。たしかにこの国の王太子で私の婚約者でもあるレイはシャキッとしてるもんね。いつでもテキパキしていて隙なしだ。
老若男女を虜にする私の婚約者は実に罪作りである。
にしても、今更私とレイの関係に異議を唱える人がいるとは。こちとら幼い頃からずっと婚約者なのに。
「貴女が殿下の婚約者なのは、公爵家の人間だからという理由に他ならないでしょう……」
シオンはなおも続けようと口を開いたけど、そこは思い止まったようだ。まあ、なにを言おうとしたかは分かる。
私がフェティスリー公爵家に引き取られた子――つまりは正当な血筋ではないにも関わらず、その権力を行使してレイの婚約者の座に収まっていると言いたいのだ。
まあ、私がフェティスリー公爵家の養子だということは事実だし、別に隠していないので周知の事実というやつである。
それでもこの国の正当な第一王子の婚約者という立場にいるのは、ひとえに公爵家の権力を使ったからに違いないと信じて疑っていないのだ。もしかしたら、そうであってほしいという願望もあるのかもしれない。
学園の庭で先程の宣言をしてきたシオンからのいちゃもんが始まったのは、大体一ヶ月前くらいのことだ。
比較的魔法に秀でているシオンは先日、この国の第一王子であり私の婚約者でもあるレイを一緒に仕事をする機会があったらしい。
そこで魅力にありあまるレイに心酔したシオンは、同じく学園に在籍しているというレイの婚約者に興味を持ったらしい。
――そう、猫をかぶるのを止め、素の子だぬきモードで過ごしている私を。
そして、おおよそ令嬢らしくない私はシオンのお眼鏡にはかなわなかったらしい。
それからシオンは完全に私をレイの婚約者にはふさわしくないと判断したようで、私と顔を合わせるや否やチクチクと攻撃をしてくる。
「――授業とかテストだって手を抜いてないし、聖魔法使いとしてのお仕事も真面目にしてるのに……」
「学園外の活動はただの学生には分からないものねぇ」
幼なじみのカーラが私を抱きしめ、よしよしと頭を撫でてくれる。なので、私もカーラの細い胴体に腕を回しギュッと甘えておいた。
今は私のストレスを解消するために、幼なじみであるカーラとお茶会をしているところだ。
本当は無駄に広い校庭でお昼寝したり、学園長室でイタズラしたい欲求を抑えて模範的な学生をやってるのに。だってレイの婚約者だから。
むぅ、と唇を尖らせるとクスクスと微笑まれながらミルクティーを勧められた。
「にしても私のかわいい子だぬきにあんな無礼な振る舞い……潰す?」
「潰さない潰さない」
カーラってば普段は模範的な令嬢なのに、たまに血の気が多いんだから。
「うちの子だぬきちゃんってば優しいんだから。でも我慢できなくなったらちゃんと言うのよ?」
「うん、わかった」
まあ、こちらが反応しなかったらそのうち落ち着くんじゃないかな。
だけど、私の予想に反し、それからもシオンからの嫌味攻撃は続いた。
「公爵家の人間の振るまいとは思えません」
「レイ殿下の隣にふさわしくない」
「授業にはきちんと参加したらいかがです? 公爵家の権力はそのようなことに使うものではございませんよ」
すれ違うたびにチクチク言葉を投げかけられるので、そろそろ我慢の限界がきそうだ。
うん、そろそろ怒ってもいいと思う。
というか、私が何もしなくてもうちの過保護者達がもはや黙ってないだろう。なにせ、わざわざ報告をしなくても私の学園内の動向を把握している人達だ。おやつのつまみ食いまでバレてるからね。
方々からもらうおやつを食べた日は、家で出てくるおやつの量が明らかに減らされている。我が家ながらさすが公爵家、栄養管理の体制もバッチリだ。
そんなことに隠密の人達を使わないでほしい。
ただ、おやつを減らされたからと言って私がガッカリするわけではない。量が減った分、質が上がるからだ。
うちの敏腕執事長がその辺は取り仕切っており、量を減らすならより満足感のあるものを用意してくれる。本当に絶妙なバランス感なのだ。
有名パティスリーの一日限定十個のスイーツや、幻と呼ばれるチョコレートとか、入手ルートすら一般に公開されていないスイーツが出てきたりするからね。
……う~ん、家の力を使ってるというのは、あながち冤罪でもないかもしれない……。
もやもやとしたストレスを発散するためにスイーツを爆食した後、腹ごなしに王城を訪ねた。ちょうど用事もあったのでいいお散歩だ。
普段は私の摂取カロリーを厳密に管理している執事長だけど、今回は訳知り顔で好きなだけ甘いものを食べさせてくれた。
……学園内のこと、どこまで把握されてるんだろう。
王城の廊下を歩いていると、中庭を挟んだ向かいの廊下を婚約者であるレイが歩いているのが見えた。そして、その隣には最近の頭痛の種、シオンがいた。
能力が買われて魔法事業を手伝っているらしいから、その関係でレイと一緒にいるんだろう。
まあ、それだけのことで嫉妬する私ではない。……嫉妬はしないけど、それとなくそちらを見やる。
すると、その気配を感じたのか私の方を向いたのは愛しの婚約者――ではなくその隣のシオンの方だった。
シオンが私の方を見ながら、これ見よがしにレイの方に体を寄せた。そして、こちらに向けてニンマリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。そして、持っていたものをレイに手渡していた。大方点数稼ぎの手土産だろう。
かっちーん。
なんだあいつ。私のレイにくっ付いて!! レイもちゃんと距離とってよ!
むむむっと念を送るも、角を曲がってしまったレイ達の姿は見えなくなってしまった。
その出来事が一層シオンを増長させてしまったのか、それからもシオンによるいびりは続いた。続いたというか、よりエスカレートし始めたのだった。
魔法の実技の授業を見学していると、後ろから足音が聞こえてくる。
「授業も参加しないでいいご身分ですね」
「げ」
「げってなんですかげって。貴族の振る舞いとは思えませんね」
「あなたにだけだから大丈夫」
「まあ、なんてふてぶてしい。公爵家の方とは思えませんね」
普段は私も多少は貴族の令嬢に擬態するんだけど、思わず素の声が出てしまったらしい。
「というか、それはこっちのセリフだよ? 名目上、学園内での身分は平等とはいえ私は公爵家の人間だよ? 伯爵家のあなたにそんな口をきかれる謂れはないと思うんだけど?」
「ご自分でおっしゃったように学園内の身分は平等です。それに、私は優秀ですから」
堂々と言い放つシオン。
自分は優秀だから多少暴言を吐いたところで罰されることはないってことか。明らかに自分の方が上だと思っている態度はいっそ清々(すがすが)しい。
まあ、実際に学園内での魔法の実技の成績はトップクラスらしいしね。魔法学以外の科目も優秀らしい。
とはいえ、この態度は褒められたものじゃないけど。
「そもそも、フェティスリー様がまともに魔法の実技に参加しているのを見たことがないのですが。あっても最低限の基礎魔法だけ」
「それの何が問題? 私が魔法の実技を見学するのは正式に学園から許可されてることだよ?」
魔法の実技に参加しなくてもいいとはいえ、完全に出席しないのも気が引けるのでこうして見学をしているのだ。
後ろ暗いことはないのでそのまま答えると、シオンからは蔑むような視線を向けられた。なぜだ。
「王太子殿下の婚約者様とはいえ、学園に通う以上は真面目に授業に参加した方がよろしいのではないでしょうか? フェティスリー様の実力を皆様に見せてさしあげてはいかがでしょう」
「……」
私も貴族の端くれなので分かるぞ、これは嫌味である。
大方、「ただ聖魔法が使えるだけで魔法の実力は大したことないんだろう。それを隠したいからって実技の授業をサボるのは止めろ」と言われているのだ。
「にしても、公爵家の方はよろしいですね。伯爵家の私には真似できません」
はいはい、公爵家の威光で合法的にサボってるって言いたいのね。
私が授業に参加しないのは決してそういう理由ではないけど、わざわざ自分で説明するものでもない。
まあ、私が侮られる分にはまだ問題ない。
だけど、シオンはフェティスリー公爵家が私の単なる我が儘を野放しにしている家だと間接的に言っているわけだ。
フェティスリー公爵家自体が侮られるのはあまりいい気分がしない。
さて、どうしたもんか。
「――ただいま~」
考え事をしながら家に帰ると、正面玄関に見慣れた姿があった。
すらりと長い手足に上質なシャツに身を包んだ美青年。それは、多忙なはずの義兄だった。
「あれ? 兄様今日は早いね」
「うん、かわいい妹に会いたくて早く帰ってきたんだ」
兄様はこちらに歩いてくると、私の荷物を近くにいる使用人に預ける。そして私をひょいっと持ち上げて高い高いしてみせた。
もうそんな歳でもないし、他の貴族家ではこんなことはしないらしいけど、うちは大の仲良し家族だ。
兄様や両親の中では私はいつまでも高い高いでキャッキャとはしゃぐ子だぬきのままなんだろう。まあ、私も楽しいからこのままでいい。
兄様にぷらーんとぶら下げられたまま談話室に移動する。
「ところでステラ、最近学園で困ったことはない?」
「ん? なんのこと?」
学園内のことは大方筒抜けなことは分かってるけど、とりあえずしらばっくれてみる。
「とぼける妹もかわいいな」
うん、全く騙されてくれないね。やっぱり演技の才能はないみたい。
「にしても、あいつは一体何をしてるんだ。やっぱり向いてないんじゃないか?」
兄様の言うあいつとは、うちの学園長のことだ。
家は王家の縁戚にあたる。つまり、王族である学園長と兄様は親戚にあたるのだ。
だけど二人はなかなかそりが合わないようで、私の教育方針について度々揉めていた。学園長もなぜか私の保護者を自称しているのだ。
その二人が揉めても、大抵は最後にお母様の一言で収まるんだけど。
「……困ったこと、ないよ?」
とぼけた顔をしてみると「キョトン顔かわいいな~」と頭をわしゃわしゃ撫でられる。
「かわいい妹に免じて知らないフリをしてあげたいところだけど、今日のは見過ごせないなぁ」
……お願いだから大人しくしててね? かわいい妹のお願いだよ?
兄様の不穏な気配を感じた翌日、今日も今日とて学園へと向かう馬車へ乗り込むと――
「――やあ」
「……兄様、なんでいるの?」
「今日は休みだからね、かわいい妹を送り届けてから出かけようと思って」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと」
嘘だな。
平穏に過ごしたいから、お願いだからシオンには大人しくしていてほしい。
だけど、こうと決めた兄様の意思を曲げることは私には無理だ。普段は何でも言うことを聞いてくれるのに。
「……なんか、嫌な予感がする……」
「どうしたの? 寒い? もうお家帰ろうか」
「帰らない」
フルフルと首を振る。
それからも兄様の心配そうな視線を受けつつ、私はようやく学園に到着した。
「……なんか、もう疲れた」
「やっぱり心配だな。帰る?」
「帰らないよ?」
なんで事あるごとに私を帰そうとするんだ兄様は。
そして、兄様はなぜか当たり前のように馬車から降りた。送ってきただけじゃないの?
「ん? どうしたんだい愛しの妹よ」
素知らぬ顔で私に手を差し出してくる兄様。まったく、爽やかな顔の下で何を企んでるんだか。
「――ステラ」
兄様に手を貸してもらって馬車から降りると、そこには愛しの婚約者の姿があった。なんでこんなところにいるんだろう。
だけど、こちらを見て微笑むレイの姿は絵画のように美しかった。
「……」
私はプイッとレイから顔を背ける。
「え」とレイが驚く声が聞こえるけど、そんなのは知らない。私は怒っているのだ。
そして、そんな私に兄様も驚いている。
「ステラ、どうしたの? 殿下と喧嘩でもした? そんな報告は上がってきてないけどな」
だから兄様はなんで私の近況をそんなに把握してるの。
「喧嘩はしてないけど……レイは浮気者だから……」
「え」
「え!?」
私の言葉に、兄様よりもレイの方が驚きを見せる。心当たりがないとは言わせないぞ。この前シオンと歩いてたのを私は見たんだ。
むきゃっとレイを睨み付ける。
「かわっ……ゴホン、ステラ、君は何か勘違いしてるみたいだ。俺が愛しの子だぬき以外に現を抜かすわけないだろう」
「でも、私見たもん」
「何を見たんだ?」
「殿下……見損ないました」
「待て、俺は何もしてないぞ」
馬車乗り場でそんなやり取りをしていると、徐々に周囲に生徒達が集まってきた。レイも兄様も目立つからね。
その中には、私の幼なじみ達の姿もある。
「あらあら、殿下にステラのお兄様まで揃って、珍しいわね。今日は授業参観だったかしら?」
「安心して、なんの変哲もない平日だから」
ただ過保護者達がついてきただけだ。
そして、寄ってきたのはただの見物人や幼なじみだけではなかった。
「――何の騒ぎかと思えば、フェティスリー様ですか。まったく、もうすぐ授業が始まるというのに……」
ハァと溜息を吐かんばかりのシオンに私の両隣の殿方達が笑顔のまま殺気立つのが分かる。
二人ともどうどうだよ。落ち着いてね。
「まったく、いいご身分ですね。遅刻しても自分は咎められないとお考えで?」
さっそく嫌味が飛び出したシオンの前に兄様がスッと歩み出る。
「君かい? 最近うちの妹に突っかかってくれているのは」
「突っかかっているわけではありません、正当な指摘です」
「正当ねぇ……」
シオンの主張に呆れた様子を隠さない兄様に、向こうもムッとしたようだ。
兄様、今日はやけに煽るね。
「臣下としての意見です! ハッキリ言って、フェティスリー様は殿下の婚約者にふさわしくありません! 私は貴女がレイ殿下の婚約者だとは認めない!」
「認めないもなにも、これは王家と公爵家の間で決定していることだよ」
熱くなるシオンに、兄様が冷静に返す。
「ですから、その決定がおかしいのではないですか? そんな方より、私の方が殿下の役に立てます!」
シオンにキッと睨み付けられる。
どうも、そんな方です。
「そうかなぁ?」
シオンの言葉に割って入ったのは兄様だった。
「まあ聞いてあげよう。君程度がうちのステラよりも役に立つって、何を根拠に言ってるのかな?」
兄様の言葉に、シオンはどこか得意気に口を開いた。
「私は既に王城の仕事も手伝っています。それに、魔法の成績だってフェティスリー様より優れています」
「魔法の成績ねぇ……たかだか学校の授業の成績でどうしてそこまで威張れるんだか」
心底くだらなそうに呟く兄様。
そのバカにしたような態度がさらにシオンの気持ちを逆撫でしたようだ。
「魔法の実技の授業はほとんど見学してますし、大した魔法を使っているところも見たことがありません。特殊な聖魔法が使えるという面は認めますが、それだけでしょう」
「それ以上に自分は優れていると?」
「……有り体にいえば」
兄様に問われ、コクリと頷くシオン。
「まあ、君の主張は分かった。でも二人の婚約はたかだか君一人の意見で覆るものじゃないんだよ。それに見てよ、殿下ってばうちのステラのことしか見えてないよ」
兄様が指をさした先には、ひたすら私を愛でるレイの姿があった。
「今日もステラはかわいいな。最近は体調を崩したりしてないか? ごはんは食べてるのか?」
甘い声音で母親のように心配するレイ。
まるでシオンのことが眼中にないのが分かる。それか、あえてこういう態度をしているのか分からないけど。でもこれが通常運転だからなぁ。
「ごはんは食べてるよ。食べ過ぎなくらい」
「そうか、よかった。健やかに育ってくれ」
よしよしと頭を撫でられる。
レイって私のことを愛ですぎてたまに親のような包容感を醸し出してくるよね。
そんな風に私が婚約者とほんわかしている間に言い合いはヒートアップしていたらしい。
興奮するシオンに、カーラが宥めるように声をかける。
「あなた、もう諦めなさいな。殿下やステラのお兄様を敵に回すのはこの国の貴族として得策ではないわよ」
「ですが私はこの国の臣下として、神にも等しいレイ殿下にふさわしくない方は排除しなければなりません!」
どんどん熱が入ってくるシオンの口はもはや誰にも止められない。
「その方がなるくらいならいっそ、私がレイ殿下の婚約者になった方が――!」
「いや無理でしょ」
「無理だろう」
「さすがにそれは無理じゃないかしら」
順に兄様、レイ、カーラの発言だ。
自分の発言を三人から一刀両断されたことに気色ばむシオン。
「一体なぜ!!」
「――いや、そもそもあなた、男じゃない」
カーラが冷静に言い放つ。
そう、中性的な顔立ちではあるものの、シオンは歴とした男性だ。レイに横恋慕した女性に言われるならまだしも、シオンは歴とした男性なのだ。
「クッ……!」
心の底から悔しそうにするシオン。
「いやなんで貴方悔しそうにしてるのよ。殿下に心酔しすぎではない?」
罪な男だね、レイ。
隣の婚約者を見上げれば、全く嬉しそうではなかった。そりゃそうか。
そして、カーラの冷静な突っ込みを受けたシオンは少し恥じ入ったようにゴホンと咳払いをする。
シオンの様子を見るに、本当にレイの婚約者になりたかったわけではなく、レイに心酔するあまり口が滑ったようだ。
「まあ、今のは勢い余っただけです。私ではなくとも、国の至宝たるレイ殿下にはもっと素晴らしい方が――」
「それなんだけどさ、もしかしてうちの子のサボりって魔法の実技の授業のことを言ってる?」
シオンのセリフを最後まで言わせず、兄様が疑問を呈す。
兄様が人の話を遮るなんて珍しいこともあるもんだ。
「ステラは世界的に見ても随一の聖魔法の使い手だよ? だから有事に備えて、基本的に授業ではあまり強い魔法は使わないって国と学園での取り決めがあるんだ」
「……へ」
目を丸くするシオン。
「実技に関しては卒業できる単位も取り切ってるしね。というか、教師陣よりも卓越した魔法の使い手であるステラが授業を受ける意味なんてないし。聖魔法以外だって王城のどんな魔法士もステラには敵わないよ。もちろん、一学生である君もね」
なんなら証明書でも見せようか? と首を傾げる兄様。
シオンからは本当か……? というように視線を向けられたのでこくりと頷いておいた。
「そもそも、王城で殿下の手伝いって言ったって魔法が使える貴族向けの職場体験みたいなものでしょ? 本当に国の魔法事業の中核を担っているステラに及ぶわけないじゃん。殿下、それは言わなかったんですか?」
「わざわざやる気を損ねることを言うわけないだろう。まさかそんな勘違いをしていると思うわけないし」
「それもそうですね」
どうやら、シオンが手伝った王城の仕事というのは優秀な貴族の学生向けの職場体験のようなものだったらしい。
「散々うちの子だぬきに家の力を使ってるだなんだ言ってくれたようだね。期待に応えて、アスター伯爵家にはうちの方から正式に抗議を入れさせてもらってるよ」
「兄様、いつの間に?」
「兄様ってば仕事のできるいい男だからね。散々ステラが公爵家の権力を使ってるだのなんだのと言ってくれたようだから、本当に使ってやろうかと思って」
パチンとウインクをされる。
おお……この発想、私とそっくりだ。
「さすが兄妹だな」
レイも同じことを思ったようで、隣で頷いている。兄様と血は繋がってないはずだけど、似るもんだね。
家に抗議が入ると聞かされたことで少し顔色が悪くなったシオンだったけど、なぜかすぐに冷静さを取り戻した。
「……つまり、フェティスリー様は私など足元にも及ばないくらいの魔法の使い手で、自分の意思でサボっていたわけではなく致し方なかったことだと。レイ殿下とも相思相愛のお似合いの婚約者だと?」
「そういうこと」
いきなり状況をまとめだしたね。家のことよりそっちが気になるの?
きょとんと首を傾げる私をよそに、シオンはなぜか得心がいったように数回頷く。
「……そういうことならいいでしょう。これ以上私がフェティスリー様に申し上げることはございません」
「絶妙に上から目線なのが気になるけれど、やけにあっさり引き下がったね」
「神の御使い、美の化身、国家の宝たるレイ殿下にふさわしい婚約者であるなら問題ございません。私は大人しく引き下がります」
「……あ~、そのタイプね」
少しの間があり、げんなりとした声を発する兄様。
レイのことを神のように崇める人間が多すぎて、周りの人間は結構うんざりなのだ。発言の節々から薄々感じ取ってはいたけど、例に漏れずシオンもそうだったらしい。
レイはそのカリスマ性ゆえに、昔から信者になる人が多い。しかも、レイの信者って結構思い込みが激しい人が多いんだよねぇ。
何が何でもレイの隣に立とうとする輩もいれば、私がレイの婚約者にふさわしいか試そうとしてくる輩もいる。シオンは後者のタイプのようだ。
「兄様、なんか納得してくれちゃったけど、抗議はどうするの?」
「ステラに嫌がらせをしていたことは変わらないし、そのまま続行するよ。度を超えたことはしていないから今回は厳重注意で済むんじゃないかな――まあ、公爵家たる家からの抗議が入ってるんだから将来的に殿下の側で働く未来はなくなったけど……」
最後のセリフはかろうじて私に聞こえるくらい小さな声だった。一見それだけかと思われるかもしれないが、ここまで心酔しているレイの側で働けないというのは、本人にとってはこれ以上ない罰になるだろう。敵に回すもんじゃないね。
なんとか場がまとまり解散しようという雰囲気になった時、コツコツと高そうな靴の音が聞こえてきた。
「――なんの騒ぎだい? って、うげ、君、なんでこんなところにいるんだい?」
どうやら騒ぎを聞きつけてやってきたのは王家の人間でもあるこの学園の学園長だ。相変わらず麗しいお顔をしてらっしゃる。
誰もが見惚れてしまいそうな微笑みを浮かべていた学園長だけど、兄様を見た瞬間、心底嫌そうな顔をする。そして、それは兄様も同様だった。
「てめぇが不甲斐ない運営をしてるからだろうが!!」
出会うや否や学園長に跳び蹴りを食らわせようとする兄様。
拳よりも威力のある蹴りなところがガチだね。
兄様ってば、普段はどこにも欠点のない完璧公爵令息なのに、学園長と一緒にするとガラが悪くなるんだよなぁ。まあ、それは学園長も一緒だけど。
「はぁ!? こっちだって権力にもの言わせて無礼な貴族一人退学にすることだってわけないですぅ! でもそうしたらステラちゃんが悪者になっちゃうからしなかったんだよ!」
跳び蹴りを避けた学園長は反撃とばかりに兄様に向けて拳を突き出す。
「ああ……始まっちゃった……」
毎回顔を合わせたら喧嘩するんだから。だから兄様を学園に連れてきたくなかったのもあるんだけど……まあ起こっちゃったものはしょうがないか。
それから、案の定学園長と兄様による遠慮のない大魔法の応酬が始まった。
あまりにも高度な魔法の応酬に、シオンが開いた口が塞がらないようだ。
この二人の喧嘩は『怪獣大合戦』って呼ばれてるみたいだからね。
「レイ、どうする?」
「まあ、折を見て止めるから安心して。あの二人もそろそろストレス発散が必要だろうからな」
あちこちで爆発や破壊音が聞こえてもレイは顔色一つ変えない。
逆に、シオンは惜しげもなく大魔法の応酬をする二人に顔を引き攣らせていた。
「どうやら私はおごっていたようです……上には上がいるのですね……」
自信をバキバキに打ち砕かれたシオンが遠い目で言っていたのが印象的だった。
兄様達の喧嘩は暫く落ち着きそうにないし今日はまともに授業にならなそうなので、レイと二人で近くのベンチに腰掛ける。
「――ところでステラ」
「ん? なに?」
「さっきステラは俺が浮気したと言ってたが、どうして浮気だと思ったんだ? 俺が彼と浮気なんてするわけないって分かってるだろ?」
「……受け取ってた」
「ん?」
「シオンからたぬきのぬいぐるみを受け取ってたでしょ」
そう、王城の廊下で私の視線を奪ったのはレイに寄り添うシオン――ではなく、シオンからレイに手渡された子だぬきのぬいぐるみだ。
「私以外のたぬきを側に置くなんて浮気だよ」
むっと唇を尖らせると、隣の完璧王子の相好が崩れ、むぎゅむぎゅと抱きしめられた。
「――もちろん、うちの子だぬきが世界一かわいいよ」
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