表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『高句麗王宮秘録 —— 碧き瞳の記録者ナリン』  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

「深淵の記録――十日間の孤独」

「ナリン。これを見ろ」

 深夜の書庫、師匠チャリムが指し示したのは、先月の物資調達の記録だった。一見、何の変哲もない数字の並びだが、師の目はその奥にある「不自然な空白」を捉えていた。

 「代官の息子、ソハンの署名がある。だが、この行き先の記載がない穀物は、どこへ消えたと思う?」

 師の問いに、私の背筋に冷たいものが走った。ソハンのあの完璧すぎる微笑みが脳裏をよぎる。

 「……記録係として、確かめてまいります」

 「これは公式の任務ではない。誰にも知られてはならん。ナリン、お前一人で、十日間で真実を掴み取れ」

 その日から、私の孤独な戦いが始まった。

 私は昼間は平静を装い、夜になると記録係の薄衣を脱ぎ捨て、影のようにソハンの後を追った。

 三日目、彼は王都の北、かつての激戦地に近い廃屋へと向かった。四日目、彼は深夜の宮廷の裏門で、見慣れぬ刺青を持つ男と密談を交わしていた。

 七日目、私はついに、ソハンが隠し持っていたふみの写しを手に入れた。そこには、ソムラ族の残党と組み、トムル王が定めた「身分によらぬ人材登用法」を逆手に取って、内部から国を壊滅させる計画が記されていた。

 十日目の夜。私は泥にまみれ、疲れ果てた姿でチャリムの部屋へ戻った。

 「……これに、すべてが記されています」

 私が差し出したのは、十日間の行動記録と、集めた証拠の断片。私の筆は、もはや美しい文字を綴る余裕さえなかったが、そこには紛れもない「真実」が刻まれていた。

 チャリム師匠はそれを一読すると、重く、深く頷いた。

 「よくやった、ナリン。お前は今日、本物の記録係になった」

 翌朝、チャリム師匠はトムル王の執務室へと足を運んだ。

 高句麗の王、トムル。建国から五年、その威厳は増していたが、チャリムが差し出したナリンの記録を読み進めるにつれ、その瞳にはかつての「石投げの少年」が持っていた、鋭くも哀しき光が戻っていた。

 「ハリムの娘が、これほどまでのものを……」

 トムル王は窓の外、朝焼けに染まる平壌の街を見つめた。

 「チャリムよ。この記録は、血を流さずに国を救う刃となるだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ