川辺の誓い、身分を超えた愛
ソハンがいなくなった宮廷には、皮肉にも、より冷たく強固な「沈黙の壁」が立ちはだかっていた。
「血統を汚すことは、高句麗の根幹を揺るがすことだ」
古参の重臣たちの言葉は、私の耳を刺し、筆を握る指を凍らせた。トルムがどれほど武官として功績を挙げようとも、彼が「百姓の息子」であるという事実は、彼らの中では罪に等しかった。
だが、事態を動かしたのは、二人の「父」たちだった。
トムル王は自ら馬を駆り、父ハルムの領地を訪ねたという。王が身分の壁について問うた際、父はこう答えたと後に聞いた。
「王よ。私は娘に、自分の人生を自分で書き記せと言いました。彼女が選んだ男が誰であれ、その選択を否定することは、私自身の誇りを否定することです」
その言葉を受けたトムル王は、帰還後、直ちに「建国の新法」を宣言した。それは、功績ある武官の家系を貴籍に列し、身分を超えた婚姻を認めるという、まさにこの国を根底から変える革命だった。
風の渡る夕暮れの川辺。
かつて、この国の礎を築いたトムル王とチェリョン様が並んで歩いたというその場所に、私はトルムを呼び出した。
トルムは、真新しい武官の鎧を纏い、少し戸惑ったような顔で立っていた。
「ナリン様。こんな場所に呼び出して……何か、記録すべき重大な事柄でもあったのですか?」
相変わらずの不器用さに、私は思わず小さく笑い声を漏らした。
「ええ。これからの高句麗の歴史において、最も重要な一行を書き加える必要があるのです」
私は彼の方へ一歩歩み寄り、その真っ直ぐな瞳を見つめた。
「トルム。あなたは、土を耕すように私の心に踏み込み、石を投げるように私の迷いを打ち砕いた。……身分も、家柄も、もう私たちを隔てる壁にはなりません」
トルムの大きな手が、わずかに震えているのが分かった。
「……俺は、口が下手です。あんたのような綺麗な言葉は持っていない。でも」
彼は深く息を吸い込み、私の手を力強く握りしめた。
「あんたが書く歴史の隣で、俺はその人生を守る盾になりたい。……一生かけて、あんたを幸せにする。それが、俺の新しい任務です」
彼の言葉は、飾りがなく、それでいてこの世のどんな詩よりも力強く響いた。
私は彼の胸に顔を埋め、溢れる涙を隠さなかった。
ふと、遠くの茂みで何かが動いた気がした。
見れば、師匠チャリムが木陰で帳面を広げ、何やら熱心に筆を動かしているではないか。
「師匠……!」
私が呆れて声をかけると、師匠はニヤリと笑い、そのまま闇に消えていった。
その夜、私は自らの帳面に最後の一行を書き添えた。
『川の音は、かつての英雄たちの物語を運んでくる。』
『そして今、その調べに、新しい二人の足音が重なった。』
『記録すべきは、国の興亡だけではない。一人の男と一人の女が、誇りを持って愛し合ったという真実だ。』




