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第7話

リリスを押し入れにしまってから、急にみんなも緊張の糸が切れてしまったのだろうか

それとも今日の部室の大掃除に疲れてしまったからなのだろうか

現在 私の部屋のベットには、ひよりと、その胸にそっと寄り添い抱きしめるような形で眠る有珠ちゃんが横になって、ふたりとも寝息をたてて静かに眠っている


思えば眼鏡を外したひよりを私は初めて見た

普段はその前髪に黒ぶちの眼鏡に素顔を隠しているひよりの顔は

(綺麗… )

街を歩いていたら男の人も女の人も誰もが一度は振り向いてしまいそうなくらい清楚で美人な顔立ちだった

(どうしてコンタクトにしないんだろぅ )

そしてその寝顔はいつもの皆のお姉ちゃんのようなイメージとは違って

寝息をたてる無垢で純粋な子供のような、ついいじりたくなってしまうような可愛さがあった


そんな微笑ましい優しいひよりと有珠ちゃんの光景を見つめながら私の隣には今

灯が甘える子供のように私の腕に抱き着いている


「ゆりぃ~ 」

「なぁに 灯? 」

「さっきはまぐろ…ゴメンね? やっぱり辛かったかなぁ? 」

「ぅぅん、大丈夫だよ ありがとうね灯 」

シュンとした灯の髪を軽く撫でてあげる

「ゆりぃ~ だぃすきだよ 」

「…私も‘友達として’灯のこと大好きだよ 」

「ぅんっ …スリスリ 」


「ゆりぃ~ 」

絶対ひよりや有珠ちゃんがいるときじゃ出さないような甘い甘い声で灯が腕に頬を寄せ付けてくる

制服の半袖から覗かせる私の二の腕に灯の柔らかい髪の毛が気まぐれにふわふわ当たって心地いい

「灯、その… 頭とか…撫でてもぃぃ? 」

「…こくっ …撫でてほしぃ 」

もう半分くらいしか開いていないとろんとしたとろけそうな瞳で灯は私を見つめながらそう小さく唇を動かした


いつもの表の強がりなきゃぴきゃぴした男子みたいな灯からは想像できないくらい、今の灯は可愛いくて

まるで子猫みたいに大人しい


頬をほのかに赤らめながら、今か今かと私に頭を撫でてもらえるのを待っている


(かわぃぃ )

灯の柔らかい栗色の髪に手をあてて、そのままサーッと指を絡ませながら撫でてあげる

「…っ// 」

一瞬灯はピクッと身体を震わすと、さっきより一段と顔を赤らめては、恥ずかしそうに…それでもどこか幸せそうな顔で

ちゃんと大人しく私に頭を撫でてもらっている


撫で終わると同時に、さらに私の腕にぎゅっと甘えた身体を寄せる

もう寄り掛かっていると言ったほうがいいかもしれなぃ

制服のスカートから覗くふとももをお互い擦り寄せる…

灯の柔らかいふとももから伝わる温もりが愛おしい

「…ゆりぃ 」

どこか色気のある切なげな声で私の名前を何度も呼び、さらに私に寄り掛かる灯

熱をおびた火照った息が呼吸するたびに私の首筋にかかる


目の前には眠っているとはいえ、親友がふたりいるのにも関わらず…


(灯の匂ぃ…好き )

いまさら意識する仲でもないのに視線を合わせた上目使いの灯の瞳になぜか胸がキュンと染みる

「あかりぃ… 」

(…っ! 私 今なんて…っ )

不可抗力だった

気付いたときには、今までに自分でも出したことのないような甘ったるい声で私まで灯の名前を呼んでしまっていた


そのときだった


ヴーッ!… ヴーッ…! ヴーッ…!

辺りに転がっていた灯の携帯電話がいつもの着メロのフレーズのメロディーとバイブレーションを鳴らしながら そんな私たちの雰囲気を断ち切った


「ぁ… ゆり ちょっとごめん、メール 」

「ぁっ…ぅん 」

スッと私の身体から手を引く灯

(……ぁ )

ちょっとそれが名残惜しく切なくて、携帯を取りに行く灯のことをじっと見つめてしまう

(あかりぃ… )

私に甘えた身を寄せ合っていた灯が離れ、目の前で携帯をいじる


「ぁ、お母さんからだー」

「なんて? 」

「今ドコーって、晩ご飯どうすんのーって …そういや家にまったく連絡してなかっかさー 」

「ばかぁ 」

「なははっ 」


またあの雰囲気に戻るわけにもいかず、いつものふたりに戻る

(ちょっと残念かも… )

心の片隅ではあんな珍しい甘えん坊な灯の姿がもうちょっとだけ見ていたかったりもした


「ゅ、ゆ、ゆり!? これっ!? 」

そんなことを思っていると、途端に慌てたような素振りで灯が声を走らせた


「? どうしたの? 」

灯は持っていた携帯の画面を震わせた指で指差した


(…??? )

何事かと思い、おもむろに灯の指す画面を覗いてみると

そこには待受画面の上に表示されていたニューステロップが


……

(……っ!? )

そこに書かれていた文章に


その瞬間、言葉を失った…


指差されたそのニューステロップの画面には


「警察が現在捜査中の、多摩市聖蹟桜ヶ丘駅付近で起こっている連続通り魔事件

ネット上での通称‘ウィッチ’と呼ばれる通り魔について

警察の今日の会見にて、警察特別対策本部

対.ウィッチに対する組織


‘National Measures Committee’を設立

通称 N.M.C. を発足することを説明しました

一週間の捜査にも関わらず痕跡や手掛かりも見つけらなかった失態や、警察官二人の負傷者を出してしまった不祥事により、専門家の捜査協力や警察官の増員、捜査範囲の拡大など、現在さらに本格的な捜査を始める、との事です 」


ゴクッと生唾を飲む…


その文章を前に視界を曇らす


「ゆ…ゆり こ、これって… 」

「ぅ、ぅん…… 」

灯との甘い柔らかい空間から、一気に現実へと引き戻される衝撃…


(警察も本気なんだ…)

この街の半都市伝説、ウィッチを捕まえるために


ウィッチを先に捕まえられたら終わりだ…

この身体を直す手掛かりも、ニュースでさらされることになるウィッチの身体の情報でも、私がこれから先の世界では‘ウィッチの同類’として…生きなくてはならなくなる

それどころか、永遠に警察と敵になる


…………

「ゆり? 大丈夫…? 」

灯が瞳に不安を滲ませながら小声で聞いてくる

「ぅん… 」

「でも…ごめん 今日はそろそろ遅いし、あたしも帰んなきゃで 」

「ぅん…大丈夫だよ 明日、あらためて皆で話し合おう…」

「そ、そうさね よしっ! これは…明日出直してみんなで考えるさっ 」


「…ぅん 」

ピリリと響く胸の古傷と

命を失って尚生きる私の世界…

警察が一体どこまで本気なのか

みんなと楽しかったからこそ、その恐怖感というものは恐ろしく強かった

もうぐちゃぐちゃに心が震え上がるまでに……



***


ベットから起こしたひよりと有珠ちゃんにもこのニュースを見てもらった


行動はすべて明日に任せて


……

未だに心の整理がつかないまま

ざわつく胸で私は三人を玄関で見送った


「私たち 明日もまた会えるかな……?」

つい帰りの場でそんな言葉が口からこぼれ落ちてしまった…


「安心してくださぃ 必ず私たちは明日もまた会えますから 」

「そ、そうさよっ また明日も学校でっ あの部室で… 」

「有珠も ちょっと怖いです 」

ドアを開けた三人の後ろには1メートル先にも100メートル先にもどんよりとした夜の暗闇のが続いていた

それだけのことでも

今の私にはこんなにも恐怖感と不安定を募らせていた


…やっぱり、女子高生 四人でこんな大それたことなんて

(無理なのかな… )


とにもかくにも、もう明日にしよう

警察のこれからの動きや、私たちのこれからも

もう少しで完成する私たちの部室で明日の朝、集合することになった


「おやすみなさい みなさん また明日ですね 」

「おやすみー また明日ぬー 」

「おやすみなさいです また明日です 」


‘また明日’

五文字の明日を誓う約束の言葉を交わらせて


誰ひとりとして別れの言葉は使わなかった


きっとまた明日会えると信じて

きっとまた、今日のような幸せを感じれると信じて


‘ウィッチを捕まえる’

そう奇跡を誓ってはじまった私たちの新しい月曜日は


いいことも悪いことも

楽しいことも辛いことも

同じ分だけ含めて


一日を終わらせた



…………

………

……



***

-同時刻-


食欲などない腹に、コンビニで買った120円インスタントカップラーメンを食いながら

意味もないテレビが白黒の部屋の中で雑に光る


警察が N.M.C.とやらを俺を捕まえるために作りやがったらしい…


どいつもこいつも痛みのわからねぇクソみたいなやつしかいない…

悪いのは俺じゃないだろ

もっと先に捕まえる奴がいるだろ…


楽しいかよ

なんだよウィッチって…

なにが、都市伝説だよ…


そんなに楽しいかよ


俺は死にそうになりながら、こんなことやってんのにさ…


「なぁ、ミツル…兄ちゃん なにやってんだろうな…」


美弦の遺産の携帯から俺宛てにまた意味不明のメールを送信する


すると5秒後には

ポケットの俺の携帯に死んだ美弦からメールが届く

…俺の打った言葉が…


それだけが、今の俺の話し相手だ


結局、半分も食べなかった伸びきったカップラーメンを流しに捨てて…

電気も付けない部屋の片隅で俯きながら、外に光る街が今日も俺を責めるんだ


(誰か聞こえますか? )


こんなにたくさん人がいるんだったらさ…

一人くらい俺を助けてくれよ…

マジで…死にそうなんだ…


返せよ…返してくれよ…っ

(美弦…っ )


いちいちぐれてるほど平和な世の中でもないこの街で

お前を失った兄ちゃんは、また死にそうだよ…


誰かいますか?

俺は、ココにいます……


美弦のいない

この世界は、あまりにも空虚で

俺にはなんの意味も持たなくなり始めたんだ…


助けてよ…誰か…苦しいよ…っ


俺ひとりしかいない部屋の中で声のない声でそんなことを喚いてみても

気がつくのは

(ぁぁ…そうか 俺しかいないんだよな )


だからまた孤独が襲ってくる


俺の思いや意思とは無関係に

残酷に世界はまた平然と進んでゆく


それでも…俺は今もココに生きています…


こんなに1億にもいる人間の中で

誰一人、俺を必要となんかしちゃいない…この世界で


俺が意識を閉じてる間にもその世界は変わらず進んでゆく


生きる価値…


   あんのかな…



     …美弦(ミツル)


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